2-33 学園開始
神聖国に戻ってから、色々な手配をした。
まず、南村で足軽グループの貴族を中心に、魔法の訓練を開始。ま、生活魔法とかがメインかな。最初だしね。
そして、足軽運送が森林北、神聖国から見たら南側の街道を使えるようにもした。パラダイスから中央エデンまで獣道を通るよりも楽で速いからね。
南部では、まあまあ順調に農業が出来ているみたい。麦とか米とかは神聖国から輸出するのがほとんどだけど、いわゆる近郊農業っていうか、日持ちのしない野菜なんかは南部で栽培してもらうのが効率的だからね。そして、砂糖を始め、調味料も輸出し出したよ。これで多少は南部でも料理ができるだろう。
そして、冷蔵庫とかは出せないけどね、冷蔵車を南部に持ち込むのは許可した。ま、どうせ魔石の管理は神聖国でしないとダメだからね、万が一、冷蔵車が盗まれてもエデン人には良く分からないと思うし、いいかな。足軽運送が自分たちの所へ運ぶのに使うんだからね、盗まれないように気を付けるだろう。
冷蔵車があれば、少しくらいは日持ちしないものも運べるしね、食文化としてもいい影響があるはあず、いや、あると思う!
そうそう、南部の準神聖国民は3000人ほどだからね、乾燥マッツァは日に5000枚を融通しているから、余るらしいの。だから、南部の牛にも乾燥マッツァを砕いて飼料にするように手配。もしかしたら、牛が色々能力アップするかも知れないしね~
それで、パラダイスのアドレ侯爵家には、パラダイス貴族への商売窓口になってもらう事にしたよ。
混血だしね、女神信仰もあるから、女神様に忠誠を誓うのは何も問題なかったみたい。神聖国には秘密がたくさんあるからね、それをバラさないようにして貰わないといけないからね。
アドレ侯爵家は足軽グループと違って現業的な仕事じゃないから、収入は少な目だけど、侯爵家の人数は少ないみたいだからね、分家とかも合わせても20人とか、そこら辺りらしいし、ベーシックインカムはもちろん支給するし、食べ物も服も支給するし、今よりは暮らしも良くなるだろうと思うよ。
後は、神聖国で子供が増えたらしい。
それはもちろん良い事なんだけど、子供が増えると生産能力が減るよね。子育てしないとならないし。
現状は、まあまあギリギリみたいよ。南部に作物とか出し始めたからね、神聖国だけなら何も問題なかったんだけど、これから世界中に食文化を広めようと思うと、どっちにしても生産能力が不足するし、何か考えておかないと……
あとは、母上がね、エデンと同じ白い食器はつまんないとか何とかいいだしてさ、面倒臭いんだけど……ってお茶を濁していたんだけどね、何とかならないかしら、から、何とかならないかしら!とかになって来たから、食紅魔法で白い磁器に色が付くかもねって教えてあげておいた。
たぶん、北部工業団地の職人たちが呼び出されたりしているかも。
ごめんね、職人たち。でも、必要は発明の母だから、消費者の需要は大切なの。頑張って。
あーあ、長期休暇も、もう終わっちゃうから、仕方がないけど中央エデンに行くか。
***
「ミチイル様、お疲れ様~」
「お疲れ様でございました、ミチイル様、シモン様」
「うん、二人ともお疲れ様」
「また退屈な学園生活が始まっちゃう~」
「ああ、憂鬱な気分だよ、まったく」
「左様でございますね……」
「取り敢えず部屋に戻ろう。あ、荷物は部屋に出してあげるからね」
「ありがとう~」
「恐れ入ります。私は寮監に色々確認してまいります」
***
「ミチイル様、少しよろしいでしょうか」
「何かあった? シェイマス」
「はい。長期休暇が終わる少し前にスローン人が戻って来たそうですが、半数はまた帰国した模様でございます」
「うん? ああ、17歳になったら勝手に卒業するもんね」
「はい、それもありますが、再び寮の消耗品などが無くなったそうでございます」
「ふむ。全く、欲しいなら女神信仰すればいいのに」
「いかがなさいますか?」
「うん、別に物が取られる程度なら、もういいよ。人に危害を加えたりするなら、対処するけどさ、寮の物の管理とかはできないでしょ。四六時中見張ってる訳にもいかないし」
「……左様でございますね」
「うん。別に多少の物が無くなっても、神聖国がどうにかなる訳じゃないし、寮のパブリックスペースにはバレたら困る物は無いしね、僕の部屋はセキュリティがしっかりしているから、勝手に入れないと思うし」
「給湯に使用している魔石とかはどうでしょうか」
「うん、給湯室にはカギが付いてるしね、大丈夫かな。それに、魔石とかはもちろんエデンに流されても困るんだけどさ、魔石はスローンにも普通に転がっていると思うよ。それに、魔石は魔法じゃないと火も着かないし、魔石だけあっても、何もどうする事もできないだろうからね。そういえばさ、魔法が使えないスローン人は、お風呂はお湯があふれているからいいとして、そうめん水道管とかはどうしてるの?」
「はい。水道管に魔力を流せないため、ため水を用意してありますので、そちらを使用しているものと思われます」
「ああ、それならいいか。もう、ただで住まわせてあげてるしね、ろくに考えたことも無かったけど、魔法が使えないと不便だよねえ」
「左様でございますね。神聖国では国中が魔法ありきで運営されておりますから、エデンに来るまではあまり意識しておりませんでした」
「うん。このエデンでも、少しは魔法が使えるんだよね、って、水道管使ってるんだから、当たり前か」
「はい。他の生活魔法も、少しなら使えますが、魔力の回復が遅いというか、まともに魔法を使うと、しばらく何も魔法が使えなくなってしまいます」
「ふーむ。現状は特に困っている訳ではないだろうけど、もし、エデンの王国で料理を販売しようと思ったら、人が必要だよね。ここのレストランも魔法は使わずに運営してるけど」
「魔法の代わりに人の作業が必要ですから、神聖国で同じことをする数倍や10倍以上の労働者が必要になるかと思います」
「あー、色々面倒くさい」
「急がなくとも、ミチイル様のお好きなように、無理のない範囲で進めてはいかがでしょうか」
「うん、ありがと」
「いつから学園には通われますか」
「うーん、疲れているし、数日経ってからにしよう」
「かしこまりました」
***
「いいか、我々偉大なるエデン人は、うんたらかんたら……」
「さあ、難解な引き算を致しますよ! 10-1は? はい、そこのあなた」
「見ろ! 良く見たか! 見たな! いや、まだだ……」
***
「はあ~ 久しぶりだと疲れが倍増するね、ミチイル様~」
「まったくだよ、ほんとに。神聖国で料理をしている方が全然疲れないよ」
「それでも、登下校にコーチを使えるのですから、以前よりは改善されたのではないでしょうか」
「まあね~ でも授業が変わる訳じゃないもーん」
「ほんとに、ずっと同じことを言うとかさ、逆に大変だよね。ある意味、尊敬する」
「バカだから、同じ事を言い続けられるんじゃなーいー?」
「シモン様!」
「ま、否定はできないね」
「ミチイル・ケルビーン様!」
「……誰?」
「わたしにも是非、学園生のメダルを頂きたいのです!」
「ああ、それなら、このシェイマスに」
「ミチイル・ケルビーン様!」
「ミチイル・ケルビーン様!」
「ミチイル・ケルビーン様!」
「えっと、あなたたちもメダル?」
「是非、学園生のメダルを頂きたいのです!」「のです!」「のです!」
「シェイマス、悪いけどお願いね」
「かしこまりました。では皆様、後ほどアルビノ商店街にて厳正な審査の上、手続きを致しますので、この後、アルビノ商店街のレストラン入口までお越しください」
「ありがとうございます!」「ありがとうございます!」「ありがとうござ…………
「じゃ、戻ろうか……ふう」
***
「ごめんね、シェイマス」
「とんでも無い事でございます」
「メダル希望者が、なんでまた急に増えたんだか」
「はい。長期休暇中に、噂が広まったようですね。学園生なら格安でレストランを利用できると。メダル所持者と同伴なら一般人も食券で利用ができますし、評判になっているようでございます」
「アルビノ商店街なのに?」
「はい。紙幣は潤沢にございませんからね、学園レストランは銀札一枚で金札2枚以上の価値がございますから、アルビノ村へ来る事など、些細な事なのだと思います。そもそも、販売している物は、アルビノ人が作っておりますし」
「ああ、まあそうか。忌み嫌っている人間が作った物を普通に食べたり使ったりしているんだからね、アルビノ村へ買い物に来るとか食事に来るとか、むしろ当然なんだけどさ、でも物を販売してたのは前からじゃない、今更って感じ」
「左様でございますね。ですが、エデン人が愚かなのも昔からでございますので」
「ハハ そうだったね」
「ミチイル様、次の世代のメダルもご用意いただいた方がよろしいかと存じます」
「ああ、寮から人がいなくなったと言うことは、次が来るのか。ま、メダルはもう用意してあるから、後で渡すよ。よろしくね」
「かしこまりました」
***
うーん、この休暇の間にエデン人にレストランの噂が広がったのか。
食事は、丼物がメインだから、種類も豊富だし別にいいとして、スイーツか。
今は……洋風焼菓子セットと、まんじゅうセットに、琥珀糖セットでしょ、何かお茶会セットを増やした方がいいかな。
パンは……手間暇がかかりすぎるし、冷蔵が必要なものはダメでしょ……どら焼きは高級スイーツ過ぎるから除外して……
あ、そうだ!
ホットケーキなら手軽じゃん。
小さいホットケーキ2枚に、ジャムとバターを少しつけよう。そして紅茶のセット、これでどうよ。
うん、カフェっぽいしさ、ナイフとフォークで食べるんだし、おしゃれじゃない?
『はい、救い主様』
「ああ、アイちゃん、なんか、ご無沙汰?」
『そのような事はございません。私めは救い主様のそばに、いつも侍っておりますので』
「ああ、そうだよね、ありがと。僕さ、学園レストランでホットケーキも出すよ」
『よろしいのでは無いでしょうか。一切何も問題はございません』
「それとさ、魔石があるでしょ? 魔石ってエデン人は知らないよね?」
『はい。そもそも魔力が無い人間どもでございますので』
「ああ、そうだったそうだった。いつも色々な事を忘れちゃうんだよね、僕」
『スローンの人間どもも魔石を認識してはおりません。しかし、それは時間の問題のような気が致します』
「ああ、この寮にスローン人がいるもんね。確かに時間の問題かも……でも、世界で食文化を広めることを考えるとさ、いずれは通る道だもんね。僕が学園にいる間に、少しは道筋をつけたいんだ」
『お好きなようになされば宜しいかと』
「うん、ありがと、アイちゃん」
『救い主様の、御心のままに』