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2-30 お茶会

ああ、ようやく学園が休みだよ。


休みに入る少し前なんだけどさ、朝起きたら、スローン人が全員居なくなってたんだって。


まあ、もちろん帰国したんだと思うけど、誰にも挨拶も無しに全員居なくなるってさ、怪しさしかないよね……


ま、いいけどさ。


スローン人も居ない事だし、暗くなってから道路を工事しちゃおう。一応、毎日1kmくらいずつにしようかな。エデン人がアルビノ商店街に買い物に来ているからね、一気に作ったらおかしいから。




***




「ミチイル様、今よろしいでしょうか」


「うん、大丈夫だけど、何かあった?」


「学園レストランの方へ、スタイン男爵令息がお見えです」


「ああ、じゃ、こっちに呼んでもらえる?」


「他の学園生もご一緒の様子なのですが、大丈夫でしょうか」


「メダルを持っている人?」


「はい。パラダイスのアドレ侯爵家の令嬢と、そのお付きでございます」


「ん? 誰だっけ?」


「はい。混血の貴族でいらっしゃいます。スタイン男爵令息が以前におっしゃっていたかと存じます」


「ああ、そう言えばそんな話もあったっけ。僕、会った記憶がないからねえ」


「はい。ミチイル様はご存じない方と存じます」


「ああ、そう。足軽君と、その令嬢とお付きの生徒?の三人だけ?」


「はい。学園レストランには、他にも少数の生徒がいるようですが」


「じゃあさ、寮のレストランに案内してくれる? ちょうどスローン人も居ないしね、問題ないかと思うんだけど」


「かしこまりました。後ほど、お迎えに上がります」


「うん、よろしくね」




***




「やあ、ご無沙汰してるね、足軽君」


「ミチイル様、この度は南部貴族へのお慈悲、誠にかたじけない事にゴザル。父から伝令があったのでゴザル」


「うん、これからもよろしくね」


「誠心誠意、努めて参る所存にゴザル。それで今日は、こちらのご令嬢が、ミチイル様の謁見を賜りたいと申しておるのでゴザル」


「いや、普通に話してよ。僕、学園で浮いちゃうじゃない」


「ミチイル様は、もう手遅れだと思うけどね~」


「シモン様!」


「ミチイル・ケルビーン様。お初にお目にかかります、私、パラダイス王国アドレ侯爵家のキャンティ・アドレと申します。どうぞ、宜しくお見知りおきの程を、お願い申し上げます」


「はい、ミチイル・ケルビーンです。こちらこそ、よろしく。そして、普通に話して貰えると助かるんだけど」


「かしこまりました」


「アドレ家は混血なんだね?」


「左様でございます。数代前の当主に、南部の混血貴族から嫁を迎えたと伝わっております」


「ああ、記録もないもんね。ま、混血なのは見ればわかるから問題はないけど」


「左様にゴザル。混血は、なぜか皆、肌の色がエデン人よりも薄いのでゴザル。これは、何代前にさかのぼっても不変なのでゴザル」


「不思議だよね~」


「そうでございますね、シモン様。代を重ねるごとに縁が薄まりそうなものでございますが」


「うん、シェイマス。たぶん、色々あるんだと思うよ」


「ミチイル様、皆様にお席をおすすめしても宜しいでしょうか」


「ああ、ごめんごめん。皆、適当に座ってくれる? ええっと、アドレ侯爵令嬢のお付きの人?もどうぞ」


「恐れ入ります」


「皆、お昼ご飯は食べたの?」


「はい、学園レストランで頂きましたでゴザル」


「あ、そう。シモンとシェイマスは?」


「僕たちも食べたよ~」


「じゃ、お茶会しようか」


「賛成~」


「では、お茶の準備を致しますが、どのお茶に致しましょうか? ミチイル様」


「うん、そうだね……紅茶にしようか。新作のスイーツもあるから」


「かしこまりました」


「ミチイル様~ 新作ってなあに?」


「うん、この前、神聖国で作ったやつなんだ、シモン」


「楽しみ~」


「足軽君は帰国するの?」


「勿論でゴザル。色々と変革がゴザルので、父と相談しなければならないのでゴザル」


「あ、そうだよね。アドレ侯爵令嬢は?」


「ミチイル様、私の事は、どうぞキャンティとお呼びくださいませ」


「あ、そう? じゃお言葉に甘えて、キャンティは帰国するの?」


「はい。パラダイスまでは二泊三日かかりますが、中央エデンに居ても学園もございませんし、その学園も、居心地が良いとは言えませんので……」


「そうなんだ。僕たちアルビノ人はもちろんだけどさ、混血の人達も居心地が悪いの?」


「そうでゴザル。パラダイスはマシなのでゴザルが、ここ中央エデンでは混血は忌避されるのでゴザル」


「ああ、アルビノ差別が多いって話だもんね」


「それでも、シンエデンよりは幾分マシであると伺っております。ミチイル様、紅茶の準備が整いました」


「ありがとう、シェイマス。じゃ、出そうかな、あ、ちょと待って。キッチンで用意してくるね」


「ミチイル様、私もお供致します」




***




「はい、お待たせ~」


「うわ~ ミチイル様、とってもキレイな色~」


「左様でゴザルな。これは見たこともない色でゴザル」


「本当でございますね。赤とも何とも言えない色ですわ。それに……これはランプの……」


「うん、ガラスの器なんだ。そしてこれはね、ピンク色って言うんだ。イチゴと生クリームを混ぜるとね、こういう色になるんだよ」


「という事は、このスイーツも牛乳が使われているのでゴザルか」


「うん。牛乳はね、とっても使い道のある、素晴らしい食材なんだ。南部では牛乳がたくさんあるんだから、どんどん使って欲しいけど、このスイーツはちょっと難しいかも知れない。ま、そのうち色々変わる可能性もあるけどね」


「ねえ、ミチイル様~ 早く食べようよ~」


「ハハ そうだね、じゃ、このスプーンですくって食べてね。これは、イチゴのムースというスイーツです!」


「いただきまーす」


「ミチイル様、とってもおいし~ こんな食感のものは無かったよね~」


「そうでございますね、シモン様。ケーキとも生クリームとも違います」


「うん、これはね、ゼラチンっていう材料を使っているんだ。この前、神聖国で新たに作った食材だよ」


「へえ~ これは口に入れたら溶けてなくなっちゃう!」


「左様でゴザルな。生クリームの濃厚な感じもあるのでゴザル」


「私、このようなスイーツは見たのも食べるのも初めてでございます。とてもひんやりしていますし……イチゴ、とは、イチゴマドレーヌのイチゴなのでございましょうか」


「うん、キャンティ。イチゴマドレーヌはね、このイチゴっていう果物を煮詰めて混ぜてあるんだけど、このイチゴのムースは新鮮なまま生クリームって言う乳製品と合わせてね、それで焼かずに冷やして固めてあるんだよ」


「冷やしてもケーキができるのでゴザルか!」


「うん、ゼラチンを使えばね。ゼラチンは室温では固まらないんだけど、うんと冷やせば固まるの」


「それでは、南部では少々難しいのでゴザルな」


「ま、そのうちね。南部ではイチゴは収穫できてるの?」


「イチゴは小粒でゴザルが、問題なく収穫できていると聞いているでゴザル。ただ、保存ができないのでゴザルから、そのまま食べるだけらしいでゴザルが」


「ああ、そうか。イチゴジャムなら保存もできるからね、砂糖があれば鍋で煮てジャムが作れるから。そうすれば、マッツァナンとかに付けて食べたら美味しいよ。マッツァナンは作ってるよね?」


「はい、お慈悲によって燃料が使えるようになりましたでゴザルので、頂いている乾燥マッツァをオロシガーネで粉にしてマッツァナンを作っているはずでゴザル。私は去年から学園に来ているのでゴザルから、お目にはかかってないのでゴザルが」


「ああ、そうだよね。今年の話だもんね。その割に、随分イチゴは早いね。ま、草みたいなもんだしね、気温も神聖国より高いなら、数か月でも収穫できるかも知れない。それにしてもさ、いつも思ってたんだけど、足軽君は情報が速いよね」


「当家のグループでは、パラダイスから中央エデンへの物流も神聖国から指示を受けてゴザルので、毎日当家の者が中央エデンに参っておるのでゴザル」


「あ、そういえばそうだった。パラダイスから獣道を通って中央エデンに来てるの?」


「左様でゴザル。森林地帯の街道は神聖国でゴザルので」


「それは大変だよね……途中で二泊するんでしょ?」


「左様でゴザル。ですが荷車と牛がおるので、水や食料はギリギリ持つのでゴザル」


「森林北の街道が使えればいいんだけどね……混血の人は、あの辺りには出入りができないの?」


「神聖国でゴザルので、勝手に入る訳にもいかないでゴザル」


「ん? 勝手に入れないという事は、入ろうと思ったら入れるの?」


「昔は南村まで荷車を入れていたと伝わっているでゴザルので、おそらく問題はないかと思うのでゴザル」


「ああ、そうなんだ。……それで昔、トム爺が念のために工場へって言ってたのか」


「ミチイル様、色々障りが……」


「ああ、ごめんごめん。でも、これからは森林北の街道、神聖国からすれば南の街道なんだけど、それを使えるんじゃないかと思うよ。それを使うと、旧アタシーノまで一日とかで着くと思うし」


「ミチイル様、神聖国の牛とは違うでしょうから、もしかしたら……」


「ああ、そうか。そうかもね。まあ、いずれにしても今よりは早いんじゃないかな。途中に宿場もあるしね、水も牛のエサもあるから」


「それは大変ありがたいのでゴザル」


「うん、向こうではもう話が進んでいるんじゃないかと思うけどね。帰ったら色々お父上を話してね」


「かしこまりましてゴザル」


「ところで、アドレ侯爵家は、パラダイスで何か仕事をしているの?」


「はい。当家は混血でございますので、今は何もしておりません。昔は、王都の管理をしていたと伝わっております」


「王都の管理って、何をするのかな……」


「はい。揉め事の処理ですとか、エデンの園の実の管理、収穫の差配などもしていると思います。アドレ侯爵家ではしておりませんが、他の侯爵家が王都で差配していると思います」


「ああ、そうなんだ。確か公爵家が王家の分家だったっけ? その次が侯爵家だから、実質的に王都を牛耳っているのは侯爵家なんだね」


「左様でございます」


「で、アドレ侯爵家は冷遇されている感じ?」


「はい。かろうじて王家から紙幣の下賜が少々ございますが、必要分のマッツァを下げ渡される以外は、色々と自由になりません」


「そうなんだ。神聖国の仕事とかはする気はないの?」


「どうでしょうか……」


「ミチイル様、神聖国の仕事はスタイン男爵家が取り仕切っておりましてゴザルので、貴族の身分が高い侯爵家では、色々障りがあるかと思うのでゴザル」


「ああ、面倒くさいね……」


「ミチイル様! もし、アドレ侯爵家が神聖国へ仕事を願ったとすれば、仕事は頂ける可能性があるのでしょうか?」


「うん、それはあるとは思うけど……差配は足軽グループになる事には変わりないと思うよ」


「当家で差配はさせて頂いておりますでゴザルが、表面上は何とでもなりそうな気がするでゴザル。帰国ののち、父とも相談してみるでゴザル」


「ああ、それがいいかもね。キャンティも帰国してお父上とそういう話ができる?」


「はい。アドレ侯爵家は王都に籠っておりますので、外に出ているのは私くらいなものですから、世界の情勢を伝え、父と話をしてみたいと存じます」


「うん、そうしてみたらいいかもね。神聖国としては、おそらく足軽グループと同じ条件を飲んでもらうか、他のエデン人の平民と同じような仕事で給料を得るか、どっちかの対応になると思うけど、それはアドレ侯爵家の選択になるかも知れない。いずれにしても、帰国してから色々話をしてみて」


「かしこまりました」


「ああ、足軽君もキャンティも、帰国するならお土産を持って行ってよ。アルビノ商店街のスイーツなんかは日持ちするものが多いからね、問題ないから。シェイマス、手配をしておいてもらえる?」


「かしこまりました」


「ミチイル様、大変なお気遣いを頂戴致しまして、ありがとう存じます」


「いつもながら、かたじけないでゴザル」


「ハハ あまり仰々しくしないでね。僕、学園で目立ちたくないからさ」


「ミチイル様~ だから手遅れだって~」




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