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2-29 寮へ

神聖国で、随分ゆっくりしちゃったな……


そろそろ寮に戻ろう。




***




「お帰りなさいませ、ミチイル様」


「うん、ただいま。何か変わった事はあった? シェイマス」


「特に何も問題はございません」


「学園レストランはどう?」


「はい。混血の民が中心ですが、毎日のように利用がございます。エデン人も来ていますので、以前に比べると、それなりに盛況でございます」


「あ、そう。メダルはどのくらい減ったの?」


「はい。半分くらいは支給致しました」


「それは、想像よりも広がってるね。ご苦労様、シェイマス」


「とんでも無い事でございます」


「皆は元気かな? シモンは?」


「はい。時折学園をさぼっていらっしゃいましたが、それ以外はお変わりございません」


「ああ、良かったよ。じゃあ、取り敢えず僕は部屋に行くね。後で夕食を一緒に食べよう。シモンにも伝えて置いて」


「かしこまりました」




***




「これはミチイル様、お疲れ様でございます。何かありましたか?」


「うん。あなたはレストランの責任者だね? ごめんね、このレストランは寮の食堂も兼ねているから、週休日が無くて。シフトで休みは取ってもらってる?」


「はい、その辺りはきちんと交代で休みを取っております」


「それなら安心したよ。それで、学園レストランの方はどう?」


「はい。それなりです。混み合っては居りませんが、ほぼ毎日の利用があります」


「そう聞いているけど、お茶と食事、どっちが多い?」


「はい。お茶の利用の方が多いのですが、スイーツのバリエーションが食事に比べると少ないので……特に、クッキーなどは、以前はサービス価格の銅貨一枚で売られていましたので、ありがたみが少ないようです」


「ああ、そういえばそうだね。今回神聖国で新しいエデン用の和菓子も増やしたからね、すぐに納品されると思うけど……クッキーか。本当はお茶会にはとてもマッチしたお菓子なんだけどね……ふむ。クッキーを持って来てくれる?」


「かしこまりました。こちらです」


「うん、今まで通りだね。これをさ、今は全部円形なんだけど、形を変えてみようか。クッキーは作れる?」


「はい。今は中央エデンのレストランと寮の食事を取り仕切っておりますが、以前は中央工業団地でパン菓子製造工場にも勤めておりましたので」


「ああ、それなら問題ないね。ここには単身赴任なの? 家族は?」


「はい。家族は神聖国で暮らしております」


「ああ、ごめんね、エデンで働くことになっちゃって」


「とんでもないです。ミチイル様の学園生活に、少しでもお役に立てると、嫁や子供に両親、家族一同、大変に栄誉な事と喜んでおります」


「ありがとう。じゃ、ちょっとクッキーを作ってみようか。このレストランのキッチンは一通り設備を整えたはずだけど、オーブンとかも問題ないよね?」


「はい。神聖国のように魔法が使えませんので、炭で調整しておりますが、特に問題はありません」


「うん、じゃあオーブン温めておいて、クッキーを作ろう」


「かしこまりました」




***




「ふむ。クッキーの生地はできたけど……これを型抜き魔法する時に、」


「ミチイル様、ここでは魔法があまり使えませんので……」


「ああ、そうだったそうだった。じゃ、クッキーの抜型を作ろう。ピカッとね。これで、ハート型とダイヤ型ができたから、後は包丁で四角と三角に切れば、五種類の形のクッキーができるね。後は、そうだな……あ、花の形の抜型も作ろう。よし、これで梅型とマーガレット型ができたよ。この抜型で、クッキー生地を抜いてもらえる?」


「かしこまりました」


「うん、型を抜いた後に残った生地は、またまとめて延ばして型抜きしてね。うん、これでもいいけど、押し型とかもあったら、模様が付けられるかな。えっと、複雑なのはちょっと無理かも知れないから、とりあえず梅型の花弁でも作って、型押しすれば」




***




――ピロン 型押し魔法が使えるようになりました。お好みの形で型押しが思いのままです




***




「うん、今ここでは特に使えないかな。押し型を作ったからね、梅型とマーガレット型に抜いた後、生地にこの押し型を押し付けて模様をつけてもらえる?」


「かしこまりました」


「あ、プレーン味だから、模様をつけた後は溶き卵も塗ろう。綺麗な焼き色になるからね」


「かしこまりました」


「とりあえず、このいろんな形のはプレーンクッキーで作ってね。飽きられた頃に違う味の形のも出していこう。さ、とりあえず焼いてみよう。時間があれだからピッカリンコ。あ、オーブンからクッキー出してもらえる? うん、そして冷ますのにピッカリンコ。ちょっと味見してみよう」


「これはとても可愛らしいクッキーですね」


「うん、味は普通のクッキーだね。じゃ、これでやってみてもらえるかな? 神聖国には後で伝えるようにするけど、ここで作ってもらってもいいよ。任せるから」


「かしこまりました」




***




さて、型抜き魔法ができた訳だけど……ちょっと気になってたから、メダルに型押ししてみよう。


ピカッとね。


うん、学生用の銀メダルに模様が付いたね。学って漢字だけどね~


これをナンバリングしてメダル管理してもらおう。メダルの偽造は、材料の銀石もエデンには流通してないし、昔の銀貨も銀コインも、もうあんまり無いしね、多分無理だろうけどさ、模様とナンバリングがあれば、偽造は不可能だから、安全性が高くなるでしょ。


とりあえず、今の二年生には百番台のメダルにして、一年生には二百番台のメダルにしよう。そうすれば、卒業した後に悪用されないと思うしね。


ま、悪用するようなら出入り禁止にするけどさ。




***




「ミチイル様、お呼びでしょうか」


「うん。あのさ、学生用の銀メダルをね、新しくしたから、今のをそれに差し替えてもらえる?」


「かしこまりました」


「今の所、メダルの悪用とかは無いんでしょ?」


「もちろんでございます。悪用しそうな愚か者には渡しておりません」


「うん、ありがとう。それでね、この学生メダルはナンバリングしてあるの」


「これは、管理がとてもしやすくなりますね」


「うん。書類に残しておくのが面倒だけどね」


「そのような事は些末な事でございますので、ご心配には及びません」


「それでね、学園の二年生がいるでしょ? その二年生には、この百番台のメダルを渡してもらいたいの。それで一年生には二百番台のメダルね」


「さすがミチイル様でいらっしゃいます。これで卒業した後にメダルを悪用しようとしても、三桁の桁番を確認すれば防げますね」


「さすがシェイマスだよ。すぐにそれに思い至るなんて」


「恐れ入ります」


「もちろん、来年の入学生には三百番台のメダルね。それで、メダルは100枚ずつ合計200枚作ったからね、全部使うかどうかわからないけど、一応全校生徒に渡るかなと思うんだ」


「そうですね、もし不足する場合は、ミチイル様へお知らせ致します」


「うん。それで、この新しい学生メダルの運用法についても、レストランの従業員に周知してもらえる? それでさ、このメダルを持っている人が同伴する場合に限り、学生以外も使えるように変更しよう。もちろん持ち帰りは厳禁のままだし、もし、何かトラブルでも起こしたら、そのメダルは剥奪して永久に出入り禁止ね。ちょっと管理が煩雑だけどさ、シェイマスに差配をお願いしてもいい?」


「勿論でございます。使用人も従業員もおりますので、ミチイル様のご心配には及びません」


「うん、じゃ、よろしくね」


「かしこまりました。それで、ミチイル様は、いつから学園へいらっしゃいますか?」


「うーん、そうだね、数日間もダラダラしちゃったから、明日からでも登校しようかな。面倒くさいけど」


「かしこまりました」




***




「いいか、我々偉大なるエデン人は、うんたらかんたら……」


「さあ、難解な引き算を致しますよ! 12-10は? はい、そこのあなた」


「見ろ! 良く見たか! 見たな! いや、まだだ……」




***




「ふう。一か月振りかな? どのくらい休んだかわからないけど、本当に苦痛な時間だよね、この学園」


「でしょ~ ミチイル様は帰国してたから羨ましい~」


「シモン様、ミチイル様は神聖国の運営のお仕事をなさっておいでなのですよ!」


「んもう、わかってるって~」


「僕も、行ったり来たりで疲れたよ。もう学園の往復もコーチ使っちゃおうか。道はないけどさ」


「この学園は王都の北端にありますし、学園から北は王都ではありませんから、この際、こっそり道路を敷かれては?」


「うん、それでもいいんだけどさ、王国にバレそう」


「そうだよね~ スタイン男爵家みたいに勘が鋭い人がいるかも~」


「もう間もなく、一か月の長期休暇がございますので、その間に敷いてしまえば宜しいかと存じます」


「あ、そう言えば、そんな事も聞いてたような気がする」


「じゃあさ~ その時にやっちゃってよ!」


「そうだね、そうするか」




***




「ミチイル様、少々ご報告がございます」


「ん? どうしたの?」


「はい。管理人によりますと、ここの所、寮の消耗品が早く無くなるそうです」


「消耗品?」


「はい。重曹ですとか、寮のレストランの食器類だそうです」


「ん、でも寮のレストランは使ってないでしょ?」


「はい。元々調理もしておりませんでしたが、食器などはございましたので」


「ああ、そうだよね。陶器とかカトラリーとか、木製品とか?」


「はい。いつ何が無くなったのかは判然と致しませんが、まあまあの数が不明のようです」


「ま、備品台帳とかつけて管理してた訳じゃないしね、わからないよね。僕も全然わからないし」


「はい。後は、洗濯ものの紛失も相次いでいるとか」


「洗濯もの?」


「はい。使用人が服や寝具などを洗濯し、干している間に無くなるようでございます」


「なにそれ。誰か特定の人のものが無くなる訳じゃなく?」


「はい。そもそも、スローン人以外は全員、同じものを着用していますので」


「ああ、そうか。個人の特定なんてできないよね。男物も女物も無くなるの?」


「はい。特に種別に関係なく、無くなっているようです。それと、オイルランプもいくつか紛失しているようでございます」


「うーん、要するに、この寮から色々な物が無くなっているんだね?」


「左様でございます」


「神聖国人なら、いくらでも貰えるんだから、盗んだりする必要は無いよねえ」


「はい。となると、残りは……」


「スローンか。そう言えば、今年はスローンの学園生が多いって話だったっけ?」


「はい。例年ですと、神聖国とそう変わらない人数なのですが、今年は割合からすれば50%増ですので」


「ふーむ」


「スローン大公の子息を問い詰めましょうか?」


「いや、確たるものがある訳じゃないし、仮に盗まれたとしても、魔法が使えないなら同じものを作るのも難しいだろうからね、長期の休みにも入るし、しばらく様子を見よう」


「かしこまりました」




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