2-28 ゼラチン
「さて、お約束通りにゼラチンを作りたいと思いまーす」
「待ちかねたぞよ、ミチイル」
「はいはい。ジョーン、材料用意してくれた?」
「もちろんです! 冷蔵庫へ入れて置きました!」
「うん、ありがと。じゃあ、豚足とかを出して~ さ、新魔法でーす『ゼラチン』 」
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ピカッ サラサラ
***
「おお、できた! ま、当たり前か」
「ミチイル様! これは、このまま食べるのですか?」
「このままって言うか、一度水でふやかして、その後にお湯に溶かして食べる感じだね」
「ミチイル~ じゃあ、それを飲めば豚骨スープの代わりになるのね!」
「うん。代わりにはなるけど、このままだと味も何もないからね、何かに加工して食べたらいいと思うし、まあ加工とかしなくても、これを水でふやかして置いたのを、スープに加えてもトロッとして美味しいよ」
「んまあ! それはとっても手軽じゃない! ミチイル、このゼラチンは大量生産しましょう」
「いや、そんなに大量には使わないからね、スープに入れる分だって、小さじ一杯くらいで充分だよ」
「んまあんまあ! お手軽な上に、量まで少なくて済むなんて! これぞ神の恵みで無くして、なんだと言うのかしら!」
「ほんとうです! マリア様、これは神の恵みとして貴女会案件ではないでしょうか!」
「いやいや、ゼラチンだしさ、食物だから。それに、神の泉シリーズもあるじゃん、似たような名前だと混同するよ」
「そういわれてみれば、そうよね……」
「では、魔法粉はどうでしょうか! 魔法のスープの代わりですから!」
「いいわね!」
「いやいや、何か違うものに感じちゃうでしょ。この粉で魔法が使えるとか勘違いされたら面倒くさいじゃん」
「じゃあ、何だったらいいと言うのかしら、ミチイル」
「うーん、ちょっと微妙だけど、こうじゅn……いやいやまずいわ。もうコラーゲンでいいんじゃない?」
「こうじゅ? どういう意味かしら」
「それは忘れて欲しいんだけど……まあ、高貴な潤い、みたいな感じ……かな」
「んまあ! なんてぴったりな名前じゃないのかしら!」
「そうですね! もうこれは、それ以外に考えられません!」
「こうじゅ……ん? そうよ、こうじゅ・んね!」
「いや、何かに引っかかるかも知れないからさ、高貴な潤い、でいいじゃん」
「いやよ! 高貴ではない人だと困るじゃないの! 最廉価バージョンも売るんだから!」
「そうです、ミチイル様!」
「うーん、じゃあ、コラー源とか潤いの源って事で、どう?」
「みなもと……なにか、いい感じが湧き出てくる気がするわね……」
「そうですね、聖母マリア様の源ですし、とてもいいのではないでしょうか! 聖母の源、これでどうですか?!」
「そうねえ……なんだか、わたしから採取される何かの怪しい感じがするわね……」
「もう! いつまで名前で揉めてるのさ! じゃあ、高貴な潤いで、高潤ね! 漢字で書けば問題ないでしょ」
「ええ! やっぱり高潤がとってもしっくり来るわ!」
「はいはい。じゃ、もう一つ試したいからね、先に進むよ」
「ええ、いいわよ。神聖国最重要案件が片付いたもの、もう何の憂いもないわ!」
「ほんとうですね! マリア様」
「はいはい。じゃ、昆布を出して、っと。はい、昆布で『ゼラチン』 来い!」
ピカッ カサ
「あら? これはゴミではないの? ミチイル」
「マリア様、ミチイル様はゴミから素敵な食べ物を創造されますので、大丈夫です!」
「いや、ゴミじゃないってば!」
「でも、どうみても食べ物ではないでしょう? 何かの絞りカスじゃないの」
「そうですね、どうみても食べるところは見当たりません!」
「いや、これはね、ゼラチンと似たように使える、棒寒天っていうものなの。ゼラチンは動物から作ったけどね、これは海藻から作ったの。コラーゲンではないから肌がプルプルにはならないけどね」
「あら、そう」
「仕方がありませんよ、マリア様。しょせんゴミなんですから、お肌に良い訳がありませんし……」
「なに、二人とも急にテンションが低くない? これはね、カロリーも殆ど無いから太らないし……と言っても、この世界じゃぽっちゃりさんは居ないけどさ、それでも食物繊維が豊富だからね、色々な老廃物なんかを体の中から排出してくれる働きがあるの! 体の外じゃなくて、体の中からキレイにしてくれるんだよ!」
「なんですって! 体の!」
「中から!」
「キレイに! ですって?!」
「すごいです、マリア様!」
「なんなの、漫才コンビなの?」
「すごいわ! ミチイル! 高潤シリーズに早速、新バージョンが誕生ね!」
「ほんとうですね!」
「高潤―体内から美しく―これで行くわ!」
「すてきです!」
「まったく……」
「それでミチイル、この『高潤―体内から美しく―』はどうやって食べるのかしら? このまま端から食べていくのかしら?」
「うん、これもふやかしてから、しっかり煮て溶かして、その後に食べる感じかな」
「ミチイル~ これも粉にならないのかしら?」
「え? もちろんなるよ。多分、ゼラチン魔法の時に粉をイメージしてもいいし、この棒寒天を石臼魔法で粉にもできそう」
「はい! ミチイル様!」
「どうぞ、ジョーン」
「はい! この寒天を粉にすれば、粉のゼラチンと同じようにスープに入れるだけでも大丈夫でしょうか?」
「はい、その通りです。暖かいスープにも粉寒天をそのまま入れても大丈夫ですし、ご飯を炊くときなどに粉寒天を入れると、ご飯がつやつや美味しくなります。また、ドレッシングなどに入れると、トロミが付きますので、サラダに絡みやすくなります。なにより、これは材料ですから、お菓子や料理に使います」
「ミチイル~ 早くレシピをジョーンに教えてもらえないかしら~」
「いやいや、母上たちが時間を無駄にしたんじゃない!」
「そんな細かいことはいいのよ。じゃ、クッキングをお願いね!」
「よろしくお願いします!」
「もう、ほんとに……ま、いいや。じゃあ、粉ゼラチンからね。まず、粉ゼラチンを多めの水に入れて混ぜ、数分ふやかしておきまーす。そして、ブドウの皮を皮むき器魔法でペロンとしてから抽出魔法で種を取りまーす。半分は石臼魔法でペーストにしてから、固形分を抽出して、透明なブドウジュースにしまーす。ゴミはもちろんコンポストして家畜の飼料に混ぜてくださーい。さ、このブドウジュースに水と多めの砂糖とふやかしたゼラチンを入れ、圧力鍋魔法で軽ーく加熱しまーす。ここで沸騰するまで加熱してはいけませーん。獣臭くなってしまいまーす。ゼラチンが全部溶ける程度のゆるーい加熱でーす。さ、加熱が終わってゼラチンが溶けたら、ガラスの器に流しいれまーす。そしたら、残りの皮むきブドウを数個ずつ加えまーす。後は冷蔵庫で数時間冷やしたら、ブドウジュレの、完成です!」
「んまあ! なんて美しいスイーツなのかしら!」
「ほんとうです! 緑色が透き通って、とってもキラキラしています!」
「ささ、続いては、イチゴでーす。まず、先に砂糖を加えた生クリームを八分立てにしておきまーす。そして、イチゴを石臼魔法でペーストにしまーす。鍋に少しの水とアップルブランデーとふやかしたゼラチンを入れ、先ほどと同じようにゼラチンを溶かしまーす。ゼラチンが溶けたら、イチゴペーストを加えまーす。そしたら、石臼魔法で良く混ぜてくださーい。きれいに混ざったら、そこへ最初に用意した生クリームホイップを入れ、手早く良く混ぜまーす。ガラスの器にすくい入れ、冷蔵庫で数時間冷やしたら、イチゴムースの、完成です!」
「まあ! 綺麗な色だわ!」
「ほんとうですね! イチゴのコンフィチュールなどとは違います!」
「さ、次は料理だよ。まず、濃いめのコンソメスープを作りまーす。そのスープの中に、細かく切ったベーコンに、あられ切りにしたニンジンと大き目みじん切りのタマネギも入れて、野菜が柔らかくなるまで加熱しまーす。そしたら火を止め、ふやかしておいたゼラチンを加えまーす。底が二重になって取り外しができる銅製の四角い型に全部流し入れ、冷蔵庫で数時間冷やしたら、コンソメゼリー寄せの、完成です!」
「これはまた、野菜がきれいです!」
「ほんとうね。野菜もこうしてみると、とてもおしゃれね!」
「ささ、次は寒天を使いまーす。まず、ふやかした寒天を水と共に鍋に入れ、沸騰するまで加熱しまーす。寒天はゼラチンと違って一度は沸騰させないと固まりませーん。寒天が全部溶けたら、先ほどと同じ銅製の四角い型、これは流し缶と言いますが、これに流し入れまーす。そして冷蔵庫で数時間冷やしまーす。冷えて固まったら、パスタマシーン魔法で5mmくらいのヒモ状に切り、ガラスの器に盛りまーす。これに甘酢と醤油を混ぜたものをかければ、ところてんの、完成です! ところてんは、甘酢の代わりに砂糖をかけたり、キナコ砂糖をかけたりしても美味しいでーす」
「ずいぶんと地味な食べ物ね」
「ですが、キナコは美容に良いですから!」
「さささ、次も寒天でーす。まず、カボチャあんを用意しまーす。そして鍋に水と砂糖と多めのふやかした寒天を入れて、しっかり煮溶かしまーす。そこへカボチャあんを入れて、良く混ぜまーす。流し缶に流しいれて、冷蔵庫で数時間冷やしまーす。冷えたら食べやすい大きさに切って皿に盛り付けたら、カボチャ羊羹の、完成です! これは和菓子でーす。先ほどまでのものは要冷蔵なのですが、羊羹は数日間、常温保存が可能でーす」
「そして最後に、エデンに出すお菓子を作りまーす。まず、リンゴをペーストにした後、固形分を抽出して透明なリンゴジュースを作りまーす。リンゴジュースと同量の水にたっぷりの砂糖と多めのふやかした寒天を加え、ガッツリ加熱して寒天を煮溶かしまーす。寒天が溶けたらリンゴジュースを加えて、三分の一を食紅魔法で赤く着色、後の三分の一ずつを、それぞれ黄色とオレンジに着色してから、別々に流し缶に流しいれまーす。羊羹などと違って、厚みが2cmくらいになるようにしてくださーい。寒天が冷えて固まったら、2cmの角切りにし、軽ーく干物魔法かけて表面を乾燥させまーす。表面がいい感じに乾燥したら、それに砂糖をまぶしまーす。さらに干物魔法をかけて表面の砂糖がキラキラしたら、三色琥珀糖の、完成です! これは常温で長期間保存ができますので、エデンで販売しましょう! エデンでは、この小さいカケラを一色ずつ、合計三個をミニガス袋に入れて、一袋金札一枚で販売してくださーい」
「とっても小さいカケラだけれど、キラキラしているから高級感はあるわね!」
「はい! こんなに透き通った綺麗な色のお菓子は、エデンでは初めてのはずです!」
「そうね。これなら極少量で金札一枚でも、当然よ!」
「ハハ 元々の価値なんて、わからないしね、言い値で売れるからさ~」
「ステキよ!」
「じゃ、ダイニングで試食しようか~ お供えも忘れずにね」
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「んまあ! このブドウジュレはとっても爽やかで美味しいわ! 見た目も美しいし、ステキ!」
「こちらのイチゴムースは、とってもコクがあって風味も高くて、でも滑らかで美味しいです!」
「コンソメのゼリー寄せも、スープの味がするのね。子供や年寄りにいいんじゃないかしら」
「このところてんも、シンプルですが、さっぱりしています! 一度に大量につくれますから、給食にも良いです!」
「まあ! このカボチャ羊羹は、ねっとりとして独特な食感ね。濃厚で緑茶に合いそう」
「このゼリー菓子は、とても甘いです! これだけ甘いなら少量でも十分ですね!」
「ジュレもムースもね、それぞれ別の果物でもできるからね、試してみてね、ジョーン」
「はい!」
「それと、粉ゼラチンと粉寒天も製造して、流通に乗せてもらえる?」
「それは当然よ! 高潤と、高潤―体内から美しく―ですもの!」
「はい! その通りです、マリア様!」
「ハハハ」