2-24 学園レストラン
「私にお役に立てる事なら、何なりとお申し付けくださって構いませんでゴザル」
「うん、ありがとう。あのさ、この学園の混血の人って何人くらいいるか知ってる?」
「ふーむ、私が知っているのはパラダイスのアドレ侯爵家の娘とその分家の娘が一人ずつに、当家のグループの男爵家の子女が数人、そして私で合わせて10人程度でゴザル」
「結構少ないね……それとアルビノ人が30人足らずでしょ、それでも合計で40人程度なのか……200人くらいの学園だから、多いと言ってもいいのかな。いや、世界の人口の割合からすれば、妥当なのか。南部の混血の人は1000人単位でいるって話だったもんね?」
「左様でゴザル。当家はパラダイス南部の混血貴族の筆頭の扱いでゴザルから、南部の混血は当家のグループに所属しているのでゴザルが、混血平民の民も合わせて3000人弱くらいでは無いかと思うでゴザル」
「後は、そのパラダイスの侯爵家? そこに数十人くらいはいるのかな。20人とかくらいかもね。アルビノ人と混血を全員足せば、どんなに多くても35000人とか、36000人とかって考えると、世界の人口が180000人だから、20%だもんね。学園での割合も同じか」
「左様でございましょうね、ミチイル様」
「それでさ、足軽君、その混血の人達はアルビノ商店街に来るのは大丈夫なのかな?」
「はい。南部から出たことがない平民の混血も多いでゴザルが、王都などで仕事をしている当家のグループは全員、普通にアルビノ商店街へ出入りさせていただいているのでゴザル」
「学園に居る混血の生徒はどう? ここのアルビノ商店街に来れると思う?」
「問題なく出入りしているでゴザル。買い物も、ここでしかできませんのでゴザルので」
「ああ、そっか。それじゃあさ、この商店街のレストランがあるんだけど、そこをね、学園の生徒専用にしようと思ってるんだ。食事をしてもいいし、今ここで僕たちがしているように、お茶会をしてもいいんだけどさ、来てくれると思う?」
「……難しいでゴザル。レストランには行ったことが無いのでゴザルが、大変な高額だと聞くのでゴザルから、とても支払いができるとは思えませんのでゴザル」
「ああ、そうだよね。もちろんさ、学園の生徒を相手にするからね、その辺は安く、というか格安にするつもりなんだ」
「失礼ながらミチイル様、供給している紙幣量を考えましても、学園の生徒が使える紙幣はせいぜい一か月に金札一枚程度ではないでしょうか。いくら格安と言いましても……」
「うん、そうだろうね、シェイマス。だからね、食券制度を導入しまーす。食券は、一枚につき銀札一枚の10枚セット、それを金札一枚で販売するの。その食券があれば、お茶とスイーツのセットも食べられるし、食事もできるようにする。要するに、銀札一枚の破格で、お茶とスイーツセットか、食事が一回食べられるって事ね。メニューは日替わりで一種類ずつにすると思うけどさ、食事に関しては寮の食事と同じでいいと思うしね、後はスイーツを日替わりで用意するだけで営業できるでしょ? もちろん、破格だからね、学園生限定にする。安すぎて一般人が押し寄せちゃうからね」
「それでゴザルなら、喜んで伺う生徒もいると思うのでゴザル」
「うん、とりあえずね、混血の人達だけでもいいから、アルビノ村商店街の学園レストランに来てね、お茶会とか、お食事会とかして欲しいんだ。その采配を足軽君にお願いしたいんだけど、いい?」
「もちろんでゴザル。混血民に食券を売って、学園レストランで集うようにすれはいいのでゴザルね。お易いご用でゴザル」
「うん、ありがとう。もちろんね、混血以外でも学園生なら、同じ条件で学園レストランを使ってもらって構わないからね。ただ、揉め事は起こさないで欲しいんだけど、アルビノ商店街に来ている時点で、変に権力をかざしたりはしないんじゃないかと思うんだ。アルビノ人を積極的に虐げたいような人は、ここに足を運ばないでしょ?」
「左様にゴザルと思います」
「じゃあ、足軽君にお願いするね。それでさ、最初は食券10枚つづりのセットをサービスするからね、ここに木の短冊で作った食券があるの。書いてある文字は紙幣と同じように偽造とかはできないからね、これは食券と言って、学園レストラン専用の紙幣と思ってくれていいよ。この一枚を使えば、学園レストランでお茶セットか食事一回ができる。それと、学園生と証明する方法なんだけどさ、それはこの学生メダルも持たせて欲しいんだ。この銀メダル、100枚用意したからね、これを所持して食券を持っていれば、学園レストランを利用できるの。どっちも揃わないと利用できないからね。じゃないと、食券を市中で転売とかされちゃうからさ、それの防止ね。学生メダルは、この100枚以上は作らないし、自分のメダルを売ったら、自分は利用できなくなるしね、不正使用されたメダルは没収して、その人には二度と発行しないから」
「それは防犯対策としても良い策だと存じます、ミチイル様」
「うん。この学生メダルの頒布はシェイマスに任せるから、管理してもらえる?」
「かしこまりました」
「そして、食券販売は足軽君に任せるからね。足軽君は、購入希望者から金札一枚貰って、レストランで食券10枚セットと銀札一枚受け取ってね。食券のセットは購入希望者へ渡して、銀札一枚は足軽君の報酬だから、そのまま受け取っておいて。販売価格の一割が足軽君の給料って感じだね」
「それは、誠にかたじけない事でゴザル。ミチイル様のお慈悲に、お礼の言葉もないのでゴザル」
「でさ、シェイマス。学園レストランのオープンを機に、寮の食事もレストランでとるように変更してくれる? 今は寮まで食事を運んでもらっていると思うけど、生徒の方が食べに行く形に変更ね。レストランは多少は忙しくなるからね、少しは負担を減らそう」
「かしこまりました」
「ねえねえミチイル様~ 学生メダルを100枚だけしか作らなかったらさ、足りないんじゃなーい?」
「足りなくなったら、また作ればいいよ。最初にたくさん用意したらさ、さっきも言ったけど転売といって、関係ない人に学生メダルを高額で売る人も出るかもしれないからね。パラダイスの平民とかにさ、このメダルがあればアルビノ商店街で格安で食事ができます、牛丼を一つ買う値段で家族全員食事ができますよ、とか言って売られたら困るじゃない? ま、見るからに学生じゃないと学園レストランは使えないけどさ、そんな事まで頭が回らないでしょ、どこかの王子とか王女とかさ」
「あ! そうだよね~ 縦ロールとか、バカだろうしね~」
「シモン様! 全く同意見でございますが! 一応、礼儀というものが」
「まあ、不都合が起きたら考えよう。それと、持ち帰りは一切禁止するからね、転売対策で。どんなに言われても禁止。ま、レストランの方には僕からも指示しておくけどさ、シェイマスも何か気がついたら指示しといてもらえる?」
「勿論でございます。お任せくださいませ」
「じゃ、足軽君も、お願いね。さっきも言ったけど、最初にサービスで食券を渡すからね、これを混血の人に宣伝で渡してもらえる? そして学生メダルはシェイマスの所に取りに行くか、足軽君経由ならシェイマスから受け取って足軽君が渡してあげてもいいからさ。目的はね、皆でお茶会や、お食事会をして欲しいの。こうやって皆でお茶をするのはいいじゃない?」
「はい、左様でゴザル。皆で揃って何かを食べるというのは、王国ではなかなか無い事でゴザルゆえ。それに、この紅茶もでゴザル。ミチイル様の所で初めて頂いたのでゴザルが、大変に香り高く美味なものでゴザルので」
「あ! そういえば! 紅茶もエデンでは禁止してたんだった! ま、これを機に解禁しよう。後は、スイーツも、販売している金札1枚のお菓子を紅茶一杯か緑茶一杯とセットでいいよね。おそらく金札2枚の販売価格のセットが、銀札一枚の食券で食べられるんだもん、ものすごーくお得でしょ? これをアピールしてもらえる? 足軽君」
「かしこまりましてゴザル」
「さ、少しでも食文化が広がるといいな~」
「左様でございますね、ミチイル様」
「わたしもミチイル様からご指示を頂けるなど、大変光栄でゴザル。微力ながら精一杯務めさせて頂きますのでゴザル」
「僕は、試食係ね~」
「ハハ じゃ、紅茶のお代わりはどう?」
「是非、頂くでゴザル」
***
さて、レストランに指示しておこうかな。
スイーツは、特別にマドレーヌかクッキーか、パウンドケーキのセットにしよう。これには紅茶を一杯プラスね。それと、プレーンのまんじゅうと緑茶一杯のセット。当面はこれでいいかな。
紅茶も解禁するから、白い食器もエデンで売り出そう。白い食器は一つ金札10枚ね。ティーセットは一式金札500枚!
食事の方は、昼食は丼物単品、夕食は和定食でいいかな。今の寮の食事と同じだから。あ、もちろん寮生は無料だよ。
足軽君からの売り上げとかの管理もお願いして、学生メダルのチェックでしょ、回収した食券は使いまわしてもらうとして、何百枚か用意しておけばいいかな。本当は紙で作ってもいいけどさ、紙幣のありがたみが減ってしまってもね、それはそれで困るからね。当面は竹の短冊を使おう。竹は魔法じゃないと切断もできないからね、偽造は不可能だし。それに、食券は後でいくらでも変更できるしね~
***
「ふう、疲れた~」
コンコン……
「ミチイル様、本国から急ぎのお手紙が届いたのですが、ご覧になりますか?」
「ああ、シェイマス。どうぞ、入って」
「失礼致します。本日は大変お疲れ様でございました」
「うん、シェイマスもお疲れ様」
「こちらでございます」
「ああ、ありがと。ん、どれどれ」
***
「ハハキトクスグカエレ……」
***
「え? どういうこと?」
「何か不測の事態でもございましたか? ミチイル様」
「う、うん。大変だ!」
「ミチイル様、もう一枚手紙があるようでございますが」
「う……え? あ、ほんとだ」
***
「キヲツケテカエッテクルノヨ ハハヨリ」
***
「なんだ、これ?」
「緊急事態でございますか?」
「うん、うーん……うーん、まさか、母上のジョーク?」
「私も拝見致しても構いませんでしょうか?」
「あ、うん」
「……これは、何か不穏な書き出しですが、要するに急いで帰ってきて欲しいとの事なのではないでしょうか」
「うん。母上、ここ数年、妙にお茶目だからなあ」
「左様でございますね。マリア様は私の母と同い年のはずでいらっしゃいますが、見た目も十代のようですし、少女のような所もおありでいらっしゃいますから」
「そうだよね……母上、全然、歳を取ってないもんね。ま、病気の無い世界だし、手紙を書いているくらいだから、大怪我とかでもないだろうし、命にかかわるような事じゃなさそう。うん、とりあえずさ、明日の朝に神聖国に戻るよ」
「かしこまりました」
「学園レストランの事については、さっき指示をして置いたけどさ、何か新しいメニューを作ったりはしないから、今あるもので営業開始ね。軌道に乗ったら何かを考えるかも知れないけど、とりあえず、お茶会とか食事会とか、そういう楽しい食文化を知って貰うのが目的だから、商売というよりは宣伝、もっと言ってしまえば、女神信仰の布教みたいな役割ね。悪いけどさ、僕、いつ戻るかわからないから、後の事はお願いね、シェイマス」
「勿論でございます。シモン様の事、ともどもお任せくださいませ」
「ハハ シモンもかわいそうだからさ、時々は学園をさぼらせてあげてね」
「善処致します」