2-22 進捗率
なんかさ、疲れたっていうか、ダルかったからね、学園は数日さぼっちゃったよ。シモンはシェイマスに引きずられて行ったけど。
その間に、中庭を増築して、部屋のシステムキッチンにレンジフードも取り付けた。このレンジフードね、魔石をセットして電球みたいなスイッチを押せば作動するんだけどさ、ただ排気筒があいているだけでプロペラとか無いんだよ。それなのに風が流れていくの。どうなってんの?
『はい、救い主様』
「ああ、アイちゃん。うん、本当は答えを知っているんだ~ 魔法ですから、だよね」
『左様にございます』
「僕さ~ 学園に行くのが面倒くさいよ」
『行かなければよろしいのではと愚考致します』
「でもさ、世界に進出できないでしょ、学園に行かないと」
『進出せずとも、宜しいのでは』
「今のままでも?」
『はい』
「でも、そうしたら義務?責務?が果たせないでしょ」
『神聖国以外は一掃してしまう、という手段がございます』
「なんかアイちゃんが言うと、冗談に聞こえないんだけど~」
『冗談ではございませんので。神聖国以外の国が無くなれば、必然的に食文化が世界中に広まったのと同じかと愚考致しておりますが』
「ああ……割合で言えば……世界の人口がエデン人15万人として、アルビノ人は3万人とすると……合計18万人くらいだよね。そのうち神聖国民が、人口増えているらしいけど2万とすると……11%くらい? それで言えば、進捗率も11%って事になるのか……」
『はい。あの女神の判断基準は判明しておりませんが、神聖国以外が消え失せれば、進捗率は100%となるかと思料致します』
「うわー、そうだけど! いやいや、ダメダメ。別に平和主義者でも何でもないけどさ、いやいやいや、考えないようにしよう。うん」
『救い主様の、御心のままに』
「うん、御心で考えないようにするね……ありがと、アイちゃん」
***
でもさ、進捗率なんて……ま、達成したら、どうなるのかとかも全然わかんないけどね。でも、確かにひとつの指標ではある。
でもさ、例えば、今みたいに食べ物を買って食べる人が増えるだけじゃダメなんだろうか……作ったり、生み出したりしないとダメなのかも……うーん、食文化食文化……そう言えば、うみママとして活躍してた地球のおかんも、食文化を守るために農林水産業にも傾倒してたんだよね……そう考えると、食文化ってやっぱり、生み出す事も含まれているのかも知れない。
と仮定すると、食べるだけじゃなくて、作ってもらわないとダメなのか……作ってもらうためには……まず知って貰わないとね。知らないものは作れないんだし、材料とかレシピとは、ずっと後の段階じゃん。例えばクッキーは安くエデンに売って、みんなに認知してもらったけどさ、安すぎるとさ、買う方が自分で作るよりもお得だって思っちゃうし、それじゃ作らないよね。自分で作った方が安い!ってならないとさ、料理とかしないかも。
あ、そういえば、女神様も、料理を作らせて捧げなさい、みたいな事を言っていたじゃん!
僕、忘れてたかも。
毎日結構必死だったような感じだしね。なにせ、料理を作る前段階で何も無かったし。
じゃ、料理を作らせよう!
って思ってもさ、そもそも知らないとね……って、堂々巡りじゃん……
ま、いいか。まだ時間もあるだろうしね。
でも、せっかく学園に来ているしね……ま、学園なんて、本当に無駄だけどさ。勉強どころか洗脳しているような状態……ん、洗脳……
そっか、洗脳だよ!
ま、言葉は悪いから、うーんと、食育?
そうそう、食育!
ここで子供たち、じゃなかった成人だったわ、でも15歳とか子供じゃん。その若い人たちが色々食べたり知ったりすれば、そのうち作ろうとかって思う時がくるかも知れない。
ま、わかんないけどね。
南部の方では足軽さんちに色々便宜を図っているし、パラダイス王家の所為で足軽さんたちが食事に困ったでしょ。そして、その食事を何とかしようとしている。農業も始めて、少しだけ料理もしているよね。
こう考えるとさ、理由はなんであれ、欲しいとか、何とかしなければ、みたいな動機って大切だよね。恵まれ過ぎた場所だと、文明も進化していかないってのは、真理だよ。アルビノ人が、急激に色々できるようになって、今でも毎日頑張って働いているのはさ、苦労していたからだもん。
必要は発明の母。
自然災害が多い日本の技術が発展したのも、納得だよね。
いやいや、僕って、すぐに話が脱線しちゃう。
とにかく、学園の生徒にも、そう、例えば食事会とか、お茶会とかさ、そういうのを広めたらどうかな。お食事会なんて、この世界じゃ存在してなかったと思うしね。だって、みんな同じモノを食べるだけだもん。集まって何をするってねえ、マッツァをみんなでかじるだけとかさ、原始人もびっくりだよ。
そうだ。そうしよう。
せっかく学園に我慢して在籍しているんだからね、少しでも生徒に会食文化を浸透させないと。
えっと、確か混血の貴族も少しはいるって話だったから、その辺りからかな。
***
「ねえ、シェイマス」
「はい、ミチイル様」
「アルビノ商店街に作ったレストランあるでしょ? そのレストランは、非常な高額設定でね、平民とかは使えないレベルなんだけどさ、レストランの営業状態ってどう? そこで寮の食事を作ってるでしょ? シェイマスの見た感じでどうかな」
「はい。食事に来る客は、毎日ゼロ人でございます」
「……やっぱりそうか」
「はい。そもそもアルビノ商店街にエデン貴族は足を運びません。エデン人の場合、歩くのも遅いですので王都からアルビノ商店街まで1時間以上かかると思いますし、そもそもアルビノ人に忌避感があるでしょうから」
「そうだよね、やっぱり」
「はい。アルビノ村に来ているのは、アルビノ人に対しての差別感情が、比較的少ない平民ばかりですので、その平民ではレストランは利用できませんから」
「高いからね。給料の半月分近くが飛んでいくからね……」
「はい。ですので、レストランは事実上、寮の食事の調理場となっております」
「じゃ、レストランを学園生に開放しても、問題なさそう」
「ですが、学園生は貴族でございますので、結局誰も来ないのではないでしょうか」
「うん、そうかも知れないけどさ、足軽君は来たでしょ? もしかしたら混血の人なら来るかも知れないじゃない?」
「……ふむ。確かにその可能性はございます」
「とりあえずさ、足軽君に話してみようか」
「それが宜しいかと存じます」
***
「いいか、我々偉大なるエデン人は、うんたらかんたら……」
「さあ、難解な引き算を致しますよ! 9-5は? はい、そこのあなた」
「見ろ! 良く見たか! 見たな! いや、まだだ……」
***
「あー、今日も相変わらず疲れたよ。足軽君はどこかな?」
「そのうち来るんじゃなーい~?」
「ミチイル・ケルビーン様! お初にお目にかかります。わたくし、この中央エデン王国のウンターラ侯爵家の娘でございます。わたくしの大伯母がいつも、メアリ・セルフィン様にお世話になっております。宜しくお見知りおきの程をお願いいたします」
「メアリ……あ、伯母上ね。うん、こちらこそよろしく……ん? あなたの大伯母?」
「はい、あの、大きな声では憚られる……お方にございますので」
「あ? ああ、うーん……」
「……ミチイル様、先日の王妃様では……」
「ああ! ああ、うん、わかったよ」
***
「ミチイル・ケルビーン様! お初にお目にかかります。わたくし、この中央エデン王国の宰相を務めさせて頂いております、ナモナク侯爵家の娘でございます。わたくしの母が、いつもメアリ・セルフィン様にお世話になっております。宜しくお見知りおきの程をお願いいたします」
「ああ、伯母上ね。わかったよ」
「ありがとうございます! これからも良しなに、お願いいたします!」
「ああ、はい」
***
「ミチイル・ケルビーン様! お初にお目にかかります。わたくし、この中央エデン王国のウゾー伯爵家の娘、」「そしてわたくしはムゾー伯爵家の娘、」「そしてわたくしはソノニー伯爵家の娘でございます。いつも、わたくしの母と、」「わたくしの母、」「そしてわたくしの母がメアリ・セルフィン様にお世話になっております。宜しくお見知りおきの程をお願いいたします」「いたします」「いたします」
「ああ、伯母上ね。わかったよ」
「ありがとうございます! これからも良しなに、お願いいたします!」「いたします!」「いたします!」
「ああ、はい」
***
「ねえ、今日は、なにこれ? なんなの?」
「なんか気持ち悪いね~」
「おそらく、金札1500枚の衣装を買う許可が欲しいのではないでしょうか。王妃様もお越しになったくらいですから」
「ああ、あー、そういう」
「ミチイル様、お呼びと伺いましてゴザル」
「ああ! ちょうどいい所に! あ、悪いね、足軽君。呼びつけちゃったりして。もう夕方だけどさ、この後、僕の部屋に来れる? 無理なら明日でもいいんだけど」
「では、お言葉に甘えさせていただくでゴザル」
「ねえ、ミチイル様~ 明日の昼に来てもらってさ~ 焼き肉にしようよ~」
「あ、それもいいかも。足軽君はどう? 明日の昼でもいい?」
「もちろんでゴザル」
「ごめんね、学園をさぼらせちゃうけど」
「一向に構わないのでゴザル。ミチイル様にお呼びいただく事の方が、学園二年分より重要でゴザルゆえ」
「左様にございますね、スタイン男爵令息様」
「ハハ 僕はともかく、学園の件は同意だけど」
「ほんとだよ~」
「じゃ、明日の昼に、僕たちの寮に来てくれる?」
「かしこまりましてゴザル」
***
「しかし、今日のはねえ、急に手のひら返したようにさ、なんかムズムズするよね。なんだっけ、なんたら侯爵家とか」
「ミチイル様、うんたら侯爵家でしょ~」
「ウンターラ侯爵家でございます」
「ああ、それそれ。僕、覚えられないよ」
「もー、ミチイル様、ちゃんと覚えなくちゃ~ 後は、名も無き侯爵家でしょ~ それと」
「シモン様、ナモナク侯爵家でございます」
「ああ、そういえばそんな感じだったよね。それと……」
「ミチイル様~ 有象無象伯爵家だよ!」
「ああ、それそれ、それと有象無象その2伯爵家だ!」
「……お二人とも、ウゾー伯爵家、ムゾー伯爵家、ソノニー伯爵家でございます」
「ああー、もう覚えられない!」
「僕も~!」
「お二人に、とても濃い血のつながりを感じますね」
***
――血は争えないのである