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2-21 自主休日

「いいか、我々偉大なるエデン人は、うんたらかんたら……」


「さあ、難解な引き算を致しますよ! 10-5は? はい、そこのあなた」


「見ろ! 良く見たか! 見たな! いや、まだだ……」




***




「ふう。今日も時間の無駄だったね……帰るのすらダルい」


「ほんと、疲れた~ もうコーチ使っちゃおうよ、ミチイル様~」


「恐れ入ります、ミチイル・ケルビーン様」


「どなた? 知ってる?シェイマス」


「学園の職員でございます、ミチイル様」


「ミチイル様に、賓客が面会をお望みでいらっしゃいます。少々御足労をお願い致します」


「僕、こころ当たりが無いけど? 誰?」


「ここで申し上げるのも憚られるお方にございますので」


「わかった。面倒くさいなあ、もう」




***




「 ! 何という髪色……ハッ、ミチイル・ケルビーン様、お待ちしておりました」


「こちらにおわすのは、偉大なる中央エデン王国の王妃様にございます」


「ああ、そう。僕に何か用でも?」


「はい。先だっては、この孫娘が、ミチイル・ケルビーン様に大変な失礼を致しまして……ゴスッ」


「痛い! おばあ様! わかったわよ。ミチイルサマセンジツハモウシワケゴザイマセンデシタ」


「孫娘も、このように詫びを申しておりますので、メアリ様へ宜しく取り計らいをお願い致します」


「何の事?」


「ミチイル様、金札1500枚の衣装の事ではないでしょうか」


「ああ、そっか、そうだったそうだった。縦ロールの事は記憶の彼方だったよ、僕も忙しかったしね」


「本日は、なぜか縦ロールを後ろで結わえていらっしゃいますから、ミチイル様がお気づきにならなくとも当然でございましょう」


「ああ、そうか、どうりで……見たこともない人が棒読みで謝っているからさ、意味がわからなかったよ」


「あ~ ほんとだ! 言われてみたら縦ロール姫だね~」


「何ですって! もう一度いって『ゴスッ』痛い!」


「ミチイル・ケルビーン様。それでは、メアリ様への取次ぎを、よしなに」


「王妃様の、ご遷御~ ご遷御~ ご遷御~」




***




「なんかさ、僕、とっても疲れたよ」


「うん、明日はさぼっちゃおうよ~ ミチイル様~」


「そうですね、学園に来る度に色々ございますから、羽を伸ばすのも良いかと存じます」


「そうだよね。とりあえず、寮に戻ろうか」




***




「おはよう~ 今日は何するの~ ミチイル様~」


「今日は料理でもしようかな~」


「ミチイル様の、お好きな様になさいませ」


「うん、学園さぼって料理するとかさ、なんかいい気分だよね」


「ほんとほんと~ 毎日でもいいよ!」


「シモン様!」


「ハハ そうだ、シフォンケーキでも作ろう」


「それって、どんなケーキなの~?」


「うん、ショートケーキみたいだけどね、それよりもフワッフワなんだよ。ものすごーく柔らかいの」


「ショートケーキもフワッとしておりましたが」


「それよりも、ずっとずっとフワッフワなんだ。午後からでも作ろうか」


「はーい」「かしこまりました」




***




「じゃ、まず先に型を作ろうかな、ピカッ。後は、卵を黄身と白身に分けて、黄身の方に砂糖と、菜種油と、アップルブランデーと、水を入れてキッチンロイドで混ぜまーす。そしたら、重曹を少し混ぜた薄力粉をふるい入れて、さらに混ぜまーす。じゃあ、白身の方をキッチンロイドしてメレンゲにしまーす。少しだけリンゴの酸の粉を入れて、砂糖も何回かに分けて入れて、しっかり堅いけど滑らかなメレンゲにしまーす」


「はい! ミチイル様」


「どうぞ、シェイマス」


「なぜリンゴの酸の粉を入れるのでしょう?」


「いい質問です、シェイマス。メレンゲを作る時、酸を少し入れると白身のタンパク質が変性して泡が消えにくくなるのです。シフォンケーキはメレンゲが命ですから、泡が消えにくいメレンゲが重要なのです」


「そうなのですね。料理には多くの理由が存在するのでございますね」


「うん、そうなんだよ、シェイマス。さて、角がお辞儀する程度のメレンゲが出来たら、メレンゲの三分の一量を、黄身の方の生地へ入れて、良く混ぜまーす。ここでは泡が消えてもいいので、しっかり混ぜてくださーい。混ざったら、今度はメレンゲの残りの方へ、この黄身の生地をいれて、泡を消さないようにゆっくり混ぜまーす。生地をすくって落とすのを繰り返す感じでーす。生地が混ざったら、シフォン型に高い所から流し入れまーす」


「はい! ミチイル様」


「どうぞ、シェイマス」


「なぜ、高い所から生地を流し落とすのでしょう?」


「いい質問です、シェイマス。シフォンに限らず、ケーキは空気の泡で膨らみますので、大きな泡があると、そこだけ穴が開いたみたいに焼きあがってしまうのです。高い所から生地を落とすと、大きな泡ができにくいのです」


「料理とは、行程一つにも意味があるものなのですね」


「うん。シフォン型に生地を入れたら、細い棒を生地に入れてグルグル回し、さらに大きな泡を消しまーす。型の淵の方へ生地を少し擦り付けて、160℃のオーブンで小一時間焼きまーす。さ、待っている時間が無駄なのでピッカリンコしちゃって、オーブンから出し、型を逆さまにして冷ましまーす」


「はい! ミチイル様」


「どうぞ、シェイマス」


「なぜ逆さまにするのでしょう?」


「とてもいい質問です、シェイマス。シフォンケーキは、大変に柔らかいケーキなので、普通に冷ますとしぼんでしまうのです。熱い間は膨れているのですが、冷めると空気が縮むのです。ですから、型に張り付いているケーキでも、小さくしぼんで硬くなってしまいます。なので、型を逆さまにすると、型に張り付いた形を保ったまま冷ますことができ、ケーキが縮みません」


「ほんとうに、料理とは奥が深いものなのですね」


「うん、ジョーンもいつも熱心に質問してくるんだよ。シェイマスはやっぱりジョーンの息子だよね~」


「微妙な気分になりますね」


「ハハ じゃ、シフォンを冷ましている間に、生クリームを砂糖控えめに、アップルブランデーも入れて八分立てにして冷やしておこう。付け合わせは何がいいかな~ イチゴとリンゴ、どっちがいい?」


「どちらも良く焼き菓子に使われますから、たまにはブドウなどはいかがでしょう?」


「あ、そうだね! さすがシェイマス、着眼点がいいよ!」


「恐れ入ります」


「シモンはどっちが……また座りながら寝ているね……」


「才能でございますから」


「そうだね。じゃ、ブドウの皮を皮むき器魔法でペロンと剥いて、抽出魔法で種をとって、スライサー魔法でみじん切り、砂糖とブランデーを混ぜて置こう。さ、これでケーキを切って盛り付けたら、シフォンケーキの、完成です!」


「パチパチ」


「ん! 美味しそうなブドウの香り~」


「完成したとたんに起きるとか、ほんと、才能かもしれないね……」


「学園も、終了時間になると、起こさなくても目覚めますからね、シモン様は」


「ねえねえ、いつ食べるの~」


「夕ご飯の後がいいんじゃない?」


「そっか~」


「夕ご飯は何になさるおつもりなのですか?」


「うーん、何がいいかな……」


「焼き肉!」


「ステーキじゃなく?」


「うん、焼き肉がいい~ 前にね、マリア叔母上から聞いたんだ~ セルフィンに行く途中で、外で焼き肉したんだって~ とっても美味しかったって~」


「そういえば、そんな事もあったね~ 焼き肉はさ、煙がすごいから建物の中ではできないんだ。この世界は換気扇ないしさ。ま、換気扇があっても部屋の中で焼き肉はしたくは無いんだけどね。でも、この部屋を増築するときにイメージでマンションタイプのシステムキッチンみたいなのが出来たけど、レンジフードくらいついてても」




***




――ピロン レンジフード魔法が使えるようになりました。風が思いのままですが、維持には魔石が必要です




***




「あ、今頃……ま、僕が必要な状況じゃないと魔法が構築されないもんね、仕方ないか」


「焼き肉、ダメ~?」


「ダメじゃないけどさ、外で食べる方が美味しいから、中庭を増築しよう! だけど、別の日にしようよ。今日はシフォンケーキもあるし」


「うん、じゃ焼き肉は別な日にお願いね! ミチイル様」


「シモン様、我が儘ですよ」


「大丈夫だよ、シェイマス。僕も焼き肉とか七輪の料理、食べたいからね」


「じゃ、夕飯はどうするの~」


「そうだね……」


「さっぱり系ではどうでしょうか。魚ですとか」


「あ、そうだね! 魚はしばらく食べてない気がするから、鰹料理にしようかな」


「鰹ステーキ?」


「うーん、そうだ、手捏ね寿司にしようか」


「寿司~? 散らし寿司とか~?」


「うん、散らし寿司の生鰹バージョンかな。二人とも、鰹の刺身は大丈夫?」


「うん!」「美味しく頂けます」


「じゃ、手捏ね寿司にしよう!」




***




「さあ、夕食の時間だよ!」


「うわー! なんか豪華に見えるね、ミチイル様~」


「そうですね、華やかな食事でございます」


「うん、大皿に盛り付けたからね。昆布のお吸い物と、大根サラダ。大根サラダも鰹節ドレッシングだよ。さ、お供えして、いただきまーす」


「いただきまーす」


「このお寿司、とっても美味しい~!」


「そうですね、鰹の刺身よりも食べやすいです」


「うん、これはヅケって言ってね、鰹の刺身を味付けして置いたものだから、魚の臭みもね、調味料で減るんだよ」


「調理法によって、こうも味や食感が変わるとは、料理は奥が深いものでございますね」


「そうだね」


「味のついたご飯は、美味しいよね~」




***




「ミチイル様、このシフォンケーキは、大変に大きく膨らんだケーキでございますね」


「ほんとほんと~ こんなに高く膨らんだケーキなんて、初めてじゃない? ミチイル様」


「うん。新レシピだからね。でも、ショートケーキとかに使っている粉の分量と、あまり変わらないんだ。この膨らんでいる分、やわらかいんだよ」


「うわ~ フォークでケーキを切る時はとっても縮むのに、切れたら元に戻って膨らむよ!」


「本当でございますね、シモン様。一瞬ケーキがつぶれてしまうのに、また元に戻るとは……」


「ハハ シフォンケーキの特徴だからね」


「このブドウ? 色が薄い緑だけど、ブドウの美味しい部分だけだから、とっても贅沢かも~」


「本当でございますね、シモン様。ブドウの香りが濃縮されているようです」


「だよね。ブドウのコンフィチュールもレシピ公開してもいいかもね」



……



「んもう~……」


「シモン様!……」


「ハハ……」




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