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2-19 南部情勢

「本日は、お招きいただき、かたじけない事でゴザル」


「いらっしゃい。一番奥にある僕の部屋で食事にするから、ついてきてね」


「恐れ入りましてゴザル。しかし、この建物は見たことがない程、素晴らしい建物でゴザル……ランプも数えきれないほど付いてゴザルし、部屋もたくさんありそうな気配でゴザル。それに、このような色の木材は見たことも無いでゴザルし……」


「ハハ まあ、気にしないでくれる? それと、ここで見たことは色々内緒にしておいてね」


「かしこまりましてゴザル」


「さ、ここが僕の部屋なんだけど、どうぞ」


「失礼いたすでゴザル……これはまた、大層立派で広い居室でゴザル! 家具も、おそらく王宮でも使われていないような高級家具でゴザルな」


「学園内にあるパラダイスの寮?は、学園の建物と同じような感じ?」


「左様でゴザル。神聖国の建物のように、扉などは無いでゴザル。ランプですら、個人の持ち物でゴザルので」


「うわ~ 大変だよね~ 原始人生活も」


「シモン様! 失礼ですよ」


「ささ、足軽君はここに座ってね。シモンとシェイマスも適当に座って」


「はーい」


「私は、給仕を致します」


「うん、じゃ、運ぶのを手伝って。食べるのは一緒に食べよう」


「かしこまりました」




***




「さあさあ、今日はグラタンだよ。ジャガイモのニョッキの代わりに、幅広のパスタを切って作ったからね、味も結構違うんだ。そして、昆布スープとシーザーサラダね。大皿だから、このサーバースプーンで好きなだけ取って食べてね」


「ミチイル様、早く食べよう~」


「うん、じゃ、いただきまーす」


「ん~ んまい! 美味しいよ、ミチイル様~」


「このような料理は初めてでゴザル……とても濃厚で……これは牛乳を使っているのでゴザルのか」


「うん。ホワイトソースっていうんだけどね、牛乳とバターと小麦粉とスープで出来ているんだよ。それとチーズたっぷりね。これも牛乳から出来ているんだ」


「牛乳に、このような使い方があったとは、全く知らない事でゴザル……とても美味しゅうゴザル。このような料理があれば、南部の食生活も、もっと良くなると思うのでゴザルが……」


「そういえば、南部では作物は順調なの?」


「はい。ミチイル様が作物の種を南部へ分けてくださったと聞いているのでゴザル。本当にかたじけない事でゴザル。聞くところによれば、神聖国とは同じようには育たないらしいでゴザルが、それでも一年に最低一回、うまく行けば二回、作物が収穫可能でゴザルので、南部の民も、マッツァを食べる量を減らすことができるようになったでゴザル」


「それは良かったね。アブラナも順調なんだよね?」


「左様でゴザル。アブラナは手がかからない作物でゴザルから、空いている土地に植えれば、後は勝手に増えて育つでゴザル。種を集めて、神聖国へ納入させていただいているでゴザル」


「そう。作物は、何をメインに栽培しているの?」


「ジャガイモとトウモロコシにゴザル。後は麦もでゴザルが、麦は加工が大変なのでゴザルから、米の方が良いのでゴザルが、米は少々難しいのでゴザル。田んぼ、というのを作るのが大変だという話でゴザル。葉物野菜は普通に育つので、それは毎日食べられるでゴザル」


「そうだね、穀類は畑がね、大変かも知れない……ところで、調理はしているの?」


「はい。七輪を使うようになって、野菜の茎などを燃やして多少の調理はできるようになったのでゴザルが、茎を裁断して乾燥させる作業も、なかなか手がかかるのでゴザル。しかしながら、南部には木は生えておりませんでゴザルから、燃やせるものがあるだけ、ありがたい話でゴザル」


「そっか。南部では、おそらくは神聖国みたいな大きさで作物は育たないはずだから、茎とかも小枝に毛の生えたレベルかな。マッツァは変わりなく貰えてるの?」


「いいえ、紙幣を要求されるようになったでゴザルから、マッツァを買う量を減らしたのでゴザル。王家に言われるままに紙幣を払うと、せっかくの神聖国からの恵みが手に入らないでゴザルし、王国は南部に何もしておらぬでゴザルのに、なぜ南部の民は王国の言いなりにならなければならぬのか、と言う者もおるのでゴザル。結果としては、マッツァを食べる量を減らしたでゴザルよ」


「民は飢えたりしてない?」


「それは、ギリギリ大丈夫でゴザル。ミチイル様の作物がゴザルゆえ。重ね重ね、かたじけないでゴザル」


「そっか。神聖国ではマッツァは余っているはずだからね、神聖国へ運ぶ分を南部に回してもらおうか」


「そのようなお慈悲を頂けるならば、皆も飢えずに済むでゴザル。再び、かたじけないでゴザル」


「うん。本当は足軽グループに払う紙幣を増やしてもいいんだけどね、そうすると結局王家に紙幣が行くでしょ? それが気に入らないの。ごめんね」


「とんでもない事でゴザル。当家を始め、混血の民は、ミチイル様に感謝の祈りを捧げているのでゴザル。もちろん、女神様へも祈りを捧げているのではゴザルけれども」


「……もしかして、僕の……」


「口に出すのは憚られる事ながら、ミチイル様がかけがえのない特別な存在でいらっしゃる事は、南部の混血民は感じているのでゴザル」


「そっか。色々考えないとダメみたいね」


「ミチイル様~ このサラダはどうやって食べるの~?」


「あ、これはね、全部混ぜて食べるんだ。混ぜてから好きなだけ取って食べて」


「……このサラダもチーズが使われているでゴザルか……」


「うん、そうだね。今日はね、乳製品をたくさん使ってみたんだよ。南部では牛の放牧がメイン産業でしょ?」


「左様でゴザル。牛乳を飲むこともゴザルが、保存は難しいのでゴザル。それに王都の民は、こんなもの汚らわしいと言って、牛乳を飲まないのでゴザルよ」


「いくら知らないとはいえ、大好きなスイーツにバターも牛乳も使われているのにね」


「愚かな事でございますね、ミチイル様」


「ほんとだよね~ エデン人って、バカばっかり~」


「シモン様! スタイン男爵令息の前で!」


「構わないのでゴザル。私たち混血の民も、アルビノ人程では無いにしても、純粋なエデン人からは倦厭されておるのでゴザルから」


「そうなの? 王国民なのに」


「そうでゴザル。婚姻関係も、一筋縄では行かないのでゴザルよ」


「ああ、そういえば、なんか小さいころ、聞いたような……」


「…………」


「ミチイル様~ この粉チーズがたっぷり入ったサラダ、とっても美味しい~」


「ええ、あっさりとした野菜が、とても食べ応えが出ますね。以前、母が御馳走になったとか。男爵家では食事に出たことがございませんので、ようやく食せました」


「そういえば、ジョーンはいつも仕事をしているもんね……男爵家のご飯なんて作ってないよね……ごめんね、シェイマス。ジョーンが優秀だから、ついついジョーンに頼っちゃってさ」


「とんでも無い事でございます。母がミチイル様から直々にご指導を賜っている事は、セバス男爵家の誇りでございます。そのような意味で申し上げた訳ではございません! 大変失礼を致しました……母が良くミチイル様の事を自慢するもので……私は長らくミチイル様にお目通りも叶いませんでしたのに」


「うん、わかってるよ、ありがとう。しかし、ジョーンも、子供に自慢してもねえ、ま、ジョーンらしいけど」


「スタイン男爵令息~ 食事はもういいの~?」


「……はい、充分頂きました。なにか、胸がいっぱいになってしまいましてゴザル……南部には牛乳が捨てる程あると言うのに、何の料理にもする事ができず……」


「ああ、そうだよね……じゃあさ、南部でチーズを作ってもらおうか。室温で出来るしね。南部は王都よりは涼しいんだっけ?」


「はい。夜や朝晩の気温は同程度でゴザルが、日中の気温は王都より控えめにゴザル。南の端へ向かえば寒くなるでゴザルが、そちらの方では人が住んではいないのでゴザル」


「じゃあ、とっても都合がいいよ。ヨーグルトはね、室温の放置で出来るからね、それを布に乗せて水気を切って塩も足してまとめてね、風の当たるところで保管すればチーズになるからね、南部で牛乳を捨てているくらいなら、チーズを作ってくれたら、神聖国で買いあげるから。チーズは多少、不足気味だからね。後はバターかな。バターは作れる?」


「作ろうと思って作ることはしていないのでゴザルが……」


「ああ、自然に出来ちゃってる分があるんだね。それも量を作れるようなら、塩をしてもらって水分を同じように減らしたらね、室温でも保存ができるから、神聖国で買いあげるよ。入れ物とかも神聖国で融通するようにしよう。チーズ用の樽も、神聖国から運べば、乳酸菌が樽についているからね、牛乳を入れて混ぜておくだけでヨーグルトができると思う」


「なんと! 誠に、なんとお礼を申し上げたら良いでゴザルか……かたじけない事でゴザル」


「うん、いいよ。女神信仰をしている人たちは、できるだけ何とかしないとね。それが僕の仕事でもあるから」


「重ね重ね、かたじけない事でゴザル」


「それでさ、混血の人って、どのくらいいるものなの?」


「はい、南部には千人単位でそれなりに居るでゴザル。王都にも少数は居るのでゴザル。王都に居るのは、南部の混血と、パラダイスの侯爵家が一家ほど混血の民がいるでゴザルよ。学園にも、そこの子女が一人、今年入学しているはずでゴザル」


「あ、そうだったんだ……僕、あんまり学園に行ってないからね」


「確かに、混血の民と思われる学園生が、数人は確認できております」


「そっか。ま、そっちは縁があったら、だね。それじゃあさ、足軽君ちに連絡するのは、パラダイスのアルビノ商店街辺りでいいんだっけ?」


「左様にゴザル。あそこには、当家の者が常に向かっているのでゴザル。誰かに言づければ、父上にも伝わると思うのでゴザル」


「うん、じゃあ、僕の方で手配しておくね」


「ミチイル様~ ケーキは~?」


「あ、そうだったね。皆の食事が済んだのならケーキを食べようか」


「わーい! とってもキレイだね!」


「じゃ、好きなだけケーキサーバーで各自の皿に取って食べてね」


「ミチイル様、紅茶をお入れ致します」


「これは! これも乳製品なのでゴザル?」


「うん、そうだね。これがバターになる前のクリームを調理したものだね」


「とてもひんやりしているでゴザルが……」


「うん、それも、色々とあってね」


「かしこまりましたでゴザル」


「とりあえず、マッツァを融通するのと、チーズとバターを南部で作って、神聖国が買うってのを進めよう」


「よろしくお願い致しますでゴザル」




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