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2-16 学園入学

「ミチイル様、学園が見えて参りました」


「そんなに歩かなくてもいいんだね。15分くらいも歩いたかな」


「はい、それほど遠くはございません」


「でも面倒くさいよね~ コーチに乗れればいいのに~」


「シモン様、無理でございます」


「なんかさ、思っていたよりも小さい建物じゃないかな?」


「はい、ミチイル様が設立された、公都の平民学校の方が大きいかと思います」


「でも、あんなに大きい建物もいらないよね~ みんなダラダラしているだけだもん~」


「シモン様!」


「全校生徒で、どのくらいいるの?」


「はい、おそらく200人程度では無いかと思います。全員が一堂に集まる事はございませんので、確認もできません」


「あ、そうだったね。なんか、全てにおいてユルユルな世界だよね」


「ユルユルなのはいいけどさ~ 通うのだけでも面倒くさいもん」


「シモン様!」


「じゃ、取り敢えず、職員室? 案内してくれる? シェイマス」


「かしこまりました」




***




「キミがミチイル・ケルビーンかね?」


「はい。今日から入学します」


「よろしい」


「では、失礼致します。さ、ミチイル様、シモン様、参りましょう」




***




「……これで終わり?」


「はい、ミチイル様」


「じゃ~ ミチイル様、教室に行こう~」


「教室なんてあるの?」


「はい、ございます。と言いましても、ただの大きな部屋ですが」


「うん、原始的な部屋~ ドアも扉窓もないしね~」


「そうみたいだね、建物は木造だけど」


「はい、エデンでは木をふんだんに使えば使うほど、高級という所ですので」


「ふーん」


「ミチイル様~ 着いたよ!」


「さあ、ミチイル様、部屋の後ろの方へお願いします」


「うん。椅子が並んでいるだけの空間だね……なんかさ、アルビノ人は後ろの方なんだ?」


「はい。暗黙の了解でそうなっていますし、前の方に座っても、より気分を害すだけでございますので」


「うん、ほんとにね~ とっても面倒くさいんだ~」


「……割と結構な人がいるんだね。もっと少ないのかと思ってたけど」


「はい。といっても、学園の生徒全員が一つの勉強を致しますので、平民学校のような時間割など、ございません」


「あ、そうなのか。これで全員と思えば、確かに少ないね。50人くらいしかいないもん」


「そうなの~ みんな学園に毎日は来ないもんね~ いいな~ 僕もさぼっちゃおうかな~」


「ミチイル様、シモン様、授業が始まりますので、ぼーっとしながら前の方をご覧になっていてください」


「ぼーっと?」


「はい。真剣に聞くような内容ではございませんので」




***




「それでは、今日の授業を始める! エデンは恵まれた土地であり、古代の神から祝福された園である! そして褐色で黒髪黒目のエデン人は、古代の神から祝福され、偉大なるエデン人となった! 劣った人種であるアルビノ人は、神の祝福が剥がされ、神の呪いを受けた! 肌の色も白く、髪も目も薄い色なのが証拠である! アルビノ人は古代神がエデン人に与えた使用人である! 古代神はアルビノ人を呪った後、偉大なるエデン人に園を任せ、この世界から去ったのだ! よって現在は神など居ない! エデン人は神に代わっての統治者である! エデン人は……」


「ねえ、シェイマス、これをずっと聞いているのが授業なの?」


「はい、ミチイル様」


「ほんと、気分悪くなるし、つまんないよね~」


「しかも、毎日同じ内容でございます」


「よくもまあ……条約でアルビノ人を差別するのは禁止されたはずだけど」


「これは歴史の授業であって、事実を教えている、と言っているようでございます」


「はあ。ほんと、意味がない学校だね」




***




「それでは、今日の授業を始めます」


「あれ、シェイマス、教室も移動していないのに、なんか違う授業が始まっちゃったけど」


「はい、授業は一年も二年も全員同じ授業を受けますので、教室も同じのままでございます」


「逆に言えば、全校生徒200人のうち、学園に今日来ているのは、この50人くらいで全部なんだね?」


「左様でございます」


「さぼっている人の方が多いのか。まあ、あの内容じゃね……」


「今日は、一桁の数字を引いてみます。足すのと違い、とても難しいですから、心して学ぶように。いいですか? 返事をなさいませ!」


「……シェイマス」


「はい、左様でございます」


「僕、まだ何も言ってないけど」


「憚りながら、お顔に書いてございますので」


「そっか。そうだよね。言いたい事なんて、決まってるもんね。それにしても、よくもまあ、毎日こんな学園に来れるよね……シモンとかも、ぽやっとしているけど、やっぱり跡取りなだけあって、ちゃんとしている所はちゃんとしてるんだね」


「……ミチイル様」


「ん?」


「お隣をご覧くださいませ」


「……なんか会話に入ってこないと思ったら、思いっきり寝てるね。しかも、まるで話を聞いているかの様だけど」


「シモン様の才能でございましょう」




***




「それでは授業開始! 今日は、偉大なるエデン、という文字だ! いいか、これはエデン人には必須の文字なのだ! 石板をしっかり見て記憶しろ! いいか、よく見ろ! 良く見ろ! 見て覚えろ! 見たか! 見たな! いいや、まだだ! もう一度見ろ! いや、まだ…………」


「シェイマス」


「はい。無意味で無駄でございます」


「結局、見ろ、としか言ってないよね」


「はい。神聖国と違って、紙も鉛筆もございませんので、書いて覚える、と言う事ができませんから、見るしか無いのでしょう」


「はあ。初日にして通う気が失せたよ。母上の言った通りだった」


「はい。時間の浪費かと存じます」




***




「あ~ やっと終わったね~ 疲れた~」


「寝てただけじゃん、シモン」


「そんなことないよ~ ちゃんと座ってたもんね~」


「さようでございますねしもんさま」


「ふう。明日も来ようって気が失せたよ」


「そうだよね~ さぼっちゃう? ミチイル様~」


「…………ミチイル様の、仰せとあらば、この不肖シェイマスも……」


「……ま、取り敢えず、寮に戻ろうか」


「おい! そこのアルビノ!」


「なんか、歩いて帰るのだるいよね、シモンじゃないけどさ」


「でしょ~」


「おい! 聞いているのか! 色も無い髪の最高に呪われたおぞましいアルビノ!」


「ミチイル様、羽虫がうるさいですが、お気になさいませんように」


「え? 僕?」


「そうだ! お前しかいないだろうが! お前、なんだ! その服は! そのような服、見たことも無いぞ! 今すぐ脱いで、その服を差し出せ!」


「シェイマス、この人、誰?」


「はい、シンエデン王国の王子、だったかと思いますが、覚えるまでもございません」


「きさま! 偉大なるエデン人に向かって! 誰のおかげで生きていられると思っている! 誰がマッツァを恵んでやってると思ってるんだ! 早く服をよこせ!」


「ああ、誰のおかげって、女神様のおかげで生きているね。ありがたや~ありがたや」


「なんだと! 王国あってこそのアルビノだろうが! 王国が恵んでやらなかったら飢えて死ぬだけのアルビノ人の分際で! お前はどこのアルビノ人だ! お前の所にマッツァはやらんぞ!」


「そもそも、シンエデンからマッツァは買ってないんだけど? そんな事も知らないで王子とか……馬鹿なの?」


「ちょっとあんた! シンエデン王子に向かって、なんて口の利き方なのよ! 恥を知りなさいよ! これだから呪われたアルビノ人は! 教養もマナーもまるでダメね! さっさと王子様のいう通りにしなさい!」


「シェイマス、あの縦ロールは誰?」


「縦ロールとは何でございましょう、ミチイル様」


「ほんとだよね、縦ロールとかさ、一体どうなってんの? ろくな文化も無いんだから、地毛だよね? もしかしてまさかパーマとかあるの?」




***



――もちろん、あの女神(くそ)の仕業である。「バカな王女は縦ロールなのよ! これは定番なの!」などと言って、王家の血脈に遺伝子操作をした結果、時折、王家に縦ロールが生まれているのである




***




「ちょっと、あんたたち! 聞いているの? 無礼を働いたんだから、地べたに伏して許しを請いなさいよ!」


「で、結局、誰?」


「このあたしの事を知らないなんて! いい? あたしはね、この偉大なる中央エデン王国の王孫なのよ! 頭が高いわ! ひれ伏しなさい!」


「おい! お前! いいから服を差し出せ!」


「まあシンエデン王子様! あの服を王子様がお召しになったら、さぞかし素敵でございましょうね! ほらあんた! 早く脱ぎなさいよ!」


「……カオス」


「ミチイル様、このような輩など、お耳お目汚しでございます。お戻りになりませんと」


「早くよこせ!」


「ひれ伏しなさい!」


「僭越ながら申しあげるでゴザル。王子様、王女様。このような公衆の面前で、そのようになされていては、王家の威信にかかわる事と存ずるでゴザル。ここは一度、日を改めるのが得策かと申し上げるでゴザル」


「……お前! 明日までに新しい服を献上せよ! よいな!」


「あんたたち! 覚えておきなさい! 中央エデン王家の名にかけて、絶対にこのままじゃ済まさないわよ! おばあ様に言いつけてやるんだから!」




***




「ミチイル様、失礼をしたでゴザル。改めて、お初にお目にかかります、私はパラダイス王国のスタイン男爵家、次期当主の、ホル・スタイン21世でゴザル。宜しくお見知りおきの程を」


「ほるすたいん……あー! もしかして、ホルスタイン? ああ、そうだよ! 小さい頃に聞いてた名前だよね! スタイン男爵家って、ホルスタインの家だったんだ!」


「はい。父を始め、家中でお世話になっておりましてゴザル。ミチイル様が学園にお越しとの報を聞きまして、是非、ご挨拶をと思っておりましてゴザル」


「ああ、ありがとう。ミチイル・ケルビーンです。よろしく。足軽さんだよね?」


「左様でゴザル」


「ああ、足軽さんっぽいね、本当に!」


「 ? 」


「ああ、いや、こっちの話。さっきはありがとう。どうしようかと思ってたんだ」


「ミチイル様は、どうもせずとも宜しいのではないかと思いましてゴザル。神聖国は世界で一番力を持っている国でゴザルので。もはやエデンの王家など、路傍の石も同然。お気になさいませんようにゴザル」


「恐れ入ります、ホル・スタイン様。お礼は改めて、後日に申し上げます。本日は、これにて失礼させていただきます。さ、ミチイル様、シモン様、寮へ参りましょう




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