2-13 エデン中央学園
アルビノ商店街に作った、レストランの営業を開始したよ。
食事は、定食タイプ。ご飯とメイン料理と汁ものとサラダとかの野菜ものに漬物とか。これで一食金札10枚の10万円。ま、別に客が来なくてもいいしね、混み合うのは嫌だし、富裕層、がいるかどうかはわからないけど、少人数が来ればいいと思う。
そして、中央エデンのアルビノ村も無事に稼働を開始した。ま、無事も何も、今まで屋台やキッチンカーで商売していたしね、パラダイスでの実績もあるし、何も問題は無い。
それに、エデン人の平民の従業員も増やした。アルビノ村で働くのに忌避感がある人もいるからね、エデン人が殺到した訳じゃないけど、営業に困らないレベルでエデン人の従業員が増えたよ。女の人も働きやすいしね、掃除とか給仕とか調理とかね。
そうそう、寮の管理人もね、セルフィン公爵家の分家の人が行ったみたいよ。もともとアルビノ村は各大公家の人員が管理していたからね、エデンに戻った形になっちゃうけど、前と違って快適に暮らせると思うしね、我慢して欲しい。
そして、エデンに石鹸は出したくないからね、でも、寮での洗濯とかもあるから、重曹を洗濯用に売り出す事にした。神の泉シリーズ洗濯用だってさ。これはマヨネーズボトル入り100gで金札1枚。ぼったくり価格だけどさ、気に入らないなら最近エデンでも燃料を使いだしたからね、その灰でも水に溶かして使えばいいと思うよ。
さて、サロンに行こうかな。
***
「母上、お待たせ~」
「あら、今日のお菓子は何かしら」
「うん、ホットケーキだよ」
「何か、マッツァナンを彷彿とさせる感じね」
「うん、確かに似ているけどね、もっと美味しいと思うよ。ちょっと待ってね、仕上げるから。母上は紅茶を用意しておいて~」
「わかったわ」
「さて、大きな白い皿にホットケーキを2枚でいいかな。そしてイチゴとリンゴのコンフィチュールをたらりとかけて、八分立ての生クリームも添えて、バターでしょ、そしてメイプルシロップもどきもセットしたら、ホットケーキの、完成です!」
「んまあ! これは見た目も豪華だし、イチゴの色もきれいね! ナイフとフォークで食べるのかしら。温かいケーキなんて、初めてよね」
「うん、ホットケーキだからね。一応、トッピングは乗せたけど、全部別に添えてね、個人のお好みで乗せたりつけたりして食べてもいいんだよ」
「では、いただきましょう」
「いただきまーす」
「キコキコ……パクっ……んまあ! 温かいけれど、コンフィチュールと良く合うわ! 生クリームもとろけているし」
「うん。バターだけつけてもシンプルで美味しいよ」
「んまあ! バターとシロップだけの部分も、とても美味しいわね!」
「うん。ホットケーキは簡単に作れるからね、コンフィチュールも作り置きしているのを使えるし、バターもシロップも既にあるでしょ? 生クリームは無くても食べられるしね、ホットケーキだけ焼けば、直ぐにこういうおもてなしスイーツになるから便利だよ」
「これは、早速、貴女会ね!」
「ハハ それでさ、母上」
「あら、なあに?」
「うん。学園ってさ、どんな勉強をするの?」
「ええ、そうね。ろくな勉強なんてしないわよ。神聖国の平民学校の方が勉強しているわね。学園は勉強をしにいくところではないもの」
「え? そうなの?」
「ええ。学園の最大の目的はね、婚活よ」
「こんかつ」
「ええ。貴族の子女ばかり集めているでしょう? そこで結婚相手を探すのが一番の目的なのよ」
「ああ、ありがちっちゃあ、ありがち」
「でも、わたしたちアルビノ人には関係ないわね」
「まあ、エデン人の婚姻相手にはならないもんね」
「ええ、そうよ。だから行く意味なんてほとんどないのよ。まあ、お姉様は学園でセルフィンの公子と知り合って結婚したけれど」
「伯母上が? なんか意外な感じ」
「ええ、あのお姉様と知己でありながら婚姻するなんて、セルフィン公爵もなかなかよね」
「そうだよね、見る目があるよね、伯母上はとても優秀だし」
「え、ええ、優秀なのには違いないけれど……」
「 ? 何かあるの?」
「いえ、別に何もないわよ。だから学園は婚活の場ね」
「ふーん、授業とかは無いの?」
「授業と言えば、ミチイルの平民学校の感じよね? そんなのではないわね。口を開けば腹の立つ事しか言わないジジイとかが、偉そうに昔話なんかをするだけよ」
「なんか、聞いているだけで退屈そう」
「ええ。後は、簡単な計算かしら。文字の勉強もしたかしら。後は言葉遣いとかのマナーとか、そんな感じかしらね」
「へえ。テストとかあったりするの?」
「テスト? テストテスト……ああ、試験みたいなものね。そんなものは無いわ。そもそも入学も卒業も、なんの試験もないもの」
「ええ……学校じゃないじゃん、それ」
「ええ。だから意味なんてないのよ。ただ、貴族の学園で誰かの記憶に残っていないとね、貴族として婚姻ができないの。学園は顔を知ってもらう、名前を知ってもらう、そういう意味しか無いわね」
「ああ、記録とかもろくろく無い世界だから、誰かに覚えてもらわないと、身分の証明とかも、し難い世界なのか……」
「まあ、そうね。それに、学園に行くのも午後からですもの。午前中はダラダラしていて、日が高くなってから学園に行くのよ。それにエデンの王国は暑いのよ。特に夕方は暑くて頭がぼーっとするのよ」
「ああ、アルビノ村には朝とかしか行ってなかったからね、知らなかった。昼は暑いのか」
「そうね。神聖国よりも気温が高いわ。その代わり、夜も寒くはないから暖房とかは要らないのよ」
「そういえば、寮を建てたけど暖炉が無かったね」
「ええ、そうね。ミチイルは知っていてそういう構造にしたのだと思っていたのだけれど」
「ううん、全然。スキルが自動で調整してくれていたんだろうね」
「まあ、いつもながら、ミチイルの奇跡はとても便利よねえ」
「うん、それでさ、入学試験も卒業試験もないって話だけどさ、入学は時期が決まっているの? 卒業もだけどさ」
「いいえ。15歳になったら学園に行って、どこそこの誰ですけど入学しますね、みたいに報告するだけよ。卒業も同じね。17歳になったので、さようなら、みたいな感じかしらね」
「じゃあ、いつの間にか人が来て、知らないうちに居なくなるんだ」
「まあ、そうね。そもそも生まれた日も、ちゃんとは分からないもの。エデン人の貴族にとっては重要な学園だけれど、アルビノ人にとっては、本当に意味が無いわね」
「この世界って15歳で成人でしょ? それまでは貴族の子供は何をしているの?」
「何もしてないわよ。まあ、エデンの王国では、もしかしたら社交めいた事はしているかも知れないけれど。いずれにしても、成人して学園に入って、初めて認識される感じね。それまでは、どこの貴族にどんな子がいるのか、全然わからないのよ」
「ということは、僕の存在もエデンにはわかってないのか……」
「ええ、そうでしょうね。ミチイルは神聖国では誰もが知っているけれど、エデンにはバレない様に気をつけて来たもの。多分、エデンの貴族はミチイルの事は知らないと思うわ」
「逆を言えば、学園で皆に認識してもらわないと、後から僕が、大公家の子供です、って言っても、誰も信じてくれない可能性もあるんだね」
「まあ、そういえばそうかも知れないけれど、些細な事よ、そんな事。ミチイルに危険が無い事が一番重要なのだもの」
「うん、ありがと。でもさ、僕がこの先、世界に出て行くような時が来たら、いきなり自称貴族みたいな感じになってさ、胡散臭さが倍増じゃない?」
「……ええ、まあ、そうとも言えるかも知れないけれど……」
「じゃあさ、やっぱり僕、学園に行くよ」
「ミチイル! 危険じゃないかしら!」
「うーん、危険かどうかで言えば、そんなに危険じゃ無いんじゃないかな。アルビノ人以外は、僕が救い主である事は知らない訳でしょ? ちょっと見た目が目立つけどさ、どうせ呪われているだの何だの言われるだけじゃない?」
「……まあ、そうかも知れないわね」
「うん。だからさ、僕が救い主である事はね、もちろん秘密のままなんだけどさ、ケルビーン大公家の子供である事は、知って貰っておいた方がいいかな、と思うんだ」
「…………」
「ずっと通い続けるかどうかはわからないけどさ、とりあえず、誰かの記憶に残さないとダメじゃない? そのための学園なんだしさ、エデンでは記録も無い訳でしょ、だから、エデン貴族の記憶の片隅に残るようにしないと。僕もさ、面倒くさいから、2年間も通いたくないからね、適当に学園に行って、適当にプラプラして置こうかなと思うんだよね」
「…………」
「寮も作ったしさ、生活は何も問題ないでしょ? 帰ってこようと思えば、コーチで一日で戻って来れるしね」
「…………」
「あ、そうだ、いつでも戻って来れるようにさ、僕のコーチと御者は寮に常駐してもらおうよ。そうしたら、直ぐに帰って来れるしさ」
「…………」
「……僕ね、誰にも言ってないんだけどね、本当は戦おうと思えば戦えるんだ」
「……どういうことかしら?」
「うん、母上だから話すけど、絶対に内緒にしておいてくれる?」
「それはもちろんよ。ミチイルがそう言うなら、死んでも誰にも話さないわ」
「うん。僕さ、魔法が色々使えるでしょ? 魔法はさ、食文化を発展させるものばかりなんだけどさ、食に関係ない事でも使えるじゃない?」
「ええ、そうね。建物建てたり、色々仕舞ったり出したりもできるものね」
「うん。例えばね、神聖国中で使われている漬物石魔法ね、あれってさ、石を好きな形にできて、好きな場所に出せるじゃない? それをさ、例えば大きな大きな石にしてね、出す場所を、敵の真上にしてさ、それを落としたら……」
「 ! 敵が死ぬわね!」
「うん。本当は危険な魔法なんだ。神聖国ではね、誰もそんな使い方はしていないしさ、もしかしたら考えたことも無いのかも知れないんだけど」
「それはそうでしょうね。この国では、ミチイルが言ったことは、みんな忠実に守っているもの」
「ハハ そうだよね、今はもっと便利になったのに、昔に僕が言ったことが昔のまま、今も同じ作り方だったりしてるもんね」
「ええ。だから、漬物石も人に危害を加えるもの、だなんて、誰も考えたことも無いのではないかしらね」
「うん、そうかもね。今の例は極端だけどさ、殺さないまでもね、同じように大きい石をさ、敵のつま先に落としたらさ、死にはしないけど大怪我じゃない? その間に僕は逃げられるからね」
「そうね。そう考えると、ミチイルが誰かに危害を加えられる可能性は低いわね……わかったわ。本当は嫌だけれど、ミチイルが学園に行く事を認めるわ。そもそも、ミチイルのやる事を妨げるな、って天使様に言われているものね」
「うん、それはそれだけど、僕は母上に我慢させるんじゃなくてね、ちゃんと納得して欲しいからね」
「まあ! わたしのミチイルは、本当にやさしくて可愛い子ね!」
「ハハ」
「それに、シモンとシェイマスも、もうそろそろ学園に向かうはずよ」
「あ、そうか。僕と同い年だったもんね。僕より少し前に生まれたんだっけ」
「ええ、そうよ。ミチイルよりも一期くらい年上だから、二人とも一緒に学園に行くのではないかしら」
「誰か、お付きが付いていくの?」
「ええ、平民の使用人か、準男爵家で子育てが終わった感じの女性が行くのではないかしらね。そうでなければセルフィンから手配させるかも知れないわ。従業員寮もあるのだし、以前よりも自由度が高いものね」
「そっか。僕も一緒の方がいいかな、それとも僕は僕で別の方かいいかな?」
「別にどちらでも構わないけれど、ミチイルが行くならシェイマスに向こうで下準備をさせて置いたらどうかしら。いきなり行くよりかは、少しでも状況を分かっている人が居る方が、思わぬ事もにも、なりにくいでしょう?」
「うん、そうだね。じゃ、そうするよ」
「わかったわ。お兄様にも話しておくから、ミチイルも準備しておいてちょうだいね」
「はーい」