2-10 解放とは
なんかね、足軽男爵から、伯父上に助力のお願いがあったらしい。
足軽さん、もとい、スタイン男爵家を始めとした王国南部のいくつかの男爵家は、アルビノ人との混血なんだよね。だからアルビノ人に対して差別感情もないしね、便利に使っている、じゃなかった、良く働いてもらっているから特別に優遇しているでしょ。人件費の他にも金札とか渡しているからね。今じゃ、足軽じゃなかったスタイン男爵家は結構な収入があるんだよね。
パラダイス王家には劣るけどさ、おそらく王国の公爵家よりも収入が多いんじゃないかと思うんだよね。傘下の男爵家とか、下級貴族?なんかも居るらしいしね、パラダイスを始め、今じゃ中央エデンでも仕事してもらっているからね、足軽グループとしては、一大勢力みたい。
でね、エデンの南部が領地、っていうのが正しいのかどうかはわかんないんだけど、エデン南部の土地で放牧しながら牛を使って運送関係の仕事と、少量の皮製品なんかを作っているみたい。南部には平民も結構住んでいるらしいよ。その平民にも混血がいるという話なんだよね。乳製品というか、牛乳は王都の人たちは飲まないから、乳製品を売ったりはしてないみたいね。せいぜい自分たちで消費する程度みたい。ま、バターくらいなら自然にできるだろうけど、冷蔵庫とかも無いしね、チーズなんかも作れはしないんだと思うけど。
何の話だっけ……そうそう、そのエデン南部っていうのはさ、北部よりは温暖らしいんだけど、木も生えてなくてなだらかな丘みたいな感じで、作物も無いし、草ばかりの土地みたい。川も無くてね、沼?みたいな湖があって、それで水を得ているらしいの。
だからね、南部の人たちも当然、王都からマッツァを運んできて食べて生きているんだけど、王国民は、マッツァは王家から下げ渡されるシステムだからね、働かなくても貰えるからさ、エデン人はダラダラと息だけして出すもの出して無駄に生きている人が多いって話なの。それでね、男爵家とかは牛で運送の仕事があるでしょ? 以前はアルビノ人担当として、王都と北部公国との間の物流を全部、南部貴族がやっていたみたいなんだよね。でもさ、それって今は無くなったでしょ?
足軽グループは、神聖国の手先として働いてるからね、そして神聖国から給料をもらっているでしょ、しかも、結構たくさん収入があるらしいと噂が広まってね、パラダイス王家とか中央エデン王家とかが、マッツァの対価を要求してくるようになったんだって。
神聖国では、家畜の飼料として使っているから、事実上、エデンの王国から紙幣を対価にマッツァを買っているんだけどさ、超高額で。それをパラダイス王国は足軽さんちにも紙幣を要求し出した訳だよね。どこまで強欲なんだかね……
自分たちの優位性が、というか権力が、マッツァによって維持されていたことを解ってないんだろうね。紙幣を下げ渡すどころか、逆に要求するなんてさ、足軽さん達にはデメリットしかないんだし、パラダイスに捧げていた忠誠とかもさ、消え失せるでしょ。
ま、王国が愚かなのは今に始まった事ではないらしいし、別にいいんだけどね。でも、足軽さん達に渡す紙幣を増やしてもさ、結局パラダイスとかの王家に渡るのは癪なんだよね。
だからさ、王国南部というか、足軽グループに種をあげる事にしたよ。
その種でさ、作物育ててさ、王国から仕入れる事になるマッツァを減らしてもらおうと思う。
僕は行ったことが無いから良く分からないんだけどさ、確か大陸の南の方では魔力が無いんだったよね?
『はい、救い主様。仰せの通りでございます』
「ああ、アイちゃん。この大陸、この世界?の魔力は魔力山から吹き出ていて、南へ流れて行って、森林地帯辺りからは土地にただよう魔力はゼロになるんだったよね?」
『はい。おおよそ、その通りにございます』
「じゃあさ、いま神聖国で栽培している作物の種ね、これを南部に持って行って植えても、ここみたいに速く育たないよね?」
『確かめられませんが、原理から言えば、そうなると存じます』
「そうだよね、魔力も使って育っているんだもんね、ここの作物、っていうか、僕が品種改良した作物は……」
『ですが、まったく育たないという事は無いと思料致します』
「どういう事?」
『はい。魔力は無くとも、普通の作物として普通の期間で育つのではないでしょうか』
「肥料とか無くても?」
『はい。そもそも肥料はこの星には存在しておりませんので』
「ああ、忘れているけど、そうだった。肥料にしてくれる有用な菌が居ないんだったね」
『はい。ですので作物が育つのに温度と水さえあれば問題はございません。多少の魔力を必要としても、地にただよう魔力は無くとも、地中深くには魔力がございますので』
「そうだったそうだった。エデンの園の命の木とか果樹とかも、地中深い所の魔力を吸い上げて育っているんだったもんね。他の作物も、似たようなものか」
『はい。救い主様が品種改良なされた作物は、エデンの木ほど魔力も必要とはしないでしょう』
「うん、わかった。アイちゃん、ありがと」
『救い主様の、御心のままに』
「じゃ、作物の種を適当にあげちゃおう。年に一回とか二回くらいは収穫できるだろうし、自分たちが食べる分くらいは多少は賄えるでしょ、たぶん。少しでもマッツァを減らせればいいんだしね~」
***
「そうだ、ランプを作ろうと思ってたんだった。行燈じゃ、ちょっと不便だしね~ 電球はエデンには出したくないし。魔石使うからね。さて、取り敢えず金属、ま、余っているし銅でいいか。銅で入れ物……銅の缶を作って~ 取り外しができる銅のフタに穴をあけて、リネンの芯を少し出して使うようにすればいいっか~ はい、ピカっとね。うん、これでいいかな。オイルを補充する時には芯の付いたフタごと取り外してオイルを入れればいいしね。これだけで行燈と同じに使えるけど、超高級ラインナップとして、ガラスの火屋も作ろう。これはガラスを筒にするだけだから、簡単簡単~ さ、これを上に乗せるようにすれば、オイルランプの、完成です!」
「あら、ミチイル、何か作っていたのかしら」
「うん、母上。エデンに輸出するランプをね」
「ランプ……とは、行灯とか燭台みたいなものね。でもこれは、かなりちゃんとした道具のようだけれど」
「うん。火がむき出しになっていると危ないからね。ガラスの覆いを付けたの。これをエデンで売りに出す。そうだね……ガラス無しタイプで金札100枚、ガラス付きで金札200枚、ランプオイルは一瓶200mlくらいで金札1枚かな~」
「なかなかのぼったくり価格ね! とってもステキよ!」
「ハハ ガラスはさ、元は魔石だからね~ 神聖国でもふんだんには使ってないでしょ、ガラス。まだガラス窓すら作ってないんだからさ。だからランプのガラスは高級でしょ~ 下のランプ本体は作ろうと思えばエデンでも作れるかも知れないけどさ~」
「あら、銅とか金属を溶かしたり板に加工したりするのは無理じゃないかしらね、魔法は使えないんだもの、エデン人は」
「そういえばそうか~ 魔法があるから色々できるんだもんね」
「ええ。もっと高額にしてもいいわよ」
「うん。でもさ、王家とかはいいとしても高額過ぎると全然普及しないでしょ。ま、平民じゃガラス無しタイプでもかなり大変だろうけど。給料の四か月分だからね。でも、三種の神器ってそんなもんだろうし」
「また良くわからない事を言って……でも、別に普及などしなくてもよいのではないかしら。あいつらは真っ暗で生きて行けばいいのよ」
「うん、それはそうなんだけどさ、アルビノ村で商業活動が活発でしょ? 営業時間は明るいうちだけでもいいけどさ、明かりが無いと神聖国民も大変じゃない。片付けとかもさ、明かりがあれば作業しやすいだろうし、アルビノ商店街とか村とかはさ、明かりをふんだんに使ってほしいの。でも、電球は魔石の問題もあるし、エデンにはまだ出したくないんだよね。だから、ランプをエデンに持っていくために、エデンで売りに出すの」
「でも、最近は行燈油も製造していないでしょう? アブラナから高品質な油を直に抽出するようになって、質の悪い行燈油は作られなくなったもの」
「うん。油の消費が多くなるからさ、アブラナも増やさないといけないんだけど、そこは、足軽グループに頑張ってもらいまーす」
「南部貴族に作物の種を渡してあげたものね。もう色々育っているらしいけれど」
「うん、そうだって話だね。ここみたいに大きくも育たないらしいけど……向こうじゃ魔法は使えないし、そもそも混血人に魔法は解禁していないしね、畑をつくるのも収穫するのも全部、人力だから大変だろうけどさ、アブラナはもともと雑草だったし、品種改良もしているからね、たぶん畑じゃなくても地面に種まきをすれば、何もしなくても育つはずなの。南部は北部よりも温暖だって話だしさ、アブラナはたくさん収穫できるんじゃないかと思うんだ。だから、アブラナの種をね、安い値段で神聖国で買ってあげるの」
「あらあら、ブラックミチイルね! 足軽からも搾取するなんて」
「いやいや、搾取じゃないよ。そもそも作物の種だって、無償であげる訳にもいかないでしょ。種の代金を回収する感じでアブラナの種を納入してもらうの。それを神聖国で行燈油にして、それをエデンに売る。そうすると、足軽さんにあげた種の代金を回収できるでしょ?」
「そうね、先にものを渡して、後から少しずつ長い期間に渡って巻き上げるのね。長い間、儲かるって事よね!」
「人聞きが悪いんだけど……なんか、母上、商売に目覚めちゃったりした?」
「あら、商売というよりは、お金を集めれば集めただけ、後で国や民を救う事になるじゃない。今までだって、全部、お金の力でここまで来たでしょ?」
「うん。僕、武力で色々するのは嫌な感じだからね。これは、経済戦争っていう感じかも知れないね。いや、戦争というよりも、解放だもん。何百年も虐げられてきたアルビノ人を、エデンのくびきから解放するの」
「まあ! 何かとってもステキに聞こえるわ! エデンからの解放ね! お金をたくさん印刷して、それをエデンにバラまいて、そしてそれをいっぱい使わせて、お金をエデンからもっと集めて、そしてそれをさらにバラまいて……さらにお金が集まって!」
「そうそう。お金って、流通させるものだからね。ま、価値を作り出しているのは神聖国民だからね、多く働いているのも神聖国民なんだけど」
「昔の奴隷生活に比べたら、全然大丈夫じゃないかしら。なんと言っても、魔法があるのだもの。魔法が使えるだけで、何十人分もの仕事が、さっさと終わるのよ!」
「うん、そうだよね~ 機械文明ではないけど、機械の代わりに魔法があって、それで大量に作業ができるんだもんね。もう産業革命初期と変わらないかも」
「よくわからないけれど、とにかくエデンに少しでも多く、お金を使わせればいいのよ! それですべて解決ね!」
「ハハ ま、そうとも言えるかも~」
「そうよ! わたしも頑張るわ! 服でエデンからガッポガッポ紙幣を巻き上げてやるんだから!」
「ハハ 頑張ってね~」