2-7 新生の一人旅
この前は、なんだか母上のペースに巻き込まれちゃって、肝心の話ができなかったよ。
それで、改めて話をして、パラダイスのアルビノ村と、中央エデンのアルビノ村へ行くことにした。王国での商売が増えたからね、拠点が必要だから。建物は職人が頑張るとしても、石畳道路とか井戸とかはね、僕じゃないと。
僕も成人間近だからね、今回は一人旅~
いや、本当は母上もついてこようとしてたんだけど、母上、いま服職業に燃えているからね、ついてこなくてもいいよ、って事になったの。そしたら、せめてシェイマスだけでもって話も出たけどさ、平民学校あるじゃん。他の先生達だけでも大丈夫らしいけどさ、まだ始まって一年も経ってないんだから、学校を見てて欲しいからね、僕一人で行くことにしたの。
僕一人って言っても、御者の人はもちろんいるしね、完全な独りじゃないし、セルフィンはもう同じ国だからさ、移動の制限もないでしょ。アルビノ村が心配だけど、パラダイスは問題なさそう。取り敢えず、南村とパラダイスのアルビノ村へ行こうと思う。
ついでに、石材と木材も大量にアイテムボックスに収納して、バンガローもいくつか作っておいた。何が必要になるか、わかんないからね。もちろん、いつものように食材とか料理とかも色々入れてるよ。これはあんまり使うことも無いから、ずっと埃をかぶってるけどね。いや、本当はかぶってないけど。
いや~しかし、コーチの乗り心地がとってもいいね~
石畳は平らに作ってあるしね、コンクリート舗装と遜色ないからガタガタもしないし、岡持ち魔法でガットがショックを吸収しているからさ、自動車に乗ってるのと同じような感じ。ま、それはちょっと大げさかな、それでも全然揺れないし、何より速いの。時速20kmどころか、下手したら時速30km近くでてるんじゃないかな。ママチャリの猛スピードみたいな感じだもん、体感的に。
今日は週休日だから、南村方面への南北街道には人も居ないしね……っていうか、いつの間にか歩道みたいなのが分かれてるんだね。まあ、これだけ牛運送のスピードがあったら、人が同じ道路を歩けないか。でも、乗り合いコーチが運行されているから、人なんてそんなに歩かないとは思うけど……ま、みんな色々考えて動いてくれているから、好きにしてもらおう。
そんな事を考えながら、ぽやっとしていたら南村に着いたよ。別邸からも一時間と少しくらいかな。
ほとんど誰も居ないけど、大規模調理センターも井戸も問題ないみたい。
さ、御者さん、このままアルビノ村へ向かってくださいな。
***
あ、この辺りは昔、交換所があったところかな……今は何もないけど。僕が適当に敷いた道路も水道管も、全然問題ないみたいね?
『はい、救い主様』
「アイちゃん、この辺りはさあ、僕が実際に目で見て道路とかを敷いたんじゃないでしょ? でもちゃんと道路になっているんだね」
『もちろんでございます。ですが、救い主様は以前も同じことを何度もなさっているのではないでしょうか』
「ん、そうだっけ」
『はい。一番最初にブラインドで工事をなさったのは、初めてセルフィンへ行かれる時でございます』
「あ、そういえばそうじゃんね~ なんか結構昔の事に思えるから、結構昔だよねえ、忘れてても仕方がないよね~」
『三年ほど前でございましょう』
「三年か~ 子供時代の三年は長いからね、昔だよね~」
『救い主様の、おっしゃる通りでございます』
「なんかアイちゃん、棒読みモードじゃな~い~? ま、この三年で世界も結構変わったよね~」
『左様でございますね』
「僕さ、救い主として責務?があるけどさ、それって食文化を広めて、美味しいものを世界中で女神様に捧げさせるって事じゃない? 特に世界も人も救わなくてもいいって」
『左様にございます』
「その救い主の責務?業務?ってさ、目標が達成されたりするような事なのかな。どこまで、どうなれば達成って事になるの?」
『私めには判りかねます。あの女神が判断する事であると思料致します』
「あ、まあそうか、そうだよね。この星には大陸が一つだけだったでしょ? そうすると、この大陸にある国の全部で食文化と女神信仰が広まれば、それはすなわち世界中って事だよね?」
『もちろんでございます』
「そうだよね~ 食文化は少しずつだけど広がってきているでしょ。まだエデン人とかは自分たちで調理したりしてないけどさ、仮に自分たちでも調理をするようになっても、女神信仰が無いと、女神様に捧げてくれないよねえ。信仰は強要するものじゃないしさ、世界中の人に女神様を拝んでもらうのは、無理じゃないかな?」
『はい。あの女神は、人類は救わなくとも良い、と申していたかと存じますので、それを斟酌すると世界の全員が信仰をせずとも良いのでは無いかと愚考致します』
「ああ、あれって、そういう意味だったのか」
『はい。人間どもを救うか救わないかは、あの女神が判断する事でございます。救い主様には、その義務はございません。何の御心配も一切必要ございません』
「ハハ なんかその言葉、久々に聞いたよね~ でも、アイちゃんに言われると、本当に気が楽になるよ。ありがとう、アイちゃん」
『救い主様の、御心のままに』
***
さて、パラダイスのアルビノ村に着いた。予定通り、人っ子一人いない。
南村から30分くらいか、もう少しってところかな。全然近いじゃんね~ これは確かにセルフィンへ行くよりもパラダイス王国の方が早いはずだわ。コーチが無い時代でも一日歩けば着くって言ってたかな……王都はここから5kmくらいって話だったし、セルフィンと違って野宿しなくても行き来ができてたんだね。
しかし、なんか懐かしい街並み……昔の公都が小さくなったような。この、扉も何にもない部屋だけの平民住宅とか、あの小さい屋敷っぽいのは伯父上たちが住んでいた家かな。全部がら開きだもんね、セキュリティーも何もあったもんじゃないよね。
ま、この建物群は全部壊しちゃって、と。
とりあえず、王都側の村入口あたりで青空市場みたいにして商売してるんだよね。ここは片側だけの商店街にしよう。王都側へ正面が向くようにして店と店との間には隙間も無くね、大きな長屋みたいな感じでピカピカピカっとね。さ、これで日用雑貨とかも分けて販売できるし、お菓子屋さんとか、ホットドッグ屋さんとかね~ とっても文明的!
そして、商店街の一番端にはレストランを建てよう。はい、ピカっとな。レストランは営業するかどうかはわからないけどね、なにせ魔法もろくろく使えない土地だしね。でも、やろうと思えば、アナログ燃料にアナログ調理でもできるから。時間も手間暇もコストもアップするから、実際の料理は超高額になるだろけどさ。
商店街の裏側には、セルフィンで建てた従業員寮を建てよう。そして、村の北、神聖国に近い側にはミニ男爵屋敷と物流センターや倉庫群ね。
井戸も掘って各所に接続もして~ 排水工事もして~ はい、これで新生アルビノ村の、完成です!
あ、廃材もたくさんあるし、一応念のために村全体をブロック塀で囲っておこう。店の正面入り口はそのままにしておこう。エデン人が来るからね。建物は全部、給食センターから派生した建物だからね、セキュリティーも大丈夫。何が大丈夫なのか本当は良く分からないんだけど、そう説明があったからね~
ま、窓に扉に玄関に、全部カギかかかるからね、店の入り口かブロック塀の門を経由しないとアルビノ村へは入れない構造。あ、ブロック塀にも扉付けて置こう。ま、塀を超えたら入れるんだろうけど、多少の抑止力にはなるでしょ。
井戸とか冷蔵庫とかもあるからね、簡単に自由にエデン人が出入りできなければ、その方がいいもん。見られなきゃ冷蔵庫とかもバレないはず。
なんか城塞みたいになっちゃったけど、別にいいよね。
たった一日で別物にもなっちゃったけど、別にいいよね。
エデン人は、そんなに仕事ができないからね、実際の作業工程とかも良くわからないだろうし、アルビノ人ならそんな事もあるか~ くらいで納得するはず、うん。
さ、南村から引いてある水道管を撤去して、取り敢えず南村へよろしく、御者さん!
***
南村へ戻ってきた。
とりあえず、南村に駐車してある物販屋台とキッチンカーをあらかたアイテムボックスへ入れる。商店街があるから、もう必要ないしね~
朝に別邸を出たから、まだ昼くらいだよ。アイテムボックスから適当にサンドイッチと飲み物を出して御者さんに渡し、南村に倉庫群を追加して建てて、このまま南部の街道を通ってセルフィン方面へ行こう。僕は景色を眺めながら、車内でランチ~
ふう。そうだったよ、景色なんて代わり映えしない世界だったよ……
ま、とりあえず旧国境までダラダラと走り、二時間くらいで到着。速いよね!
むかーし昔に初めてセルフィンへ行ったとき、途中で宿泊したもんね。それを思えば、セルフィンにも一日で行けるんだもん。ま、牛さんも二時間おきくらいに休憩が必要だからね、ぶっ続けでは走れないんだけどさ、そもそも牛だよ? 牛が走れる時点ですごいよね~ たしか、魔力がある土地なのとマッツァを食べているからだったっけね。ま、走っていると言うよりは、競歩みたいな速足なんだけどね、決してジャンプみたいなのをしている訳ではないよ。それはいくらなんでも無理でしょ、牛なんだもん。
さて、この中継所みたいなところも来るのは初めて。前に、適当に南村から水道管を伸ばして、適当にレモングラスの種をバラまいただけだからね、少しだけ整備をしておこう。北部の国境横断道路に作った宿場と同じでいいよね、考えるの面倒くさいし。んじゃ、ピカピカのピッカリンコでさくっとね。
しかし、この辺りは石がすごいね。旧アタシーノ公国のブッシュ地帯は、全部石が無くなったからね。邪魔くさいし、石は全部撤去しておこう。
さ、牛さんも充分休憩しただろうし、セルフィンへよろしく!
***
セルフィンの南村へ着いた。
さすがに薄暗くなったよ。僕も疲れたね。
でも、明日になっちゃったら人が動き出すからね、今日のうちに色々済ませないと。
セルフィンの南村から中央エデンのアルビノ村方面へ、石畳道路とそうめん水道管をブラインドで設置、中央エデンアルビノ村の北部の空いているであろう辺りに、大量の石材と木材をブラインドで配置。これで、中央エデンアルビノ村でも水が使えるし、材料があれば職人が建物を建てられるだろう。
現地を確認してないけどさ、パラダイスのアルビノ村と同じ構造のはずだから、たぶんうまく行っていると思うよ。今日は週休日だしね、人も居ないはず……大丈夫だよね?
『はい、救い主様。特に問題はありません』
「あ、そっか。アイちゃんならわかるんだ~ 誰も巻き込んだりしてないんだね?」
『左様でございます』
「よかった~ 今日はもう疲れたからさ、井戸だけ掘ってバンガローをいくつか設置して、ゆっくりするよ。ありがと、アイちゃん」