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2-6 永遠の24歳

「ねえ、母上~」


「あら、なあに?」


「僕さ、アルビノ村に行こうかと思ってるんだよね。パラダイスと中央エデンの。問題あると思う?」


「そうねえ……あまり人目にはつかない方がいいとは思うけれど……気をつければ可能なのではないかしら。アルビノ村でも週休制が徹底されているし、休みの日はエデン人も来ないでしょうし」


「あ、そうだね。もうスローン人もパラダイスや中央エデンには居なくなったもんね。銅貨で人頭税を支払っているんでしょ?」


「そうらしいわね。でも、銅貨は金貨の百分の一の価値だから、大量の銅貨になってしまうわね」


「うん、買い物にもあまり使えないしねえ」


「そうね。銅貨で買えるものなんて、クッキー5枚だけですもの。ホットドッグやおにぎりでさえ、銅貨なら10枚必要ですものね」


「考えてみると、ちょっとぼったくりが過ぎる気がする」


「いいのよ。どんどん金を使わせちゃいましょう!」


「もう、母上がどんどん変わって行く気がするんだけど……誰の影響なんだろうね」


「そんなことよりミチイル~ そろそろ、おしゃれ革命の時期じゃないかしら?」


「なにそれ」


「エデンにも正統派の作務衣を輸出しだしているでしょう? 後はシャツとブラウス、ズボンとかよね? まあ、わたしたちはワンピースドレスがあるけれど、これはエデンには出さないつもりですもの。色は着くようにはなったけれど、色の種類も限りがあるでしょう?」


「ああ、そうだねえ。ワンピースドレスの他には、フレアスカートと、カンナが好きな普通のスカートか……タイトスカート、なんてのもあるかな~」


「それは、どんなスカートなのかしら」


「うん、裾は広がってないの。でもね、綿生地だと伸びないからね、ちょっと窮屈じゃないかな」


「伸びる生地なんてものがあるのかしら」


「うん、あるんだけどね、僕、全然わかんないの。ニット生地とか……ジャージ……綿でも編めるのかな……あ、トレーナーとか綿のニットかも知れない」


「んもうミチイル、何を言っているのかわからないわ」


「ごめんごめん。でも難しくて実現できる気がしないの。ああ、高級綿生地なら、もしかしたらマーメイドドレスとかならいけるかも」


「それはどういうドレスなのかしら?」


「うん、腰から膝辺りまではね、スカートの筒を細く作るの。腰当たりの生地量のままだと、ただのずん胴になるからね、腰から膝にかけて、生地を絞って行く感じ……ん? 絞る?」


「それでそれで?」


「ああ、そうするとね、腰回りよりも膝辺りが狭いスカートができるの。これがタイトスカートなんだけどね、伸縮性が無い生地でつくっちゃうと、座ったりしにくいし、実用的じゃないんだよね。だけどね、膝辺りからね、フリルのヒラヒラを足首あたりまで裾広がりにつけるとね、腰回りは細くて裾は広がってヒラヒラがたっぷりの、ゴージャスなドレスになるんだよ」


「ごーじゃす……なにかしら、なにかとても高貴な感じがただよう言葉ね!」


「うん、そのものズバリ、贅沢で豪華って意味だからね、平民には縁がない言葉かも知れない」


「んまあ! 貴婦人のための言葉みたいなものね!」


「う、うん、そうとも言えないこともないかな……それでね、そのマーメイドドレスは動きにくいでしょ? 多分トイレにも苦労する感じじゃないかと思うしね、歩きにくいし、実用性が皆無のドレスなの。だから、自分で何もせずとも使用人がやってくれて、自分で外を歩かなくてもいいような、高貴な女性が着るドレスなんだよね~ 布もフリルやらギャザーやらでたっぷり使うしね、貴婦人のドレスかな~」


「なんですって! それは何としても実現しなくてはいけないわ! そう思わない? ミチイル! そう思うでしょう? 思うに決まっているわよね!」


「うん……」


「ミチイル~ 小さいころと違って、今は魔法で縫物とかもできるじゃない? ミチイルでもざっくりとしたドレスが作れるのじゃないかしら?」


「あ、そうかも。本当に着れる服になるかどうかはわからないけど、こんな感じ~ みたいな形には作れるかも知れないね~」


「でしょう! そうじゃないかと思っていたわ! じゃ、ミチイル、お願いね! 今すぐ!」


「ハハ んじゃあ、まず袖なしで後ろボタンの上半身部分をピカッとね。そんでマーメイドラインのスカートをピカッ。そんで、上下を接着でピカッ。上はノースリーブだから、ケープっていうのかな、ボレロかな、これも別に割烹着魔法で作るか……ピカッとね。はい、完成です!」


「んまんまんまんまんまあ! 何なのこれは! なんてゴージャスでエレガントで気品あふれるドレスなのかしら! ツルっとした表面の滑らかな高級綿に、輝くような白一色! それに、このドレスの裾はとってもヒラヒラ広がっているわね! 地面を擦りそうよ!」


「うん。外を出歩かない高貴な女性のドレスだからね~」


「まあ、そうなのね! それでこそ貴婦人だわ!」


「なんか白一色でウエディングドレスっぽいけどね……」


「それに、袖はないけれど、とても洗練されてすっきりとしているわね! 肩も出てしまうけれど、この、ボレロ?を肩から羽織る感じなのかしら! わたし、早速着替えて」


「あ、ちょっとまって! もう少し加工するから」


「あら! これ以上何か仕様があるのかしら」


「うん。絞り染めっていうのを思い出したんだよね~ んじゃ、とりあえずこのマーメイドドレスのスカート部分にやってみよう。えっと、細かいのは面倒くさいから、大きめので埋め尽くせばいいかな~ 布をつまんでネジネジして~ あ、母上、太めの糸ある~?」


「もちろんよ、こんなので良いかしら」


「うん。それでね、このネジネジ部分を適当に糸でグルグル巻きにしまーす。他のネジネジも同じように糸でグルグル巻きにしまーす」


「ああ! ミチイル! せっかくのステキなドレスがぐちゃぐちゃよ!」


「うん、いいの、これで。合ってるはず。んじゃ~ これを食紅魔法で~ あ、母上、トマトとニンジンをキッチンから持ってきてくれな~い?」


「わかったわ」


「たしか、糸で絞った辺りだけ染めれば、とりあえずいいはずだよね……絞り染めとか、小学生の実験以来だからな~」


「はあはあ、お待たせ!」


「うん、ありがと。じゃあ、食紅魔法で、ピカッとピカッと……これでいいかな」


「ミチイル、そんな染め方じゃ、白い部分と色のついた部分でまだらになってしまうわよ」


「うん、いいの。じゃ、これを洗おう。おしぼり業者でピカッとしてから~ 糸を外して~ 後はシワにならないように干物魔法でピカッとね。はい、完成です!」


「きゃー! ミチイル! ドレスに赤とオレンジ色のきれいなお花がたくさん咲いたわ!」


「うん、こうやって染めるのを絞り染めって言うんだよ」


「ステキステキステキ! これは間違いなく服飾界の革命よ!」


「喜んでもらえて良かったよ」


「ええ! 早速着替えてくるわね!」


「はーい。ついでにスカーフとかハンカチも絞っちゃうかなー ふんふんふーん あ、そういえば、刺繍とかもあるよね……でも、面倒くさいし、見本も作れないからね、僕。内緒にしておこう……うーん、後は……」


「お待たせ! どうかしら、ミチイル」


「うん、とっても高貴な気品に溢れているよ、母上」


「あら、ミチイルもそう思う? わたしも鏡でみてびっくりしたわ! こんなステキな衣装を着れる日がやってくるなんて! ミチイルはすごいわ!」


「ハハ でも、普段には着れないよ。動きにくいもん」


「ええ、もちろんよ。でも、このボレロは普段から着れるわね。ノースリーブ?のブラウスとかもステキじゃないかしら」


「うん。袖がないやつは、ブラウスっていう名前じゃないかも知れないけど、僕、良くわかんないから……」


「ええ、大丈夫よ。ノースリーブと呼ぶことにしましょう! ああ、これは本当にステキ。ちょっと年齢が進んだ人には厳しいかも知れないけれど」


「母上は歳も取ってないし、大丈夫でしょ」


「そんな事ないわよ……ミチイルが14歳なんだもの。わたしだって確実に歳を取っているわ……行かず後家に、ババアってのがついちゃうわね……はあ」


「良く考えてみれば、そうだよね……確か、学園を卒業して帰国する時に、パラダイスのアルビノ村へ寄って、生まれたばかりのシモンを見たんだっけ?」


「ええ、そうよ」


「学園って、15歳から2年間くらい通うんだっけ?」


「ええ、そうよ」


「何で声が低くなっていくの? 母上……という事は……帰国してからも少しは時間が経ったよね」


「ええ、そうね」


「なんか怖いんだけど、母上……」


「あら、そんな事はないわよ。わたしは永遠の24歳なんですもの」


「そんな事、ありえないでしょ。僕がお腹の中にいる期間は、確か普通の期間じゃなくて、短かったって話だったよね。……色々考えてみても……」


「24歳ね!」


「32歳か~」


「ミチイル、女性の歳を言うなんて! わたしはそんな子に育てた覚えは無いわよ~! わたしは24歳なの! いいわね!」


「はーい」




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