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閑話1 ミカエル・ケルビーン

わしはミカエル・ケルビーン。


このアタシーノ公国の、三十代目の大公だ。


本当のところは何代目なのかはっきりせんのだが、大公を務めたものの名前と、何代目なのかを表す数字が掘られた石板が、わしの分を含めて30枚あるから、三十代目と言っている。


妻は死んでしまった。


アルビノ人は食物が常に不足しているからか、何人も子を産めない。せいぜい二人が限度といわれておる。


それなのに、どうしても三人目を産むと言って聞かなかった妻は、末の娘のマリアを産んで間もなく、死んでしまった。


そのマリアに、天使様からご神託が下された。


そして、嫁にも行っていない乙女のマリアの胎に、救い主様が降臨された。


天使様のご神託では、普通の子として隠して育てよ、救い主様がなさることを決して妨げてはならぬ、というお達しがあったそうだ。


わしは、変に注目を集めないよう、救い主様をわしの庶子として育てることに決めた。わしには妾もおらんというのに……


大公家の者には全員にこのご神託を知らせ、一族一丸となって救い主様を守り、お育てしていくべく一族の結束をより深めた。


そして、あっと言う間にマリアの腹が大きくなって、救い主様がお産まれになった。


御子は、見たことのない金色の髪に、見たことのない碧い目。おそらく世界中でただ一人の容姿だろう。


邪悪なものから守るために、屋敷の外には一歩も出さずに育てるつもりであったのだが、救い主様は乳離れした一歳くらいの頃から、普通に話をし始めた。


再度、一族全員で話し合った。


下手にコソコソせず、マリアの息子でわしの孫で、そして最初から救い主である事を屋敷内では隠さず、皆が知っている状態の方が救い主様もやりやすかろうという事にした。


それに、救い主様が世間の耳目を集めるのは時間の問題。必要以上に隠すよりも、公国内で事情を知るものを増やし、屋敷の外でも常に見守り続けられる体制を整えることにした。


そして、天使様のご神託の通りにすべく、屋敷の中ではわしの可愛い孫として接し、一族皆でたっぷり愛情をそそぎ、のびのび育つようにと心がけた。


心がけたつもりではあったのだが、心がける必要などなかった。ミチイルはあまりに可愛い過ぎて、わし、もう死ぬ。


ミチイルが訊くことには何でも隠さず答え、ミチイルがやりたいと言ったことは好きなようにさせることを、一族と公国貴族には徹底しておる。


ミチイルが2歳になって、わしに公国の事を訊きに来た。可愛い孫だし、元より何でも答えるつもりであったのだが、ミチイルが訊くこと話すことは、子供の範疇を優に超え、2歳にして既に為政者のそれであったのには、さすがのわしも驚きを通り越して、畏怖の念すら覚えた。


それからしばらくして、ミチイルは「マッツァナン」という食べ物を作り出した。


これにはわしも、再度驚かされた。公国が始まって数百年間、大公家ではずっとずっと焼マッツァだけを食べ続けてきたのだ。それが、ミチイルが産まれてから2年と少しで、全く新しい食べ物が登場したのであるから。


マッツァナンは、かなりうまい。独特の香ばしい匂いが味わいを深め、少ないマッツァでもフワフワもっちりと嵩が増え食べ応えが増して満腹になり、さらに冷めてもうまい。南の村では残り火を使えるから、マッツァナンを焼くようになって大騒ぎだ。何とか公国中の平民にも食べさせてやりたいのだが……


そして最近は、「オロシガーネ」なる道具まで作り出した。


まだ2歳だというのに……


この道具のおかげで、カンナもジョーンも料理の負担が少し減り、いや、カンナにとってはかなり減り、自分たちの子や孫と顔を合わせる時間が増えたらしい。


ドン爺を筆頭に、公都に居る元鍛冶や元鋳造の職人達にも頑張らせ、今は、徐々にではあるが、平民にもオロシガーネを与え始めたところだ。


南の村で使う燃料が少し増えているはずだが、今のところエデンにはバレていないようだ。


まだ3年も経っていないのだぞ……本当に信じられん。


いや、もちろん女神様は信じておるので言葉の綾だ。


ミチイルはこれからも、凡人には思いも寄らぬ救い主の祝福を皆に授けてくれるだろう。


可愛い可愛いミチイル。


わしも少しでも長生きせねばな。




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