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閑話7 その頃

「ようこそおいでくださいました、メアリ様」


「本日はお招きくださいまして、誠に恐縮にございます、中央エデン王妃様」


「今日のお召し物も素晴らしいですわね、それはどこで手に入りますの?」


「申し訳ございません、王妃様。これは公国でのみ使用が許可されております衣装ですの。まだ王国には輸出が叶いません、御免遊ばせ」


「なんですって! アルビノ人の分際で! 新しいものが出来たら、まず王国に献上するのがアルビノ人の務めじゃない!」


「これは異な事を仰いますのね、王女様。北部の二公国を始め、全てのアルビノ人はエデン人と、もはや対等な立場。仮にも王女様ともあろうものが、そのような不見識、わたくし、驚きすぎましてございます。まさかとは思いますけれど、エデンの王国では子女の教育はなさいませんの? 王妃様」


「申し訳ありません。学園には通わせているのですが……」


「まあ! 学園と言えば、この中央エデンにございます、()()学園ですの? アルビノ人は呪われた民だからエデンの属国である、などと寝言を教えている、()()学園の事ですの?」


「は、はい」


「あら、アンタも学園を卒業したって言うの? アルビノ人の分際で? それなら解るでしょ、アルビノ人は奴隷のようなものなのよ。さっさと新しい服を置いて帰りなさいよ」


「まあ! 貨幣に苦労している貧しい国とは言え、仮にも中央エデン王国の王女様の発言とも思えませんわね。そこの侯爵夫人、どのようにお思いになって?」


「は、はい……エデン会議にて、北部の公国はもはや属国では無くなった、と伺っておりますが……」


「そこの王家の分家の公爵夫人はどうなのかしら?」


「はい……」


「んまあ! 国も貧しくなると、頭に栄養が足りなくなるのか言葉も話せなくなってしまうものなのでございますのね! 空腹でいらっしゃるのなら、美味しい食べ物でも召し上がったら如何かしら?」


「メアリ様、こちらにエデンの園の貴重な果物を用意させましたの。どうぞ召し上がって。皆様も、お席へどうぞ」


「これは王妃様、ありがとう存じます。では遠慮なく座らせていただこうかしら……あら? わたくしの席が見当たらないようでございますわね」


「こ、こちらへ……」


「あら、あなたは何方だったかしら? 申し訳ございません、わたくし、歳のせいか取るに足らない人の顔も名前も忘れてしまいますの」


「わ、私は、先ほどメアリ様に発言のご指名をいただきました、中央エデン王国の宰相を務めております侯爵家の……」


「ああ、そうだったかしら、ごめんなさいね。ですが、そこはわたくしの席ではございませんわ。このわたくしが下座に着くなど、ありえませんもの。わたくしは仮にも一国の当主の妻。ここにいらっしゃる有象無象よりも身分が上でしてよ。わたくしよりも身分が高いのは、ここでは中央エデン王妃様ただお一人。そこの言葉遣いも弁えない愚かな小娘、いえ失礼、王女よりも、わたくしの身分が上です。この貧しい王国では、そんな事もわからないのかしら……ろくに貨幣の計算ができなくても、仕方がございませんわねえ……オーッホッホ」


「も、申し訳」


「おばあ様! このような呪われた民のババアの言いなりになるの!?」


「ちょっとそこの使用人! 王女を連れて行きなさい!」


「は、はい、王妃様」


「おばあ様! そこのババアにいい様にされて、くやしくないの!?」


「あら、貧しい王国でもくやしい、なんて感情をお持ちになれるものなのでございますね。マドレーヌも満足に召し上がれない気の毒な王女のために、せっかく新作のイチゴマドレーヌをお持ち致しましたのに、残念ですわ、王女様。では、ごきげんよう」


「なんですって! はやく寄越しなさいよ!」


「早く連れて行きなさい!」


「か、かしこまりました」


「いやよ、離しなさい! おばあ様! おばあ~さ~ま~~……」


「メアリ様、大変な失礼をお詫び致します」


「まあ、王妃様、どうぞお気になさらないで。わたくし、聞く価値のあるものの言葉しか耳に入りませんの。そこらの草にも劣る娘の言葉や態度なぞ、五分後には記憶の彼方ですわ。ですが、皆様にご試食頂こうと、せっかくお持ちしたイチゴマドレーヌは無駄になりましたわね。悪いけどあなた、これは帰りの荷物に入れておいてちょうだい。王国で初披露の予定でしたけれど、持って帰ります。ああ、そうだわ、帰りにアルビノ村の平民従業員にイチゴマドレーヌを差し入れ致しましょう! さ、貧しくも高貴な方々のお目汚しですから、イチゴマドレーヌは片づけてちょうだい」


「め、メアリ様……そ、それは」


「まあ、中央エデン王室では、賓客を立たせておくのが習わしでございますの? 公国では考えられませんわ! さすが、貨幣も自由にならない国はマナーが素晴らしいものでございますわね」


「し、失礼致しました。メアリ様、こちらへどうぞ」


「まあ、王妃様直々にご案内下さるなんて、光栄ですわ、オーッホッホ」


「メアリ様、こちら、先日の化粧水の代金でございます。遅れてしまいまして、申し訳ございません」


「あら、この哀れな王国では、まだこんな古い貨幣をお使いでしたの? 今はコインというものに替わりましたのに」


「はい、こちらの方が価値があると夫が申すものですから……」


「んまあ! これだから教養のカケラもない国は! お隣のパラダイス王国では、もう全て新コインに置き換わっていると言いますのに。ただでさえパラダイスよりも遅れている中央エデン王国ですけれど、この先ますます差が開いて行く事でございましょうね、オーッホッホ」


「め、メアリ様! 今日は一段とお肌が輝いてますわ。化粧水の他にも、何か秘訣がおありですの?」


「あなたは、分家のなんとか公爵夫人ね、もちろんでしてよ。王国に販売している化粧水の他にも、公国には色々と美容製品がございますの。まだ発売が解禁になっておりませんので、皆様にお持ちするのが叶いませんのよ。いつか、ご披露できればと思っておりますわ。でも、かなりの高額商品でございますので、皆様が購入できるかどうか……」


「メアリ様のお力で、少々、私に授けて頂けませんかしら」


「まあ、王妃様。貧しいながらも王国の王妃様ともあろうお方が、下々が丹精込めて製造した品を貨幣も支払わずに手に入れようなどと、よもやなさいませんわよね。ええ、わたくしは分かっております。これでも施政者の娘として生まれ、施政者の妻ですもの。下々の事は大切に致しませんといけませんものね。王妃様は……確か、うんたら侯爵家のご出身でしたかしら……王女様とは違って、正常な判断力をお持ちの方で、ようございました」


「ぐ……んぐっ……」


「き、今日のお召し物は、また一段と素敵な服でいらっしゃいますわね、メアリ様」


「あなたは……先ほどの名も無き侯爵夫人、でしたわね。お褒めにあずかり恐縮ですわ。これは、皆様にお持ちしている作務衣と少々意匠が異なりますの。皆様がお召しの作務衣は、手術服のよう、と申しましてね、上下が一続きになっておりますでしょう? わたくしが着用致しておりますこれは、正統派と言われておりまして、上下が分かれておりますの。ちょっと見ただけでは普通の手術服作務衣とそう違わないように思えますけれど、上下を分けることで動きやすく、また布地もたっぷり使用する事になりますので、とても贅沢な、高貴な者の専用服、とでも言いましょうか、ええ、お値段もそれなりに致します、高級ラインナップですのよ。宜しければ皆様も、輸出が解禁された暁には、ご購入なさってはいかがかしら。わたくしの力で、皆様には優先的にご用意させますわ」


「ちなみに、如何ほどですの?」


「あなたは……ごめんなさい、有象無象の伯爵夫人、ですわね。公国では普通に着用致しておりますから、それなりのお値段ではございますが、それほどでもありませんの。一着金貨40枚だか50枚だか、その程度ですわ。はっきりとした金額は些細な事なものですから忘れましたの。まあでも、金貨10枚くらいは誤差ですものね、高貴な皆様方には取るに足らない金額かと存じますわ、オーッホッホ」


「そ、それは、中々なお値段でございますわね」


「そうでもございませんでしょう? 王妃様。確か、アタシーノ公国から人頭税の代わりに金コインが倍額ほど支払われているはずですもの。中央エデン王室では、毎月一着は購入できるのではないかしら」


「で、ですが、下の貴族に下賜する分もございますし、全て王家の自由になる訳でもございません」


「あら、そうでしたかしら。いやだわ、わたくしったら、普段貨幣を使わないものですから、すっかり失念しておりましたの。悪気はございませんのよ、御免遊ばせ。お詫びと言っては何ですけれど、ほんの少々、化粧水の試供品をお持ち致しましたの。こちらの入れ物は、マヨネーズボトルと言うものでございまして、平民でも自由に使える入れ物ですから、価値はございませんけれど、中身は皆様へ融通させて頂いている化粧水とほぼ同じものですわ。量はお試しサイズでございますので、数回分しかございませんけれど、これはわたくしから皆様への感謝の気持ちでございますの。お嫌でなかったら、どうぞお納めくださいませ」


「まあ! ぜひ頂きたいわ!」


「わ、私も!」


「私もお願い致します!」


「まあまあ、喜んで頂けて嬉しゅうございます。ではあなた、皆様にお配りして差し上げてちょうだい。それと、アレも出してもらえる?」


「まあ、メアリ様、それは何ですの? 見たことも無いような……石?の器ですの?」


「はい、王妃様。こちらは土から出来ている徳利という陶器でございますの。本日は緑茶を徳利に入れて持参致しましたのよ。女神様の祝福のない哀れなエデンの王国では、飲み物がございませんでしょう?」


「め、メアリ様、王国には貴重なワインがございます!」


「あら、名も無き侯爵夫人、失礼致しました。ですが、あのワインは公国の物と比べると、最低ランクの下品も下品ですもの、渋みもえぐみも沈殿物もございますから、とても高貴な方々のお集まりの席ではお出しできませんわ。ですから、本日はわたくしが公国から緑茶をお持ち致しましたの。公国ではティーセットで新鮮な女神の泉をお湯にして緑茶を淹れるのですけれど、哀れな王国では火もございませんでしょう? ですからわざわざ徳利で公国から運びましたのよ。ただいま私どもの使用人がお配りしております、こちらの紙コップでお飲みくださいませ。わたくしは自分のティーカップで失礼いたしますわね。さ、皆様、召し上がれ」


「このような紙?……薄っぺらい木材しか公国ではお使いになれないのでございますね。王国では木材をふんだんに使用した器が高級品ですけども」


「あら、そこの有象無象その2夫人は情報が古うございますわね、さすが、子女の教育もまともにできない王国ですわ! この紙コップは様々な用途に使用できて、使った後は洗わずに捨てる事ができますのよ。古くて汚らしく野暮ったい木のコップなどとは違いますの。使い捨てと申しますけれど、公国では、陶器を使う程でも無い場合に使用致しますの。もし、お嫌でいらしたら」


「メアリ様! これは、とてもさわやかな飲み物ですわね」


「お気に召しまして? 王妃様。よければ、こちらのお菓子も如何? 緑茶と大変相性が良い、和菓子、というものでございますのよ。本日は、カボチャまんじゅう、でございます」


「まあ! このまんじゅうとやらは、大変に柔らかく、甘くてとても美味でございます」


「あら、有象無象伯爵夫人もそうお思いになる? わたくしと気が合うかも知れませんわね」


「め、メアリ様、私もとても美味しゅうございます」


「まあ、名も無き侯爵夫人にも気に入っていただけて、うれしゅうございますわ」


「メアリ様、こちらの緑茶とまんじゅうは、如何ほど致しますの?」


「まあ、王妃様。こちらは輸出がまだですの。今の所、予定もございませんのよ。ですが、もし販売するとなると……まんじゅうはマドレーヌと同額、緑茶は……貴重品の上、手間暇がかかるお品でございますので、今は何とも申し上げられませんわ。ですが、お気に召したのなら、わたくしの生家であるアタシーノ大公家へ連絡致しまして、融通できるかどうか、また後日にでもお返事を差し上げたいと存じます。これらはパラダイスでもご紹介はまだでございますから、三王国の内では中央エデン王国が、最初の公開でございます」


「まあ! そのような貴重なものを!」


「本当に!」


「さすが、メアリ様ですわね!」


「それほどでもございませんわ。わたくし、皆様に喜んでいただくのが生きがいでございますの。いつもこうして歓迎を頂いて、恐縮ですわ。でも、本日は少々、何か雑音があったような、無かったような気も致しますが……あら、何だったかしら? なにか記憶の彼方に……思い出しそうな気もいたしま」


「め、メアリ様! 次回も是非、お越しくださいませ」


「まあ、王妃様に直々にお誘いをいただけるなんて、大変光栄に存じます。次に中央エデンに参りますのが、いつになるかは定かではございませんが、機会がございましたら喜んで馳せ参じますわ。オーッホッホ」




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