2-3 女三人揃ったら
「このイモダンゴは、とても良いお味ね、ジョーン」
「はい! 今日はイモダンゴを串に刺して圧力鍋魔法で蒸した後、炭火で網焼きにして軽く焦げ目をつけてから、みたらしあんをかけてみました! みたらし団子と言うそうです!」
「誠に美味しゅうございますね。少々香ばしさもございますし、上にかかっているソースが、お醤油の優しいお味で、婆のわたくしでも食べやすうございます」
「ええ、串から直接食べるのはどうかとは思うのだけれど、これはこれで豪快ね! 貴婦人には……少し、ですけれど」
「はい! ですが、串にかぶりつくのが楽しいです! ガツガツ食べられますし!」
「ほんとうにジョーンはイモダンゴが好きね」
「はい! イモダンゴは偉大なる発明です!」
「誠に。それでマリア様、こちらの涼やかなスイーツは何でございましょう?」
「これはね、ミチイルが貴女会のために作ってくれた新しいスイーツなのよ。トライフルというのですって」
「これは! ガラスの深い器の横から、色々見えていておしゃれです!」
「誠でございますね、まるでショートケーキのようでございます」
「ええカンナ。材料はほとんど同じなのですって。でも、ショートケーキと違って、簡単につくれるそうよ。少しパサついてしまったパウンドケーキをね、コロコロに切って、リンゴのコンポートの汁を塗るそうなの。そして、そのケーキとコンポートとイチゴをね、生クリームと交互に器に入れていくのですって」
「ほんとうに見た目がきれいです! 楽しい気分になります!」
「誠ですね、ジョーン」
「では、いただいてみましょうか。この長いスプーンですくって食べてみてちょうだい」
「 ! これはおいしいです! ショートケーキよりもクリームがたっぷりです!」
「誠に! 大変にしっとりとしておりますから、年寄りにでも食べやすうございましょうね。私はクッキーなどでも美味しく頂きますけれど」
「うふふ ところでカンナ、あなたこの頃、ますます若返っているのではないかしら」
「ほんとうです! とても孫がいるとは思えません!」
「まあ、お世辞をありがとう存じます。おそらく、椿シリーズに加えて、化粧水と神の泉シリーズを使っておるせいでございましょう」
「ほんとうに! 神の泉シリーズはびっくりです!」
「そうよねえ、リンゴの酸と一緒にお風呂に入れると、シュワシュワがすごいでしょう? そのシュワシュワが体中について、お肌はキレイになるしマッサージ効果?とやらもあると言うのですもの」
「ほんとうです! しかも神の泉シリーズは、歯まで美しくなりました!」
「誠でございますね、わたくしも手鏡で見るまで気づきも致しませんでしたが」
「そうよね、カンナが腰を抜かしてしまう程あの新しい手鏡は、ものすごいですものね。顔のお肌の隅々まで映るんですもの。エデンのやつらには出していないけれど」
「エデンでは昔の銅鏡なのですよね!」
「ええ、そうよ。昔のタイプとはいえ、手鏡自体がエデンでも超高級品よ。まだまだ貴族にも行き渡っていないの。この神聖国では平民でも全家庭で持っているというのに」
「誠でございますね、マリア様。そう考えますと、なにやら痛快な心持が致します」
「ほんとうです! 毎日がメシウマですから!」
「それに、歯ブラシもそうだけれど、髪を梳かすブラシもできたでしょう? ブラシで髪を梳かすと、ツヤツヤのサラサラよ」
「誠でございますね、マリア様。婆のわたくしでも、椿油とともにブラシを使用致しますと、しっとりツヤツヤでございますから」
「ほんとうです! お義母様の髪は光り輝いています!」
「ありがとう、ジョーン」
「それに、味醂粕のパック、あれをするようになってからと言うもの、お肌がプルプルもちもちなのよね」
「誠でございますね、マリア様。婆の皺も、心なしか薄くなったような気が致します」
「お義母様の顔には、ぜんぜんシワがありません!」
「ほんとうよねえ、以前は年相応だったと思うのだけれど、さすがミチイルの奇跡なだけあるわね」
「同じものをお使いのメアリ様も、さぞかしお喜びでございましょうね」
「ええ、お喜びっていうレベルではないかも知れないわね。聞くところによると、美容関係商品を引っ提げて、エデンで暴風を吹き荒らしているらしいわ。私も直接お姉様にお会いしてはいないけれど、なにか目に浮かぶような気がするわね」
「メアリ様は、無慈悲の嵐を起こしているに決まっています!」
「これ、ジョーン」
「それに化粧水も、エデンに出している化粧水は、殺菌消毒水で五倍くらいに薄めたものらしいのだけれど、ガラスの瓶に入っているでしょう? ものすごい売れ行きなのよね。金貨100枚もするというのに」
「ほんとうに、愚かですよね!」
「誠に。エデン人は威張るだけ威張り散らしては居りますが、頭の中身は残念の実が詰まっておるのでございましょうね」
「うふふ そうよねえ。でもミチイルが言うには、エデン人が愚かだったから計画が速く進んだのですって」
「ほんとうに! まさかアルビノ人が自由になるなんて、いまだに信じられない気分です!」
「誠に。よもやわたくしが生きている間に、このような神の奇跡に巡り合うとは……幾百年ものアルビノ人の悲願が達成されましてございますもの」
「お兄様も、大変な活躍だったらしいわよ」
「はい! 夫のセバスも、傍から見ていて気分が爽快だったと申しておりました!」
「いくら愚かな者どもとは言え、敵が術中にはまっていく姿は、さぞや見ものでございましたでしょうね」
「ほんとうよ、わたしも見たかったもの。でもその時、大公は二人とも、万が一の可能性を考えて、お姉様を外に配置していたのですって。万が一、二人の身に何かがあった時には、すぐさまお姉様が指揮を執って、公国に全員が戻る手はずを整えていたそうよ」
「誠に、メアリ様は女傑でいらっしゃいます」
「ほんとうです! 他の誰にもまねはできませんね!」
「そうね、わたしにも無理だと思うわ。それに、お姉様がうまく采配を振るったからこそ、セルフィンが併合されて神聖国が誕生したのですもの」
「ですがマリア様、メアリ様はもちろんでございますが、何より、ミチイル様の奇跡とお慈悲があったればこそ、にございます」
「そうです! メアリ様がお慈悲を願ったから、セルフィンも助かったんです! ですから、メアリ様の言うとおりにセルフィンがするのは、当然です!」
「まあ、それはそうね、お姉様がセルフィンに嫁がなかったら、セルフィンとて今のスローンと変わらなかったでしょうしね」
「誠でございますね、マリア様。セルフィンの民も、ミチイル様はもちろんの事、メアリ様にも感謝致しておる事でございましょう」
「ほんとうですね!」
「それにしても、カンナもジョーンも、セバスが危険な目にあったかも知れないのですもの、心配かけたわね」
「とんでもない事にございます、マリア様。大公に何かあった際、その身を惜しげも無く投げうつように教育して参りました故、当然の事にございます。お気遣いなど、無用でございます」
「そうです! セバスにもしもの事があったとしても、シェイマスが後を立派に継ぎますので、心配いりません!」
「そうね、二人とも、ありがとう。シェイマスと言えば、彼はとても優秀ね。文字だってあっという間に覚えてしまったし」
「恐れ入りましてございます、マリア様。婆のひいき目とは言え、シェイマスは少々頭の回る子のようでございます。わたくしも、シェイマスから文字の手ほどきを受けておりますので」
「はい! シェイマスは、シモン様へはもちろんのこと、大公屋敷の使用人にも文字を教えていますし、立派に務めを果たしてくれると思います!」
「ほんとうね、わたしもびっくりしているわ。この分だと、ミチイルが新しく作る予定の平民学校も、シェイマスが活躍してくれそうね」
「はい! お任せください!」
「頼みましたよ、ジョーン」
「はい! お義母様」
「それにしても、椿シリーズにも新たなオイルも加わったし、化粧水も順調だし、神の泉シリーズも神聖国じゅうに広まったわね。まあ、神の泉シリーズは、わたしたち以外には最廉価版の流通だけれど……それに服に色もつくようになったし……この辺りでまた何か、おしゃれ界に新たな風が欲しいところなのよね」
「何か心当たりがあるのでしょうか!」
「それが、ないのよねえ。そろそろミチイルから何かをいただいちゃおうかしら」
「ミチイル様は、底知れぬ知識をお持ちでいらっしゃいますからね、この婆も、お世辞とは言え若返ったと過分な評価を頂いておるくらいでございますし」
「はい! 美味しい食べ物以外でも、ほんとうに色々な奇跡を起こしていらっしゃいますもんね!」
「そうよねえ。ミチイルは、僕はおしゃれの事はわかんない、なんて言っているけれど、絶対にそんなことは無いと思うのよ。他にも一つでも二つでも、何かを隠し持っているに違いないわ。これは調査を開始しなければね」
「マリア様でしたら、訳もない事でございましょう」
「本当です! マリア様なら大丈夫です!」
「ふふ、そうね、頑張るわ! さあ、お茶会の続きをしましょう」