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1-109 エデン会議

「さて、今回もエデン会議にお集まりいただきまして、恐縮でございます。私、中央エデン王国の宰相が今回司会を務めさせて頂きます。これよりエデン会議を開催いたします」


「ところでアタシーノ大公とセルフィン大公よ、うぬらは見たことも無い作務衣を着て居るが、それは何だ? 朕らの所には届いておらんぞ!」


「はい、中央エデン王、私どもが着ております作務衣は、この度、新しく作られるようになった色つきの作務衣でございます。素材は各王家御用達の高級綿、色は数色ございます。もし、ご入用ならば貨幣と引き換えに融通致します」


「なに? お前はこのパラダイス王を差し置いて、中央エデンに売ると言うのか!」


「いえ、そうではございません。貨幣さえいただければ、どの王国であっても公国であっても貴族であっても、誰にでも等しく販売致します。大人用は一着金貨20枚、子供用は一着10枚でございます」


「そもそも公国は、王国へ税を納めるのが習わしであろう。貨幣も税として納めておるのに、その貨幣を寄越せとは、税を寄越せと言っているのと同じではないか! 呪われた民の分際で!」


「はいシンエデン王、確かに習わしによりアルビノ人は様々な税を納めております。貨幣もその一つ。ですが、その習わしの中に、作務衣は入っておりません。習わしに入っていないものは税として納める必要はないと存じます」


「皆さま、ご意見も多々あるかと存じますが、ひとまず会議を進めさせていただきたいと思います。最初の議題は、ある王国の中級貴族からの訴えです。王室が下賜する貨幣を増やして欲しいとの要望のようですが、これについて、各王のご意見をどうぞ」


「わしは既に限界まで貨幣を下賜しておる。これ以上は不必要」


「朕もパラダイス王と同じく」


「そもそもわしの王国では今までと何も変わっておらん!」


「はい、貴重なご意見ありがとうございました。では今まで通りという事で、次の議題に移ります。次は、ある王国の上級貴族からの訴えです。隣の王国では自由に買い物ができるのに、なぜ我が王国では自由に買い物ができないのか、との事にございます。これについて各王のご意見をどうぞ」


「そもそもわしの王国では、貨幣さえ払えばだれでも自由に買い物を許し、アルビノ人にも自由に商売を許しておる。何も問題などない」


「そもそもわしの王国では、買い物どころか物も満足には入って来んぞ! さっさと服やスイーツを持ってこい! この呪われた民が!」


「朕の王国でも、アルビノ人に商売を許可するつもりじゃ」


「はい、貴重なご意見ありがとうございました。引き続きまして……」


…………


「はい、貴重なご意見ありがとうございました。本日の議題はすべて終了しました、つきましては」


「はい、宰相、お願いします」


「どうぞ、アタシーノ大公」


「ありがとうございます。私どもの公国では、税の支払いはすべて貨幣での支払いに変更し、人頭税として差し出している公国人は引きあげさせていただきたく、提案申し上げます」


「なんだと! 呪われた民の分際で、王国に物申すとは、身の程をわきまえろ!」


「わたしどもの公国では、女神様の慈悲により、様々な物を作り、それを王国へ納め、また販売しておりますが、その物を作る人員が不足しています。貨幣があっても人の代わりにはならないのです。ですので、民を国に戻したく存じます。人頭税を含む、すべての税を貨幣で支払う事を認めていただければ、現在お支払いしている税を二倍にして貨幣で税を納めさせて頂きますが。貨幣が二倍になれば、各貴族への下賜も余裕が生まれるでしょうし、様々な物も、貨幣にて手に入れることが可能となりますが……」


「アタシーノ公国と同じく、セルフィン公国でもそうさせて頂きたいと存じます」


「王よ! 貨幣が増える! それは良いと思います!」


「わたしも良いと思います!」


「賛成です!」


「一刻もはやく、そうしていただきたいです!」


「王、決断を!」


「わが王も、決断を!」


「王家以外の貴族は、皆、歓迎するでしょう!」


「静粛に! 各王国の貴族の多くは、それを望んでいらっしゃるようですが、どう判断されますか?」


「わしは、王家の貨幣が今より多くなるのであれば、それでも構わん」


「パラダイス王国は賛成ですね。中央エデン王は、如何なさいますか」


「石材や木材、家具や各種の道具など、それらの納入はどうするつもりじゃ」


「はい、パラダイス王国では既に、エデン人の平民などが職人の仕事を行っております。今の所何も問題は起きてはおりません」


「パラダイス王、アタシーノ大公はそう申しておりますが、如何なのでしょうか」


「うむ。わが王国の平民は優秀であると見えてな、アルビノ人なんぞがやっていた仕事の数々も、わずかな期間で熟せる様になった。アルビノ人が居なくとも何も問題はない。アルビノ人は、少しでも多くの貨幣を納めれば良い」


「中央エデンの民も、パラダイス以上に優秀じゃ。パラダイスに問題がないのであれば、わが王国でも問題など、あろうはずもない。アタシーノからの貨幣は二倍になるのじゃな。セルフィンからの貨幣はどうなるのじゃ?」


「はい、セルフィン公国も貨幣を二倍以上、お納め致します。アタシーノ公国と違い、金貨ではなく銀貨での支払いとなりますので、銀貨を現在の二倍以上、人頭税を廃止していただけるのであれば、お手数料を含め現在の三倍を納めます」


「そうであるならば、わが中央エデンでもなんの問題もない。優秀なわが王国でも、アルビノ人以上の働きをするに決まっておるのじゃからな」


「承りました。パラダイス、中央エデン両王国は、税の支払いをすべて貨幣にすることに同意という事ですが、シンエデンではどうなさいますか?」


「それは承服できぬ。今まで通り、アルビノ人を差し出せ」


「アタシーノ大公、陳述を」


「かしこまりました。アタシーノ公国とセルフィン公国では、シンエデンに差し出している人頭税要員の数が50人ずつですから、それに相当する分の貨幣の二倍を納めることができるのですが……パラダイスと中央エデンには両公国が500人から600人ほど差し出しておりましたので、この時点でシンエデン王国に納める貨幣額よりも10倍以上の開きがございます。それが今後、さらに倍以上に開きますので、シンエデン王国が使える貨幣の量は、パラダイスと中央エデンの二十分の一、しかも人頭税は今まで通りとすると、もちろん現状のままですので、ざっと計算致しますと、シンエデン王国が使える貨幣額はパラダイス、中央エデンの両王国の百分の一以下の貨幣額となりましょう。それでも構いませんね?」


「なんだって! そんな! なぜシンエデンだけ! シンエデン王! 何とか!」


「そうです! わが王国だけ不公平ではないか!」


「王、どうなさるのですか!」


「シンエデン貴族の方々、静粛に! シンエデン王、王のお考えは変わらないという事で宜しいでしょうか」


「うぬぬ……」


「王! ただでさえ、わが王国は他の両王国よりも出遅れているのですぞ! より多く貨幣を手に入れるべきなのに、逆に減らしてどうするのです!」


「そうですぞ! 私は承服できません!」


「シンエデン貴族よ、静粛に!」


「うるさい! 呪われた民の分際で! うぬらの申し出、わが王国を馬鹿にしておるとしか言えん! シンエデンにも貨幣を寄越せ!」


「アタシーノ大公、陳述を」


「はい。税の支払いを貨幣だけと認めてくだされば、すぐにでも」


「うぬら、そのような世迷いごとを抜かしおって! マッツァの下げ渡しを取りやめにするぞ! それでも良いのか! 呪われた民なぞ、飢え死ぬぞ」


「私ども公国は一向に構いません。マッツァの下げ渡しも無いのでしたら、税を納める必要もございませんので、アタシーノ、セルフィン両公国民は全員、シンエデン王国から引き揚げさせて頂きます」


「うぬら! そのような事が許されると思うておるのか! 下賤の分際で!」


「どのような事を言われても私ども公国の決定は変わりません。それでは、早晩、シンエデン王国から引き揚げ致します」


「おい! パラダイスの! 中央エデンの! おぬしら、呪われた民にコケにされても構わんのか!」


「わしは貨幣を今以上に納めるのであれば、構わん。アルビノ人など居らずとも、わが王国民は優秀だからな」


「パラダイス王と同じく、わしの王国も構わん。貨幣がすべてじゃ。人頭税仕事なぞ、わしの王国にかかれば平民の片手間の仕事じゃ」


「おい! 呪われた民ども! このまま無事に帰れると思うなよ! 属国の分際で! ここで手打ちにしてくれるわ!」


「そのような事、許されるのですか? 宰相」


「いいえ、習わしによって、アルビノ人には武力を行使しないよう、取り決めがなされております」


「もし、その取り決めを破ったら、どうなるのでしょうか? 宰相」


「はい。どうにもなりませんが、王国に納められる税が減ると思われます」


「私たちアルビノ人は、ここでシンエデン王に殺されても王国の税が減るだけの存在。このような立場ではエデンで活動はできません。現在エデンで活動している全てのアタシーノ人とセルフィン人は、即刻全員公国へ戻します。そして全ての商売は廃止し、全ての税を納めることも廃止し、北部公国内へ籠らせていただきます。エデン人は呪われた地へ入ることもできませんから、何も問題はございませんね? お互い、最初から居なかったものとして、この世界で暮らして行きましょう。なお、今ここで私とセルフィン大公が国へ戻らなかった場合も、すぐさま同じように実行する手筈が整っておりますので、ご安心を」


「なんだと! そのような事は認められん! パラダイス王国はどうするのだ! 金も足りんと言うのに化粧水もまだ催促が続いておるのだぞ! マドレーヌも食えなくなるではないか! どいつもこいつも我が儘ばかり言いおって! 許さん!」


「朕の王国も、ようやく物資が行き渡って来たところだと言うに、今、そのような勝手をされては承服しかねる。今まで通りにせよ。命令じゃ」


「アタシーノ大公、陳述を」


「そうはおっしゃられましても、アルビノ人の身の安全が保障されなければ、無理でございます。曲がりなりにも私は大公、その大公ですら、王のご機嫌の如何によって命を奪われるとあっては、平民など、どうなるでしょうか。アルビノ人は誰もエデンには来なくなるでしょう。アルビノ人に、王国はもはや必要ではありません。私どもは、エデン人と争わず、関わりなく生きていくことが可能です。女神様は深い慈悲をアルビノ人に下さいました。アルビノ人の身の安全が保障されない限り、エデンには二度と足を踏み入れません。エデン人とアルビノ人は、これからは対等であると、ルールを明確にして周知徹底し、各国間で条約を結んで頂きたい」


「ぐぬぬ……」


「それでは司会の私から確認でございます。シンエデン王、そもそもアルビノ人を害することは長い間の取り決めにより、認められておりません。他の二王国も承服しかねるという事になれば、シンエデン王国だけの主張となり、さらに正当性が失われている状態です。如何なさいますか? このまま戦争でもなさるおつもりで?」


「ぐぬぬ……」


「私ども公国は、エデンの各王国にお認め頂かなくて結構でございます。セルフィン大公と北部へ戻らせて頂きます。それでは」


「ま、まあ待て! パラダイスはどうなる」


「そうだ! 朕はアルビノ人をエデン人と同じように認めようぞ! 貨幣を納め自由にするがよい」


「わしもだ! パラダイスも認め、アルビノ人の身の安全を保障し、金さえ払えば自由にしても構わん!」


「アタシーノ大公、陳述を」


「そう言われましても。ここでの口約束など、先ほどのシンエデン王のように簡単に反故にされてしまう可能性がありますから、信用できません。ここで明確なルールとして、出席貴族を証人とし、もし各王国がルール違反をした場合は、ルール違反をしたものに厳罰を与え、そして有無を言わさずアルビノ人は全員引きあげると周知徹底して頂きたい。エデン人とアルビノ人は対等。それでよろしいですか?」


「パラダイスは異存ない。パラダイス貴族で反対の者はいるか?」


「居りません!」


「中央エデンでも異存なしじゃ。誰か異議のあるものは居るか?」


「居りません!」


「では、パラダイス王国と中央エデンでは今まで通り商売をさせて頂き、お約束通り、全ての税を倍以上の貨幣でお支払い致します。シンエデンからは即刻」


「ま、待て!」


「シンエデン王、何かおっしゃりたいことがありますか?」


「……うむ、宰相。シンエデンでも了承する。人頭税も貨幣での支払いを認めよう。他の二王国と同じ扱いにせよ」


「よろしいので?」


「うむ」


「恐れ入ります! 少々お待ちください!」


「なんでしょうか、スローン大公」


「私の国には、何も恩恵がございません。同じアルビノ人ですが、女神とやらの慈悲など、何もございません。不公平ではないでしょうか」


「アタシーノ大公、スローンではこのように申していますが、それについては?」


「はい。何をもってして不公平なのかは良くわかりません。スローン公国でも、物を作って商売をすれば良いのではないでしょうか?」


「どうやって作れと言うんだ! お前ら、何をした! なぜ、お前らだけ服など作れるのだ! おかしいではないか!」


「スローン大公、言葉を控えるように。アタシーノ大公、どうですか?」


「はい。おかしいも何も、わが公国では十年以上に渡って研究し、祈り、研鑽し、努力をして来ました。スローンでも女神様がお慈悲を下さるように、女神様に祈れば良いのでは?」


「訳のわからんもんに祈って、服ができるか!」


「アタシーノ大公、陳述を」


「はい。では、どうすれば良いとお考えなのでしょう? 女神様に祈りもせず、努力もせず」


「努力なんぞはいくらでもできるわ! おぬしらができる事くらい、わがスローン人もできるに決まっておるだろうが!」


「それでは、この服を作るための綿花の種と、平民用の服を作るためのリネン草の種を融通して差し上げます。アタシーノ、セルフィン両公国民は人頭税から引きあげる事になりますので、後の事はスローン人に負担がかかるやも知れません。そのお礼として、繊維の種を先払い致します。その種で繊維を植え、服を作って商売をなさっては如何か」


「それなら良い。宰相、失礼いたしました。スローン公国も決定に従います」


「はい、それでは、アタシーノ、セルフィン両国を始めアルビノ人とエデン人は対等であり、アルビノ人の身の安全を保障し、これを犯した者については厳罰に処す事、その場合アルビノ人が北部へ引きあげる事もやむなし、という結論に達し、ここに各国間において条約を締結いたしました。各国おのおのそれぞれ、周知徹底をお願い致します。次回のエデン会議は…………」




***




――こうして、アタシーノ星において初の条約が結ばれた


――この条約という概念は新たに生じたものであったが、ミチイルが定めた事であるので、この星でも有効となった


――だが、この条約を正しく理解していたのは、会議出席者の中で、アタシーノ大公ただ独りだけであった




第一章 終わり

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