1-107 13歳になった
ホットドッグの販売が開始された。
予想通り、爆発的な売れ行きなんだって。毎日品切れ状態で、みんな懸命に増産に励んでいる。
そして、平民からはとうとう貨幣が消え失せたみたい。仕事をくれ、という平民がアルビノ村へ押しかけてきて大変なんだってさ、足軽さんちが。
混血の男爵家は全部、足軽傘下に入ったらしいよ。んで、セルフィンにも警備兼運送担当として派遣されているみたい。
そうではない下級貴族や中級貴族も、王家に貨幣をねだってね、王家は大変らしくて、とうとう各貴族が王家を介さずに直接公国から物を買うのを認めた。各貴族は今までも足軽さんちを通して闇購入はしていたみたいだけどね、公式に買い物が認められたの。だから王家は貴族たちに色々下賜するをやめてしまった事になるってさ。
大丈夫かな、王家。ま、今まで通りにマッツァとかは下賜しているだろうし、考えようによっては今まで通りではあるんだけどさ、王家の求心力が減ったよね、きっと。
何も変わらない生活を送っていれば、それで良かったけどさ、珍しいもの美味しいもの便利なものなんかがね、世界に流通しだしたから、知らなかった世界にはもう戻れない。知ってしまったら欲しくなるでしょ。現状は貨幣で公国から買うしかないんだもん。各貴族は手持ちの貨幣を使い込んで、堂々と買い物をしている。
貨幣の使い道は、今までは見せびらかす以外には無かったけど、いまじゃ欲しいものが買える手段だからね。でも、貴族の矜持としての見せ貨幣が減るのはね、どうなのかなと思ったりしたんだけど、貨幣って、見せびらかさなければ問題はないの。そりゃそうだよね、見せなきゃあるんだか無いんだかわからないんだもん。
だけどね、貴族の見栄の手段としては、傘下の使用人とか貴族とかの多さっていうのもあるんだね。でも、使用人や傘下の貴族たちも、貨幣を欲しがるからね、それを繋ぎ留めておくためにも中級貴族や上級貴族は貨幣を減らし続けているみたいよ。それで、貨幣をくれと矛先が王家に向かっているんだって。
でも王家はね、自分たちの利益を確保したい、というか自分たちの事しか考えてないからね、それで今まで下げ渡していた貨幣をケチり、化粧水なんかも下賜するのを止めた。物の下賜をやめたいから、各貴族が直接買い物をできるように認めたんだね。
何か、もう末期的な症状だよね!
で、僕は13歳になった。
もう、こどもでも大人でもない歳なのかな。僕はずっと大人以上の扱いを受けているから、何も変わらないんだけどね。
***
「さて、今日は長年の申し送り事項である、塩漬け案件を解消したいと思いまーす」
「待ちかねたぞよ、ミチイル」
「はいはい、ごめんね母上。ずっとバタバタしていたでしょ? ようやく落ち着いているからね、おもいっきり料理をしよう」
「もちろん、グラタンでしょう!」
「うん、ジョーンはまだ?」
「ええ、もうすぐ来ると思うわよ」
「お待たせしてすいません! ミチイル様、マリア様」
「ああ、忙しいのにごめんね、ジョーン」
「とんでもありません! それに、部下も育っていますので、わたしが居なくてもいろいろ大丈夫です!」
「そうよ、ミチイル。公国の民も成長しているのよ」
「そっか。僕も13歳だもんね。皆も歳をとっているもんね」
「公国人は、もう色々ベテランの域になっている民も多いですよ!」
「それはよかったよ。じゃ、今日はグラタンを作りまーす。まず、ジャガイモの皮を皮むき器魔法でペロンと向いて圧力鍋魔法で柔らかくしまーす。そしたら、ジャガイモの半分くらいの量の強力粉と卵適量、そして塩を少し加えて、キッチンロイド魔法で捏ねまーす。一塊になったらパスタマシーン魔法で細目の棒状に延ばし、さらに3cmくらいスライサー魔法で裁断しまーす。そうしたら、たっぷりの塩水で茹でまーす。茹で上がったらざるにあげてバターを絡めて置いておきまーす。これで、ジャガイモのニョッキの、完成です!」
「はい! ミチイル様!」
「どうぞ、ジョーン」
「はい! これは、イモダンゴとは違うものなのでしょうか?」
「いい質問です、ジョーン。これはイモダンゴとほとんど同じです。片栗粉などの代わりに強力粉と卵を使っていますので、イモダンゴのようにモチモチはしていませんが、弾力のあるパスタの一種です。スパゲティとはまた違ったものですね。これはグラタンの具になります」
「ありがとうございました」
「はい、では続いて、鶏もも肉を船盛魔法で一口大に切りまーす。タマネギをスライサー魔法で薄切りに、茹で大豆とニンニクは石臼魔法でペーストにしておきまーす。フライパンにバターをたっぷり溶かしたら、鶏もも肉を入れて炒めまーす。この時に、焦げ色が着かないように気をつけてくださーい。つづいてタマネギも加えて少し炒め、そこへ薄力粉を振るいながら入れて炒めまーす。ボソボソするようならバターを足して、滑らかな感じになるように調整してくださーい。粉気がなくなったら、鶏ガラスープを少しずつ入れて混ぜまーす。炒めた薄力粉が溶けたら、牛乳を入れてとろみをつけまーす。いい感じにとろみがついたら、茹で大豆とニンニクのペーストを加え、塩で味を調えまーす。ここでちょうどいい感じの味にしてくださーい。火を止めて生クリームを多めに入れて混ぜたら、具入りホワイトソースの、完成です!」
「はい! ミチイル様!」
「どうぞ、ジョーン」
「はい! クリームシチューと何が違うんでしょうか?」
「いい質問です、ジョーン。これはクリームシチューとほとんど同じです。しかし、バターが多く生クリームも使いますので、より濃厚です。とろみの粘度も高く、スープというよりは固形ですね。そして、具材を入れずに同じように作ったものはホワイトソースです。今回はグラタンにするので具も入れました。具を小麦粉と炒めて作る方が失敗しないのですが、ホワイトソースだけを作る時には、バターと小麦粉を炒めて牛乳で少しずつ溶きのばしていく感じです。だまになりやすいので少し難しいですよ」
「いま、ここで教えてもらえませんでしょうか?」
「いいでしょう。グラタンはもう残りの手順が少ないですからね。では、ホワイトソース二種類を作りましょう! まず、フライパンにバターを入れまーす。色を着けないように中火でバターを溶かしたら、そこへバターと同量の薄力粉を加えて味噌のようになるまで炒めまーす。これと同じものをもう一つ用意してくださーい。粉気がなくなり滑らかな状態になったこれを、ルーといいます。スープにとろみをつけるときに使用しまーす。火からおろしたフライパンのルーに、牛乳を少しずつ加えて、すかさず石臼魔法で混ぜまーす。これを繰り返して再度加熱をしたら、塩で味を調えて生クリームを入れて混ぜまーす。滑らかになったら、ホワイトソースの、完成です!」
「ミチイル様! このホワイトソースは何に使うのでしょうか?」
「はい、このままスープでのばせばクリームシチューにもなりますし、スパゲティに具材と一緒に混ぜればクリームスパゲティになります。もちろんグラタンにも使いますから、この後説明します」
「はい!」
「それでは、残っているもう一つのフライパンの方は加える牛乳の量を半分にしてくださーい。さ、牛乳の量を半分にした方のボッテリとしたホワイトソースに、茹でたトウモロコシの粒をたっぷり入れまーす。これをバットに延ばして、冷蔵庫で一晩おきまーす、が、今日はピッカリンコして一晩後にしちゃいまーす。一晩しっかり冷やすと、液体が固形のようになりますから、これを崩さないように刃物で小さく切りまーす。そして、これらをおにぎり魔法で小さく米俵の形にまとめたら、薄力粉と溶き卵とパン粉をつけて、油で揚げてフライにしまーす。中の具材はすべて加熱済みですから、高温でサッと茶色になるまで揚げてくださーい。油に入れた後は、浮かんでくるまでさわらないようにしてくださーい。カラリと揚がったら、コーンクリームコロッケの、完成です!」
「うわー、とてもまろやかな匂いがします!」
「ほんとうね! カツやフライよりも小ぶりだし、エレガントな見た目だわ!」
「はい、冷めてしまうと美味しくないので、これは一旦アイテムボックスに入れておきます。では、グラタンの続きをしまーす。ここに、グラタン専用の陶器の皿を用意しましたので、この皿に、最初に作ったニョッキを入れまーす。そしたら上にチーズをたっぷりかけまーす。その上から、具材入りのホワイトソースをニョッキとチーズが隠れるまで上から入れまーす。ホワイトソースの上に、バターを散らし、粉チーズをたっぷりかけてオーブンで半時くらい焼きまーす。そしてニョッキの代わりにご飯をグラタン皿に入れて、同じように焼きまーす。綺麗に焦げ目が着いてグツグツ言ったら、ニョッキグラタンと、ドリアの、完成です!」
「んまあ! 見た目は白いピザみたいだけれど、香りが全然違うわ!」
「ほんとうですね、マリア様。とても食欲をそそります!」
「うん、じゃあ、グリーンサラダと昆布スープもダイニングに運ぼう!」
***
「今日はグラタンもドリアも大皿で作ったからね、このサーバースプーンで各自、好きなだけ取り分けて食べてね。あ、お供えも。そして、先ほどのコーンクリームコロッケも出して、さあ、いただきまーす」
「いただきまーす」
「んまあ! グラタンをすくったら、チーズがトロトロ伸びて、しかも美味しそうな匂い! パク……うっ、熱いわ。でもまったり濃厚で味もまろやかでおいしいわね!」
「うん、ホワイトソース系ものもは地獄のように熱いからね、気をつけて~」
「ミチイル様! このコーンクリームコロッケは、とってもサクサクして濃厚なクリームの味との対比が面白いです! 美味しすぎて、給食では出せないかもしれません!」
「うん、今は何もつけていないけど、トマトのソースとかウスターソースをかけてたべても美味しいよ。ただ、これは熱々で食べないと美味しくないの。とても贅沢な料理だね。こういうのはカツとかフライじゃなくて、コロッケっていうんだよ。何が違うのかは僕にも良くわかんないの。でも、何かを潰したり成型したりしたものをパン粉で揚げるとコロッケっていう感じなのかな」
「ということは、ジャガイモを潰してまとめて同じようにすれば……!」
「うん、さっすがジョーン! いつも発想がすごいね~ ジャガイモで作ればポテトコロッケだし、カボチャで作ればカボチャコロッケになるよ。あ、小さいおにぎりで作ればライスコロッケかな。澱粉質なものをコロッケにするんだと思う。ポテトコロッケとかはね、ハンバーグ肉とみじん切りのタマネギなんかを少量混ぜて作ると美味しいんだよ」
「そ、それは! ジャガイモの世界が広がります!」
「ジョーンは本当にジャガイモが好きねえ」
「はい! ミチイル様の偉大な奇跡です! 昔からありますし、歴史と伝統がすごい野菜ですよ!」
「そういえばそうよねえ」
「ほんとだね、初期の野菜だもんね。思い返したら、随分食べ物も増えたね」
「ほんとうです! すべてミチイル様のおかげです! 奇跡です!」
「そうね、いまじゃエデンのやつらの吠え面かかせ始めているものね、毎日がメシウマよ!」
「まったく、母上と来たら……」
「さ、食事を続けましょう!」
「はい!」