1-100 ガラス
母上は、毎日楽しそうにバタバタしてる。
そうそう、料理刷毛魔法ができたからね、これで豚毛の歯ブラシを作ったの。刷毛を作る魔法とはいえ、お好みで形とか変えられるからね。そして、歯ブラシの大きさを大きくしてね、服のブラシと髪用のブラシも作ってね、そしてもちろん、料理刷毛も作ったよ。
髪を梳かすってのが無かったからね。まあ、髪が長くなりすぎた時には刃物で切ったりしているけど、髪に油をつけるようになるまで、パッサパサの髪が普通だったし。でも、やっぱりブラシで梳かすとね、全然違う! サラサラになるもん。おしゃれに興味がない僕でも、毎日ブラシで髪を梳かしているよ。
もちろん髪だけじゃなくて、重曹で歯磨きもしてる。いや~、やっぱりブラシで歯を磨くのは気持ちがいいよね! 小さいリネン布を濡らして磨いていたけどさ、比べ物にならないもんね!
それと、母上に少々プレゼントも用意したよ。
さ、サロンへGO!
***
「母上~ お待たせ~」
「ミチイル、待ちかねたぞよ!」
「もう、いつもの事ながら、ほんとにその表現どこから……あそこだった。ま、いいや。今日はね、緑茶にしよう!」
「緑茶? お番茶ではないの?」
「うん。まあ同じものだけどね、ちょっと洗練されているというか」
「お番茶よりも、茶葉が細いわね」
「うん。番茶は葉っぱを適当に集めたものでしょ? そして抹茶はごく小さい芽で、緑茶はね、芽ではないけど、若葉を集めたものなの。この若葉だけを集めて圧力鍋魔法で蒸して、その後は乾燥させるんだけどね、干物魔法をかけるときに、茶葉を揉んだり回したりしながら乾燥させるとね、緑茶になるんだよ」
「そうなのね。同じ椿の木から、お紅茶もお番茶もお抹茶も、そして緑茶もできるなんて、すごいわね!」
「ほんとだよね~ そして、今日のお菓子は、これです!」
「これは、おにぎりみたいだけれど……」
「うん、でもこれは米じゃなくて、小麦粉でできているの。その名も、まんじゅうです!」
「まんじゅう?」
「うん。小麦粉と重曹を水で練ってパン生地みたいにしてね、餡子を包んで蒸したものなんだよ」
「クンクン……ほんのりと温かい感じだわね。見た目は少し、シンプルだけれど」
「うん、手で持って食べてね。じゃあ、いただきまーす」
「はむ……まあ! 中にカボチャが入っているわ!」
「うん、カボチャあんパンの中身を少し水分減らしたものだよ。本当は小豆とかあるといいんだけどね、無いし」
「これはパンとはまた違って、柔らかいし小さいし、なにか上品な感じね。色は生成り色だけれど」
「あ、そういえば食紅で色付きのまんじゅうも作れるね、忘れてたよ」
「もうひとつ、おまんじゅうがあるわね。……はむ。あら、これは味噌ね!」
「うん、味噌のね、水分を減らしてから、同じ量の砂糖を混ぜたの。味噌あん、って言うんだよ。味噌がしょっぱいから、あんの量は少ないけどね」
「これも、とても素朴な味でいいわね。お茶もいただきましょう」
「うん、やっぱりまんじゅうには緑茶だよね」
「色がきれいな緑色ね……ズズ……まあ! これは風味は濃いけれど、とてもさっぱりしているし、香りもいいわね!」
「うん、番茶よりも高級だしね、貴婦人向けかな~」
「んまあ! それは聞き捨てならないわ! さっそく貴女会よ!」
「ハハ まんじゅうとかは和菓子っていうの。何が違うかって言えば、油分が少ない、もしくはゼロで、小麦粉よりもお米の原料の場合が多くてね、材料が少なくてシンプルなの。そして、和菓子には緑茶が合うんだよ」
「そうね、このおまんじゅうだと、お紅茶ではない気がするわ」
「うん。それでね、母上。今日は母上にプレゼントも用意しました!」
「あら? プレゼント?……献上品みたいなものなのかしら」
「ああ、贈り物とかないもんね。うん、献上といえばそうかも知れないけどね、身分とか関係なくものをあげたりするの。ま、その辺は深く考えなくてもいいよ~」
「そう。では、見せてもらえるかしら?」
「ジャーン! これです! これは、化粧水とかを入れるガラス瓶でーす」
「んまあ! とっってもエレガントな雰囲気よ! ステキ!」
「うん。母上が最近作っている化粧水ね、マヨネーズボトルに入っているけどさ、この化粧水ビンの方がおしゃれでしょ」
「ええ! とってもいいわ! この細くて少し高さがあって、コルクの栓も飛び出ていて可愛いわ!」
「うん、いいでしょ~ 母上のアトリエにたくさん用意しておいたから、自由に使ってね。数はたくさんできないかも知れないけど、生産の指示もしてあるから」
「いいわね! でも当面はわたしたちだけで使うだろうから、少量でも大丈夫よ。ガラスの器はまだまだ普及していないもの。それ以外におおっぴらには使わない方がいいものね」
「うん、そうだね。いずれ、温泉の脱衣場につけたようなガラス窓も使えるようになりたいよ。ま、今でも使おうと思えば使えるけどさ、この別邸だけガラス窓とか、権力の塊を誇示しているみたいでいやだもんね。脱衣所は中庭側だから、外からは見えないけど」
「そうね。使用人たちは当然知っているだろうけれど、ガラス窓は当面控えましょう」
「うん、それでね母上。もうひとつプレゼントがありまーす」
「うふふ 今度はなにかしら」
「じゃじゃーん!」
「んまあ! んまあ! こ、これは鏡、よね?」
「うん。いま母上の部屋についている鏡より、とってもキレイでしょ?」
「キレイなんてものじゃないわ! これに比べたら、お部屋の鏡は日没前よ!」
「ハハ うまいこと言うね~ 確かに銅をピカピカに磨いただけの鏡だからね、いままでの鏡は」
「でもこれは、真昼のように光っているわ!」
「うん。ガラス板の裏にね、ピカピカにした薄い銀の板を、密閉シーラー魔法で接着した鏡なの。それを丸く型抜き魔法で切り取って、木材に接着したんだよ。とってもキレイに映るでしょ?」
「ええ、とてもとてもステキよ! これは手で持って使う感じなのね?」
「うん、大きくもできるからね、後で母上の部屋の姿見も、サニタリーとかの鏡も全部、取り換えて置くよ」
「ありがとう! それで、その、この手で持つ鏡?」
「うん、手鏡ね」
「この手鏡を、あと二つ、いただけないかしら……カンナとジョーンにもあげたいの」
「うん、もちろん、もう用意してあるからね、今度の貴女会であげて~」
「まあ! 二人も喜ぶわよ~ 喜ぶ前に、カンナなんてびっくりして腰を抜かしちゃうかも知れないわね!」
「ハハ カンナが慌てるところなんて想像できないけど~」
「この鏡を見れば、さすがのカンナも驚くでしょうね。電球の時だってカンナなりに驚いていたもの」
「楽しみだね。それでね、母上。重曹の美容以外の使い方だけどね、まず、洗剤の……」
「……あら、そんなことも?」
「アハハ」
「うふふ」
***
あれから母上は、毎日鏡を見てうっとりし、化粧水のボトルを眺めては、うふふと笑っている。化粧水も自分で作っているみたいだしね、重曹やリンゴの酸を使った入浴剤・神の泉シリーズも使い出したから、どんどんキレイになっていくのが、毎日楽しいみたいね。
重曹は、問題なく生産が始まったからね、リンゴの酸を使わない重曹だけの入浴剤は、マヨネーズボトルに充填して神の泉シリーズの最下層ランクとして平民用に流通が始まった。公衆浴場では使えないけどね、福利厚生施設の小さな風呂で使っているみたい。そして歯ブラシも大量生産が始まったから、歯磨き剤としても重曹が使われ始めた。実は歯磨き剤は神の泉シリーズの最下層ランクと同じものなんだけどね。ちゃんと用途が分かれているのが、それらしくて、いいみたい。よくわからんね、どっちも同じ重曹なのにさ~
ま、母上も、民も、幸せそうで、僕もうれしいよ。
さて、今日は屋台を作ろう。
とりあえず、物販用の屋台でいいかな。貨幣経済じゃないから、今は売る訳ではないんだけどね。
平らな荷車の上に竹製の大きな茶箱部屋を載せる感じにしよう。
二畳分くらいの広さでいいかな~ 一番後ろ側にドアをつけて出入口にして、箱の片側の側面上部には開口部を設けて、外に少しはみ出した奥行の狭いカウンターを設置。この開口部には板戸を横滑り窓のタイプにして上部につけて、営業時には板戸を上にはね上げて棒でつっかえて開店。閉店時には閉じれば箱に戻る感じ。屋台の中は、左側が開口部のカウンターで、その上下に棚。反対側の右側は一面の棚。一番奥、先頭側には休憩と客待ち用にベンチ椅子と上部は収納スペースにしておこう。
あ、そうだ、この屋台箱の外側は、一面オレンジ色の食紅魔法で色をつけよう!
オレンジ色の屋台とか、目立つし、いい感じじゃない?
しかも、世界初の色付きカー! 話題になるに決まってるよね~
さ、後はこれを、牛が牽く荷車に取り付ければ移動式物販屋台の、完成です!
あ、牛もいいけどさ、人が引っ張れる小さいサイズのもあるといいよね、きっと。これは、四輪の荷台が平らなリアカーを発注しておかないとね。
さてさて、興に乗ってきたから、このままキッチンカーも作ってしまおう。
キッチンカーは、物販屋台のカウンター側に、収納スペースの代わりに魔石コンロを三つ設置。鉄板も作っておこう。うーん、魔石コンロは割と安全だけど、木造のキッチンカーだからなあ、一応、コンロの周りには薄い銅板を全面に貼りつけておこう。これでそうそう燃える心配もないでしょ、たぶん。
後は魔石コンロの下部には冷蔵庫、コンロ上部には収納スペースと、カウンターの反対側の対面壁は全部収納棚ね、そしてベンチ椅子。これらは物販屋台と同じ。
キッチンカーで料理を出すにしてもさ、使い捨ての容器の予定だし、洗い物もしないで戻ってから調理器具とか食洗機すればいいしね。売るものを限定すれば、水は要らないと思うんだ。まあ、まだ売る訳じゃないんだけどね。
ああ、これも小さくしてリアカータイプも作ろうかな。こっちはコンロは一つだけにしよう。
さて、物販屋台の大小と、キッチンカーの大小の、箱部分は完成したから、アイテムボックスへしまって、荷台部分は北部工業団地に発注だ!