1-99 最重要で極秘
うーん、この世界に泥とかあるのかなあ。
川も少ないし、北部は乾燥しているからね、泥の状態では存在していないかも知れない。
うーん、モンモラリルレなんとかはさ、結局は多孔質っていうか、そんな感じなのがウリだよねえ。活性土?とかなんとか。ということは、活性炭みたいに穴がたくさん開いていればいいんだからさ、結局竹炭でいいんじゃないかなぁ。竹炭魔法を使うときに、穴がたくさん!みたいなイメージで行けそう。
うん、そうしよう。
あ、でも一応お取り寄せはしてみよう。
「お取り寄せスキルで、モンモナントカライト!」
…………
「いや、そもそも名前もわかんないじゃん。顔を洗える泥……いやいや、仮に泥が届いたとしてもさ、どこの泥かわかんないと、僕のスキル以外で採取できないじゃんね……そう言えば、漆喰はあるんだよね。石ブロックを建築に使うときに、普通に使ってるもんね、僕以外は。ということは、何かの機能をもった魔石とか金属じゃない石もあるって事でしょ?」
『はい、救い主様』
「ああ、アイちゃん。あのさ、この世界は何にも無いけどさ、漆喰があるってことは、石灰石はある訳でしょ? 海に貝とかいないみたいだけどさ、石灰石があるのは変じゃないかなぁ?」
『本来は貝などを作る予定でカルシウム系の原料を用意していたと思われます。しかし、あの女神は拠所無い事情により結局使わなかったので、適当な石となったのではないでしょうか。私めには判りかねます』
「ということは、この世界に無いと思われるものでも、実はある可能性もあるんだね? サンゴの化石とかも無さそうなのに石灰石があるように」
『左様でございます』
「じゃあ、重曹もあるかも知れないね。確かアメリカとかの重曹は、なんか色々生成しなくても、水に粉をといて再結晶化とかするだけで重曹になったはず。よし、とりあえず試してみよう『お取り寄せスキルで重曹になるもの』 どうぞ!」
ピッカリンコ ゴロンゴロンゴロン
「お! 来た来た! これが重曹石?かあ。うーん、北部工業団地に一個送ってみて、これと同じ石がないかどうか、確認してもらおう。アイちゃん、ありがと」
『救い主様の、御心のままに』
***
結局、泥をお試しスキルするの忘れちゃった。でも、もっと役に立つものが見つかったからいいよね~ とりあえず、母上には数日待ってもらって、北部工業団地に確認してもらったら、普通に石切り場で採れる石らしい。石灰石みたいに白い石だけど、漆喰には使えないからゴミ石なんだって。石灰石と間違って切り出さないように、職人が最初に学ぶ事なんだってさ! そうか、そう言えば前に色々資源を集めてもらった時は、北の方で集めてもらったから、石切り場の辺りは範囲外になっちゃってたんだね……重曹が見つからなかったのは、僕のせいだったわ。ま、重曹だと知らなければ、この石を見ても僕も気づかなかったかも知れないけどね。
ま、とにかく重曹は手に入ることになった。モンモンライトは無かったけどさ、竹炭とかで代用できるし、重曹の方がずっとずっと役にたつもん。これで、お菓子や料理の幅が広がるよ! ラーメンも作れるし! それに、重曹は美容にも使えるからね!
ということで、重曹の石は資源として集めてもらい、抽出魔法で重曹だけ抽出できるように頑張ってもらおう。もしくは、石を粉にして水にさらして上澄みを乾燥させて結晶を取り出してもらおう。どっちにしても、重曹が使えるようになった。
さて、ベーキングパウダーではないけど、重曹があるんだから、気をつければお菓子に使える。重曹だと焦げ色が強く付いたり、アントシアニン系の色のものに使うと、とんでもない色になっちゃったりするから、何にでも使える訳じゃないけどね。
でも、パンケーキとか、ソーダブレッドとかさ、あ、重曹使えば卵を減らせるじゃん。今は卵の力でお菓子を膨らませているからね。でも、卵減らしても重曹を使えば、普通に焼き菓子できるもんね。コストカットもできるしさ、エデンに出すスイーツにぴったりじゃないかな。
ジョーンに教えておこう。
あ、炭酸水とかも作れちゃうけど……塩分取り過ぎになっちゃうから、やめとこうかな。
洗濯に使う……まあ、魔法があるけどね、洗剤代わりにも使えると思う。
後は……あ、肉まんとかさ、いいんじゃないかな。本当はイーストで発酵させるんだけどさ、時間かかるし面倒くさいでしょ。でも重曹使っちゃえば、さっさと蒸して作れるしね。
そういえば、中華料理、ほとんど広めてないな……そうそう、ごま油が無いからね。ごま油じゃないと中華っぽさが無くなっちゃうもん。エビとかも無いしさ。女神様は中華料理は好きじゃなかったのかもね。
でも、とりあえず、肉まんとラーメンは広めよう。
後は、何に使おうかな~
あ、銀を磨いたり? いや、銀食器も銀のアクセサリーも無いしねえ……
…………
「ねえ、ちょっとミチイル~」
「あ、母上、どうしたの?」
「どうしたの? じゃないわよ。わたし、ずっと待っているのだけれど」
「あ、じゃあ、今日はグラタンにする~?」
「いいわね! いや、そうではなくて、公国最重要極秘美容会議はいつするのかって事なのだけれど?」
「ああ、決して忘れていた訳じゃないんだよ! そろそろ! そろそろと思ってたんだ! ちょうど良かったよ、母上。今から会議しよう!」
「なにか、あやしいほどテンション高いわね、ミチイル」
「ハハ なんで棒読みなのかなぁ~ さ、サロンへ行く?」
「行きましょう!」
***
「あら、ミチイル、キッチンで何か作ってくれていたのかしら?」
「うん、重曹が手に入ったからね」
「重曹? なにか作った割には、出来るのが早いわねえ、何か手軽に作れるお菓子なのかしら」
「うん、僕なら数分だけど、他の人が作っても、そんなに時間かからないよ」
「まあ、何かしら……見た目は割と素朴、というか地味、というかババ臭い?」
「また、そんな言葉を使ってはいけません! 簡単だし見た目も地味だけど、サクサクして美味しいよ。これはね、カルメ焼きって言うの」
「そうなのね……薄茶色でモコモコしているように見えるけれど」
「うん。本当はもう少し大きいんだけどね、エレガントな母上に合わせてスキルで小さくしてみたの」
「んまあ、さすがわたしのミチイルね! じゃ、お茶と一緒に、いただきましょう!」
「うん。サクサク」
「まあ、サクッとしているけれど、とても甘いわ! でも口の中であっという間にとけちゃう。なにか香ばしい感じもするわね」
「うん。原材料は砂糖だけだけどね。でも重曹が無いとできないお菓子なの。それで、重曹が手に入ったからね、早速作ってみたんだよ」
「まあ! もしかして、その重曹を使った初めてのお菓子なのかしら?」
「うん、そうだよ。カルメ焼きはね、サクサクとかカリカリとした食感だけどね、口に入れてしまえば溶けていくの。だから、子供でも年寄りでも危険もなくて食べやすいんだよ」
「そうなのね、とてもやさしいお菓子なのね!」
「うん。それでね、母上。この重曹なんだけどね、スイーツにも料理にも使えるんだけど、美容にも使えるんだよ」
「はい! ミチイル様!」
「ハハ なんでジョーンの真似をするのさ~ なんか雰囲気出てるけど~」
「ふふ、ジョーンの気持ちがわかったわ。だって、早く聞きたくて仕方がないのですもの」
「ハハ まずはね、お風呂に入れるの。竹炭と同じく外の温泉だと湯が流れてるから効果がなくなっちゃうけど、サニタリーのお風呂なら溜め湯だからね。お風呂に入れるとね、アルカリ性だから皮膚の汚れなんかも浮かせて綺麗にしてくれるの。お肌が柔らかくなってね、炭酸ガスも出るからね、炭酸泉みたいな効果があるんだよ。そうそう、リンゴから取った酸の粉と一緒にお風呂に入れるとね、濃度たっぷり炭酸泉そのものになってね、美容に効果が高いお風呂になるんだよ。ぬるい炭酸泉にゆっくり浸かればね、血行が良くなって肌の新陳代謝が良くなって、肌がきれいになるし、肩こりとか疲れも取れる。そして炭酸の泡が毛穴から老廃物を出してくれたり、肌を生まれ変わらせてくれる感じだね。ま、重曹だけ入れても似たような効果がたぶんあると思うけど」
「……ぷる……」
「後はね、重曹で歯を磨くの。いまは何もつけずにリネンの布で磨いているでしょ? その時に重曹をつけるとね、歯が綺麗になるよ。紅茶を飲むようになったからね、歯に色が着いちゃったりするんだよね、ステイン汚れっていうのかな。あ、でも、まともな鏡とかないから、自分では気にならないよね~ それに、歯磨きに重曹使いすぎると知覚過敏になっちゃうけどさ、この世界じゃ心配無さそう。あ、豚毛で歯ブラシとか作れないかな……いや、そもそもブラシが無いもんね。いや、ブラシどころか卵塗ったりする料理刷毛すら」
***
――ピロン 料理刷毛魔法が使えるようになりました。毛があれば刷毛が思いのままです
***
「……ぷる……ぷるぷる」
「ん? ぷる? 母上、どうしたの? 大丈夫? ぷるぷるしてるけど」
「んもーーう! ミチイルったら、そんな公国最重要極秘美容の革命が起きているんだったら、なぜもっと早くいわないの!」
「えっと、何の話?」
「決まっているでしょう! ひとたび浸かれば赤子のように変身できる神泉の素の事よ!」
「しんせんのもと」
「そうよ! そんな素晴らしいお風呂になるなんて、神の泉ではなくてなんだというの!」
「ああ、まあ、石切り場でたくさんあるらしいからね、そのうち捨てるほど出来てくるから、楽しみに待っててね」
「何日くらい待てばいいのかしら!」
「うーん、わかんない。抽出ができなくても、石を粉にして水に溶かして再結晶化すればいいんだから、粉にするのと乾燥するのは魔法が使えるし、まあ、一週間もあれば少しはできるんじゃないかなあ」
「そんなに待てないわ!」
「うーん、じゃ、お取り寄せした石がまだ一つあるし、お風呂数回分くらいの重曹になると思うから、後で重曹あげるね」
「んまあ! さすがわたしのミチイルね! 大好きよ!」
「ハハ じゃ、美容以外の使い方は、また今度ね」
「ええ! お茶の続きを飲みましょう! 今日は、なんて素晴らしい日なのかしら!」