表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
103/237

1-97 マリアの勘

「このイモダンゴは、とても良いお味ね、ジョーン」


「はい! 今日は揚げたイモダンゴに、お好みソースを絡めて、マヨネーズをちょんとトッピングしてみました!」


「誠に、お好みソースは美味しゅうございますね、マリア様」


「ええ。トロっとしていて、甘くて、とても美味しいわ!」


「はい! 半熟に焼き上げた目玉焼きにかけて、黄身と混ぜて食べると絶品です!」


「それは美味しそうね。それで、これは例の?」


「はい! ポテトチップスです!」


「では、一枚頂いてみようかしら。……カリ……カリカリ……カリカリカリ……! んまあ! 止まらないのだけれど!」


「誠でございますね、マリア様。少々硬とうございますが、婆のわたくしでも大変に美味しゅうございます。番茶と相性がようございますね」


「そうなんですよ! お義母様」


「これは、ミチイルがエデンにバラまこうとするのも、わかる気がするわ……中毒性があるわね」


「はい……食べ過ぎると、体がタルタルになってしまうそうです……」


「なんですって! 食べ過ぎは良くないとは言っていたけれど、タルタルだなんて!」


「婆のわたくしも、頂き過ぎないように用心致しませんと」


「でも、食べ過ぎてはいけないと言われると、もっと食べたくなってしまうから、とても困るわねえ」


「本当です……」


「ふふ、ジョーンはジャガイモが大好きだものね」


「はい!」


「それはそうとマリア様。エデンでの計画は順調なのでございましょうか?」


「ええ、ものすごく順調だそうよ。お兄様の話では、ミチイルが言った通りになってきているんですって。さすが救い主様、先の事までお見通しだ、と言ってね、毎日ウキウキしているわ」


「はい、うちのジェイコブも毎日忙しくしていますけど、楽しそうです。エデンの吠え面が早く見たいそうで……」


「ああ、新セバスね。あの二人も同い年ですものね、お父様とジェームズと同じようなものでしょうし」


「誠でございますね、マリア様。ジェームズも、ご老公様とご一緒に居る方が、わたくしと居るよりも長いくらいでございますから」


「そうよねえ。当主と執事ですものね、もしかしたら、嫁よりもつながりが深いのかも知れないわね」


「はい! わたしも夫に振り回されずに仕事に打ち込めるので、とても助かります!」


「これ、ジョーン。そのような事を口にしてはいけませんよ。……ですが、わたくしも全く同感でございます」


「ふふ、二人とも、働く女性の筆頭ですものね。……お父様たちはセルフィンでちゃんとやっているのかしら」


「ジェームズからの伝言では、セルフィンの暮らしも日に日に良くなって来ているそうでございます。民も飢えることが無くなったとか」


「はい! さすがにスイーツはまだ作れないみたいですけど、料理に関しては色々広まっているようです! 調味料の輸出が減ってきていますので、向こうでも色々作られているんじゃないかと思います!」


「あら、随分早いじゃない」


「はい! セルフィンは海がないので、マヨネーズボトルや鰹節とか昆布とかは作れませんけど、少なくとも味噌や醤油なんかは作り始めている感じです!」


「セルフィンはお米がメインだものね、味噌や醤油や味醂は欲しがる民も多いでしょうね」


「誠でございますね、マリア様。ご飯と醤油や味醂は大変に相性がようございますし、ご飯に味噌汁の取り合わせも、これ以上なく素晴らしいものでございます」


「本当です! ご飯とお肉とお野菜さえ食べれば、栄養のバランスも整うとミチイル様がおっしゃっていますし、もうセルフィンの心配は必要ないかも知れません!」


「お姉様も一安心なさったかしらね。セルフィン大公の影が薄いけれど、お姉様さえいれば問題も無いでしょうし」


「誠でございますね、マリア様。メアリ様は、男に生まれなかったのが惜しいと言われるほどの女傑でございますから」


「そうですね! とても無慈悲ですし!」


「これ、ジョーン。失礼過ぎますよ」


「いいのよ、カンナ。事実ですもの。今はお兄様がはりきっているけれど、本当ならお姉様向きの策謀よ。お姉様なら高笑いして王室を引っ掻き回すに違いないわ」


「わたしもそう思います!」


「これ! ……正直を申し上げますと、憚りながら、わたくしも少々だけ……同意せざるを得ませんと言わざるを得ませんけれど」


「ふふ、何やら言葉がおかしくなっているわよ、カンナ。でも、事実なんだから仕方がないわね! それはそうと、エデンに出す服の進捗状況はどうかしら?」


「はい、マリア様。作務衣は全く何の障りもございません。ミチイル様からご指示を頂いた分は、既に用意が整っております。今は、作務衣以外を作成している所でございます」


「さすがカンナね! 抜かりも無いわ。ジョーンはどうかしら?」


「はい! 日持ちのする焼き菓子だけですし、バターが不足気味になりそうな気配はありましたけど、ミチイル様のご指示で動物の脂を精白してバターと混ぜて使うようになりましたから、それも問題ないです!」


「まあ、動物の脂と言えば、牛とか豚とかのギラギラした肉の脂よね? たしか荷車とかにも使われているという」


「はい! そうなんですけど、きちんと精白すれば、真っ白で何の臭みも無い脂になりますし、そもそもバターも牛の脂、ですので」


「まあ、そう言われてみればそうよね。なんかそう聞いちゃうと美味しさが減るような気分になってくるけれど」


「気分としてはそうなんですけど、味としては、バターだけよりも少しだけ風味が少なくなる感じですから、公国民ですら気づくかどうか、な感じです!」


「それでございましたら、今まで食べつけていないエデンの民には気づかれないのではございませんでしょうか、マリア様」


「そうね、そうかも知れないわね。なんにせよ、問題がないなら結構なことよ。エデンのやつらが公国より質の落ちたものを欲しがっているかと思うと、なんだか楽しくなってきてしまうわ!」


「本当です! 今まで何百年も、さんざんアルビノ人を虐げて来たんですから!」


「誠でございますね。しかし今や、幾百年もの祈りが女神様に届き、このように救い主様をお遣わし下さったのですから、救い主様の治世が実現されるようにしなければなりません」


「ええ。でも、もうそこまで来ているのではないかしら。ミチイルの言った通りに、アルビノ人の人頭税が減って来たそうよ。足軽運送も石畳を敷き始めたって言うし、平民にもクッキーの存在が話題にもなってきているという話だわ」


「はい! 焼き菓子の種類もいっぺんに増えましたから、全部コンプリートするのは、かなり大変だと思います!」


「そうね、やっぱり全部、食べてみたいと思うわよねえ。そうすると、ますます需要が高まるわ。噂が噂を呼んでいるのですもの。まだパラダイスだけの今のうちに、後の事も考えなくてはね」


「マリア様、後の事とは何でございましょう」


「ええ、わたしにもできることがあるのよ。ミチイルがね、皆が欲しがれば価値は高くなるって言ってたのだもの。それなら、皆が欲しくなるような服を、わたしが生み出すわ! いまはまだ秘密裏に行動する時期だけれど、そのうちパラダイスだけではなくて、他の王国にも進出するはずよ。その時は、わたしが、わたしの服で世界の度肝を抜いてやるわ!」


「マリア様は今でも十分にステキな服を着てらっしゃいます!」


「誠に。白い布地が出来てからと言うもの、染色してもはっきりとした色のままですし、高級布は手触りもギャザーの寄り方も、とても洗練されております。正に貴婦人の羨望の的となりましょう」


「そうよね。わたしもそう思うのよ。ドレスとかはその方向でいいのだけれど、わたし、ミチイルは他にも何か、ステキなものを知っているのではないかと思っているの。椿シリーズだって、今から何年も前なのよ? あれから国も何も色々変わったのだもの、椿シリーズが今のままで良い訳が無いわ!」


「それはステキです! いったいどんなものがあるんでしょうか!」


「ミチイル様は、さぞかし皆が驚くようなものを生み出されるに違いありません。この婆も、若返っていると過分な評価を頂く始末。もし、公国中の女が皆、美しくなりましたら……」


「世界中がうらやましがるに違いないわ!」


「そうしたら、アルビノ人の価値がさらに上がりますね!」


「そうね、そうなるに違いないわ! これはわたしの我が儘じゃないのよ、ミチイルの治世のためよね!」


「はい!」


「誠に左様でございます」




***




――ミチイルに幸あれ




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ