1-94 黒計画
「うん。でね、僕の計画は、まず伯父上がエデン会議でパラダイスの王と会った時に、税とは別だと言って、他の王国にバレないように、パラダイス王だけにプレゼントを渡して欲しいの」
「何をあげる予定なのかしら?」
「うん、まずは作務衣。色なしの普通の綿でできたエデン貴族用作務衣ね。この度、新しい服ができまして、と言って渡すの。エデンでは全員、まだ布巻なんでしょ?」
「はい。王族含め、全員が昔ながらの原始人生活をしています」
「そこで、王族が他とは違う特別な服を纏うと、結果として王家の権威が上がる。そうすると、他の貴族も欲しくなる。でも、公国としては王家に献上したものだし、この世界の制度上、公国に各貴族が直接命令することはできない。すると、王族が各貴族から突き上げをくらう。税として王国に納めている全てのものは、王室にいったん入ってから、王室が下々に配布する訳でしょ。王家以外の貴族は、自分たちも服が欲しいだろうから王家に願うしかない訳ね。そうすると、王家がもっと服を寄越せと言ってくる。でも、本来のルールとしては、パラダイスだけ我が儘は言えない訳でしょ? そこで、他の王国には内緒ですよ、他の王国からも同じことを言われたら、パラダイスの分が減りますし、と言って、パラダイス王家にさらに服を献上するんだけど、特別な服で数を作るのには人が必要だから、人頭税を少しだけ減らしてくれるなら、もっと服を献上できます、と言うの」
「すごいわ! それで人頭税が減るかも知れないのね」
「うん。そしてね、服と同時にスイーツも王族に献上する。クッキーとパウンドケーキとマドレーヌね。マドレーヌをメインにするけど」
「そうすると、服と同じ事がスイーツでも起きる訳ですね」
「うん、伯父上。そして、人頭税をもう少しだけ減らしてくれるなら、と繰り返す。これは伯父上が王族と駆け引きをする必要があるからね、伯父上の采配しだいで成功するかどうかが決まるの」
「あら、お兄様、大丈夫かしら」
「大丈夫、とは言い切れないけどね、王国を手玉に取るのも面白そうだね。仮に失敗しても、服とスイーツを税として献上すれば問題なさそうだし」
「うん、この世界で価値のあるものは全部、アルビノ人が作っているんだもんね。何を言われても無いものはないしね、モノの作り方だってエデン人は知らないだろうし、どんな材料がどのくらい必要かも知らないだろうし、どのくらいの労力が必要かも知らないし、結局こっちのいう事を聞くしかない。それでももし、パラダイスをうまく転がせなかったら、その時は同じようにして他の王国も巻き込もう」
「ふふ なんだか、面白そうね」
「ええ。悪くても現状維持でしょうしね、最悪、別に交渉などせずとも、全員公国へ引き上げたとしても問題ありませんし」
「うん、そうなの。要は食べ物に不自由をしなければ、公国は自由なんだよ。そして、その自由は既に手に入れているの」
「まあ! 飢えが無いってことは、可能性が広がるものでもあるのね。幸せがどんどん大きくなっていくようだわ!」
「そして、公国とやりとりしている貴族、足軽運送?にも、同じように服とスイーツを、王家よりは格を落として少なめに流す。これは、いつもお世話になっています、新しいものができたので試してみてください、と言って渡すの。あくまで善意としてね。そしたら、美味しかった、とか、服はもっと無いのか、と言われると思うから、そうしたらまた、どうぞ試してみて感想を聞かせてくださいと言って、さらに少し渡す。それを続けているとね、足軽さんたちが王族と似たようなものを着ている、食べているようだと噂が広がるでしょ? じゃあ自分たちだって、となる。でも、自分たちが王室を超えて、公国に命令をすることはできない。じゃあ、王室に願おう、となって、王室への突き上げがさらに加速する」
「ミチイルが黒い、黒すぎるわ!」
「ハハ それでも、思うようには手に入らない。なにせ流通量が少ないからね。そうすると、身分の高めの貴族から足軽運送さんへ圧力がかかる。困った足軽運送さんは、仕方がないから自分たちの物を差し出す。でも、差し出すものが無くなったら、もうどうにもできないでしょ。そうすると、公国へ泣きついてくる。命令はできないけど、何か他の方法で、服とスイーツが手に入れられないだろうか、と。そうしたら、アルビノ人が王国で行っている仕事を肩代わりしてくれるなら、対価として渡しても良い。入れ替わりに王国から引きあげたアルビノ人が公国に帰って服とスイーツを作れるから、その分を渡すことが可能だと大公家が言っていると伝える。迷った足軽運送さんは、結局それを受け入れる」
「ハハハ なんだか楽しくなってきました」
「でも、その頃には、公国の人頭税は減っている可能性があるでしょ。もう肩代わりしてもらうような仕事が少なくなっていれば、足軽運送さんはやれる仕事が無くて、結局思うように服とスイーツが手に入らない。何とかならないでしょうか? と言ってきたら、じゃあ、石は用意しますから、南村から王都まで石畳で街道を敷いてください、と言って仕事をさせる。仕事の対価として服とスイーツを、今度はたくさん渡す。で、街道を敷き終わったら、また何か仕事はないか、と言ってくる。では、わたしたちが荷車を使うのを黙認してもらえませんか?と持ち掛ける。黙っていてくれるなら、毎月これこれこれだけ服を差し上げます、と言うの。スイーツは無しね。足軽さんとしては、黙っているだけで服が定期的に貰えるしね、そもそも荷車だってアルビノ人が作っているんだから、エデン人に手間暇がかかる訳じゃない。何もせずとも服が貰えるんだもん。この話に乗ってくるんじゃないかな」
「それでそれで? 早く続きが聞きたいわ!」
「それで足軽さんは、服は手に入るようになっても、今度はスイーツが欲しくなる。仮に足軽さんが腹黒だとするでしょ? そうすると、荷車をコッソリ使っている事を王家にチクるぞ、と脅してスイーツを手に入れようとする。でも、そもそも王家だって欲しい訳でしょ? 逆にお前たちがもっと働いて服とスイーツを手に入れ、王家に献上せよ、と言われちゃう。他の貴族にチクっても同じ、というかむしろ王家以外では足軽さんが一番、服もスイーツもある訳なんだから、逆に妬まれている可能性が高いし。そしてもし、足軽さんが武力に訴えるようなら、公国人はすべて公国に引きあげ、王家には、もう二度と服とスイーツは献上致しません、と言う。そしたら、足軽さんは全貴族から御叱りを受ける訳。だから、足軽さんは腹黒な方法は使えないの」
「ミチイル様、続きを是非」
「ハハ とするとね、普通に色々仕事をしますからスイーツくれ、って事になるでしょ、そうしたら、王都に工場を建ててあげるから、そこで職人仕事をしてください、というの。南村と王都の間の運送は、全部すべて公国が行いますから、足軽さんは王都で仕事をする以外、一切なにもせずとも結構ですよ、仮に職人仕事がうまく行かなくても、勤務に応じてスイーツは渡しますので、と言うのね。向こうは話に乗るしかない上、運送もしなくていいんだもん、二つ返事で喜ぶはず。そうすれば、エデン人が森林地帯に来なくなるから、大手を振って公国と王都近くまで、公国が牛運送を使いたい放題にできる。その時には石畳は敷かれているんだからコーチも運行すれば、王都で暮らさず、南村から王都まで通勤も可能かも知れない」
「それは、……世界が変わるかも知れません」
「そして、今まで何にもしていなかったエデン人が職人仕事なんてできる訳がないからね、家具とかは今まで通り公国から、今度は公国人が運ぶの。運ぶ先はもちろん、王都に建てた工場にするのね。要するに、南村の交換所を王都に作っちゃうって事なの。そして、エデン人が仕事をできてもできなくても、エデン人が働いて税仕事を肩代わりしているっていうアリバイが大切なの」
「……ミチイルがミチイルじゃないみたいよ……」
「それでね、王室からは、これ以上、人頭税を減らすと物が手に入らなくなってしまう、と言われる頃になっているはずだから、そしたら、いやいや、お宅の足軽さんが頑張って職人仕事をしているようですよ、と教えてあげる。すると、な~んだ、エデン人でも仕事ができるじゃないか、じゃあアルビノ人の人頭税は最低限まで減らしても大丈夫だ、その代わり、服とスイーツをもっと多く納入させよう、となる。そして、しばらくはそれを継続する、って感じ」
「もう、今すぐにでも実行に移したい気分です」
「そうね、なかなか黒いけど、そうなったら楽しいわね、逆に!」
「そして王家と足軽さんにアクションを起こすのと同時進行で、今、人頭税でエデンにいる人たちにも、作務衣を着始めてもらう。これは平民用のね。そして、スイーツも、王国の平民の知り合いとかにクッキーを、内緒ですよ、と言って渡して、王国中にバラまいてもらう。そういう先があれば、の話だけど。そうして、平民達にも多少、噂が広まるようにしておく。もし、エデン民に何かを言われたりしたら、すぐさま公国へ帰るように厳命しておいてね。身の危険があったら困るし、これは希望者だけ行った方がいいかな。それでね、ちょっとでも揉め事の気配があったら、ルール違反と言って、ぞくぞく公国へ引きあげるの。そうするとね、王家とか、王都を管理している貴族?とかが、平民を取り締まる?かなんかしてね、結果として平民はさらに不満が募る。結果的には不満の矛先が王家に向かうんじゃないかと思うんだよね。ま、王家に向かわなくても、公国民が引きあげる理由ができるかも知れないし、そうならないかも知れないけどね、一応、おまけとして平民にもバラまければいいかな」
「それは、実行者と実行先を厳選して行うようにしましょう」
「うん。まあ、平民が大人しくて揉め事を起こさず普通に、クッキーが欲しいと言ってきたら、仕事をすれば対価としてあげますよ、といえばいい。後は足軽さんと同じだね。要するにね、王国の上層部と下層部に服とスイーツを広げるとね、多数の中間の人に不満がたまるの。そうすると、上にも下にも不満の矛先が向くんだ。今回の計画の場合は、王家と足軽さんね。そうするとね、結果として、需要が高くなるからね、服とスイーツの価値が高まって、それの価値が高まるとね、それを作れるアルビノ人の価値も高くなるって話。最低でも二面作戦、うまく行けば三面作戦だね」
「……ミチイル……恐ろしい子!」
「ハハ なんかモヤっとするけど、まあいいや~ こんな感じの計画が、第一弾なの。何かわからないところあった?」
「私は何もありません。もう今すぐ実行したいです」
「わたしも何もないわ。服とスイーツの生産体制は、ミチイルが既に指示してたでしょう? 後はもう、製品ができて、お兄様がエデン会議でうまくやるだけよ!」
「そうだね、製品はすぐできそうだったね。最初は数も絞って出すし、足りなくはならないと思うよ。で、次のエデン会議はいつなの? 伯父上」
「次に金星が見えた時です」
「じゃあ、その時までに、各自、何か気づいたらまた会議するという事で、伯父上も準備しておいてね」
「わかりました」
「とっても楽しみね!」
***
――そして、ミチイルは12歳となった