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1-10 ようやく始動

「あらまあ、これは食べられるものなのかしら?」


「……うん、大丈夫……だと思う~ ジョーン、竈に火を起こせるかなぁ?」


「はい、ちょうどスープを作る準備をするところでしたので、今すぐ火を起こします」




***




ジョーンが、竈のクズ薪に草の繊維みたいなモジャモジャをセットし、火打石を打ち付けると、繊維に火がつく。


こんな風に火をつけるのね、と思っていたら、またまたデジャヴなモヤモヤが……


あれよと言う間に竈に火が熾る。


もはや何も言うまい。




***




「それじゃ、マッツァを焼く時みたいにして、発酵したこれを焼いてみて~」


「はい。では鉄板を使います。マッツァはこのくらいの量で大丈夫ですか?」


「うん。丸く広げるようにしてね」




***




鉄板の上に広がった生地は、ホットケーキとかナンのように膨らんできて、とても良い感じ。




***




「じゃ、そろそろひっくり返してくれる?」




***




油も敷いていないけど、マッツァは完全栄養食だから、人間の体に必要な油分が含まれている感じなのだろう。問題なく焼けてきている。いい色だ。




***




「あら、なんか美味しそうな匂いがするわね」


「うん。今までの焼マッツァよりは多分美味しいと思うよ~」


「ミチイル様、焼けました」


「ありがとう。まず母上、ちぎって食べてみて~」


「ミチイル様、とても熱いので、切り分けた方が……」




***




焼きあがったマッツァナンをジョーンに一口大に切り分けてもらう。




***




「これは、随分と厚みがあって、ふわふわしているわね。匂いもなんか独特な香ばしい匂いだし。もぐっ、まぁ! なんておいしいのかしら!」


「うん、これは大成功だと思う。(まるっきりナンだ)」


「ジョーンも食べてごらんなさいな」


「はい。もぐっ。 !!!」


「どうかしら? とても美味しいと思うのだけれど」


「はい。このようなものは一度も食べたことがありません。とてもふわふわしていますが弾力もありますし、使用したマッツァ粉もいつものマッツァ焼の時とさほど変わっていないのに、これはとても量が増えて焼きあがって……もしかしたら腹持ちも良いのではないでしょうか」


「どうかなぁ、使っている粉の量が変わらないなら、次にお腹が空いてくるまでの時間は同じかも知れない。けど、食事をしたあとは、お腹いっぱいに感じると思うよ」


「それだけでも素晴らしいわ! ジョーン、とりあえず残りのこれをお父様にも持って行ってくれないかしら?」


「ジョーン、お祖父さまのところから戻ってきたら、残りのこれも焼いてしまってね。そのまま置いておくと酸っぱくなったりするから」


「かしこまりました」




***




大成功を収めたマッツァナンは、そのままマッツァナンと呼ばれ、大公家の食事がすべてマッツァナンに置き換わった。


レーズン酵母もそのままレーズン酵母と呼ぶようにしたが、マッツァ粉と水を足していればどんどん増えるので、酵母種として管理することになった。いずれ酵母の力が弱くなってきたら、新たに酵母を起こした方が良いと伝え、お祖父さまがエデン会議に行く時には、なるべくレーズンを手に入れてほしいとお願いした。


マッツァナンを広めたいけど、そもそも熱源がないと平民には無理なので、しばらくは大公家だけで食されると思う。


それでも、異世界転生後、初の変化だ!!




***




「ねぇアイちゃん」


『はい』


「あの酵母さぁ、異常に増殖が速いんだけど、どうなの?」


『おそらくですが、元はエデンの果実ですので収穫後には魔力ゼロですが、エデンの果樹が成長するには魔力が必要ですから、魔力がゼロになった果実が再び魔力のある土地で魔力にさらされた結果、果実の一部が成長しているのだと思います』


「なるほどね~ そうすると、北部でお酒を造ってもすぐにできそうだし、それだけじゃなくて、今はないけど作物とか植えたら、すぐに大きく育ったり、色々面白い事が起こる可能性もあるね」


『はい』


「何とか北部でも育つ作物が手に入ればいいんだけどな……」


『……』




***




ジョーンがマッツァを粉にするとき、確実に魔法を使っていたと思うけど、僕がまだ魔法を使えないから確認も検証もできない。


ジョーンは得意な作業って話だからいいかもしれないけど、平民では大変かもしれない。年寄りもいるし、みんながみんなできるとも限らないから、苦労しているひともいるかも。


石臼は……ちょっと構造が難しいから無理かな。電気も無いからフードプロセッサーも当然無理だし、そもそも作れる気がしないし。


水車とか?風車とか? そもそも石臼が難しいのに無理だよね。


あ、おろし金とかどうかな。


おろし金で大量に粉にするのは大変だけど、毎日食べる分のマッツァを粉にする程度なら、ひたすら叩いて粉にするより楽だろうし、速いと思う。




***




「母上~」


「ミチイル、どうしたの? また散歩に行きたいの?」


「うん、良くわかったね~ さすが母上~」


「うふふ。じゃ散歩に行きましょうか。布を被ってちょうだいね」


「ドン爺のところに行きたい」


「はいはい」




***




「ド~ン爺~、い~るか~しら~?」


「こりゃこりゃマリア様に坊ちゃん、お元気じゃったか?」


「ドン爺こそ元気だったかしら?」


「わしはいつでも元気じゃわい。今日はどうなすったのかの?」


「ドン爺、ちょっと作ってもらいたいものがあるんだけど」


「なんじゃ、坊ちゃん」


「うんとね、厚めの銅でこれくらいの大きさの平たい皿を作って欲しいの。それで、その皿の縁はね、少し高く作ってもらってね、それで、皿の内側の平たい部分にね、トゲトゲをたくさん掘って欲しいの」


「良くわからんが、とりあえず平たい皿を、薄くせんと、厚く作って、縁を立ち上げればいいんじゃな?」


「うん、とりあえず、それで作ってみて~」


「お易いご用じゃ」




***




「坊ちゃん、こんなんでどうじゃ?」


「うん、いい感じ。それでね、ノミ?っていうか、銅も削れるような鋭い金属でね、内側の平たいところをほんのちょっと掘り上げるような感じで、トゲトゲをいっぱい作って欲しいの」


「ほうほう、それならこの鉄ノミで……こうして……こんな感じかのう?」


「うんうん、ドン爺、すごい! こんな感じの小さなトゲトゲを皿の中にいっぱいお願い!」


「合点じゃ」




***



「こんなもんでどうかのう?」


「うん! ドン爺ってあっという間に何でもできるんだね!」


「ほっほっほ、こんくらいなら気合をいれりゃぁ訳もないんじゃが、何でもはちいと無理じゃのう。して、これは何に使うんじゃ?」


「うんとねー、ここに乾燥マッツァ、ある~?」


「もちろんじゃ」


「さっき作ってもらったトゲトゲ皿のトゲトゲに、その乾燥マッツァを押し付けながら擦ってみて~」


「こうかのー? お? これは! そんなに力も入れとらんのに、どんどん粉になっていくの! こりゃぁ、年寄りでもマッツァを粉にしやすいわい。女子供でもできそうじゃ」


「あら、ほんとうにどんどん粉になっていくわねぇ。これがあれば、食事の支度の時間が減るわね。とても便利だと思うわ。ミチイル、すごいわ!」


「うん、うまく行って良かった。ドン爺、これは『おろし金』っていうんだけどね、これをたくさん作ったら、みんなが助かると思うんだけど、どうかな?」


「銅さえあればいくらでも作れるからのう、銅石は北部でたくさん拾えるしのう、後は、銅を熔かしさえすれば、なんとかなりそうじゃ。南の村で鋳造の時に、少しでも多く銅を熔かして持って帰るような指示さえ出せれば、それなりの数も作れるじゃろうて」


「それなら、私がお父様に伝えておくわ。後はドン爺に任せてもいいかしら?」


「任せとくれ、マリア様」


「後で詳しい話を聞きにセバスが来ると思うから、よく打合せして、少しでも多く「オロシガーネ?」をお願いね」


「このおろし金は貰って帰ってもいい? ドン爺」


「もちろんじゃ、坊ちゃん」


「ドン爺、ありがとう! また来るね!」


「マリア様も、坊ちゃんも、また待っとるでの」




***




――こうして、ミチイルがアタシーノ星に来てから、初めての料理と、初めての道具がようやく完成した




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