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1-1 プロローグ




――宇宙の辺境のさらに端っこに、一つの星が生まれた


――星は、周辺の星のカケラを吸い寄せながら、熱く赤い星になった


――このまま星のカケラを集め続けて大きくなっていくはずだった星は、その成長を止めた




***




「あ~、やばいやばい、星が冷えちゃってるじゃない! ちょっと昼寝してただけなのに。えっと、とりあえずもっとそこら辺の星のカケラをぶつけないと…って全然漂って無いじゃない! これだから田舎は嫌なのよ!」


「えっと、確か地軸を傾けないとならないのよね、あ、ちょうどデカいカケラが来たから上の方に、ちょっと斜めに勢いよくぶつけちゃえ…えいっ!」


「ぎゃ~、星が冷えちゃってたから一体化するどころかバラバラになっちゃったわ! しかも地軸も傾かなかったし! えーっと、仕方ないから無次元の力でまとめちゃおう」


「ふ~、とりあえず崩壊はしなかったけど、こんなに無次元の力が濃かったら人間が生きていけないじゃない。面倒くさいけど煙突でもつけとくか。えいっ!」


「あ、なんか思ったより小さかったわ。とりあえず蓋でもして横によけとこ。今度こそ、ドカーンと行くわよ、えいっ!」




***




――こうして新しい星は、崩れかけ、さらに冷え切ったマントルコアを無次元の力で無理やり一つにして誕生した

 

――星の表面には、大きな海と、北極につながった大陸が一つと小さな煙突島しかなく、さらに地球よりかなり小さい星であった


――そして、宇宙から多く取り込んでしまった無次元の力を宇宙へ再放出するため、北極に、宇宙の成層圏まで高くそびえる山が飛び出た、球体ではない雫型の星となった




***




「はぁ~、ちょっと寝すぎちゃったわ。やった~、ようやく完成したわ。あたしの星~! あたしの星よ!! さて、大陸も、もう充分なじんだから人間を植えられるわね」


「苦しみも争いもなくて、お腹いっぱいになる幸せな星がいいわ! 地軸も傾かなかったから季節も無いしね! 冬の苦しみなんてないんだから! こんな素敵な環境なら人間もどんどん増えて、おいしいものいっぱいお供えしてくれるに決まってるわ!」


「さぁ、これで良し。ふぅ。ちょっと疲れたわね。そうだわ、どうせ少し暇になるし、お姉様のところに遊びにでも行こうっと」




***




――こうして新しく生まれた「あたしの星」に常夏のエデンの園が作られ、飢えも知らず働かずとも幸せで、争いを一切しない人間が、瞬く間に繁殖していった


――働かないのだから、女神が用意した食べ物以外が生み出される事はなかった




***




「お姉様~、ちょっと助けて~」


「あら、どうしたの?」


「あたしの星が全然美味しいもの供えてくれないのよ! っていうか食べ物を作っても無いし」


「そうなの? 放っておいても普通は勝手に競争して色々文明が進んでいくと思うわよ。まさか、最初から付いてた基本パックの争いの種を使ってないのかしら?」


「使う訳ないじゃん! だって、争わない幸せな世界にして美味しいものだけ捧げさせて、思いっきり食べたいもん。それに争いの種ってさ、大宇宙中央管理センターから性格の悪い魂が派遣されてきて、いじわるするだけじゃん。そんなのいやよ」


「あらあら。でも、争いのないところに競争はなく、進化も発展もしないものよ。そのために基本パックに争いの種が入っているのだから」


「……わかった。仕方がないから使ってみるわ。さっくり植えて戻ってくるから、美味しいものたくさん用意しておいてね、あ、オムライスがいいわ、お姉様!」


「はいはい、しょうがない子ね」




***




――こうして、争いが無かったエデンに、争いの種が植えられた

 

――そして、女神が用意した、採っても採っても無くならず完全栄養食の実がなる「命の木」をめぐって、血みどろの戦いが何年も何年も繰り返された


――大陸中で争った結果、エデンの民は、祝福されたエデンの園で暮らす王国民と、北方へ追いやられた奴隷の民とに分かれることになった


――新しい星は、北極から無次元の力を放出しているせいで魔力が漏れ流れ、北に行けば行くほど魔力が濃い

 

――魔力とは、すなわち宇宙の無次元の力であった

 

――魔力が濃すぎると、人間は体が弱り、やがて死んでしまう




***




「はぁ、あたしの民は、そろそろどうかな~ えっ? なんか色が真っ白でガリガリで今にも死にそうな人間が、北の土地に這いつくばってるじゃない! つか魔力濃いから死んじゃうわよ」


「ええぃ、しょうがないから無次元の力を体から放出できるようにしておこう。とりあえず、この辺り一帯の白くてガリガリの民だけでいいわ。ああもう、面倒くさいわね。それっ」




***




「助けて~、お姉様~」


「あらあら、今度は早く戻ってきたのね。どうしたのかしら?」


「あたしの星のあたしの民がね、数もまだ全然少ないのに分裂してわかれちゃって、さらに片方は滅びそうなの。まだ一度も美味しいものも供えてくれてないってのに! これじゃ、何のためにお父様におねだりして、星の種を無理やり貰ったかわかんないじゃない」


「あらあら。あなたに星はまだ早いとは思っていたけれど……お父様もあなたには甘いわね」


「とにかく! このままじゃ民の存在意義が消滅して、さらに本当に民が消滅しちゃうわ! アブラハムちょうだい! お姉様~」


「あなたねぇ、預言者は星の一生で一回しか使えないのよ。良く考えないと後悔するわよ」


「後悔も何も、いま使わなかったら結局さぁ、星が滅んじゃうんだって。今使わないで、いつ使うってのよ。 今でしょ! それこそ使わなかったら後悔するもん」


「あらあら、わかったわ。この地球から適当なそれなりの人の使用済み魂を、預言者として送ってあげるわね。全く、しようがない子ね」


「ありがとう、お姉様。大好き~ あ、すぐに戻ってくるからさ、お姉様の図書室に『レシピ本好きの下剋上』の新刊、用意しておいて~」


「はいはい。と言っても、誰かがお供えしてくれないと届かないのだけれど、ってもう居ないわね」




***




――こうして新しい星に地球から預言者、アブラハムが召喚された

 

――アブラハムは頑張ったが、そもそも働かない民ばかりだったため、農業は酪農以外根付かず、文明も紀元前のローマ並みで止まってしまった

 

――アブラハムは預言者として召喚されただけの人であり、地球のアブラハムとは別人で別の名前があったが、女神が地球でのイメージからアブラハムと認識してしまったせいで、アブラハムとしてコズミックレコードに記録されてしまい、あたしの星でもアブラハムとなってしまった


――ちなみに女神の作った新しい星の名前も既に「アタシーノ星」として記録されている




***




「助けて~、おねーさまー」


「あらあら、今度は何かしら?」


「アブラハムは結構頑張ってくれたけど、全然美味しいものが届かなかったのよ~ 女神信仰は増やしてくれたから、そりゃちょっとは星神力が増えたけど~ 

でも、お供えがさ、変な雑草とかばかりで、ごくたまに違うものがあっても、殺されて血を流している牛とかなのよ~ こんなの、どうしろっていうのよ!」


「それは……まぁ、確かにね。でも私の地球でも何千年もそんな感じだったのよ」


「えー、信じらんない。今じゃ、ありとあらゆる美味しい食べ物に溢れているじゃない! 食べ物だけじゃなく、料理もすごい美味しいし、種類だって数えきれないくらいあるし。頑張っても食べつくせないくらいじゃないの。それに食べ物だけじゃなくて、本とかもあるし」


「そうねぇ、地球でも大部分の民族は、美味しいものをお供えとかしてくれないのよ。本とかなんて、まず捧げられないわ。でもね、地球でも特別に食べ物にこだわっている島国があるの。その島国はね、何にでも神が宿るとか言って、国中がお供え物に溢れているわ。もちろん料理じゃなくて、食材そのもののお供えもあるけれど、お菓子とか料理とかもたくさんくれるの。確か……陰膳?だったかしら。誰も食べないのに料理を捧げる風習とかあってね、ありとあらゆる、どんな料理でも食べられるわ。誰に何を祈っても、誰に何を捧げても、地球では結局すべて全部わたくしのものになるし」


「素晴らしすぎて夢に出てきそう! それこそ楽園じゃない!!」


「それにね、その島国は一日に何回も民族じゅうが祈ってくれるの。家に小さな祭壇とか金ぴか教会を作ったりして、毎日祈ったり捧げものを供えてくれたり良い匂いの煙だしたり、お花もたくさん。それと、いただきます、とかだったかしら。小さな祈りだけれど、億を超える人数が居るから、それはたくさん星神力がたまるのよ」


「ちょっとお姉様、不公平じゃないかしら! わたしの星なんて、ろくに祈ってくれないばかりか、ごくたまの捧げものだって草や血を流した生の動物なのに!」


「ふふ。その島国はね、美味しいものや祈りだけじゃなくて、色んな製品とか、建物とか、それにあなたの大好きな本も捧げてくれるわ」


「えぇぇぇー? お姉様の図書室の本?」


「ええ、そうよ。あの島国は、何か新しいものができたら神に捧げるっていう感じね」


「んもう、決めたわ! お姉様、イエスキリストちょうだい!!」


「あなた、ついこの前に預言者あげたじゃないの。あの時だって裏技使ったから、少し面倒だったのよ」


「ありがとう、お姉様。お姉様が居なかったら、あたし生きて女神できないわ」


「神は死なないじゃないの…… まぁ、仕方のない子ねぇ。でも預言者もだけれど、救い主だって星の一生で一回しか使えないのよ、良く考えたら?」


「どんなに考えても変わらないわ! あたし、その島国のイエスキリストが欲しい!!」


「本当にわがままで甘えん坊な子ねぇ。まぁいいわ。適当に適当な人を見繕ってあなたの星に送ってあげるから、後の交渉は自分でなさい。そういえば、あなたの星の名前は決めたの?」


「も、もちろん決まっているわ! でも秘密なの。送ってくれるイエスキリストにはちゃんと教えるわ!」


「ふふ、あなたの星なんだから、好きになさいな。おそらく早めに送れると思うから、あなたは自分の星で待ってらっしゃい。ちゃんと女神の威信を保って交渉するのよ、いいわね?」


「もちろんわかっているわ! ありがとうお姉様。一生、お姉様に憑いていくから! じゃーねっ」


「なんか変な意味に聞こえたけれど……はぁ、また裏技を使わないと…今度も大宇宙中央管理センターのアイツとアヤツを働かせることにしましょう。うふふ」





***




――こうしてアタシーノ星に、救い主が召喚されることとなった




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