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「黄金色? こいつは、上玉だな」

「……ぁ」


 ヒナドリたちの目は赤い輝きを放っていた。しかし、ひなは異質でひとり、黄金色の目を持っていた。そのため、村ではひなを「神の子」として崇め、大切に育ててきたところがあった。

 みんなとは異なる容姿をして生まれてきたひなは、自分自身に自信が持てずにいたが、みとをはじめとし、多くの仲間が温かく向かいいれてくれたため、今日まですくすくと育つことが出来た。それが、ほんの一瞬の出来事で、その当たり前の幸せが奪われてしまったのだった。

 ひなは、身体がまるで金縛りにでもあったかのように動けず、硬直していた。ただ、口元だけゆっくりと意識とは反して動いていた。


「主……さま」


 そう告げると、賊の男はにやっと口元に笑みを浮かべた。唇の右端を斜めに上げ、大層嬉しそうに目を細める。そのまま短剣をひなの首筋にあてがい、刃渡りに反射して映るひなの顔をよく観察した。


「お前だけ目が黄金色なのか? 異端児なのか、それとも神の子なのか……まぁ、いい。俺の片腕となってもらうぞ、小鳥」

「主さまに……従う。それが、ヒナドリの掟」

「そうだ。すり込み現象っていうのは、神話なんかじゃなかったらしいな」


 上機嫌にポンと右ひざを叩いて、軽快に立ち上がる。そのまま短剣は鞘に納めずひなに背を向けた。


「立て、小鳥。お前の名前にも興味はない。お前は今日から小鳥だ。名もなき小鳥よ、俺に世界を与えろ。俺は、天下人となるのだ」

「はい……主さま」

「クク……お前さえ手に入ればこんな村、もう用済みだ。さっさとずらかるぜ」

「……」

「返事をしろ」

「はい」

「それでいい」


 賊の男は、背丈百七十と少しばかりの中肉中背。年は二十歳を超えたかどうかというくらいの若者だった。左頬に一筋の切り傷が残っている。くっきりとした傷だが、古傷らしい。血が出る様子はなく、痕となっていた。


「チリュウ。ヒナドリの子は居たか!」

「さぁ、どうだかな!」


 みとの部屋に入って来た別の賊の男を、姿が見えるなり青年はその者の首筋を斬りつけた。頸動脈を掻っ切ったのか、勢いよく血しぶきが上がった。それを見ても、ひなが悲鳴をあげることもない。ただ、目の前で繰り広げられる光景を、ひなは淡々と観察していた。自分の足元に転がっている幼馴染の姿を見ても、胸が痛むこともなくなった。その様は、心が壊れたガラクタのようにも見える。


「小鳥。村を出るぞ」

「はい」

「一緒に攻め入って来た連中とも、ここでお別れだ。俺はひとり、修羅の道を行く」

「はい」

「あぁ……違ったな」


 「チリュウ」と呼ばれた青年は、くるっと身体の向きを変えて、再度ひなの方を見た。血の気が引き、黄金色の瞳も死んだ魚のような色に変わっている。チリュウはお構いなしだ。むしろ、それでこそ「物」だと言わんばかりに満足げに言い放った。


「俺と小鳥、ふたりで歩む修羅の道だな」

「はい」

「敵が神であれ仏であれ化け物であれ、切り捨てる。小鳥、お前は戦闘能力が高いはずだ。俺より先に敵を切り捨てろ」

「はい」

「それでいい」


 壊れたロボットのように、返事だけを繰り返す。それなのに、チリュウは満足そうだ。短剣片手に部屋から出ると、そのすぐ後ろにひなが続いた。

 チリュウに「戦闘能力が高い」と言われても、ひなとしてはピンとは来なかった。戦場なんて、見たことも無かったのだから無理もない。部屋の前にみとの母の無残な亡骸と、家の入口には、腹を斬られたみとの父の亡骸が横たわっていた。それを踏まないようにとまたいで、ひなも外に出る。外には火が放たれており、身体がチリチリと焼けるような熱さを覚えた。異臭がするのは、逃げ遅れたヒナドリの焼け跡があるからだろう。長はどうしたのだろうか。気になるはずなのに、ひなは頭がぼーっとして、どうも集中することが出来なかった。

 まだ、十歳になったばかりのひなの身体は幼い。人間が脅威を抱くほどの力を秘めているとは考えにくいが、それでも人間と鳥族のハーフの「魔族」だ。爪も長く、羽も生えている。それだけで、人間からすれば「脅威」と言えるのかもしれない。自分とは異なるものを、人は「脅威」だと感じる生き物だ。弱いから群れる。そして、チリュウのようにそこから逃げ出そうとする輩がいるから、統率も崩れるのだ。


「俺様の天下だ!」


 炎を纏いながら、チリュウは高らかにそう声をあげた。その刹那、村を襲っていた仲間の賊たちがチリュウに視線を送った。


「ヒナドリの子どもは、お頭に渡すことになっていただろう!? チリュウ!」

「何をしているんだ! チリュウ! 気でも違ったか!」

「そのヒナドリをお頭に渡せ!」


 一斉にチリュウに向かって怒号が飛び交った。当然だろう。統率を乱す者を好んで支持するはずがない。チリュウは勝ち誇った笑みを浮かべ、短剣を仲間たちに向けた。

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