実演実食①
イベントの翌日、別れの挨拶をするためバッファローに行くと、オーナーのアーゴンと店長のジャックがお客さんと席に着いて話していた。
アーゴンはおれに気づくと手招きする。
席まで行くと空いているところに座らされた。
「こいつが今回の『ハンバーガー』を考えてくれたやつです。」
「はっはっは。そんな大ボケ、おれが真に受けると思ってるのか?」
男は豪快に笑いながらも、バカにされてイラついているのが表情で分かる。
たった今来たばかりのフルチンベイビーも現状把握が間に合ってないが、この男の怒りは理解できる。
情報秘匿の逃げ道に使っていると思われても不思議はない。
「おまえさぁ、死にたいの?」
男は殺気むき出しでアーゴンを睨み付けるが、それに怯える様子は無く、むしろこの状況に納得しているように見えた。
「本当だと言うのなら、実演してみせろ。場所は中央都市ボーデにあるレストランで、材料は全て自分達で用意しろ。今から出るからついてこい。」
男は強引に話を終わらせて席を立ち、店を出る。
おれ達もアーゴンについて行くように店を出ると、先ほどの男はそそくさと街の外へ向かう。
離れないように追いかけると、街の外に出てようやく歩みを止めた。
おれ達も街の門をくぐり抜けた時、大きなエンジン音と共にスポーツカーが目の前で停車した。
車高が低く小さい車だが、タイヤは太く、いかにも速そうなボディラインをしている。
「特別に乗せてやるから、早く乗れ。」
自動で4枚の扉が開き、男は意気揚々と運転席側へ回る。
アーゴンが前、おれとジャックが後ろに乗ろうとすると、男に止められた。
「子どもは危険だから乗れねぇな。馬車貸してやるから、それで追いかけてこい。実演は今日の会食ディナーに間に合わせることだ。間に合うならな」
男は高笑いしながら運転席に乗車して車を発進させた。
その速さは凄まじく、とても馬で追いつけるようなものではなかった。
しかしおれも馬は用意できる。
シュバルを召喚してバイクモードになってもらい、魔神の神器でヘルメットやバイク用の防具とスキルを整えて追いかける。
追いつくまでそんなに時間はかからなかった。
車と並走するようにバイクを走らせると、男はこちらに気づき驚いている。
そして、おれを追い越すように加速していったので、こちらもギアを上げてついていく。
正直抜かすことは容易だが、今回の場合目的地が分からないので、このままついていく他ない。
数十分の並走の後、大きな街が見えてきた。
時刻は昼前。
今から準備すれば、丁度夕食時に間に合うだろう。
そんなことを考えながら、シュバルを送還して、男が車から降りるのを待った。
「おい!あれはなんだ。おれの『車』という異界の乗り物についてくるなんておかしい!異世界から来た英雄の物と同じ物をダイダロに用意させたのに、それより速いものがあってたまるか!!」
移動の基本は馬車で、車は珍しい。
男の言い方から、雅斗達が乗っていたものを真似したようだ。
「まあついてきたと言うことは、材料の調達は街でするつもりなんだろう。だがこの街でパンの販売は専売特許により、材料の入手すら不可能だ。せいぜいがんばるんだな。」
男に雑に場所だけ伝えられ、アーゴン達とその場に残された。
「あれがフローレの領主なんだ…」
アーゴンはため息をついた。
その一言に複数の意味を感じたが、こんな経験も初めてではないのだろう。
おれはせめて、アーゴンとジャックに迷惑がかからないように頑張るしかない。




