衝撃と挑戦 ①
頼んでいたパスタセットが届いた。
サラダとクリーム系のスープパスタとパン。
さっそくパンを頂こうと手に取ったが、固くてちぎれない。
「あんたパン食べるの初めてなの?スープにつけながらじゃないと食べれないわよ?」
たくさんの転移者がいて、たくさんの文化がある中で、パンが遅れすぎている。
「アニサさん。柔らかいパンはないんですか?」
「ここにはないわね。イチノセの中央都市『ボーデ』の中でも、貴族御用達の超高級レストランでなら、やわらかいパンもあるけど、あのレストラン以外ではパンはこれだけよ。小麦という作物も希少らしく、ここで食べれるのも物好きな店主だからよ」
これはもらった。
テーブルの下でガッツポーズをしたおれは、急いで食事を済ませて、店主を呼んでもらった。
中から目が細く太った店主が出てきた。食べることが好きそうなのが、風貌から伝わってくる。
「店主さん。ご相談なのですが、我々とお取引していただけませんか?」
おれのことを奴隷商人のボンボンだと思っているだろう店主は、軽くお辞儀をして小さな声で答えた。
「ご遠慮させていただきます。」と。
まあ見てくださいよ。と言わんばかりに、本から1枚のカードを取り出してテーブルに置いた。
おれの「リベレ」という声と共に、テーブルの上にハンバーガーがでてくる。
これは魔王就任後、こっそり自分用にいくつか作ったものだ。
新しいフォークとナイフをお借りして、不思議そうに眺める店主に食べてもらった。
恐る恐る口に運ぶが、口に入れてしまえばこっちのもの。店主は目を大きくして残りも食べ進めた。
「これをこちらで販売していただきたいのですが、お願いできますか?」
「…オーナーと相談してみます。」
店主さんが少し考えて返事をしたのに対して、おれはゆっくり考えてください、と返して店を出た。
アニサさんとはここでお別れをして、従魔達と街を散策した。
大きな通りではいくつかの出店があるが、いかがわしい雰囲気のところが多い。
「坊っちゃん!これどうだい」
こんな安いキャッチに、おれは引っかからない。
改めて思うと、裸の子どもに声かけてくる人達もおかしいとは思うが…
その後もパスタのお店に毎日通っていると、数日後に店主さんが挨拶にきた。
「先日のお話詳しくお伺いしてもよろしいでしょうか。」
「はいよろこんで」
おれは快く本からハンバーガーを出して、説明をする。
店主さんはジャックというらしく、牛の獣人と人族の混血らしい。
ジャックさんはお店でパンもパスタも作ってるらしく、パスタは上手かったけど、パンは正直食べれた物ではなかった。
「ご相談なのですが、こちらで作ったパンをご提供するのと、パンの作り方から全てお伝えするのはどちらがよろしいですか?」
「そりゃあ、全部教えてもらうに決もうとるやろ」
奥から立派なアゴをした男が現れた。
「久しぶりやな。覚えとらんかもしれんけど。おれの名前はアーゴン、ここのオーナーや」
立派なアゴのアーゴン…知らない。
おれが首をかしげて考えていると、アーゴンが話を続けた。
「あの時は目が死んどったからな。そんなことはええよ。これの作り方を真似できたらうちの店のもんにさせてもらうで」
それは別にいい。独占するより他のアレンジや、この世界ならではの工夫の方が楽しみだ。
今やっているパンの作り方をジャックさんに聞いたが、酵母を使ってないらしい。
「売り方は任せます。明日の朝から教えに来るので、よろしくお願いします。」
その日の話はそれで終わり、次の日の早朝にお店へ行った。
今日は協力なアシスタントを呼んでいる。
「おれの名前はつかさ、こっちの子はサージュ、猿の獣人です。昨日はこちらの紹介を忘れていて失礼しました。早速始めましょうか」
作業部屋にお邪魔して実践を始める。
今回酵母だけこちらで準備させてもらった。
材料を全部混ぜて、生地を作り、分割して、発酵させ、焼き上げる。
パンが焼けた時にはお昼過ぎていた。
挟むためのお肉は、合間に準備をしてもらっていた。
できあがったハンバーガーをみんなで頂いたがうまい。パンはもちろんだが、中身のお肉がしっかり歯ごたえがあってうまい。
「ほんまに柔らかいパンやな!来月は通りで出店できるように今月中に仕上げるぞ!」
そんなわけで急遽1ヶ月、サージュと一緒に通いつめることとなった。
もちろんタダではない。毎日3食のまかない付きを条件に承諾した。




