赤い龍と牛
アステリオ視点
シャティロンの西側にて龍族のいちきが人族と戦っていた。
(アステリオ、いちきのサポートを頼んだ。イルコスはアカリとついてきてくれ)
つかさの若旦那から念話で指示を受け、赤いドラゴンの近くまで行って斧を地面に強く振った。
「加勢する」
ドラゴンの周りに群がる人族を蹴散らし、斧を当てた場所は地面が隆起している。
その地面に斧を強く当て、地面を砕いて飛ばした。
「つかさの従魔だね。よろしく頼むよ」
「自分はアステリオ。」
龍種とは初対面でその後の言葉が出なかった。
「いちきだよ。きつかったら逃げていいらかね」
なにかを察したいちきが笑顔で気を遣ってくれたようだが、そんなものは不要である。
魔法が苦手な私はこの大斧とスキルを使う。
蹴散らした人族が再び攻撃を仕掛けてきた。
途中参加の私に集中してくれている。
(上手く会話できたら、もっと楽しいのかな)
そんなことを考えながら斧を横に一振した。
斧が通った一筋の道に重なっていた人々が崩れ落ちた。
「さすがにやりすぎじゃないか?」
「すまない。加減ができなくて。」
アステリオの近くに転がる人族を見て、いちきに注意されてしまった。
「いやぁ、えげつないことするねぇ」
後ろの方から筋骨隆々の大男が歩いてきた。
ブーメランパンツを履いて左胸には69と書いてある。
「申し訳ない」
不必要に命を刈るつもりはなかったので、頭を下げて謝罪した。
だが、地面を見ていた景色が一変。体は中に浮き、青い空を見ている。
最高到達点に達し、落下が始まるときに体を捻り地面を見ると理解した。
さっきまで私がいた場所でマッチョが姿勢を低くして構えている。
重たいミノタウロスの体は凄まじい速さで降下を始めた。
地面に着くよりも先に殴られるのを察したアステリオは、拳が当たる直前に牛の姿に変身するつもりでいた。
「【昇り龍】」
マッチョは落下を待つことなく次の攻撃に動いた。
両拳を頭上に突き上げると衝撃波がアステリオを襲う。
不意を突かれたアステリオは空中でバランスを崩し、地面に着地するときマッチョに蹴り飛ばされてしまった。
「サポートが必要?」
大衆を相手にしているいちきが、足元に転がってきたアステリオに聞くと笑いながら立ち上がった。
「これが戦闘… 心配は無用だ。あの筋肉だるまは私がやる。」
「だれが筋肉だるまだって?」
マッチョが腰を落とし両手を上から回して力強く言葉を放った。
「【亀鎧】【バグナク】」
筋肉がゴツゴツした亀の甲羅の様な鎧姿に変貌し、鋭い爪が付いた籠手が武器となった。
アステリオも大斧を構える。
「この戦いを旦那に捧ぐ。見ててくださいよ!」
アステリオが攻撃を仕掛けるとマッチョが応戦。大斧と籠手が何度も激しくぶつかり合う。
しばらくして2人が距離を離した時、アステリオがスキルを解放した。
「スキル解放。【剛力】」
力を解放したアステリオは、斧を地面に突き刺しその場を強く蹴った。
マッチョを殴ると、たくさんの人族を巻き込みながら飛んでいった。
アステリオが飛び上がり、ガヤガヤする人族の中心に寝転ぶマッチョを強く殴った。
地面は大きくえぐれ、マッチョの腹部には大穴が空いた。
アステリオが武器を取りに歩いて戻っていると、背後から攻撃を受け飛ばされた。
そこには大穴が空いていたはずのマッチョが立っていた。
「スキル【不死鳥】。死亡しても1日に1度だけ復活ができる。四神獣を崇高する私にだけ許されたスキル。 私は69のあきお。最後に名前を聞いてもよろしいか?」
「私はアステリオ。若旦那であるつかさ様の従魔だ。あきお、闘うことの楽しさを教えてくれたこと、感謝する。」
2人は再び殴り合い、アステリオが隙をついて斧を回収した。
追いかけてくるあきおを振り向き様に斧で頭を飛ばした。
「スキル【斬首】。叶うなら、またどこかで…」
アステリオは頭と体が離れたあきおをその場に埋め、手を合わせた。
(旦那、次会う時の話題が1つできました)
いちきが逃げていく人族に炎のブレスを吐き、「もの足りん」といいながら不貞腐れていた。




