あんぽんたんと鬼族
あんぽんたんと森の中を進むと村に着いた。
周りは柵で囲われ、入り口には2人の大人の大きな鬼が立っている。超怖ぇ
「おまえ達、そいつは人の子じゃないか?」
1人の鬼が聞くと、あんぽんたんが答える。
「大事件だよ!」
「池にいたんだぁ」
「頭に報告しないと」
忙しいな。みんな喋らんとダメなんか。
「分かったよ。お頭のとこに行こうか」
大人鬼も合わさって、5人で頭の元へ向かう。
村の建物は木造で、中心にある大きな建物に向かっているようだった。
街の鬼族からの視線に耐えながら目的の場所に着いた。
中へ入ると天井が高く左右に2部屋ずつと奥に1部屋ある。
奥の部屋にまっすぐ向かう4人の後ろを付いていく。
「お頭!ポワール入ります」
大きな声で大鬼が言うと、入り口の襖が開いた。
「おまえがヒューマンか。ポムから念話があったが、ここに何の用だ?」
連れてこられただけで用事なんてないですよぉ
ってすごく言いたいんだかな。
背は大鬼より少し低いが、プチみたいに筋骨隆々だし刀のように鋭い角を生やして、威圧感が半端じゃない。
しかも隣に二回りほど小さい女性鬼がいる。
「もりをぬけたい」
おれは嘘偽り無く、簡潔に答えた。
「おれはここの鬼頭、ペッシュだ。お前に名前はあるか」
さっきの大鬼もそうだけどここの人達は見た目と違って、名前がかわいすぎないか。
「ひゅうまん、つかさ」
「ほう、つかさ。この村に何しに来た。」
傍に置いていた瓢箪の栓を抜き、中身を一口飲んで鬼頭が聞いてきた。
どうやらさっきの答えは違っていたようだ。
「いけでやすんでいたら、こおににつれてこられた」
「なぜ、ヒューマンが魔族領にいるのか聞いている。何を隠している」
別に隠すつもりは無いけど、そういうことなら最初からそう聞いてくれよ。
なんか魔王達ともこんな感じだったな。
魔族とヒューマンって仲悪いんだろうな。
「ぼくはてんせいしゃ、まおうにひろわれた。りょーりや、しおほしい。」
そう答えるとおれは部屋の外まで飛ばされた。
おれが居た場所には、さっきまでペッシュの隣で正座していた女の人が腰の刀に手を添えている。
「本当に転生者ならここで死んでもらうわ」
血相を変えた女性が殺気むき出しな上、腰の刀に手を添えてこちらを睨んでくる。
速すぎて何で攻撃されたかも分からなかったが、腹部が痛い。怪我はしてないからまだ刀は抜いてないのだろう。
ただ勝てる気は全くしない。
なんとか見逃してもらわないと。
「まあ待て、アカリ」
ペッシュが一旦女性に止まるように指示する。
この集まりだとアカリって言う名前がすごく普通だな、と思える余裕がまだある自分に少し驚く。
「ついてこい」
鬼頭が立ち上がり近くの扉から裏手に回った。
みんなで建物の裏にある、広く平らな場所に案内された。
「アカリあっちに立て」
そう言われるとアカリは遠くの方まで歩いていった。
頭やあんぽんたん達は近くの屋根がある所に行った。
付いて行こうとしたら止められた。
「相手を殺める行為は禁止。その他はルール無用。2人で納得するまで闘え。では、始め」
鬼頭の合図を皮切りに、アカリが斬りかかってきた。救いなのは鞘から刀を抜いてないことかな。
今度は見えるけど、速すぎて避けられそうにない。なんとか腕でガードするがそのまま吹き飛ばされた。
腕が折れてないのが不思議だ。
「りーば」
とりあえず本を構えて、火の玉を使ってみた。だがアカリはそれを避けながら、またおれを吹っ飛ばした。
何も悪いことしてないはずなのに、鬼が赤子の手を捻りまくってる。
えぐい、速い。攻撃力も高すぎる。耐えれるおれの体丈夫すぎ。
このままだとジリ貧で負けてしまう。
間合いを詰められたら出来ることがない。
「さもん、しゅばる」
(近接は頼む)
「モー!!」
気合い十分なシュバルに近接は任せて、遠距離から魔法をぶち抜こう。
そう思い、火の玉カードを手に持った瞬間シュバルが横に吹き飛んだ。
「え?」
次はおれだった。
「転生者だか知らないけど弱すぎじゃない?魔王様の庇護の下じゃないと生きていくこともできないでしょ」
返す言葉もない。
このままサンドバッグで終わってたまるかってんだい。
とはいえ、何か方法はないだろうか。
おれは火の玉カードを上に投げて、水の玉カードは手元のまま「りべれ」と唱える。
するとそれぞれの玉は難なく避けられる。だが水の玉と火の玉がぶつかって水蒸気が発生し、視界を奪うことに成功した。
次に雷の玉を3つまとめて水蒸気に向かって放つと霧全体に電撃が走る。
「ちょっとはきいてくれよ」
霧が晴れると、アカリの背中からはうっすら煙が上がっていた。
アカリは鬼の形相でこちらを睨んでくる。
元々鬼なんだが。小便チビりそう。
「散れ、篠の春雪。」
小さな声でアカリが腰の刀に話しかけたように見えた途端、薄ピンクに輝く刀身を鞘から抜いた。
え、それは死ぬくない?
おれは慌てて自分の目の前に風の玉を発動させて、体を後ろに飛ばした。
案の定さっきおれが居たところには、刀を振り切ったアカリが立っている。
なぜか、アカリの周りには雪が舞っていて幻想的であるが見とれている場合ではない。
「必ず斬る」
小さい声だったが確かに聞こえた。
次で殺られる。
慌てて本から魔法カードを取ろうとしたが既に遅く、本を切られてしまった。
本が消え、アカリは刀を上に構えている。振り下ろされて死亡?おれの第二の人生短かったな。
諦めておれが膝をつくと、ペッシュの声と共に戦闘が終了した。
「そこまで!ポワールみんなを広場に集めて飯の準備をしてこい。小鬼達はつかさを見ていろ」
「「はい」」
大鬼は返事をするとどこかへ行ってしまった。お頭とアカリもどこかへ行った。
残ったおれとあんぽんたん。
「おい人間、ついてこい」
「逃がさないからね」
「お腹空いたぁ」
そして、おれはあんぽんたんに連れられ広場に移動することとなった。
夕焼けの中、広場に着くと中心には大きな鍋が用意されており、その周辺では大鬼達が忙しなく支度をしている。
「おれ、どうなるの?」
小鬼達に聞いてみると、にやけながら言った。
「今日晩のメインになるだろうね」
「人族はめずらしいからね」
「お腹空いたぁ」
食べられるってこと!?
少なく見積もっても30人はいると思うんだけど、足りなくない?
もう少し様子をみるけど、本を切られてしまったから抵抗する力は何もない。
考え事をしていると、鍋の近くに鬼頭が来た。
みんなが頭に気づき注視していると、軽い演説を始めた。
「知ってる者もいるかも知れねぇが、今この中に人族がいる。こっちに来い」
急に呼ばれて驚いた。今度はみんながおれに注目を切り替ると、自然とおれと鬼頭の間に1本の道ができていた。鬼達からの視線と共に、恐る恐る鬼頭の元へ歩みを進めているとおれの説明を始めた。
「こいつは人族のつかさ。自称転生者だが、アカリに刀を抜かせた根性のあるやつだ。今回の宴の主役なもんで丁重に扱うように」
話が終わると鬼達がざわついている。
どうやらあれは大健闘だったらしい。
「飲めや、騒げや 宴じゃー!!」
アカリの大きな声が響くと宴が始まる。さっきまでの殺人鬼はどこへ行ったのやら。
おれは大鬼のポムに抱えられ、たくさんの鬼が集まってきた。
「ジャイアントボアの鍋、食べる?」
ポワールが料理を持ってきてくれた。
こっちの世界に来て始めての食事はぼたん鍋。本当はお米が欲しいけど、ミルク以外の物が食べれるだけで今はうれしい。
「ありがとう。いただきます」
うんめぇ。めちゃうめぇわ。
転生して初めてミルク以外を口にするけどめちゃくちゃうまい。
猪肉はもっとかたい印象だったけど脂がしっかり乗っておいしいし、白菜や大根のような前世と近い野菜が使われていて食べやすい。
「どうだ、うまいだろう。森の中には多様な動物がいてな、どれもうめぇんだよ。しっかり食べて大きくなれよな」
ポムが誇らしげに教えてくれた。
森を走ってる時にはそれらしき動物達をあまり見てないけど、広い森だし遭遇してないだけだろう。
まあ今は、戦えないおれが出会っても仕方がないわけだが。
「つかさ!お頭が呼んでたよ」
「なんか話があるって」
「おがわり」
あんぽんたんが呼びに来た。
用件は分からんけどとりあえず行ってみるか。
頭が待っているみたいなので、おれはシュバルに乗って中心の大きな建物に向かった。
もう、歩くのは疲れた…