戦う術②
「おい!あいら、このゆびわなんだ!」
おれはアイラの部屋に着いてドアを強く開けたかったが、プチに開けてもらった。
アイラは少し前に仕事が終わったようで、いつもの感じに戻っている。
「朝早くからなんだよ、ヒューマンは早起きなのか。プチも子守りご苦労さん」
おれの怒りが伝わってないこの吸血鬼に余計腹が立つ。
座っているアイラの前まで行って全力で膝付近を殴ってやった。
すると、アイラの足がおれに飛んできて蹴られた。転生して始めて受けた攻撃が膝蓋腱反射とは、前世より運がないのではないだろうか。
「どうした、今日はやけに元気だな。」
「おまえの渡した指輪が外れなくなったらしいぞ。フッ」
おい、プチ!そこで笑いを我慢してんじゃねぇぞ。
赤ちゃんだからってバカにしやがって。
「楽しそうだな」
魔王が来た。
プチが呼んだのだろう。
アイラと魔王にプチが状況を説明してくれる。保護者がいるとめっちゃ楽。
「ちゃんと機能したようじゃないか。魔族ではダメだったが、ヒューマンなら使えたようだな。」
アイラが楽しそうに説明してくる。
「その指輪は人の血を吸うことで機能する。どうやら種族を選ぶようだがな。道具の名前は【ヴァンパイア・リング】。簡単に言えば収納ボックスだ。リーヴァと唱えてみろ」
「りーば」
言われるままに唱えてみると、指輪から本が出てきた。
開くとカードが何枚も入れられるようになっている。
「まず目の前にある、空の試験管に触れて、次は隣にある中身の入った試験管に触れてみろ。」
言われた通り、空の試験管に触れた瞬間消えた。驚きつつも、隣の試験管に触れるとこっちも消えた。
よく見ると本の方にカードが2枚入っている。
1枚は 試験管 レア度【C】
もう1枚は試験管のイラストで、水 レア度【C】
となっている。
「どうだ?本を出しているときに触れたものをカード化して保存することができる。収納魔法の代用アイテムだ。戻すときにはカードを手に持って、リベレと唱えるといい」
空の試験管カードを持って「りべれ」と唱えたら、手のカードが試験管に変わった。
水入り試験管も同じように元に戻した。
「後の使い方は自分で考えろ。基本的なことは教えてやった。さっきのカードに書いてあったレア度は、私には意味が分からんから自分で理解しな」
「ありがとう、あいら」
後はでいろいろやってみるしかないけど、カードが集まるのはわくわくするな!
これは楽しみだ。
本を片付けるときはリーヴァ・オフと言うらしい。
やけに丁寧に説明してくれたのが少し怖いけど、今は新しいアイテムの使い方を考えて強くなろう。
用事が済んだおれは魔王に抱えられ、プチと研究所を出た。
プチと別れた魔王はおれを抱えたまま城外の演習場に向かう。メリアスのところに行くようだ。
「おい、あれを出せ」
着いて早々、メリアスに会うとすぐにそう言った。
この魔王いい人のはずなのに、こういう雑なとこがあるんだよな。
もうこの感じに慣れたおれは、指輪をメリアスに見せながら「リーヴァ」と唱えた。
「また固有魔法?」
「まどーぐをあいらがくれた。めりあす、まほーみたい」
おれが頼むとメリアスは昨日のきれいな水の玉を見せてくれた。
おれがその水玉に触れてみると消えて、カードになった。
水玉 レア度【C】 と書いてあるけど、左上の角に魔という文字がある。カードの色が試験管とは違っていた。
魔法の魔だと思っておこう。
ついでにもう1つ試しておきたいことがある。
水玉カードを投げて「リベレ」と唱えてみると、遠くに水の玉が現れた。実験大成功!
「これは便利そうじゃん。魔法が使えるようになってよかったね。」
メリアスめっちゃ優しいのよ。おれの努力は何もないけど誉めてくれる。 素直にうれしい。
「めりあす、もっとまほーちょーだい。」
「いいよ。みんなーそこからつかさに向かって好きな魔法を好きなだけ放っちゃってー」
次の瞬間、遠くから魔法がたくさん飛んできた。
メリアスの部下達が容赦無く魔法を放ってきた。
おれは本を開いたまま多種多用な魔法を触りまくる。
普通に痛いけど、対応するのに必死だった。
しばらく受け続けると静かになった。
もう、何発魔法を受けたか分からない。
「どう?集まった?」
笑顔で問いかけてくるメリアス。
意外とスパルタで見た目とのギャップが恐ろしい。
せめて説明してほしかった。でも魔法が溜まったのも事実。
水の玉や各属性の玉がたくさん。弓などの形違いもあるが、レア度は5属性全て【C】
ただ、いくつか氷や熱い岩などの複合属性と思われるものが混ざっていた。
それらはレア度が【R】になっていた。
レア度はABCじゃなくて、コモンのC、レアのRみたいになっているのだろう。
「ありがとう、たくさんあつまった。またおねがい、やさしく」
メリアスは笑っていた。
それにしても魔族達の命中率がすごかった。
かなり遠かったけど、この赤ちゃんボディにみんなが的確に当ててきた。
赤ちゃん相手に、みんな容赦ない感じはしたけど仕方がない。魔族には親子の関係が無く、誕生した時から年月が経っても成長しないらしい。
だからおれが一生赤ちゃんボディだと思っている魔族達が、手加減などすることもなかった。
魔法が少し本の中にあつまったことを見て、魔王が密林に連れて来た。
「1週間後、城に帰ってこい。1週間生き残ることができたら、一緒にこの先の街まで行ってやる。」
「あくま」
つい、心の声が出てしまっていた。
「おれはデビルだからな。間違ってはないぞ」
失念していた。
優しくて騙されていたが、こいつ本当に悪魔で魔王だった。
「ミルクが足りなくなることはないだろうから、難しくはないだろう。それではまた来週。 会えたらな」
メリアスも魔王も普段優しいくせに、手のひらを返すように鬼畜な所業をかましてくる。
これが悪魔のやり方か。
とりあえずラパンとシュバルを召喚しておこう。
(早く塩欲しいからこの密林抜けて街に行こう。)
(案内はおまかせください。)
「モー!」
案内はラパンに任せて、移動はシュバルに任せる。
早く塩が欲しい。片道で1週間、最低2週間かかるぐらいなら自力で抜けてみよう。難しかったら戻って魔王と行けばいい。
1人の幼子と、2匹の召喚獣は密林を越えた所にある街を目指して進んでいった。