戦う術 ①
また月日は経ち、転生から3ヶ月が経とうとしていた。
新たな問題が発生していた。
成長が止まっているのだ。
最初の1ヶ月は1年分をショートカットしたのに、そこからは全く変化がない。
(ねえ、ラパン。なんかおれ変じゃない?)
(ミルクが原因かもしれませんね)
だよね~。
他は何も摂取してないからなあ。
ミルクで魔力の底上げは満足したし、摂取量減らして食事を取るかあ。
でもなあ。
魔族のみんな基本食事をしてないんだよなあ。
なんか周囲の魔力を吸収すれば活動できるらしく、自分で食べれるもの探さないとなんだよなあ。たまに食事してる人達は趣味らしいし。それでも肉を魔法で焼いてるだけだけど。
さすがに脱ミルクしないと4頭身のまんまだし。。
だるいなあ。
魔王に相談してみるか。
「まおー、ごはんー」
「ミルク切れか?魔法をかけていたはずだが」
魔王は仕事の手を止めること無く答えた。仕事中に押し掛けても、嫌な顔することなく必ず相手にしてくれる。
「ちょーりされたものがいい」
生肉なんてもう勘弁して欲しいからね。
「この魔王城周辺に料理人はおらんぞ。ずっと西に進むと海の見える国がある。そこまで行けば料理が食べれるが、密林を抜けるのに1週間はかかるぞ」
食事のために往復2週間!?
まじか。2時間なら行くけど、遠いな。
(ラパンさんや。シュバルで行くと、どれぐらいの時間がかかる?)
(休憩も必要ですので、1週間かからないぐらいだと思います。)
「モー!」
シュバルが任せろと言わんばかりに、気合いを入れている。
なぜか モー って鳴くし、訳せんかった。
これも追々解決していく必要がある。
ラパンも全知全能ではないみたいだから、自力で解決していかないといけない。
とりあえずシュバルは行く気満々だから、1回ぐらいは行ってみるか。
魔王城周辺は料理人がいないって言ったが、塩すら無いからな。海があるなら塩の調達をしておきたい。
「いっしょいこ」
「密林を抜けれるようになってからにしろ」
魔王に断られた。
密林には魔物とかでもいるんだろうか。少し情報収集をしてみよう。
おれはシュバルに乗って書庫に向かう。
書庫にはメリアスがいた。
丁度いい、聞いてみよう。
「めりあすー、みつりんってなに?」
「城の裏側に広がる植物の生えた地帯だよ。魔物や野良の魔族がいるから1人では行かないようにね。」
野良の魔族が何かは置いておいて、戦闘能力の無いおれはが抜けられないことは明白。
とりあえず戦えるようになろう。
「たたかいかた、おしえてほしい」
メリアスに聞いてみた。
ジャイアントのプチは近接で、赤ちゃんボディのおれには不向きだ。
まだ遠距離や魔法の方がチャンスがある。
「いいけど、たぶん魔法使えないよ?ステータスの魔法適正が無しになってたからね。」
そういえば魔道具に書いてあったな。
ひとまず練習してダメならまた考えよう。
メリアスと一緒に城の庭に出た。
「まずは手のひらを上に向けて、そこから水が出るのをイメージしてみようか。」
メリアスの手の上にはきれいな球体の水が浮いている。
おれは小さな手を前に出して、目を閉じイメージする。
この手は噴水。水がたくさん湧き出ている。しっかり力をいれて、ショーの最後のように水を高く上げる!
が、目を開くとおれの手はきれいなままだった。
全く濡れてない。
「めりあすどう?」
メリアスは笑顔で
「まだ何も起きてないよ」
と、一言くれた。
イメージは完璧だったのに、現象になってなかったみたいだ。
魔法には基本の5属性 火、土、風、水、雷があり、複合属性や、無属性があり、おれの召喚魔法は無属性に分類される。
水以外も試してはみたけど、やはり魔法は使えなかった。
「まあ、そのうち使えるようになればいいんじゃないかな。」
今は諦めるか。
とりあえず、アイラのところに行ってみよう。
気乗りはしないけど、魔法がダメなら魔道具。なにかおれにも使えそうな道具があればいいけど。
夜になり、シュバルとラパンとおれの3人?でアイラの研究所に来ている。
が、前の時とは雰囲気が全然違う。
人が多くて、各々が作業に集中している。
近くにいた研究員に、アイラのいる場所まで案内してもらった。
「あいら、ぶきほしい」
作業中のアイラに頼んでみた。
「魔族はみんな、自分の魔力で衣類や武具を形成している。自分でできるようになりな。ただこれならやろう。これぐらい使いこなせれるようになってみろ」
アイラは引き出しから箱を取り出し、その中の指輪をおれにくれた。
受けとる時に使い方を聞いてみた。
「自分で何とかしろ。そんなに暇じゃない。夜なんだ、赤ん坊はもう寝な」
アイラは忙しそうに仕事に戻った。
ヴァンパイアは夜勤らしく、いつもとは感じが違った。
おれは大人しくシュバルに乗って魔王の部屋へ戻り、ミルクを飲んで寝る。
指輪のことは明日からゆっくり考えていけばいい。
翌日、早い時間から目が覚めたので城の敷地内を散歩することにした。
庭の花畑でプチが魔法を使って丁寧に水をあげていた。
あんなマッチョでも魔法が使えるのに、おれには使えない。転生時のギフトを間違えてしまったかも、と不安になる。
「ぷち、おはよう」
「おう、つかさか。どうしたその箱」
誰かに会うかもしれないと思って昨日の指輪を持ち歩いていたんだよね!
事情を説明してプチに見てもらった。
「この指輪懐かしいな。昔、アイラが開発した指輪らしいが上手く起動しなかった物だな。着用者に合わせて指輪の大きさが変わる、それぐらいしか効果がなかったはず。」
めっちゃゴミじゃないですか。
指輪をどれだけ観察しても、ただのリングで内側には何もない。外側は1ヶ所穴が空いたようになってる。
「せっかくだからはめてみろよ。赤ちゃんの指にもぴったりだろうよ」
そう言って笑っている。
まあ着けてみるか。なんかなればラッキーだし、なければアイラに返せばいい。
そしておれは左の中指にその指輪をはめてみた。
ぴったりの大きさになった。
まあそれだけ。
プチに「どうだ」と聞かれても、
うん。なんともない。
穴もぽっかり空いたままだ。
と、思ったら指がチクッとした。
「いたっ」
左手を見ると指輪の穴に青い石のような物がある。それは透けているのに、深くきれいな青だった。
「お、指輪が変化したみたいだな。何か変わったことはあるか?」
プチは興味津々だが、おれは指に違和感がある。外そうにも、何かが引っ掛かってるようで取れない。内側には文字すらなかったはずなのに。
アイラのところに行くことにした。プチも興味本位で付いて来る。
痛いだけだったらアイラをぶん殴ってやる。
外れなくなった指輪を着けて、朝から研究所に向かった。少しの苛立ちと共に。