でかいやつがうざい
朝が来た。
大きなベッドの上で目が覚めると、立派な角を持った魔王が寝ている。懐かしい思い出を夢で見たおれは、ただぼーっと上を見ている。
(今さら夢オチなわけないよな。)
魔王が寝ている間に少し試したいことがある。
召喚魔法だ。おれはラパンとシュバルを召喚した。
「おはよう。」
「おはようございます」
「…ありがとう」
全身の力が抜けて、天井を見た。
召喚に応えてくれた。それがすごくうれしくて、おれの目からは涙がこぼれた。
異世界に来てからずっと、呼んだら来てくれる存在だったラパン達だが、今回の旅で断ることがあると知った。
そこにいてくれるだけで不安感が和らぎ、どんな時でも頼れる存在。この世界でおれが生活していくには必要不可欠な仲間達だ。
転生前の事が気になるが、今の世界での生きる理由はこの12の召喚獣達が与えてくれる。
がっかりさせてはならないと、毎度考えさせられる。
訓練場で朝の素振りをしていると、プチが来た。
ここでトレーニングをしていると、こいつはほぼ毎回現れる。
「人族はどうだったよ。」
おれは真っ向から無視をした。
返事をすると組手と言う口実で、ボコボコにされるからだ。
「まさか負けたのか?人族ごときに?ガハハハ!さすが人族の子どもだな!自分より大きいやつには勝てないよなぁ?」
挑発に乗らないように、精神鍛練だと思って耐えながら刀を振る。
「がんばれよ、坊っちゃん」
プチはヘラヘラしながらおれの頭を撫でた。
我慢の限界がきてしまったおれは、プチの腕をぶった斬るつもりで刀を振った。
キンッ!
と甲高い音がして、刀が弾かれた。
「よーし、やるか!」
プチが上機嫌に腕を回す。
毎度毎度腹の立つやつだ。
「そのうで、たたききってやる」
おれは魔神の神器に魔力を流し、見た目は無視して変更せず能力だけ付与した。
身体能力向上・自然治癒・自動回避・武器威力上昇・物理耐性・防御力上昇
前回は物理無効になるようにスキルを使っていたはずなのに、とんでもないダメージを受けた。
思っていたようにスキルが発動しなかったのか、それを上回る攻撃だったのか分かるまでは、違うイメージで対応していく。
「リクドウ、ちくしょうモード」
武器は斧に変えて構える。
それを見たプチが、ゆっくり走っておれに殴りかかった。
斧を振り上げて拳をいなすと、反対の手がおれのがら空きになったボディを狙う。
スキルが発動して回避したのを利用して、プチの肩に斧を振り下ろしてカウンターを入れた。
だがさっきと同じように、キン!と甲高い音と共に弾かれてしまう。
「今回は全身に魔力を纏っているから、これまでより固いぞ。武器に魔力を纏わせれば少しは効くかもな」
プチはうれしそうに説明をした。
武器に魔力?やったことないし、考えたこともなかった。
魔神の神器に魔力を流す要領で、鬼神の神器であるリクドウに魔力を流した。
結論から言うと魔力を流すことはできた。
だが、纏わせることはできないし、それを維持することもできない。
ただ魔力を浪費するだけだった。
現状のおれには不可能な方法だ。
おれは本を開いて魔法で攻めることにした。
するとまたプチがゆっくり走っておれに殴りかかってきた。
さっきと同じように、切り上げていなすと、また反対の手で追い討ちをしかけていた。
おれは回避が発動するのを待って、カウンターの準備をしていたが、回避スキルが発動しなかった。
プチが狙っていたのは、おれではなく、宙に浮いている本の方だった。
一発パンチを受けた本をおれはすぐに片付けた。
「それ、壊せるらしいな。魔法は使わせないぞ」
この言い方と本を狙ったことから、魔法は効くのかもしれない。
まあそう簡単には使わせてもらえなさそうだけど。
人神の神器ヘアピンに魔力を流し、クテクの能力でプチの動きを封じた。
(かなり神器頼りだけど…別にいいんだ。こいつの腕をたたっ斬れたら)
おれはゆっくり近づくが、プチは動けない。
おれはプチの目の前に立ち、睨み上げた。
そして斧を大きく振りかぶって、腕に当たる瞬間、斧に魔力を流して振りかぶった。
だが、回避スキルが発動して、おれの体は後ろに跳んだ。
「仕組みは知らんが、よくあの体勢から避けれるな。」
「プチこそ うごけなかったはずなのに、なんでカウンターできた」
クテクのスキルでプチは動けないはずだった。
そう確信していたからおれはゆっくり近づく余裕があって、しっかり振りかぶって攻撃した。
なのに結果は、おれの攻撃が当たるよりも先にプチのパンチがおれに届いていた。
「確かに動けなかったな。だが実際それは、つかさが見ている部分だけみたいだぞ。おれの右腕を見ていた時、他は動かせたから合わせて当てにいったんだがな」
おれは大きな誤解をしていた。
対象の一部でも視認していれば、全身固まるものだと思っていた。
正直プチとの闘いで気づけてよかった。
これが先日のクソ王子と戦ったときだったら、負けていただろう。
「それもずっと使えるわけではなさそうだな。もう動けるし、いくか」
プチがゆっくり走って殴りかかってくる。
今日のプチは何故か走るときいつもゆっくりだ。
おれは走って距離を取りながら、本を展開した。
するとプチが地面を殴り上げて、岩を飛ばしてきた。
急いで土壁を展開して対応するが、岩がぶつかった音がした後、すぐに壁を殴り壊された。
おれはとっさに本に魔力を流した。
すると足元から強い風が吹いて体が空中に飛ばされた。
おれはもう一度本に魔力を流した。
次はプチに向かって火の玉を飛ばすようにイメージすると、ちゃんと発動してプチにヒットした。
プチはの体から煙が上がり、ちゃんと効いてるようだ。
「魔法も使えたのか?」
「プチのおかげでね」
おれはそこからたくさんの魔法を使った。
ゆっくり動いていたプチも、だんだん速く動くいて対応してきた。
岩の玉を飛ばしたり、火の玉を飛ばして楽しくなった頃、問題は起きた。
自分の体が重くなり、本に魔力を流しても反応しなくなった。
もっと言えば立ちくらみもしてきた。
「やっと魔力が切れたか」
ふらふらするおれを見てプチが言った。
そしてゆっくり近づくと、おれの腹部にやさしく拳を当て
「またおれの勝ちだな」
そう言ってこの場を去った。
いつものように大きな声で笑うことなく、静かに立ち去る姿は初めて見た。
またあのでかいのに負けて悔しい。
悔しいが今回は知れた事がたくさんあった。
魔神の神器同様、他の武器も魔力を流すことができる。
そして本を開いて魔力を流すと、素早く魔法が放てる。
クテクのスキルは視界に入る部分のみ。
そして、こっちの世界に来て初めての魔力切れ。
神器に頼りまくってた上に、慢心していた事に気づけた。
たまにはデカブツとの殴り合いも、自分を見直すためには必要なのかもな。
反省しながら、おれはその場で眠った。




