人助け
部屋を出たおれは目の前の階段を上がった。
階段の先には扉があるが、そこまではかなりの段数がある。
階段を調子良く上がっていたら、半分よりも手前ぐらいで、連れてきていた犬のマチカが壁に向かって吠え始めた。
イルコスとリックも、おれに何かを伝えたそうにアピールしている。
「このさきに、なにかあるのか?」
「ワン!」「プギッ!」「メエェー」
3匹とも元気に返事をしてくれたのが
、かわいくてほっこりする。
そして3匹の指示から壁を調べてみるが、特に変わった様子はない。
外見は他と変わらないただの壁。
手の届く所を触ってみるけど、仕掛けがある様子もない。
一旦下がって壁に目を凝らした時。
「フゴッ」
思わず変な声が出てしまった。
おれの前でマチカを踏み台にして、イルコスが跳んでいる。
そしてあろうことか、召喚主であるおれを踏み台にしてリックが跳んだ。
リックはそのままイルコスも踏み台にして壁にぶつかった。
リックの鼻がぶつかった壁の部分がへこみ、壁の仕掛けが作動した。
マチカ達は隠し扉になっていた先の道を走って進む。
おれも走るが、真っ暗でなにも見えない。分かることはこの強烈な獣臭。
マチカ達を追うように走ると、意外と近くに目的の場所があったようだ。
3匹の従魔が止まった目の前には檻があった。そして檻の中には何かがいる。
「腹が減った。やっと飯を持ってきたか」
それは見なくても分かるぐらい、弱った男の声だった。
暗くて姿は見えないし、檻の出入口すら分からない。
すぐ食べれるものもモンシューの卵ぐらいしかないので、本から出して檻の中にそっと入れてみた。
「そんなに遠いと、届かねぇよ…」
ジャラっと鎖の音が聞こえ、動いたようだが遠かったらしい。
暗くて見えないからどこにいるか分からない。
さっきと違って檻を通れる隙間もない。
卵を声の方に投げようものなら、もちろん割れてしまうだろう。
そこでおれは閃いた!
塩を干したときにラパンが器になるものを作ってくれていた。
それを思い出したおれは、ヘアピンの能力を使って簡易コンロのような物と、それにくっついた鍋を用意した。
やってみると意外にイメージ通りできた。
鍋の中に水の玉カードをひっくり返して「リベレ」と唱えて水を貯める。
次は鍋の下に、火の玉カードと水の玉カードを入れて壁をして解放した。
時間が経ってくると水が沸いてきたので、卵を入れた。
少し待って、卵をとりあげる。殻を剥いて、天日塩をかけて、激ウマゆで卵を投げ入れた。
おれの召喚獣達がよだれを垂らして見ているが、今回はお預け。またの機会ね。
卵を投げると、再び鎖の音が聞こえて「あつっ!」と声が聞こえた。
キャッチして食べたのだろうか。できたてゆで卵。
その後鎖が弾ける音が聞こえて、声の主が近づいてきた。
「ありがとな。助かった」
近づいて来たのは契約したてのバインフーより少し大きい黒虎だった。
「おれは虎谷 太牙。この街入った時、魔物扱いされてしまって捕まってたんだ。あのゆで卵を食べたら、なぜか体が少し大きくなって、鎖から解放されたって訳だ。ありがとな」
また転移者。ここは本当に異世界か疑いたくなる程の遭遇率だ。
「ついでなんけど、この檻なんとかならんかね?」
ちょっと太いけどおれは試してみる。
このままここに放置するのはなんか胸くそが悪かった。
刀で檻を切ろうと試みたが、そう簡単には切れなかった。
横で見ていた猪のリックが少し自慢げに前に出た。
何をするのか見ていたら、足元の地面に穴を掘って檻の中と繋げてしまった。
「しばらく一緒に行動していいか?」
断る理由もないので、一緒に行動することになった。
一イベントあったが、無事解決したので、急いでリーダーを助けに戻る。
通路を走って、階段を駆け上がる。
出口の扉が目の前になった時、
「ドアの向こうに誰かいるっぽいぞ」
転移者の太牙くんが教えてくれた。
警戒しながらドアを開けると、そこはネフルと気絶させられた場所だった。
その部屋には大きな剣を背負った男と、リーダーらしき下着姿の女性がいた。




