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異世界と12の召喚獣  作者: ドンサン
おれと鬼と時々魔獣
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鬼にお悩み相談 ②

男はイスに座って言った。


「少し長くなるが、おれの話を聞いてくれるか?」


鉄格子の中に重り付きで捕らわれている身に、選択しなどない。

男は話し始めた。


「おれはよお、ここのリーダーと一緒に転移してきたんだけどな、転移する前は学生でリーダーと幼なじみだったんだ。ある日気づいたらこの世界に来ていて、よく分からないままおれはこの街の副リーダーなんかやってよぉ。おれはなぁ、ただ舞と一緒に過ごしたかった。昔は金持ちになって舞を幸せにしたいとか思ってたけど、今は細々でもいい。舞と一緒に過ごせたらなんだっていいんだ。でもな、この気持ちなんて伝えたらいい?分かんなくってさぁ。今さらおれの気持ちを断られたらどうしたらいいんだろう、なんて柄にもなく考えてしまうんだよ。なぁ、おれはどうしたらいいと思う?」


・・・


「なぁ、聞いてるか?おれはどうしたらいいと思う?」


危ない危ない。

もう少しで意識が飛ぶところだった。

聞いてたぞ。うん、ちゃんと聞いてた。

要するに、こいつはリーダーに想いを伝えたいわけであって、長年一緒だからこそ言いづらいんだろ。

何かきっかけさえあればいいのだけど。


バタバタバタバタ


慌ただしい足音と共にドアが強く開かれた。


(ついさっきもこんなことあったぞ。)


「兄貴!!リーダーがやばいっす!」


副リーダーの拳一は血相を変えて部屋を出ていったことにより、おれとネフルだけが取り残され、静かな時間がしばらく続いた。

そんな空気の中、マチカ達が帰ってきた。


マチカの後ろからウリボーのリックが突進してきて、おれは突き倒された。

犬のマチカに舐め回され、羊のイルコスにはモフられ、されるがままだ。

表現の仕方はそれぞれだが、懐いてくれるのはうれしい。


「ほかにひといた?」


「ワン!」


おれが聞くと、マチカはおれを踏み台にして、天井に向かってジャンプしながら返事をした。

最初は舞い上がって遊んでいるだけかと思ったが、上に人がいるって意味ではないかと解釈をした。


おれが召喚獣達と戯れていると、部屋のドアがゆっくりと開いて、たくさんの人が入ってきた。

老若男女関係なく子ども達もいる。

順番に鉄格子の中に入れられ、最後に拳一が入れられた。

見た感じ拳一は意識を失っている様だった。


全ての人を鉄格子に入れ終わり、用事が済んだ者達は部屋を出ていった。

彼らがどこの誰かは分からないが、その間も気にせず、おれとネフルは悠長に召喚獣達とじゃれていた。

意外とネフルも動物好きらしい。


今連れてこられた人達は皆暗く、諦めた様な目をしている。

口々に聞こえるのは

「終わったな」 「楽に死ねるかな」

など悲観的な言葉だった。

その中に一言。


「こんな関係の無い親子まで巻き込んで…どうしようもないリーダー達だね」


という、おばちゃんの声だった。

それはおれ達のことだろう。

親子ではないがそう見えても不思議ではない。

リーダー黒蝶 舞。街を良くしたいとは言っていたが、この言われ方から察するにおばちゃんは街の人だろう。


そういえば拳一は目の前の鉄格子にいるけど、リーダーは見てないな。

違和感を感じながら見回すと、隣のネフルが頭部の布をはぐろうとしていた。

おれは止めようとするが間に合わない。


「おれ達がここにいるのは、おまえ達のリーダーがおれの正体に気づいたからだ。そしておれは気が立っている。黙ってろ。」


空気が凍りついた。

鬼の姿を見た街の人達は、口を閉じ静かになった。

一部気絶している人もいるみたいだが。

それでも1人恐る恐る口を開いた者がいた。


「鬼なら強いんでガスよね?リーダーを‥リーダーを、助けて…ほしいんでガスよ」


小太りの男は怯えながら、鬼のネフルに頼んだ。

ネフルが黙っていると男は話を続けた。


「おらはベンゼン。村で育ったんでガスけど、15歳の時、朝起きたら村のみんなが倒れてたでガスよ。原因が分からないまま1人取り残されたおらが、どうしたらいいか分からなくて途方に暮れていた時、リーダーが助けてくれたでガスよ。おらが今死なないでいるのは、リーダーのおかげなんでガスよ。頼むでガスよ!リーダーを助けてくれでガスよ」


男は必死に鬼に訴えた。

その話を聞いた鬼は、少し悩む素振りを見せた後、おれの方を一目見て答えた。


「無理だな。」


それを聞いたベンゼンはしっかり握っていた鉄格子から手が離れ、膝から崩れ落ちた。

そして鬼は言葉を続けた。


「見ての通り、おれはここで重りも付いて出られない。おまえ達のリーダーがこうしたんだ。どうして助ける義理がある」


ネフルの発言に少し矛盾を感じた。

助けるのは無理だと言ったが、その前は鬼の正体を明かしてリーダーを庇った。

どうしたいのか、おれには全く理解ができなかった。


「なんででガスか。鬼なんでガスよね?強いんでガスよね?リーダーを助けてくれでガスよ。おらの命の恩人なんでガスよ。」


最初のビビりはどこへ行ったのか。諦めずに説得を続けた。

しかし、


「うるさい!!」


ネフルが耐えきれず怒鳴った。

すさまじい圧力により、ベンゼンは再び怯えている。


「そんなに言うならおまえが行けばいいじゃないか。人に頼むばかりじゃなくて自分で行けよ。」


全くその通りだ。

でもどうせ、おれは弱いからとか、無理だとか、逃げる理由を並べてくるんだろうよ。


「分かったでガスよ。それならおらがリーダーを助けに行くでガス。」


予想外の返事をしたベンゼンは、鉄格子を力いっぱい広げようとした。

だがそう簡単に出れるわけがない。

少しがんばって、体を通そうとしてみるが通らない。

それの繰り返しを街の人であろう者達が冷たい目で見ている。

「出たところでどうせ殺されるんだ」

なんて声も聞こえる。


「おい、リーダーを助けてやろうか?」


ネフルがベンゼンに提案をした。

ベンゼンは血だらけになった手を止め、泣きながらネフルに頼んだ。


「お願いします」


今までの口癖のガスが無くなってるが、そんなことは気にならない程ベンゼンは必死だった。


「だが、さっきも言った様におれには無理だ。だからこいつに行ってもらう」


そういってネフルはおれを指差した。

阿呆かよ。

他の人も思ったようで、

「息子を見殺しにするのか」「あいつのやばさを知らないのか」

と意識ある者達の声が飛び交う。


「こいつなら大丈夫だ。行ってこい」


ネフルはおれに向かって言うと、布を巻き直し壁にもたれるように座った。

敵がどんな人達か分からないけど、人族なら勝てると思う。

闘技場の事を思い出して自分を鼓舞する。


おれだってリーダーは助けたい。

できるなら街の人達とより良い街を作ってほしい。


おれは足の重りを刀で断ち切り、従魔と共に鉄格子を出た。

赤ちゃんボディなので、枷さえなければ通れる。

ベンゼンの前に立ち「まかせて」と一言、格好つけて言って部屋を出た。

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