四神獣
飛ばされた場所は大きな山の近くだった。
山まではただの荒野でなにもない。
動植物は存在しておらず、川などの水すらない。
「今からあの山の麓にある祠まで行くぞ。ただその前にやっておくことがあるから本を出せ。」
パトラに言われておれは本を出す。
その直後、パトラの周りに5つの魔方陣が出てきた。
「右手をまっすぐ前に出せ。決して曲げるなよ。」
0距離5属性∞魔法
5属性の魔法の玉が、予想をはるかに超えるテンポでおれの右手に当たる。
そして長かった魔法が止まった。
本を確認してみると各属性の玉が60個ずつ。1分ほどでかなりの魔法が溜まった。
だがしかし、魔法の玉全てが【UC】になっている。
短い時間で効率よく、強い魔法が溜まったことはよかった。
「次行くぞ」
ん?終わりじゃないの?
今度はパトラの両手の上に小さな竜巻が出てきた。
「これをカード化しろ」
言われるがままに触れてカード化した。
サイクロン【R】 ×4
「次」
次にパトラが出したのは地面から分厚い土壁だった。
これもカード化。
土壁 【R】 ×10
「とりあえずこれだけあれば大丈夫だろう。行くぞ」
魔法の補充を終わらして進むことになった。
おれはシュバルを召喚して、バイクモードになってもらい、またがった。
パトラも大きくて真っ黒なかっこいい馬を召喚した。
シュバルは白いバイクで雷を帯びているけど、パトラの黒馬は黒紫の炎を帯びている。
どちらもそれぞれのかっこよさがある。
「ほこらまで、しょうぶしようよ」
おれはパトラに勝負を挑んだ。
なんでもいい、とりあえず勝ちが欲しかった。
この世界に来て未だ味わったことのない、その勝利の味をおれは噛み締めたい。
それだけだった。
「いいぞ。ここからあの山に向かってまっすぐ進むだけだ。自慢の馬の速さを見せてみろ」
「いくぞ! よーいどん!」
おれは声高らかに掛け声をかけて、アクセルを回した。
今回は一式装備がある。視力強化でゴールは見えてないけど、それなりに遠くまで見えている。
前を走ること数分、山の始まりであろう緑が見えてきた。
その途中に黒い何かがある。
(シュバル、あの黒い影の所で止まって)
念話でシュバルに伝えて、操縦を代わってもらった。
それなのにこいつは、減速するつもりがない。かなりのスピードで黒い影に接近する。
通りすぎるかと思った瞬間、シュバルが急ブレーキ。その勢いでおれの体は空を飛び、黒い影の前に着地した。
シュバルからはなぜか、得意気な雰囲気を感じる。主を落としておきながら、どこからその自信が出てくるのか。
そしておれは黒い影とご対面。
それは明らかに弱っている生き物だった。
「サモン、ラパン。 このいきものの
じょうほうを おねがいします!」
「これは弱っているトラの子どもですね。この世界のトラは本来、四神獣の【バッコ】と呼ばれる白い個体しか存在が確認されていないはずです。」
虫の息のトラの体に回復薬をかけてやった。
心なしか元気になった気がする。
トラは立ち上がり、よろけながらおれに近づくと、また崩れてしまった。
「従魔契約を推奨します。」
ラパンが提案してくれて、方法まで教えてくれた。
失敗したら、その時にまた考えればいい。おれは黒トラが元気になることを願いながら、魔力を送った。
この従魔契約のやり方は簡単。
指先から願いを込めて魔力を送って、相手の返事を待つだけらしい。
日課のミルクで魔力量には自信があるんだけど、いつ終わるのこれ。
か~な~り魔力を持っていかれた。
しばらくして黒トラが光りだした。
光はすぐに落ち着いたが、そこにいたのは全身真っ白に赤目の猫だった。
「旦那、名前。それとそいつがさっきの黒トラですぜ」
顔に何か書いてあったか?
おれの疑問は一気に解決した。
言われてみれば虎に見えなくもないけど、猫みたいな愛嬌がたまらん。いつかネコ吸いさせてもらおう。
「なまえはバインフー、でどうかな?」
前回は名付けの時に少しトラブってしまったけど、今回は大丈夫そうだ。
黒トラは名付けに気に入ってくれたのか、おれの胸に飛んでくるぐらい元気になっていた。
黒トラじゃなくて白トラになったんだ。白毛の赤目、おれの召喚獣の仲間入りで、干支の虎枠ってことでいいんだよな。
「パトラがくるまえに、さきにすすむぞ」
ラパンとバインフーを還して、シュバルと目的の祠へ再出発をした。
少し走るとすぐにそれらしき物が見えてきた。
その側には人影が。
(もしかして…)
「遅かったな」
「パトラ!?」
祠の側に立っていたのは魔王パトラだった。
シュバルと、かなり前を走っていたはず。いつ抜かされた?
「助けた魔物はどうした?」
あれを見て素通りしてたってことか。
バインフーを召喚して仲間が増えた報告をした。
「目の色は違うが、バッコみたいな白さだな。まあいい、行くか。」
パトラが祠の扉を開けて手を入れると吸い込まれていった。おれとシュバルとバインフーも同じように祠に吸い込まれた。
吸い込まれた先は洞窟になっていた。
おれ達の到着をパトラと大きな白虎が待っていた。
一緒に来たバインフーはなぜかおれの後ろで怯えている。
「魔王自らとは、珍しいねぇ。どこに行きたいんだい?」
「人族の所に頼む」
「東の龍が素直に通してくれるかね。まあ行ってみるといいよ。そういえば最近うちに子どもができてね、こいつがその息子だよ」
大きな白虎の影に隠れていた小さな白虎が出てきた。
チラッとバインフーを見た気がしたけど気のせいかな。
バッコは子どもを紹介して話を続けた。
「本当はもう一匹いたんだけどね。なんでかそいつは真っ黒な姿で誕生したのさ。あたしゃ気味が悪くてそいつを追い出したのさ。パトラは他所の子どもを受け入れて仲良くやってるようだね。 後悔するなよ」
真っ黒な虎ってバインフーやん。
おれはバインフーを静かに抱きしめた。
「おれがいきているあいだは、たのしいじかんにする。 おれをしんじろ」
転生時に召喚獣と楽しく過ごすためにこのスキルを獲得したんだ。必ずみんなと一緒にこの異世界を楽しむ、そう再認識させられた。
「人族の所だったね。カロン、連れてってやんな。」
「カロカロカロ」
バッコの後ろにあるきれいな池からガイコツと小舟が出てきた。
ガイコツはカロンというらしいが、なんか首振りながら、カロカロ言ってる。
しかも首の振り方が独特で、縦振り。
奇妙だが、パトラが乗るのを見ておれも乗る。定員の関係上、バインフーとシュバルは一旦送還する。
「カロカロカロ」
カロンがカロカロ言って舟を漕ぎ進めた。
「え、ちょっ、やばくない??」
「なんにも問題ない。黙って乗ってろ。」
パトラはそう言うが、落ち着いてられるわけがない。
なぜなら舟は少しずつ沈んでいるからだ。
前方斜め下に向かって進んでいた。
あっという間に舟がしっかり沈んだが息はできている。というか、濡れてすらない。なにかに守られているみたいだった。
「すぐ着くから、舟から落とされるなよ。」
「カロカロカロ」
がいこつカロンが声を出した途端、舟は急流に乗って一気に進んだ。
水から飛び出るように陸に着いた。
あっという間の異世界舟旅、楽しさより恐怖が勝ったし、背中の卵を守るのに必死だった。 早く孵化してほしいな。
陸に打ち上げられたおれ達の前には大きな青い龍がとぐろを巻いていた。
「何用だ」
龍はしっかり圧をのせて静かに聞いてきた。
来週から新章に入るつもりです。
今後ともよろしくお願いします!