魔神に会いに行く
朝練をしているとプチがきた。
「朝早くから鍛練とはえらいじゃないか」
それをおれは真っ正面から無視してやった。
今ものすごく必死な上に、素振りが30回を超えている。プチが帰った瞬間に終わるつもりだ。
「つかさ、おれとやってみないか?」
それをおれは真っ正面から無視してやった。
すでに限界を超えたこの状態で勝てるわけない、万全でも勝てないだろうけど。
プチは無視し続けるおれを諦めてどこかへ行った。
なのでこれで最後にしようと振りかぶったところで、なぜかあいつが戻ってきた。
「そういえば…」
プチが口を開いた瞬間、おれの我慢は限界に達した。
最後のつもりで振り下ろした刀をプチに向かって切り上げると、斬擊が飛んでいく。
それが開戦の合図となった。
プチが手加減をして受けに徹する。そこにおれが、ただひたすら刀を振る。こんなものは戦いでもなんでもない。
がむしゃらなおれの腹部に、プチのブローが一発入って吹っ飛ばされた。
たくさん刀を振ったのに、プチには浅い傷しかついていない。
それに比べておれは、たった1発手加減パンチをされただけでT.K.O.。
「また、かてないのかよ。ちくしょう」
おれが地面に膝を付くと、なにかに反応したのか、手にしていた刀が斧に形を変えた。
「本当に、つかさはおもしろいな。」
プチがそう言って笑うと、その場から動くことなく正拳突きをした。
反射的に斧でガードしたが、衝撃波で仰け反った所を狙われ、敗北してしまった。
「ガハハハハ、楽しかった!またやろうな!」
プチは上機嫌で今度こそ立ち去った。
(おれが弱すぎるのか、みんなが強すぎるのか。 はぁ。)
少し落ち込んでいるとパトラが来た。
「なにかあったみたいだな。ちょっと一緒に来てくれるか」
気を遣ってくれているのか、いつもより少し腰を低くして話かけてきた。
まあ用事があるわけでもないから付いて行くことにする。
パトラはドラゴンを召喚した。おれを抱えたパトラが乗ると、ドラゴンは南へ向かって飛び立つ。
しばらくすると、ドラゴンから降りて森の中をパトラとシュバルが歩いてどこかへ向かっている。
もちろん、おれが歩くわけがない。
そこへ2人の男が現れた。
「あんたらなに。誰なん?」
「なんしにここに来とんねん」
2人の魔人が少し強気に声をかけてくると、パトラが魔神に会いに来たことを説明すると案内してくれた。
第一印象とは違って優しい人達だったようだ。
少し歩くと広場になったところに、泉と、1つのステージと、いくつかの丸太イスがおいてあった。
何人か魔人がいるけど、少し変わった姿をしていた。
「ここのやつらは【ノンカールズ】といって体の一部が肥大化した魔人の集まりだ。肥大化部位の無いやつが魔神だからすぐ分かるだろう。」
案内してくれた片方は歯が大きくなっている。他にも腕や頭が大きい者が何人かいる。逆に言うと残りの何人かは普通に見える。
「おれだよ! すぐわかるだろ!!」
おれの目の前に来た1人の子どもがどうやら魔神らしい。
「おれがマーノア、魔神だ。どうせ神器が欲しくてパパに連れてきてもらったんだろ?やるよ魔神様からの神器」
そう言ってこっちに何か投げてきた。
慌ててキャッチした物はパンツだった。
(神器投げるなよ、しかもパンツ?)
「その神器の効果は大きく2つ。1つ目はおまえから出る排泄物をおまえの魔力に変える。2つ目は魔力を込めると、望んだ格好に変わる。込める魔力次第で、鎧でもローブでも、耐熱耐寒、常時傷の回復でも全て思い通り。 フッ」
うんちが魔力に変わるなんてファンタジー様々だし、防具まで手に入れてしまった。魔力はたくさん余ってるからおれにピッタリすぎる。
ただ、なんだろう。
最後に鼻で笑われた感じが何かひっかかる。
とりあえずはバイクに乗れるように、見た目はツナギとブーツとヘルメット。機能は防風、耐熱、耐寒、耐物理、耐魔法、よく知らんけどこれだけ付けてればバイクを走らせれると思う。
さっそく完成を想像しながらパンツに魔力を込めてみた。
おれは光で包まれたが、それも一瞬。
イメージ通りすぎて、開いた口が塞がりません。
「フフッ。ハハハハハハ」
魔神マーノアが腹を抱えて大爆笑。
パトラも鼻で笑った。
「なにかおかしい?」
「「なんでもない」」
2人は笑いをこらえながら、声をそろえた。
うざ。
こういう大人達にはなりたくないと思った。
「用事は済んだろ、帰れよ。 ねぇミミミちゃん」
「別になんでもいいんじゃない?」
みみみちゃん?って呼ばれたのはこの中で唯一の女の人。おでこが広い気がするけど普通にかわいい人。
男の方はどこが肥大化してるのか分からない。
「パトラ、祠の近くまで送ってやるからそいつと人族側に行ってこい。」
「なにかありましたか?」
「そこのチビに有益な情報が得られるだろうからよ」
おれがノンカールズと話してる間に、パトラと魔神も話を済ませていた。
「おい、ちび。人族領に行ってこい。1ヶ月後に人族が攻め込んでくるはずだから、それまでには戻ってこいよ。」
興味はあるけど別に行きたいなんて言ってないし、すぐ帰ってくればいいかな。
なんてことを考えてる間におれたちは別の場所へ飛ばされた。