海の見える街
ひとり旅 4日目
朝が来た。
大きな門までシュバルに連れて行ってもらい、門番に挨拶をして通してもらう。
「おはやーます」
「おはよう。 じゃねぇーよ、おまえ人族だろ!なにしにきた!」
テンション高めの門番は簡単には通してくれなかった。
(もうこの件お腹いっぱいだわ。まあいつも通り流れに身を任せるか)
「おいしいごはん、たべたい」
おれは門番の質問に答えた。
すると、門番はさらにテンションを上げて通してくれた。
「飯か!なんでもうまいぞ、しっかり食べるんだぞ!」
本当に魔族はいい人が多い気がする。
ここの門番は褐色肌なだけで、見た目は人族っぽいけど、ここの門番は魔族じゃないのかな?
そんな疑問を抱きつつ、門を抜けると、真っ正面に大きな噴水が見える。噴水の中心には大きなお皿のような物があり、両横には扉がある。
この噴水、どことなく魔王と行った泉に雰囲気が似てる気がするな。違いは石像がないぐらいか。
どこ行こうか
とりあえず朝食、おいしい物が食べたいな。
こういうのは門番に聞く、と相場は決まっている。
さっきのハイテンションじゃない門番に声かけてみた。
「朝飯だな!右側の建物、手前から2個目が飯処だ!門から近いし、朝早くから夜遅くまでうまい飯を出してくれる。行ってみな!」
こいつもハイテンションだった。
とりあえず、行ってみよう。
カラン、カラン
「いらっしゃい!好きなとこ座りな!」
キッチンでなにか調理中の女性が声をかけてくれた。この人もハイテンション。この街はそういう場所なのだろうか。みんなのテンションがめちゃくちゃ高い。
せっかくだからカウンターの席に座ってみる。シュバル達は一旦帰ってもらった。
え、どこにかって?
召喚獣の還る場所なんて知らん。
呼んだらうれしそうにしてくれるから、最近はほぼ常時召喚だけど、TPOを考えて還ってもらう時もある。
とん
ウエイトレスの方がジョッキとカットリンゴみたいなものを持ってきてくれた。
この人も褐色肌だけど、お淑やかな感じのきれいなお姉さんだ。
「注文決まった!? え、まだ?こっちで決めてあげるよ。嫌いなものある?ないね。OK! A1つー!」
あぁ、うん。えー、うん。
普通に見た目通り、ギャル感満載のお姉さんでした。なんも言えんかった。
Aって何か分からんけど、待ってみよう。このお店うまいらしいし。
少し待つと定食が出てきた。
玄米と小鉢、メインはしょうが焼きっぽいもの、汁はお吸い物だな。
かなり和食。見た目だけでうまい。
いざ、実食!
「うまぁ~」
なんやこの落ち着く味、つい声が出たし自然とほっこりしてしまう。
「うまいだろ!今日のA定食グレートボアのソテー。しっかり食べて大きくなれよ!」
さっきのお姉さん、まるで自分が作ったかのように自慢気に話してくれた。
奥で実際に作ってるおばちゃんは、それどころではない。
あっという間に1人前を完食してしまった。赤ちゃんように調整してくれたのか、おれの胃袋が無尽蔵なのか。なんなく平らげてしまった。
最高にうまかった
「ごちそうさまでした」
おれはお礼を伝えて席を立ち、お店を出た。
すると奥のおばちゃんも出てきた。
「お金は?」
「え?」
この世界に来て初めてその単語を聞いた。魔王城にはお金なんてなかった。
物々交換か、魔王が運営している公的組織のようなものしかなかったのだ。
「人族がタダで食事できると思っているのかい?領主様の所に行くしかないね」
人族が?ただの人種差別かよ!
結局こうなるのか、せめて食後なのが救いだな。美味であった。
噴水の右側にある建物まで連行され、小さな部屋に案内された。
そこにあるのは、椅子が1つ。ただそれだけ。
少し待たされるとすぐまた違う場所へ移された。次の部屋は領主の部屋だろうな、少し豪華な椅子に若い男が腰かけている。
「おまえがタダ飯食らいか!人族のくせに生意気だな!どうしてやろうか」
こいつもハイテンション。
鬼神頃からテンション高めが続いて少し疲れてきたよ。。
「しらんよ、おかねないもん」
食事のおかげか、今朝ぐらいから話しやすくなってきた。
今それは、一旦置いといて。
「人族でお金がない!?跳んでみろ!どうだ?音がするだろ?」
しねぇよ。いつのヤンキーだよ。
というか、服着てないんだから隠しようがないだろ。
「まおうじょうにもおかねなかった」
やんわり魔王城から来たことを伝えてみる。
領主なら知ってそうだけどな。魔王城に最近人族の赤ちゃんがいるって。
「当たり前だろ!魔族に金なんてない!魔力の流れで敵意の有無は分かるし、金は生物を醜くするだけだ!」
なにそれ~
魔力の流れで敵意が分かるとかすご。
金は生物をって、絶対人族に対する偏見だな。どこの世界もそういう方々がいるってことですよね、きっと。
ん?待てよ。
なら、魔力の流れ見ろよ。おれから敵意感じないはずだから、今は食後の朝寝をしたいだけだから。
そう、眠たいのだよ。
「よし、決めた!おまえは東送りの刑だ。向こう側へ行ってこーい!(こっちで人族の処理するの面倒だし)」
男は席を立ち窓を開けて、鐘を鳴らした。すると噴水を挟んで反対側の建物の扉が開いた。
こちらの建物と反対の建物がロープで繋がっている。 もしかして…
若い男に担がれておれはロープに吊るされた。
「我、ブレスト西の領主マモンによって無銭飲食の罪人を東送りの刑に処す! 刑、執行ー!」
おれはすごい勢いで投げ飛ばされた。
ロープには魔法で吊るされているみたいで、摩擦や重力など全ての物理を無視して、隣の建物に届けられた。
「はぁ。」
そこには1人の男が立ってため息をついていた。
「なにしにきた。罪状、無銭飲食って、はぁ。これ人族にしか適用されないはずだが」
そしてひと目こちらを見た。
「はぁ。人族じゃん。このまま送り返そうか。そうしよう」
すると男はおれをロープに吊るしたまま鐘を鳴らした。
「あぁ、ブレスト東の領主トモンによってこの人族を西に送り返す。」
そう言うと勝手にさっきの建物に送り返された。
投げる必要ないんかい。
というか、帰ってきたんですけど。
戻ってきた部屋にはさっきの若い男がいる。マモンって言ってたっけ。
「おーーい、兄貴!面倒事を押し付けるなよ!マモンが命ずる、東送りの刑に処す!」
そのままおれは東にまた送られた。
「はぁ。そっちの罪人じゃん。嫌だよ。返す。」
こっちはトモンだっけ?また送り返した。
2人が面倒事をロープに乗せて送り合っているが、その間おれは眠ることにする。
しばらくやり合っていると、海側で大きな音がして目が覚めた。
その音を聞いた2人の領主は、目を合わせ声を合わせる。
「我らブレスト領主が命ずる。罪人を魔物討伐の刑に処す。今出た海の魔物を討伐してこい」
すると建物間を移動していたおれの体は、海へと飛ばされ、強制的に魔物と戦わされることになった。
魔物の見た目はタコ。
どこかの国では悪魔の魚とか呼ばれていたような。
その名にふさわしい大きさと威圧感である。
「さもん、シュバル。いくぞ、りくどう。」
シュバルに乗っておれは刀を抜く。
が、どこから攻撃したものか。
空は飛べないし、海を泳ぐと戦えない。
とりあえず小麦の採取を思い出しながら、刀を振る。
(届け、斬撃)
リクドウの斬撃はタコに当たるが傷1つ付いてない。
アカリに本を切られたときに魔法もなくなってしまったし、何か方法がないのか。
シュバルが飛び交うタコ足を避けながら、おれは考える。
カウンターしかない。
そもそも刀を振るスキルがないおれに出来るかは分からないけど、やってみるしかない。出来なければ負けだ。
頭上から振ってくるタコ足をシュバルにサイドステップで避けてもらう。からのグサッと横からリクドウで一突き。
刀を体でしっかり固定して、タコ足が引くのに合わせると足先が2つに割けた。
(よし、これで行こう)
上からタコ足が振ってくるのに合わせてサイドステップから、刀を突き刺すはずだったが横から別の足で攻撃してきた。
(対応早すぎない?)
シュバルが空中に避けてくれて助かった。急いで下のタコ足に向かって急降下して刀を突き刺す。
そんな感じで避けて、刺してを繰り返す内に夕方になっていた。
シュバルに疲労感が見えてくる。そろそろ避けるのも限界が近そうだが、決定打に欠ける。足を傷つけてるだけで、タコは余裕そうだ。
(正直厳しい、このままだとじり貧だな。)
最初から領主の2人と魔族達が何人か見てるけど、手伝ってくれる様子もない。
諦めたい。いや、諦めようかな。
刀を鞘に収めてシュバルから降りる。
タコ足が上から振ってくるけど抵抗はしない。
セカンドライフはたった数ヵ月だったけど楽しかった。
「おつかれ」
そしてタコの攻撃はおれに直撃した。
ご愛読いただきありがとうございました。
まだ終わりません。
次週に続きますので引き続きご愛読ください。