セカンドライフの始まり
日本という素晴らしい世界で幸せな暮らしをしているおれ。デュラン碧。父が外国人で母が日本人の所謂ハーフってやつだ。
一応家業のパン屋さんで働いている、普通の会社員。そんなおれが幸せだと言える理由、それが
「パパおかえり~」「おかりり~」
2人の息子達だ。
「ただいま」
2人の子どもに恵まれた4人家族。パン屋さんは朝早く出勤する変わりに、夜には家族と楽しく時間を過ごせる。さらに、明日は長男の誕生日。プレゼントは用意してある。後は明日祝うだけ。そうして子ども達と布団に入り、寝た。
はずだった。
気がつけばそこは、真っ白な空間にポツンと小さな赤い鳥居と木のイスが置いてあった。
おれは木のイスに座ってみた。
「今日の夢はなんだ?」
不思議に思っていると、一匹の猫?のような生き物が鳥居から出てきた。
その猫は2本の足で立ち辞書のようなぶ厚い本を持っている。
そんな生き物が話しかけてきた。
「旅行するならどこに行きたい?」
どこかで聞いたことある台詞でおれに問いかけてきた。
ツッコミたい気持ちを押さえ、今日の夢に少し期待しながらおれは答えた。
「おれの願いが叶う場所」
なにか願いがあるわけではないが、どうせならと答えてみた。夢を見るなら楽しい方がいい。
そう考えていると、猫?は2足歩行で鳥居の側まで行き、本とは反対の手で鳥居に触れた。
「私の名は、バーソロミュー・ねこ。おまえを望む場所へと送ってやろう。」
「あなたのその設定、大丈夫ですか?」
思わず言ってしまった。
が、猫は平然としている。
「おまえの記憶からイメージしやすいものに形を作っている。名や、姿など実際はどうでもよいもの。少しボケてみただけだ」
だとしたら弱いボケだったな、と思っていたら、猫は辞書のような大きな本から何かを探していた。
鳥居は大きくなりながら、内側が白く光だした。猫は本から何かを見つけたようだ。
「この光の先におまえの望む場所が待っているだろう。しっかり楽しんでくるといい。」
状況を理解せぬまま、おれはその鳥居の中へと歩みを進めたのだった。
鳥居をくぐると、そこには映画館にあるようなやわらかいイスがあった。
またイスが用意されているのかと思いながらも、そこに座って少し待っていた。
「新人様ですね。お待ちしておりました。」
唐突に聞こえた声に反応して後ろを振り返ると、そこにはスーツがよく似合っている執事がいた。
「この度は私の世界を選んでいただきありがとうございます。今回転生していただく世界を担当しております、メリーと申します。以後お見知りおきを。」
ん?転生?どういうこと?
夢のつもりだったおれは1つ質問をしてみた。
「転生とはなんでしょうか。」
「違う世界で新しい人生を歩んで頂くことでございます。碧様はこちらに送られた使者でございますので、転生前に願いを3つ叶えて差し上げます。何なりとご相談ください。」
おぉ…。
転生するつもりはなかった、ってかおれ死んだ?子どもと寝たはずなんだけど。
「おれ死んだの?家族は?」
「あちらの世界で碧様は存在が無かったものとなります。承諾を受けて来ていただくはずなのですが。少しご説明をさせていただきます。」
するとイスの前に大きな映像が映し出され、メリーさんから説明を受けることになった。
「まず前の世界で存在が無かったことになります。ご家族の父親は別の方が存在することになります。死んで転生ではないのでどの世界を選ばれても手当てとして望みが叶うようになってます。ここまでが前の世界のお話です。質問はございますか?」
「元の世界に帰れますか?」
「こちらの世界での役割を果たして頂ければ、不可能ではございません。」
異世界転生って不幸な人が転生して幸せになるやつじゃないの。人生充実してた組なんですけど。気に入らんけど転生するしかないなら、願いは慎重に決めないとな。
メリーさんは話を続けた。
「次に、新しい世界のご説明をさせていただきます。新しい世界ではヒューマンやエルフなどの多用な人族や、魔人と呼ばれている魔族が存在しています。碧様には希望がなければヒューマンとして転生していただき、世界を平和にしていただくことが、新しい人生での役割でございます。無事世界平和が実現した時は報酬として願いを1つ叶えさせていただきます。その際ご希望でしたら前世の世界にお戻りいただくことができます」
メリーさんが説明中に見せてくれた映像には当たり前のように魔法っぽいものが見えた。 王道ファンタジー!
あのクソ猫には腹が立つけど、気持ちが高ぶり、少し笑みがこぼれてしまう自分がいた。
「質問がなければ、願いをお伺いしてもよろしいでしょうか。」
聞かれたおれは考えた。
転生先は魔法が存在する世界で願いが3つ叶う。選択次第ではイージーモードのセカンドライフが満喫できるはず。
「1つ目は怪我や病気をしない丈夫な身体にしてほしい。」
まずはこれだ。四苦八苦の四苦に含まれる 生・老・病・死 逃れることのできない苦しみを1つでも無くせるのは大切だ。
「承知いたしました。次をお願いします。」
「2つ目は全言語翻訳でお願いします」
おれはハーフでありながら外国語が話せない。話せる言葉は多い方がいい。その方が絶対楽しい。
「承知いたしました。次をお願いします。」
これが最後の願い。実際どんなことが必要なのか、全く見当がつかない。
少し考えていると、ふと頭の中にさっきの猫が思い浮かぶ。
(あの猫やっぱりなんか腹立つな)
「最後の願いはおれに固有魔法、干支召喚をお願いします。12支のうち卯をおれの質問に必ず答えれる案内役にしてください。」
異世界の情報が少ない中ナビゲーターの存在は必須になってくるはず。なんか猫に対する嫌がらせで干支が出てきたけど、たくさんの動物が召喚できればどこにいても退屈はしないはず。
「承知いたしました。それでは3つの願いを叶えますので、世界を平和にしてください。」
すると、体が白く光り始めた。
なぜか後半はすごく淡々と進めていた気がするけど、ありがとうメリーさん。あなたにもらう力でがんばってみます。
「第2の人生を楽しみながら、ヒューマンとして世界を平和にすることはお忘れないよう、お願い致します。それでは行ってらっしゃいませ。」
あ、希望すれば人種の変更できるの忘れてた。まあいいか。どんな人種がいるか分からないし。
そんなことを考えながらおれの体は光が弾け転生するのだった。
どうやら無事転生できたみたいだ。
空を見ている。体を動かそうにも手足をバタつかせることぐらいしかできない。視界に少し手が見えるけど小さい。
(赤ちゃんスタートみたいだ)
周りはやけに静かで、見上げる空には星がたくさん輝いている満月の夜だった。
静かすぎる。
空しか見えないが建物や人の気配は感じない。大きな木なら見える。
おれを産んでくれたはずの親は一体どこにいる?なんで今外なんだ?疑問が思い浮かぶ。
そして干支召喚を思い出したおれは使ってみることにした。
(使い方は知らんがうさぎを案内役にしてあるから聞いてみよう。)
おれはうさぎを呼ぶように心で念じた。
近くで光りが見え、うさぎが現れる。
すると、その小さなうさぎがおれの体の上に乗ってきた。白い毛に包まれ真っ赤な目をした小さくてかわいい手乗りうさぎだ。
「キュ?」
うさぎは一言、声を発し顔を擦り寄せてきた。
そのうさぎを見て大変なことに気づいた。おれはまだ声を発することができない。知りたいことはたくさんあるのに、もどかしい。
とりあえず、また念じてみた。
(うさぎ、伝わってくれ。この辺りに人はいないか?)
うさぎは首を横にふって答えた。
どうやら伝わったらしい。
これが念話ってやつか。便利だ。
感心しているおれを無視して、うさぎは周りを警戒している。
すると、足音が近づいてきた。うさぎはなにかに怯えるように煙となって消えていった。
(ちょっ、うさぎ!)
おれは焦ったが、声も出なければ手も届かない。文字通り手も足もでないまま息を殺した。
(誰だ。うさぎが言うには人はいないはずだが。)
足音が近くで止まった。
それはこちらを見ている。人の形をしているようには見えるが、まだ赤ちゃんのためはっきり見えない。
「ヒューマンの子どもか。私が連れ帰ってやろう。哀れな人の子よ。」
その人は小さなおれの体を優しく、丁寧に持ち上げた。
抱えられてやっと分かった。この人は魔族だ。メリーさんの映像で見た、立派な角が生えている。ぼやけながらも側頭部から太く力強い角が空に向かって伸びているのが分かる。
気づけばその角に見惚れていたおれに、魔人が話し始めた。
「角が珍しいか。私は魔人の王だ。今からおまえを城まで連れて帰ってやる。そして今日から私の子どもだ、助けてやるのだから文句はあるまいよ。」
拉致かよ!
だが、実際のところ自力で動くことができなければ、抗うこともできないおれはこの魔王の言いなりになるしかなかった。
道中魔王はこの世界のことを話してくれた。
「人族は多用な種族が存在している。そのなかで最も多い種がヒューマンだ。あいつらは魔族を滅ぼし、私達の領地を我が物にするつもりでいる。その上、ヒューマン以外の獣人や亜人を人としてみていない。そんなやつらにこの豊かな土地を渡すつもりなど断じてない。」
どこか悲しげな顔で話すその言葉には重みがあり、手には力が入っていた。
(丈夫な体が早速役立ったぽくてよかった。)
しばらくすると大きな門の前で魔王は立ち止まった。暗くて門番には見えづらかったのだろうか。魔王を見つけると慌てて門を開けた。
だが、なぜだろう。大きい門なのに音が静かだ。よく見ると開いたのは大きな門ではなく、横にある小さな通用口のような扉だった。
そこを魔王は大きな体を小さくしながら通っていく。
「おかえりなさいませ。魔王様。いつもこのような扉ではなく、大きな門を開けますのに。」
門番は不思議そうに魔王に尋ねたが、魔王は当たり前のようにただ一言答えた。
「国民が寝ている。」
(イケメンすぎかよ!)
想像している魔王とは違いすぎた。この魔王は良い人なのかもしれない。
そんなことを考えていると、城の中のベッドがある部屋に着いた。
とっても大きなベッドの上におれは置かれた。
「今日はもう寝るといい。」
(とりあえずこの魔王の子どもとして生活することになるのか。)
こうしておれのセカンドライフは、魔王と一緒に寝るところから始まるのだった。
ドンサンです。
これから【異世界と12の召喚獣】を書いていきますので、応援よろしくお願いします。
気軽に見てください!