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第18話 お姫様抱っこ モクゲキシャ(目撃者)

 放課後、彼はチアキたちより先に教室を出る。そして、彼は靴箱への向かう。そこにリンネがいる。彼は待ち伏せしていたのだ。チトセは彼を無視して靴にき替えて歩き出す。


 慌ててリンネも靴を履き替えると彼の後を追う。そして彼の横につくと並んで歩く。今日、チトセは彼女たちより先に出たので遠回りせず帰路につく。


「いつぶりだろうね? チトセに再会するのは?」


「記憶にねぇよ」


「たしか君が尻を追いかけている女性の二、三回前の人生だったかな?」


「おい! その言い方やめろ!!」


「これは失礼。尻を追いかけているという表現は不適切だったね」


「そこじゃね!!!」


「……すまない。君の中では彼女は生き続けているんだね」


 チトセは返事することなく早足で彼を引き離す。リンネは申し訳ないことを言ったと思いつつ追いつき彼の横を歩く。しばらくの間、二人の間には沈黙が続く。


 リンネは敵国の総大将だった。その時、チトセは一介いっかいの武将に過ぎなかった。彼らの国は大国であるリンネの国に飲み込まれようとしていた。


 敵国は大軍で進軍してきた。それはチトセたちにとっては国家存亡戦だったのだ。チトセが数千の騎兵を引き連れ、総大将の本陣の背後から深夜に急襲をかけたのだ。そして彼はリンネを討ち取ったのだ。


 リンネには野望があった。それは二国を手中に収めることだ。チトセの国を滅亡させれば簡単だった。後は彼が傀儡(傀儡)として据えていた王から禅譲ぜんじょうを受ければいいだけだったのだ。彼の野望は後一歩でついえたのだった。


 未練を残した彼は境界門をくぐらなかった。それで彼は敢えてホバクシャに志願した。それはチトセを見つけ出し始末しまつする為だった。


 長い時を経て彼はチトセと相見あいまえた。そして彼は機会をうかがいチトセに一騎打ちを申し込んだ。しかし、彼は全く取り合わなかった。そんな彼に対してリンネは憎悪が募り悪精化の兆候が見られた。それでチトセは彼をほうむるついでに一騎打ちを受けた。


 勝負は呆気なかった。チトセが一撃で倒したのだ。立ち上がろうとしながらリンネは彼に卑怯者だと言い放った。それに対してチトセは国家存亡の危機で民の命が懸かっていたのだから卑怯も何もないと冷静に言い返した。そして彼はリンネにお前の怠慢たいまんだと言い放ったのだった。


 悪精化寸前だった彼は気付かされたのだ。そう自身の怠慢だったことに。完全に納得はしきれなかったが、気持ちが晴れたような気がしたのだ。それで彼は悪魂者にはならなかった。


 この出来事をチトセは報告しなかった。その理由は自分の前で悪精化して悪魂者になかったからだ。もう大丈夫だと確信した。なぜならリンネの憎悪の対象者は彼一人のみだったからだ。


 リンネは彼を見つけ出しては一騎打ちを申し込んでくる。これまで全て断ってきた。理由は悪精化するのは困ると嘘を付いてるのだ。


 リンネは見逃してくれたチトセに対して恩義を感じている。それで彼は打ち解けたいと思っている。しかし、チトセには更々その気はない。それでもリンネは心の距離を詰めようと努力している。彼は諦めが悪いのだ。


 リンネが肩を組もうとする。するとチトセは華麗なステップでかわす。しかし、リンネは諦めずに何度も挑戦する。面倒臭くなったチトセは諦める。それを見たリンネは彼の首に絡みつく。その密着度にチトセは彼の脇腹に肘打ちをお見舞いしてやろうかと一瞬過よぎる。しかし、彼はリンネが騒いで周囲の注目の的になるのが面倒臭いので断念する。


「チトセ?」


「何だよっ?」


「さっきの発言は考えが至らなかった。改めて謝罪する。申し訳御座いませんでした」


「分かった」


「謝罪を受け入れてくれてありがとう、チトセ」


「あぁっ、気を付けてくれればな」


「本当にすまなかった」


「もういいよっ」


「ところでチトセ?」


「何だよ」


「進展はないのかい?」


「何のだよ?」


「彼女とだよ」


「そんなの元からねぇよ」


「チトセはそれで本当にいいのかい?」


「あぁっ、それでいいんだ」


「チトセは彼女のいつの世でも傍観者なんだね」


「………………」


「あっ! いつの世が気に触ったかい? これは僕の率直な思いだよ」


「……それでいい、いや、その方がいいのさ」


「思い切って彼女の心に介入するのもいいんじゃないかい?」


「やらない方がいいんだよ」


「ずっと彼女を見届けてきた君の心中は察する。だけどチトセと彼女だけの思い出を作ったらいいと思うけどな。誘ってみたらどうだい?」


「俺のことなんて何とも思ってねぇよ、彼女は」


「一流ホバクシャは人間の心が読み取れるのかい? 超一流の僕にでも無理なのに」


「そんなの出来たら……何でもない」


「彼女は忘れてしまうだろうけど、チトセの中だけでも彼女との思い出を胸に秘めておいたらどうかな?」


「そんなの……いや」


「辛いだけかい? 物事はポジティブに考えなきゃね、チトセ。僕みたいにね」


「度を超えてるけどな」


「その褒め言葉嬉しいよ」


「褒めてねぇよ」


「彼女に関してはチトセは冷めきっているんだね。僕を助けてくれた時は灼熱しゃくねつだったのにね」


「助けてなんかねぇよ。ただの気まぐれだ」


「カッコいいね、やっぱりチトセは」


「言ってろ」


「じゃあ、僕は青春を謳歌おうかしてくるよ」


 そう言うと彼はチトセの肩から手を離す。そして彼は背を向け真逆の方向へ歩き出す。チトセは靴紐がほどけていることに気がつく。それで、結ぼうとかがむ。


「やぁ、彼女たち」


 そのリンネの声に彼は振り返る。するとリンネの後方にチアキとミレが歩いている。二人は気付かずに路地へと曲がる。二人の通学ルートでない。どうやら店にでも立ち寄るのだろうと彼は思う。見ているとリンネも曲がる。


 彼は嫌な予感がする。それで立ち上がる。そして走り出そうとする。しかし、解けていた靴紐を靴裏で踏んでしまい転んだ。焦る気持ちを落ち着ける。そして素早く靴紐を結び後を追う。


 彼が路地を曲がるとリンネは二人に追いつこうとしている。チトセは間に合いそうにない。するとリンネが二人のうち一人の肩に手をかける。すると彼は膝から崩れ落ち顔をうずめて悶絶もんぜつしている。彼が触れたのはミレで肘打ちを喰らったのだ。


「チトセ同学生! 見損なったぞ!! よりによって私とは!!! この意気地なしがぁ!!!!」


 ミレは腕組みしリンネを見下ろしている。蹲っているので顔が確認できない。チトセとリンネは髪型、背格好せかっこうもそんなに違わない。それでミレは彼をチトセと勘違いしてしまっているようだ。


 すぐ近くでチトセは呆然とその光景を眺めている。すると彼は肩を触れられる。それはキズナだ。チトセは目の前の出来事に目を奪われているので気付かない。キズナも彼しか眼中にないので目の前のことに気付いていない。そしてキズナは彼の前に回り込む。


「兄上、どうなさいましたか?」


 そう彼が言ってもチトセは気付かない。キズナが彼の顔の前で数回手を振ると正気に戻った。すると目の前ではミレの脚が高く上がる。チトセじゃないだけで、この間と同じシュチュエーションだ。


「キズナ!!!!」


 その声にミレが気付く。声の主であるチトセを確認した後、彼女の視界にキズナが入る。すると、この間と同様にバランスを崩す。


「キズナ! 女子生徒が倒れそうになっている! 助けてこい」


 その彼の言葉にキズナは即座に反応する。そして駆け出す。ミレは仰け反り両足とも宙に浮いている状態だ。彼は腕を彼女の背中に回し支える。今の二人は社交ダンスの決めポーズを決めてるに見える。


 彼女は横顔だけでキズナと気付く。すると彼女は体の力が抜ける。それでキズナは彼女が重くなっていくのを実感する。支えきれないと思ったキズナは咄嗟とっさに彼女の膝裏ひざうらに腕を入れ抱え上げる。大きく振られた彼女は両腕を彼の首に絡める。


「大丈夫ですか?」


「あっ……はい」


「貴方はミレさん?」


「そっ、そうです」


 そう答えた彼女の頬が急激に赤くなる。赤みが顔全体へと広がっていく。それが気になった彼は彼女を見る。二人は見つめ合う。気恥ずかしい彼女ではあるが目を逸らすことが出来ないでいる。彼女の顔は真っ赤になっていく。しばらくして視線を逸らす。


「顔が赤いですけど熱でもあるんですか?」


「あっ……はい」


「立てますか? 無理ならもう少しこうしてましょうか?」


「えっ……いや私、重いですし」


「そんなことはありませんよ?」


「キズナ」


「はい、兄上」


「急に立たせてフラついたら大変だから、もう少しだけそうしてろっ」


「畏まりました」


 そう彼が言うとチアキはチトセを見る。二人の様子を見ている彼は彼女の視線に気付いていない。そんな彼を見て、彼女には二つの感情が芽生えていく。緩やかに時間が流れていく。


「もっ、大丈夫ですぅ」


「それは良かったです」


 そう言うと彼は彼女をゆっくりと立たせて上げる。顔を真っ赤にミレは俯き彼の顔を見れないでいる。


「あっ、ありがとう、キズナ君っ」


「いえ。困った時はお互い様ですから」


「もう私、行きますね」


 彼女は背を向けて歩き出す。チアキが後を追う。しかし、彼女は引き返しチトセの前に立つ。そして、しっかりと彼女は彼の目を見る。一方、チトセは彼女の目を見ることが出来ない。


「チトセ君はそれでいいんですか!!」


 そう彼女は言い放つと立ち去っていく。そして彼女はミレの元へと追いつく。すると彼女はミレの腕を掴み支えながら歩いていく。


 一方、彼は何が何だか理解できないでいる。しかし、彼は彼女が投げ放つように言った言葉が突き刺さった後にき回す様にえぐられているいる。彼は呆然と立ち尽くしている。


 キズナがうずくまっているリンネの肩に手を置く。するとリンネが顔を上げる。するとキズナの表情が一変する。


「貴様か!」


「やぁ、キズナ」


「気安く名前を呼ぶなっ!」 


「もしかして改名したのかい?」


「貴様、ふざけているのか!」


「僕は大真面目おおまじめだよ」


「いいから呼ぶな!」


「ところでキズナ?」


「オマエは健忘症か!」


「チトセの想い人は気が強いのか? 僕の情報とかけ離れてるんだが」


「何を言ってんだ!」


「肩に触れた瞬間に肘鉄を喰らったよ。君がお姫様抱っこしてた女子だろ? チトセの想い人は」


「貴様の目は節穴ふしあなか! 彼女はミレさんという名で姉上の御友人だ。お隣にいた御方こそが姉上だ。どうせ貴様のことだから馴れ馴れしく接しようとしたんだろ?」


「背後から肩に触れただけだよ」


「なら、そうされて当然だ!」


「そうなのかぁ」

 

「この女たらしがぁ!」


「僕は一途いちずだよ。君も知ってるだろ」


「喋りかけるな!」


「しかし、チトセは想い人に随分と嫌われているようだね? チトセは僕に嘘を付いていた様だ。もしかして振られたのかい?」


「貴様ぁ! 兄上が嘘つきだと? 兄上は姉上をただ見守ってるだけだ。兄上は会話もまともにしたことないんだぞ」


「じゃあ、どうして怒っていたんだい?」


「……そっ、それは知らん。何か行き違いがあったのだろう」


「会話もしないのにかい?」


「貴様は黙ってろ」


 そう彼は言うとチトセを見る。その先の目の焦点が定まっていない。キズナはただちに駆け寄る。


「兄上?」


「…………………………」


「兄上、あれは夢です。たった今、私も目覚めたところです」


「…………」


「キズナ、それじゃ君はチトセと同じ夢を見ていたことになるよ?」


「いいから貴様は黙っていろ! このペチャクチャお喋り野郎が!!」


「ヒドイなぁ」


 このままではらちが明かないのでキズナは無視を決め込むことにする。そして彼はチトセの掴み肩を揺する。何度も何度も彼が繰り返しするとチトセは正気に戻った。


「兄上、大丈夫ですか?」


「あぁっ……大丈夫だ」


「安心致しました。さぁ、家までお送りします」


 そう彼は言うとチトセの腕を取る。そして、寄り添って歩き出す。


「二人とも僕を置いてけぼりにしないでくれよぉ〜」


 リンネは走り出し追いつく。彼は二人の肩を抱く。キズナはチトセのことが心配で仕方ない。なのでリンネを気にしてられない。傷心のチトセは言うまでもない。肩を並べながら三人一緒に帰路につく。

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