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第13話 めくれたスカートと指先 サツエイシャ(撮影者) 

 チアキの方へと向かうチトセは何かにつまずく。それで彼は体勢を崩し倒れ込む。咄嗟とっさに彼は両手と両膝を付き地面への直撃を回避する。


 そう思っていた彼の視線の先には目を閉じたミレの顔が至近距離にある。彼の鼻先が触れそうな程だ。今の彼は彼女をおおむ様につんいになっている状態だ。


 あせりながらも彼は振り向く。すると靴がころがっている。どうやら彼女の靴のかかと部分に彼の爪先つまさきが当たったようだ。彼は彼女が衝撃しょうげきで目覚めてないかと気が気でない。しかし彼女は気を失ったままのようだ。彼は胸をろす。


 彼女もチアキ同様に顔に土をかぶっている。眠っているような彼女の顔は穏やかだ。ふと彼は自分に対し普段からこの様な表情で接してくれたらなと思う。この直後、何を考えてるんだと頭を何度か左右に振る。


 土を被ったままでは気の毒だと思い、彼は指先で彼女に付いている土を払う。水分を含んでいる為、なかなか落ちない。それどころか、土が広がり彼女の左頬の表面積のほとんどをおおってしまった。


 彼はあせる。もし彼女が起きて気が付いたら何を言われる、いや何をされるかと考えただけでたまったものではない。一瞬、シラを切り通せばいいのではと頭をよぎる。性格上、彼には出来そうにもない。勘の鋭い彼女には見透みすかされてしまいそうだ。


 あれこれ考えていると、彼は体勢を崩す。このままでは彼女におおかぶさってしまう。アクシデントとはいえ、その状況はあらぬ誤解を招いても致し方ない。変質者の称号、いや蔑称は御免である。この事をネタに彼女ならどんな無理難題を要求してくるかと想像するだけで気が滅入めいってしまう。


 彼は背中の方へ向けて腕を素早く大きく振る。そして背中から土の上に倒れ込む。なんとか彼女におおかぶさるのを回避出来た。


 またミレの顔をよごすといけないので手をなく腹筋を使って上半身を起こす。背中が湿っている感じがする。今日下おろろし立ての服は土まみれなのだろうと思う。しかし、そんなに気にはならない。ミレの存在、いやそれよりもチアキの存在がそう思わせたのかもしれない。


 彼は立ち上がりミレを見下ろしている。申し訳ないので土が乾くまで待とうと思う。いつ起きるか気が気ではない。しかし、そうなった場合は素直に謝ろうと思っている。彼女が許してくれるかは別であるのだが。


 もうしばらく乾くまで時間がかかりそうである。彼は意識的にチアキを見ないようにしていた。しかし、目がいってしまう。彼女は透き通るような肌をしている。今にも消えてしまいそうな程だ。過去に何度も彼女の最期を見届けた彼は思い込みすぎているのかもしれない。


 彼は彼女の元へと歩き出す。そして彼は両膝を付く。土でスボンが汚れる事なんて彼は全く気にしていない。むしろ無意識に行動に移したのだ。彼は彼女に付着している土を見る。そうすることで彼女の顔を見ていないと自分に言い聞かせているのかもしれない。おきては破ってはいないのだと。


 彼の指先が彼女の頬に伸びる。寸前で彼は我に返る。そして、そっと指先を頬から離していく。触れたいと思えば届く距離、それが途方もなく遠く永遠に届くことはないのだろうか感じる。


 それでも彼女の頬の土を落としてあげたいと彼は思う。とある物を見た事を思い出す。それはミレのズボンからチラリと見えていたハンカチだ。彼女には申し訳なく思うが拝借はいしゃくする事にする。彼は親指と人差し指で彼女の尻には触れないように細心の注意を払いハンカチのはしを摘む。そして、そっとそっと抜き取る。なので結構な時間が掛かった。


 彼は再びチアキの元へと歩き出そうとする。しかし立ち止まる。なぜならミレの頬の土が乾いているからだ。しゃがみ込み彼は彼女の頬に手の甲を向け指で土を払う。彼女の頬はキレイになっていく。


 払い終えると彼は立ち上がりチアキの元へと歩き出す。そして両膝を付く。そして手の甲側の指に付いた土を服にで払い落とす。白いシャツが茶色で染まるように汚れていくが全く気にはならない。


 彼女の頬に向かうハンカチを持つ彼の手は震えている。それなので彼は何度も手を大きく振る。そうしているうちに震えがなくなる。というよりも麻痺しまった。


 再び彼は反対側の手で手首を押さえて手を彼女の頬へ運ぶ。そして手首を動かしハンカチで土を払う。しかし、なかなか上手くいかない。それは手のしびれか、それとも緊張からだろうかが今の彼には判断が付かない。それほど彼は集中しているからだ。


 ミレの時よりも時間がかかり拭き終えた。というよりき終えたという表現が正しいのかもしれない。なぜなら彼はハンカチを彼女の頬に垂らすように土を払っていたからだ。その動作は掃いているようにしか他人には見えないだろう。


 ふと彼はミレが目を覚ましていないか気になる。それで彼女を見ると寝息を立てている。どうやら悪精に当てられ深い眠りについているようだ。洗って返す為に彼はミレのハンカチを後ろポケットにしまう。そして、ゆっくりとチアキの方に視線を戻そうとする。


 その動作は途中で止まり彼は目を背ける。なぜなら彼女の太股ふとももあらわになっているからだ。倒れた際、スカートがめくれたようだ。


 彼女が目覚めた時に恥ずかしい思いをさせてはいけない。そう思った彼は背けていた顔を戻し、ゆっくりと目を開ける。しかし、すぐに目を閉じる。


 流れゆく時間の中で彼は奮起する。やはり、彼女に恥をかかせてはいけないと。それで彼は目を開ける。そして彼女の太股を見る。と同時に、これは掟を破ってはいないと自分に言い聞かせる。


 彼は太股と触れていないスカートのすそをミレに行った同様に人差し指と親指でつまむ。そして横に引っ張っていき膝が隠れた辺りでパッとスカートの裾を摘んだ二本の指先を離す。


 ふと彼は視線を感じた気がした。辺りを見回す。しかし誰もいない。彼は安堵する。と同時に自分に嫌気が差す。それは安堵の中には彼女が恥をかかずに済んだと共に、他人から見れば破廉恥はれんちな行為を見られずに済んだを含んでいたからである。


 ふと彼はやましさがあったのだろうかと考える。しかし、それをすぐに打ち消して人助けの善意の行為だと自分に言い聞かせる。その二つの考えが彼の頭の中で交錯こうさくしてる状態だ。


 そうしているうちに、開いているビニールハウスの扉から風が吹き込む。すると、再びチアキのスカートがめくれる。今度は下着があらわになっている。


 一瞬、彼の動きが止まる。すぐに見てはいけないと思い目を閉じ顔を背ける。今回はどうしたものかと彼は思い悩む。


 数分間の葛藤かっとうの後、彼はスカートを再び膝の辺りまで戻してあげようと決心する。それで目を閉じたまま彼女の方へと顔を向ける。しかし目を開けてもよいのかと決心がにぶる。


「チトセーッ!!! 被害者は治癒しておいたわよっ。じき目覚めるはずよ」


 その声に彼は振り向く。するとミニスカートから伸びた生足が見えている。彼は徐々に顔を上げていく。


 その彼の視線の先にはコガレが両手を腰にやり見下みおろしている。いや、眉間にしわを寄せけわしい顔をしているので見下みくだしてると言った方が正解なのかもしれない。


 気が動転した彼はってしまう。それで体勢を崩した彼は耐えることが出来ず、背中、頭の順に打ち付ける。その結果、彼の頭は彼女の足元に位置している。


 さいわい土壌なので痛くないし意識は明瞭めいりょうである。唯一の欠点をげるとしたら背中と頭が汚れてしまった事だろう。しかし、その点を彼は全く気にしてない。彼が気になっているのはコガレの存在である。


 今、彼は目を閉じている。コガレを目でとらえた後から継続しているのだ。そうしている彼が思っている事は何処どこからか石が飛んできて直撃してくれないかだ。今の彼は気絶したい気分だ。ビニールハウス内で土しかない此処ここでは見込めない。


 次に思い付いたのが急激な睡魔が襲ってきてくれないかだ。コガレが気になって仕方がない彼は有り得ないと悟る。


「チトセ〜〜〜ッ」


「なっ、なっ、何だよっ」


「パンツ見たっしょ?」


「断じて俺は彼女の下着など見てない。見えたんだっ」


「それ見たって認めてんじゃんね?」


「見たと見えたでは違うっ。予想外の出来事だったんだっ」


「じゃあ、目では捉えたんでしょ?」


「その表現は……合ってる……」


「素直でよろしい」


「あぁっ」


「私が聞いたのはチアキさんのじゃないわ」


「どういうことだよっ! 引っ掛けたのかよっ!!」


「私のパンツ見たっしょ? チトセッ」


「それは絶対に見てない。顔を見た瞬間に目を閉じたからな」


「それは残念。てっ! 顔見た瞬間、目を閉じるなんて失礼じゃないの?」


「残念って! 変態かよっ!!」


「ん〜っ、ウチ、チトセの事となると変態かも〜っ」


「…………」


「いい加減、目を開けたら」


 それもそうだと思い彼は目を開ける。すると彼女のミニスカートが見える。


「パンツ見える?」


「見えねぇよ! 言っとくけど本当だぞっ!!」


「まぁっ、絶妙な位置だけど見えないでしょうね〜。残念だったわねっ。ねぇ〜っ? チトセ」


「何言ってんだよ! ったくぅ」


 その時、再びビニールハウス内に風が吹き込む。それでコガレのミニスカートがふわりとめくれる。


「見た?」


「……見た」


 そう彼が言うと彼女はしゃがみ込む。そして彼の顔を覗き込む。今の今まで気付かなかったが、彼は彼女がスマホを手にしていることに気が付く。彼女は彼の顔にスマホを向ける。


「一言どうぞっ」


「何を言えってんだよっ!」


「ないそうでぇ〜す」


「一体、何だんだよっ!」


「以上、現場のコガレがお送りしましたぁ。はい、カット! お疲れさまでしたぁ、私」


「だから何なんだって」


「ウチ、将来はリポーターになろうと思って」


「はいはい、そうですかぁ……って! そんな事は聞いてねぇぞっ」


「撮れ高充分だわ。出来過だわ。最期に思わぬ幸運が舞い込んできてくれたわ〜。風に感謝しなくちゃね、お互い。ねっ!? チトセ〜〜ッ」


「なんで感謝すんだよっ」


「おかげでパンツ見れたじゃん」


「別に見たくねぇょ、オマエのパンツなんか」


「ひっどぉ〜い。いつの日かチトセに見て欲しくて選んでるのにぃ〜」


「やめろ!」


「チアキさんのパンツは見たくなかったぁ?」


「それはっ…………みっ 見なくてもよかった」


「ちょっとぉ! 反応が違い過ぎじゃないっ!!」


「……ちっ、違わねぇよ」


「繊細すぎて微風そよかぜが吹いただけでヒビ割れてしまう乙女おとめ純真じゅんしんな恋心がげてしまいそうよ。涙が出て来ちゃたぁ〜、グスンッ」


「泣いてねぇじゃねぇかぁ」


「コガレの傷心、どう晴らすべきかしらぁ〜っ」


 そう言うと彼女はスマホを左右に振る。彼女が画面をタップする。すると音が漏れ聞こえてくる。コガレの声の後にチトセの声が聞こえてきた。


「まさかぁ……これって」


「当たってると思うわよ〜。チトセの犯行の一部始終が録画されてるわよ〜っ。どうしたものかしら〜〜っ?」


 そう言うと彼女は視線をミレに向ける。その後すぐにチアキの方へと視線を移す。そして凝視している。


「ちょっと待て! 血迷うんじゃない」


「ミレさんに見せたら血を見ることになるんじゃないかしら〜っ」


 彼女は口角を上げ不敵な笑みを浮かべている。

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