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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

走馬灯が終わらない。

自殺を図った少女の話。


 タキサイキア現象、と呼ばれるものがある。

 噛み砕いて説明するなら、所謂ゾーンというやつで、感情によって外の景色がスローモーションに見えて、相対的に自分の感じる時間が伸びるというものだ。走馬灯とは、つまりこの伸びた時間の中で過去から助かる方法を模索することを指す、らしい。


 私はちょうど、それを経験していた。学校の屋上、高さ12メートル。時間にして2秒も掛からないハズの自由落下は、こうして十数年の記憶を洗い出した後も続き、今では存在しない未来を幻視している。それは悲惨な未来であった。

 飛び降りは失敗に終わり、下半身不随となった私は入院を余儀なくされていた。動かなくなった足はそれでも痛みと痺れを感じさせ私に苦しみを与えたが、しかし窶れる母と弟の前ではそれ以上の罪悪感を抱かされる日々が続く。莫大な治療費は母に負担を強いるばかりではなく、弟が高校に通う為の貯金さえ切り崩す羽目になったようだった。母はそれでも気にするなと言って笑顔を浮かべた。

 ある日のことだ。たまたま看護婦さんが居なくて、垂れ流したものの処理が遅れ、異臭がするという興味本位で扉を開いたのは、同じく病衣を着た一人の中年男性だった。男は気まずそうに扉を閉めようとして、私は慌てて彼に中に入るように勧める。そうして、身体を売った。幸いにして、鈍くなった身体は常に私を蝕む以上の痛みを与えなかったが、同時に弛緩した肉体では相手を満足させることが出来なかったようで、彼は私を怒鳴りつけると最初に提示した半分のお金も払うことなく病室を後にした。私はただただ惨めな気持ちでいっぱいになって、いそいそと証拠の隠滅を図っていた。握り締めた3000円が私の価値だった。

 それからは毎日のように男が出入りし、その男に連れられるようにしてねずみ算式に人が増えて行った。男たちはひとつのグループを形成しているのか、互いに連絡を取り合うことで巧みに医師に行為がバレぬようにと工作を働き、何度となく私を抱いた。支払われる額はマチマチで、無銭で使われることもあれば、中には”天は人の上に人を創らず”なんて嘯いて1万円札を置いていく人もいたが、平均を取るならばやはり最初の3000円程度だろうか。それでも私には唯一の収入源で、どれだけ気持ちが悪くても告発しようという考えは浮かばなかった。自分が因果応報に苦しんで得たお金で、少しでも家族の助けになりたいと、そうとしか考えられなかった。

 しかし、それも長くは続かなかった。一人の男が遊び半分でネットに動画を投稿したことで事態は明るみになり、家族には更なる迷惑をかける結果に終わった。そうして私は売女として知られ、動画を投稿したという男の彼女によって殺されるのである。

 それが、女手一つで私を育ててくれた母にこれ以上の迷惑をかけたくなくて、或いは食べ盛りの弟がお腹を空かすのが嫌で、そんな決意の末に遂行した飛び降りの最中に見た、私の未来だった。


 ──ところで相対性理論というものをご存知だろうか。


 私は長い長い中空での2秒間を浪費して、足から順にコンクリートに不時着した。

ところで相対性理論って何なんでしょう()

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