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3.おや?父親の様子が何か変だ②

 二台のカートで父親の分と私の分の昼食がそれぞれ運び込まれた。


 久しぶりにお肉を食べた。

 美味しい!

 たまに残飯に固まりが残っている事があるけど、

 肉かと思って食べるが大抵が野菜でがっかりする。


「ふむ、こんなものかな」

「え?お父様、物凄く美味しいですよ」

「そ、そうか、それは良かった?」


 何故に疑問形なのか分からないけど、

 私の食い気味の返事に少し引いていた。

 解せぬ。


「ちなみに何が一番美味しい?」

「どれも美味しいですが、やっぱりお肉です!」

「そうか、少し行儀悪いが私の分をもう少し食べると良い」


 器用にお肉を切り分けて私のお皿に乗せてくれた。


「最後の晩餐でしょうか?」

「いや、普通の昼食だし晩餐じゃないし」


 嬉しい、今回の昼食一食で去年一年で食べた肉の量を超えた!

 私は夢中になって食事を続けた。


「食後のフルーツとデザートをお持ちしました」


 何故か執事のフレッドが持ってきてくれた。

 だけど、途中であの母娘に見つかって意見を言えるのが、

 フレッドしかいないから仕方がないか。


「アイリーンお食べ」


 私の口元にフォークで刺したフルーツを近づけて来る。


「あの自分で食べられます」

「違うんだ、アイリーン」

「違うのですか?」

「そう違う、アイリーンが食べられるかどうかが問題ではなく、

 私が娘にたべさせたいんだ」

「え?」


 あの、いったいどちら様ですか?

 私が知っている父親と全然違うんですが。


 まあ顔立ちは.......あれ?

 原形はあるんだけど、

 かなり若く見えるし引き締まった精悍な表情をしている様な。

 やっぱり別人さん?


「アイリーン、手が疲れてしまうよ」

「あ、はい申しありません」


 パクリと私はフルーツを口に入れた。

 ああ、フルーツってこんなに美味しいのね。

 子供の頃に食べていた記憶はあるが、

 こんなに瑞々しく美味しいだなんて。

 

 飲み込んでしまうのが勿体無い。

 未練たらしく咀嚼したが口の中から無くなってしまった。


「次は何が食べたい?」

 

 普段あまり食べていなかったのでそろそろお腹がいっぱいだ。

 であれば、死ぬ前に食べたいランキング一位の美味しいお肉と、

 同率二位の果物とお菓子で、まだ食べていないお菓子一択だ。


 私が黒いお菓子を見るとお父様は、それを摘んでくれた。

 パクリ。

「うんんんん、美味しい」


 身体全身に糖分がかけ巡る。

 なんと表現したら良いのか。

 ガツンと甘みが襲ってきて、

 その後にとろけた甘みが体中にしみ込んでいく。


 私の人生に悔いはなくなった。

 そろそろラッパを吹き鳴らした天使様が迎えに来るに違いない。

 私が満足した事を確認してお父様は優しく微笑んだ。


「さて、仕事の分担だが、今日の所は来客も来る予定もないので、

 邸内の家事は今のメイドで対応させる。

 人員的に厳しいのは理解しているので近い内に手を打つ。

 領内の運営だが今日のところは私が引き受けよう。

 とは言っても経験が少ないので、フレッドが助言してくれ。

 恒久的な話じゃないし、業務範囲外なら言ってくれ」


 フレッドは納得出来ないが、

 お父様に逆らえる訳も無いで素直に従うようだ。


「アイリーンは、今日一日中寝る事」

「ですがお父様」

「アイリーン、諸悪の根源の私が言うのもあれだが、

 今君はかなり危険な状態なんだ。

 慢性的なストレスに疲労、栄養失調。

 若いから何とかなっていたが、

 精神的な病気は手遅れになってしまうと完治しない。

 私が守ってあげるから今日は客までゆっくりお休み」


 本当は分かっていた、心がガラガラと崩れてくのを。

 誰かに助けて欲しかった。

 でもどんなに泣いても誰も助けてくれなかった。

 もう、限界だ、今日こそ限界だ、そんな事を何度思ったか。


 気がつくと涙が溢れ、次第に止まらなくなっていく。


「お父様、私ずっと辛くて、助けて欲しくて、逃げ出したくて、

 でも何処にもいく場所が無くて、お母様の残してくれたお家を守りたくて、

 だから頑張ったの、周りから白骨令嬢って言われても耐えたの」

「すまなかったアイリーン、これからは私がアイリーンを守るから、今はお休み」


 私は、お父様にしがみついてわんわん泣いて、

 お父様に抱っこされて客間のベッドで泥のように眠った。


『もう大丈夫よ、アイリーン。

 貴方を一番大切にしてくれる人を遠い遠い世界から連れてきたから、

 私の大切なアイリーン、頑張ったわね、自慢の娘よ』


 夢を見た、お母様の夢だった。

 ありがとうお母様、大好きなお母様。


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