21.リシュール侯爵家お茶会①
リシュール侯爵家の敷地内にある女性使用人館の二階で、
アイリーンの義姉フローラはふさぎ込み考えこんでいた。
下女は一階の三人部屋、侍女は二階の二人部屋、
上級侍女は三階の個室を割り当てられている。
フローラは母親と一緒に二階の二人部屋を使っていた。
現在母親は外出している。
恐らく懇意にしていた商家との取引が終わったせいで色々揉めているのだろう。
昔母親が痩せていた頃は肉体関係もあったみたいだ。
まあどうでもいい事だ。
義父にも思い入れは特に無い。
爵位さえつげれば良いのだ。
侯爵家の爵位さえ継げれば、男などどうにでもなる。
貧乏貴族の実父が死んで、侯爵家に潜り込めた。
アイリーンが成人になるまでは、弁護士に利権を守られているが、
成人後は、弁護士との契約も切れる。
だからアイリーンには、ろくな食事も与えずに、
身だしなみもボロボロでお茶会に出席させた。
周囲からの評判を出来るだけ悪く、病弱で頭のおかしい娘。
成人後に死んでも誰しもが納得する様に。
もう少しの辛抱だった。
もう少しすれば、全ては私の物になるはずだった。
アイリーンの実父も娘に興味が無かったはずだ。
それがここ最近まるで様子が変わってしまった。
大きな運命の歯車が変った様に。
このままでは不味い。
一度味わった贅沢は忘れられない。
今更田舎で貧乏暮らしに戻りたく無い。
何とかしなければ、どうにかしなければ貧乏生活だ。
そんな事を考えていた時に、前侍女長からお茶会の話を聞いた。
どうもかなりの上級な貴族の子息が来るらしい。
これはチャンスだ。
もしお茶会で見染められれば一発逆転だ。
みすぼらしい白骨令嬢より、私が選ばれるのは必然。
どうせ見張りがつくだろうから、前侍女長に話をつけておけば良い。
邸内の時計も少しばかり遅らせておこう。
フローラは、ふさぎ込みながらも明るい未来を想像してニヤニヤと笑った。
ーーリシュール侯爵家お茶会当日
(騙された、よし殺そう......)
リシュール侯爵家お茶会にお呼ばれして案内された先にいたのは、
とても肥えた、いやふくよかな、ぽっちゃり系の令嬢だった。
アレキサンド公爵家レオンハルト子息は、
目の前の状況が理解出来なかった。
来ないと後悔すると豪語していたアルマン卿はいない。
この先どうすれば良いのか見当もつかない。
とりあえず挨拶をそこそこに済ませて勧められた席に座る。
令嬢の目の前の席だ、超アリーナだ。
恨みのこもった目で周りを見渡すと、早々たるメンバーが座っていた。
まず、自分の隣の席に座っている男だが、
金色の細く長い髪を後ろで束ねて、
下手をすれば女性と見間違えそうだ
金髪琥珀色の眼は皇族の特徴だ。
ブレイド帝国第二皇子、
レイナード・ファン・ジルド。
本当に呼んだのか。
適当にお茶を濁して帰るつもりだったが、
公爵家の自分が帰った後に、国際問題でも起こされたら、たまったものでは無い。
その横に我感せずと座っているのは、魔術塔の狂人レイン・ベルマンだ。
この国では見ない黒色の髪と瞳だ間違えない。
令嬢の隣、自分から見て右斜め前に座っているのは、
王国騎士団団長の子息ブラッドリー・ハワード。
王城で何度か見た事がある。
爵位こそそこまで高く無いが、
彼の父親は中央のみならず国家を外敵から守る辺境貴族からの信頼も厚い。
国内で反乱でもおこされたら、半数以上の騎士たちが賛同するだろう。
これだけの人物達が騙されて淡々とお茶を飲んでいる様子は、
ある意味面白いと言えば面白いが、もっと遠くで見ていたかった。
「......レオンハルト様、レオンハルト様」
「ああすいません、考え事をしていました」
「まぁレオンハルト様ったら。如何ですか侯爵家のお庭は?」
「ああそうですね、非常に趣があって良いですね。
白い砂を敷き詰めているのは、防犯を兼ねているんでしょうね」
......いや、庭は良いから私を紹介して来れ。
主催者を蔑ろにして自己紹介するのは差流石に遠慮したいんだ。
「お庭を気に入ってくれて嬉しいですわ。
レオンハルト様とも仲良く慣れましたし、
また今度いらしゃって頂ければ」
「ハハハ」
仲良くなってはいないかな。
後テーブルに乗り出して胸元を強調しているのだろうけど、
腹も凄いことになっていて、勘弁して欲しい。
その後も適当に話をしてそろそろ限界かと思った頃に、
庭の砂を踏みしめて近付いて来る足音が聞こえて来た。




