14.王国筆頭魔術師 *レイン視点
この世界には、魔法という力が存在する。
古来人間の先祖が巨人族として栄えた時に神から受けた恩恵だ。
巨人族は、野蛮でこの世界を好き放題に暴れていた。
ある時、神の逆鱗に触れて夜空に月と言われる星を呼びよせ、
月から大地に降り注いだ雨はその後40日も続き、
150日のあいだ地上は水であふれた。
巨人族は滅びた。
だがノアという小さな人類が生き延びて現在にいたる。
おとぎ話だろうが、魔法の起源となる旧魔法原書には、
そのような事が記されていた。
受継いだ力を途切れさせない様に、
血筋を守り魔法の力を血脈によってのみ守っていく。
その為に、魔法を操る術を使う者は少なく、主に貴族に多い。
だがこの国の筆頭魔術師に関しては謎が多い。
少なくともこの国の貴族名簿には乗っていない家名だった。
当初は他国の密偵と疑われていた時期もあったが、
その実力と功績で王国筆頭魔術師にして、
王国魔術団の団長にまで若くして登りつめた男。
大の社交界嫌い、貴族嫌いでも有名で大半の時間を、
王城内の魔術塔最上階で研究に明け暮れている変人。
そんな彼の元に侯爵家が面会にきたのだった。
「レイン団長にお会いしたいと侯爵家の方がお見えになっているのですが」
「いつも通り追い返せ」
「かしこまりました、一応言伝として断られるようなら、
永遠について話したいと伝えてくれと伺っていますが」
「......気が変わった、会おう」
「かしこまりました、この部屋までお連れします」
しばらくすると、その男は案内されて塔の最上階の私の部屋に来た。
「申し訳無いが、客を招く部屋ではないので、立ち話となってしまうがよろしいか?」
「構いませんよ、リシュール侯爵家のアルマンです、突然の来訪で申し訳無い」
「レイン・ベルマンです、早速で申し訳無いが永遠について話したいと聞いたのですが」
「ええ、確かにそうお伝えしましたね」
「不老不死の魔法薬でも作って欲しいのですか?」
「いいえ、そんな物は必要ないですね」
「まあ、そんな物は存在しませんがね、不老不死など馬鹿げている」
「これは意外ですね、高名な魔術師の方ならばエターナルの事はごぞんじかと」
「それこそただの与太話ですよ、不老不死の魔術師エターナルなど存在しない」
「そうですかね?」
「まさか信じているのですか?」
「話は少しそれますが、私の知っている遠い異国の国では、
氏名を名乗る時には、ファミリーネーム・ファーストネームの順で名乗るんですよ。
レイン殿ならベルマン・レインと名乗るのです」
「何が言いたいのか分かりかねますね」
「氏名の名乗り方など国によって違うということですよ。
例えばある里だと、地方名・ファーストネーム・ファミリーネームの順で呼ぶのが普通だとして、
レイン殿がエターナル地方出身の名を名乗るなら、
エターナル・レイン・ベルマンと名乗るでしょう。
ですがこの国の基準では、100年前にエターナルという高名な魔術師がいた。
50年前もエターナルと言う実力ある魔術師がいた。
不老不死のエターナルという魔術師の出来上がりです」
その話を聞いた途端に部屋の温度がまるで数度下った様に、
緊張感が生まれた。
「......なるほど、社交界も貴族も煩わしいので、塔に籠っていましたが、
貴殿の様な人がいるなら、籠ってばかりいたのは悪手でしたね。
それで何が望みですかね?」
「何も」
「......私は煩わしい駆け引きが嫌いなんですが」
「いえ、本当に何も望んでいないのですよ、誤解される様な話をしたのは、
恐らく会ってすら貰えないと思っての事です。
要件は、今度家の娘のお披露目会があるのをお伝えしに来ただけです」
「それに出席しろと?」
「いいえ、本当にお伝えしに来ただけですよ。
出席されてもされなくても構いませんよ。
ただ後々お伝えしなかった事で家の娘が誘拐されでもしたら流石に探すのが大変なので、
事前にお伝えするのと、もしもの時の為にお顔を拝見しておきたかっただけです」
確かに私は聞く耳を持たずに追い返そうとしていた。
もしもの時の為に顔を見ておきたかった?
何か特殊な目でも持っているのか?
それに私がさらいたくなるような令嬢?
「分かりました、出席させて頂きます」
私に返答をきくとその男は来た時と同様に自然に帰って行った。
エターニャ、我が里エターナルの始祖にして誰よりも美しい女性。
そしてノアの血を濃く継ぐ女性。
眠りについた彼女を目覚めさせる事が、我が里の悲願。
何かが変わる、そんな気がして来た。




