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これは小説「女神」11章です。1~10章は別なところにあります。あまりにも長くなったので、11章から分けました。もちろん1~10章は元のところにあります。そちらもよろしくお願いします。
少女は墓石の陰からそっと顔を出しました。私服の日向隊員です。日向隊員の視線の先は、墓と墓の間の通路。早朝のせいか、誰もいません。日向隊員はぽつり。
「いない、誰も・・・」
日向隊員は歩き出しました。そしてある墓の前で立ち止まりました。その墓石には山際家之墓という文字が。そう、ここは山際怜子の墓です。
今日は山際怜子の月命日。日向隊員は自分がイジメて自殺に追い込んでしまった山際怜子の墓にこうやって毎月お墓参りに来てました。
ちなみに、さっき日向隊員が気にしてた存在は山際怜子の兄。彼も山際怜子の月命日に墓参りしてます。
日向隊員、当時の金目ひなたが山際怜子のイジメを始めたきっかけは、その兄の障害。だから日向隊員はあの兄に合わせる顔がないのです。そのせいでお墓参りするときは、かならず早朝を選んでました。
日向隊員は墓石に手を合わせました。本当はお花とお線香をお供えしたいところなのですが、そんなことしたらあの兄に墓参を気付かれてしまいます。だからせっかくお墓参りしても、手を合わせることしかできないのです。
日向隊員は心底祈りました。
「山際怜子ちゃん、また来たよ。けど、ごめん・・・ 来月も、その次の月も、その次の月も来るつもりだったんだけど、ちょっとムリになったんだ。
来月から私、中学校に行くんだ。中学生になるんだよ。その日が休みだったら来るけど、しばらくは来れないと思う。
でも、私は山際怜子ちゃんを忘れないよ、絶対! 今私ができる謝罪は、山際怜子ちゃんを忘れないことだけだから・・・」
日向隊員は顔を上げました。そして再び墓石に頭を下げました。
テレストリアルガード基地、サブオペレーションルーム。今引き分けの自動ドアが開き、隊員服姿の日向隊員が入ってきました。
「ただいま~!」
ノートパソコンでインターネットを見てた隊長が、日向隊員に振り返りました。
「お帰り!」
隊長は柔和な顔をしてます。日向隊員はあたりをキョロキョロ見回しました。
「あれ、寒川さんは?」
隊長が応えます。
「ん、さっきまでここにいたんだけどなあ?・・・」
日向隊員は残念そう。
「そうですか・・・」
実は日向隊員は寒川隊員からギターを習ってました。すみれ隊員が他の部署に異動した直後からです。
日向隊員は強烈な歌唱力で人々を魅了したすみれ隊員に憧れ、自身もギター弾き語りで歌うことを決意しました。それで寒川隊員に頭を下げました。寒川隊員もたいへん喜びました。
寒川隊員は尾崎豊の大ファン。いつもテレストリアルガードのみんなに尾崎豊の曲を聴かせたいと思ってました。けど、だれも相手にしてくれませんでした。そこにすみれ隊員が現れました。
すみれ隊員は尾崎豊の曲に興味を示してくれたばかりか、その曲を歌い、とてつもない歌唱力を披露してくれました。
隊長のはからいもあり、寒川隊員とすみれ隊員は音楽活動を開始。2人は街角に立ってストリートライヴを行いましたが、すみれ隊員の歌唱力に多くの人が反応。あっという間にたくさんのオーディエンスを集めました。それは寒川隊員が昔思い描いてた夢そのものでした。
けど、すみれ隊員は徐々に音楽活動に興味を失くしてしまい、果ては寒川隊員のもとから去ってしまいました。
寒川隊員はそれでかなり落ち込みました。が、その直後日向隊員がギターを教えて欲しいと頭を下げてきたのです。そのときの寒川隊員の喜びはひとしおでした。
しかし、寒川隊員はすぐに違和感を感じました。実は日向隊員は5歳のときからピアノを習ってました。そのせいで絶対音感が身についてたのです。つまり寒川隊員は絶対音感のある女の子を弟子にしてしまったのです。