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 秋の第二試験日。

 前回同様、扉の順番待ちをしている。今日はリージと試験に挑む。

 第一試験は、魔力を少しでも使いこなせるよう励んだが、今回は肉体面の対策に勤しんだ。

 日夜、ユファーに剣の稽古をつけてもらい、寮に戻るとすぐ疲れて眠ってしまう。学園の授業をおろそかに出来ないので、他は何もしていなかった。


 隣に並び立つ義弟は、それら全てを知った上で、呆れた表情を浮かべている。

「朝、きちんと食事はとったんだよな?」

「タベマシター」

 フレーゼは棒読みで答えた。


 実は最近、疲れからか食欲がない。

 もちろん試験日に食事もとらず挑むことはしない。軽めだがきちんと食べてから来ている。

 しかし、リージは疑いの眼差しを崩さない。

「見てなさいよ。あんたを、ぎったんぎったんにしてやるんだから」

「俺と戦うつもりで来てるのかよ……」

 絶対、試験の目的がすり替わっている。

 リージは馬鹿馬鹿しくなり、フレーゼから視線を逸らす。ちょうど別の列の先頭、ロアとエリーが扉の中に入ったところだ。


「リージ」

 名を呼ばれ振り返ると、もう順番が来ていた。

 二人は扉を開け中に入る。室内に真っ白な世界が広がり、扉が閉まると室内が彩られていく。


「……雑すぎる」

 姿を現した世界にリージは呻いた。フレーゼは言葉を失っい身を固めている。

 確かに剣術の試験だ。

 けれど。


 眼前に、背丈の倍以上の魔物がいた。

 魔物など図鑑以外で見たことがない。

 国境で稀に出没するようだが、それも討伐隊により駆逐されており、国内で見る機会は皆無だ。

 

 竜のような見た目で二本の足で立っている。真紅の肌はごつごつとし、太い爪と長い尾を持ち、フレーゼの頭ほどの眼球が顔に一つ付いていた。

 耳まで裂けた口から、ぐるぐると呻き声が響く。


(前世で、こういう魔物が出てくるゲームあったな……)


 フレーゼの思考が現実逃避した。

 魔物はドンッと爪を振り下ろし、リージがフレーゼを抱え横に避ける。

「ね、ね、リージ? あれを倒すのかな!」

「だろうな! ぎったんぎったんにしてやるんだろ?」

「それはリージに対して言ってたんだよ!」

 やはりこの馬鹿な義姉は、パートナーを敵認定していたようだ。リージは眉根を寄せて、魔物へ視線を戻す。


「こんなのに勝てるペアいるの? ユファーとかいないと無理でしょ!」

「あの女なら倒せそうだな」

 そう言うが早いか魔物の尾がしなり、よけきれずにリージの剣に当たる。剣が空を飛んだ。

「ああ! リージ何してるのよ!」

「うるさいな! 大声で騒ぐな!」

「うるさいって何! リージ避けて!」

 再び魔物は腕を振り上げ、こぶしを二人の頭上に落とした。

 リージとフレーゼは、それぞれ反対方向に飛び避ける。

 今まで二人が立っていた石床が凹み割れた。


 殴られたら一発で死ぬ。

 フレーゼはごくりと喉を鳴らす。リージは落ちた剣を素早く拾い切りかかるが、魔物の腕の硬さに弾かれた。

 すぐに魔法で体を守るが、勢いのまま壁に叩きつけられる。

「リージ!」

「俺があいつの攻撃を受け止めるから、義姉さんは攻撃!」

「なんでリージが決めるの!」

「馬鹿かお前は! どう見ても、義姉さんじゃ攻撃を受け止められないだろ! 魔法も大して使えないのに!」

「ば、馬鹿にしたわね!」

「攻撃を受け止めている時だけ、隙が出来る! その隙に攻撃するんだよ!」


 リージは苛立ちが募るのを感じ始めていた。

 いつだってそうだ。

 優しく接しても、心配して助けになろうとしても。

 いつだってこの馬鹿な義姉は、ムキになりそれを拒もうとする。それなのに、リージ以外の存在から差し伸べられた手は、躊躇(ためら)いなく取るのだ。


「張り合ってる場合じゃないだろ! 空気読め!」

「なんで怒るのよ! 私だってちゃんと考えて……ぐ!」

 フレーゼは魔物が振った尾を剣で受け止め、その衝撃に呻いた。体が弾き飛ばされ、地を滑る。


 突然、魔物が床をドンッドンッと叩き始めた。

「……? 何を」

 魔物が強く叩いている床に亀裂が入り、その亀裂から覗く先は黒い闇だった。

 魔法で作られた部屋。床の下に、底の無い世界が広がっているのだろうか。

 フレーゼの背筋を恐怖が舐める。


「義姉さん! 大丈夫か?」

 リージは床に集中している魔物を警戒しながら、フレーゼに駆け寄った。

 フレーゼの口周りが血に塗れていて、リージは思わず顔を強張らせる。


「よく聞けよ。次に攻撃されたら、俺が受け止める。その隙に義姉さんが突き刺すんだ。どう見ても弱点っぽい、あの目を」

 リージは魔物の大きくぎょろりとした目を、目視で指す。

「でも」

「でもでもうるさい! なんで義姉さんはいつも俺の話を聞かないんだよ!」

 刹那、ビシビシと音を立て、床が割れた。亀裂が足元にまで迫り二人は後方に飛ぶ。


「来るぞ!」

 魔物の拳がリージに振り下ろされた。

 リージの剣が淡く光り、魔力が込められたのが分かる。そしてごん、と野太い音が響き、リージの剣が爪を受け止めた。

 フレーゼは走り、魔物の体を踏み台に飛ぶ。魔物の腕はリージに振り下ろされたままで、大きな赤い瞳は守るものも無く隙だらけだ。

 瞳に剣を突き立てようと、フレーゼは柄を両手で握り、振り下ろした。


 魔物の赤い瞳がぎょろりと動く。黒い虹彩がフレーゼを映し、そして赤い閃光が放たれた。




 □ □ □  □ □ □


「え? まさか彼氏できた?」

「いつ? 聞いてないよ! なに、隠してたの?」

「きゃー! 好きだって告白したの?」


 友人に囲まれながら、私はただ、笑う。友人の一人に恋人ができた。その話を聞いて周りが色めき立ち、また違う友人の恋の進捗状況を聞くことになる。


 前世、この手の話は苦手だった。

 高校は好きでも嫌いでもない。

 家に居場所がないので来ているだけだ。未来への展望なんてない。

 いつかこの世界から消えたいと思っているのに、そんな勇気もなく、ただ毎日を過ごしている。


「ねえ、好きな人いないの?」

 そう友人に問われ、私は言葉を詰まらせる。


「この子はいるじゃん。いつも一緒にいるのが」

「あー」

 皆がうんうんと頷き始める。

「気付いてるんでしょ? 自分のこと好きだろうなって」


 脳裏に友人だと思っている男の姿が浮かんだ。

 彼の瞳の中に孕む感情に気付いていない訳じゃない。


 でも親にも愛されていない自分を求められるなんて、誰が想像できる?

 こうやって恋の話に交じっていても、全く分からない。

 その感情が。その思いが。

 どれも信じられない。

 たった一人自分だけを、どうして愛してくれていると信じられるの?

 目に見えない不確かなものは、私にとっては不安でしかない。


 □ □ □  □ □ □



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