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夏の試験が終わり、気を抜く間もなく秋の試験がやってくる。
秋の試験フレーゼはリージとペアを組む。
剣術の試験なので、フレーゼは空き時間ユファーと剣の打ち合い稽古をしていた。
薄々気がついていたが、ユキルア=ファージル男爵令嬢はハイスペックだ。
打ち合い時も、彼女が手加減しているのが伝わってくる。その上でフレーゼの弱点を見抜き、向上するよう助言もしてくれる。有り難い存在だ。
カンと、練習用の木剣が空を舞った。芝生にどさりと落ちる。
「ま、参りました」
フレーゼは尻もちをつき、両手を上げた。ユファーがこちらに歩み寄り手を伸ばす。
「上手になっているわよ」
「本当? ユファーが凄すぎて、そんな気がしない」
友人は笑みを深めた。
アカデミーでは、性別関係なく、剣術・体術の基礎を学ぶことが義務付けられている。
貴族令息、令嬢であろうが、自分自身を守るのは自分だという方針のようだ。
生まれて初めて手にまめを作る者もいる。
友人ステラもその一人だ。
小さい身体で頑張る姿に、フレーゼやユファーも癒されていた。
「ステラは婚約者と組むんでしょ? いいわねぇ、守ってもらえるなんて」
ユファーが冷やかすと、彼女は照れながら怒る。
ステラのころころ変わる表情は、可愛く、きらきら輝いて眩しい。彼女の表情や雰囲気で、恋をしていることが伝わってくる。
「フレーゼだって、王子様に守ってもらうくせに」
ステラが可愛く口を尖らせた。こんな仕草が男心をくすぐるのではないだろうか。
「王子様というか義弟だから、揉めてる気しかしないよ」
フレーゼが苦笑を向けると二人は首を傾げる。
「でも、血は繋がってないんでしょ」
彼女たちの言外の意図を汲み取り、フレーゼは首を横に振った。
「そういう意識をすると気まずいけど、ずっと家族だと思って接してきたから、この関係を壊したくないな」
「ああ、そういう感じなのね。もう、二人とも可愛いわ~」
ユファーが腕を広げ、フレーゼとステラを抱きしめた。
「そういうユファーはどうなの? よく男性が群がっているのを見るけど」
「私はみんな好きよ。男も女もみんな」
「「え」」
背の高い美形の彼女は、令嬢にも男装した麗人にもなれそうな容姿だ。性格も潔い。
ユファーの甘い言葉に、フレーゼは目が眩んでしまう。
彼女はおかしそうに笑い、再び木剣を握る。
「さ、そろそろ、打ち合い稽古に戻るよ」
「まだやるの……」
フレーゼとステラは、再びユファーの特訓を受けることになった。
(もうユファーったら……)
フレーゼは手の平を見つめ、眉を顰める。
まめが潰れた。
フレーゼとユファーが打ち合いをしている間、ステラは早々に寮に逃げてしまった。
自分もそうすればよかったと強く思う。
城に居た頃、剣術の練習で何度もまめを作っていた。ようやっと手の平が固くなってきた頃、アカデミーに入学した。
最近はあまり練習していなかったこともあり、また柔らかい手の平になっていたようだ。
歩きながら、めくれた皮を触る。
「フレーゼ」
後ろから声をかけたのはロアとリージだ。
フレーゼが腰に下げている練習用の木剣に目を向け、二人は眉を寄せた。
「そこまで真剣に練習している令嬢は君くらいだよ」
ロアは呆れた声を上げる。
「私は令嬢じゃないですよ。それに、そんな練習を張りきってしている令嬢があそこに」
フレーゼが練習場を指差すと、ユファーが男子生徒と打ち合いをしている。
「うわ……、あの動き相当鍛えてるだろ」
リージが渋面を作った。
「義姉さんの友人は濃いな……」
「リージ、その褒め方やめて」
「褒めてない」
フレーゼは手の痛みに顔を顰め、二人の傍を離れようとしたが、ロアに止められてしまう。
「どこ行くの?」
「医務室に。まめが潰れてしまって」
手の平を見せると二人の表情が固まった。
「んん? 激しい練習しすぎじゃないかな」
ロアの狼狽え方が面白い。つい笑ってしまう。
彼は過保護だ。夏の試験以降、よりそうなった気がする。
もちろん余計な火の粉がフレーゼに飛ばないよう、配慮をしてくれているが、たまに顔を合わせた時は、いつもこの調子だ。
「義姉さん、手を見せて」
「え?」
フレーゼが手の平を上に向けたまま差し出すと、リージが手を包むように触れた。
ふうわりとした、白い光が手を包みこむ。
「え、ええええ!」
「はい。治った」
「リージ、いつの間に回復魔法が使えるようになったの?」
「最近」
フレーゼは驚きで目を白黒とさせた。言葉も出てこない。
「すごいよね。回復系は一番難しいから、僕もまだ出来ないよ」
「殿下は属性関係なしに魔法を操れますし、俺なんてまだまだですよ」
王子二人は笑顔を浮かべ、謙遜しながら互いを褒め合っている。しかしフレーゼにしてみれば、二人とも凄い。
「なんか悔しい」
フレーゼの言葉に、二人は驚いた表情を浮かべる。
「リージに負けるなんて屈辱だわ。性差があるから、体力や腕力で負けるのは仕方ないけど」
「……魔力は生まれつきだろ」
「でも、私も」
「余計なことするなよ」
「は?」
「封印を解く方法を探すとか、そういうたぐいだよ」
「そんなこと考えてないよ。どこまで私を馬鹿だと思ってるのよ」
リージが胡乱な眼差しを向けてくる。
「フレーゼはリージに負けるのが悔しいんだね」
ロアは困ったように笑うが、リージは納得いかない。
「得手不得手があるだろ。何を張り合ってんだよ」
「でも、リージには負けたくない!」
フレーゼは捨て台詞を吐き、その場から走り去った。
残された王子二人はあっけに取られていた。




