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 城下町での買い物は、想像以上に楽しかった。

 村よりも店が多いのは当然だが、華やかな通りは歩いているだけでも楽しい。可愛い小物の店を見たり、洋服を見たりもした。三人お揃いの文房具も買ってみた。

 楽しく談笑しながら町を歩くなんて、夢みたいだ。


 そんな中、甘い匂いが鼻腔をくすぐった。

 パン屋の看板が店先に吊るされている。いい匂いに誘われて視線が外せない。

 友人二人を誘い店の扉を開くと、扉に下げられた呼鈴が鳴った。

 たくさんのパンが所狭しと棚に並んでいる。

 内装は実家と似ているが、パンの種類が多く、店内も広い。バターの香りが店内に立ち込めていて、食欲を刺激されてしまう。

 どれも美味しそうだ。

 目移りしながら、トレイを手に選んでいくと、ふと懐かしい気配のするパンが目に留まった。

(これ、林檎パン?)

 商品の説明書きには、カスタードクリームとリチアの実のコンポートをのせたと記されている。


 リチアの実は、フレーゼが林檎に似ていると思った果実だ。実家に帰省した際、作りたいと思い描いていたパンが、ここに売っている。

 フレーゼは嬉しくなり、そのパンを何個もトレイにのせていく。


 まだ、フレムも学園にいるかもしれない。前世という共通の話題で話ができる唯一の人。

 王子二人にも、夕飯時にタイミングが合えば渡せるかもしれない。

 フレーゼは嬉々としながら、購入したパンの袋を抱え、店を後にした。


 

 城下町は緩やかな坂になっている。王城やアカデミーなどの主要機関は坂の上に建てられていた。

 広い通りに出て、友人たちと坂を上っていく。

 ふと足元に落ちる影を見て、誘われるように後ろを見やる。


 真っ赤な夕日が空を赤く染めていた。

 空と大地が接する地平線に太陽が触れて、金色の光芒が眩く放たれている。

 遠くから赤色を隠すように紫が迫り、空の色が混ざり合っていく。


 目の前に広がる光景が、美しくて懐かしくて、胸が潰れそうだ。

 沈みゆく太陽を見ながら、ずっと昔にもこんな景色を見たことがある気がして落ち着かない。


(先生の髪の色と同じ……)

 橙に赤が交った明るい色の髪。光に透かすと、眼前の光景と同じように輝いていた。

 赤い瞳は太陽のように直視できない。


 なぜ、こんなにも胸が締め付けられるのだろう。

 なぜ、こんな時に思い出すのはフレムのことなのだろう。

 

「フレーゼ!」

 ユファーが強い口調で呼び、我に返る。

「どうしたの? 具合悪い?」

 ステラが心配そうにフレーゼの顔を覗き込んだ。フレーゼは額を抑え、首を横に振った。

「疲れたのかも。早く帰ろう」

 笑ってみせたつもりだが、きちんと笑えていなかったかもしれない。

 友人二人はフレーゼの手を握り、急いで帰路についた。



 学園に着いた頃、太陽は沈み辺りは暗くなっていた。

 門限ギリギリの帰宅に、警備には怒られてしまった。

 そして何故か、正門の入り口に、王子二人が不機嫌そうに立っている。


「遅い! どこに行ってたんだよ」

 リージが久しぶりの兄弟愛を発揮している。

「ご、ごめん。これリージと殿下にお土産」

 フレーゼは誤魔化すように袋に入ったパンを手渡した。

 その様子を、ロアは冷笑を浮かべ静かに見ている。


(二人のせいで、正門の警備が厳重になってる……)


 自分のことを棚に上げて、フレーゼは呻いた。

 ロアの眼差しが怖くて目を合わせられない。そそくさと寮に戻ろうとして、ロアに溜息をつかれてしまった。


「殿下、感情が態度に出すぎだよ〜」

 ロアがぎょっとして振り返ると、ローブを纏ったフレムがこちらに歩いてくる。

「先生、お帰りですか?」

 ロアは苛立ちを隠すように、にっこりと笑んで聞いた。

「うん。正門から出ないと転移魔法使えないから、面倒だよね〜」

「歩いて運動なさってください」

「うわ、人を運動不足の年寄りみたく言うね」

 

 やりとりを眺めていたフレーゼだが、ふと思い出し、フレムに駆け寄った。

「先生。これ、よかったら食べてください。お土産です」

「パン? これは林檎?」

「はい。カスタードクリームの上に林檎がのったパンです。城下のパン屋さんで見つけました。先生、このパンお好きですよね」

 フレーゼが笑顔で告げると、フレムは赤い瞳を丸くして、すぐに柔らかく笑む。

「うん、好き。……ありがとう」

 

 一瞬悲しげにも見えたフレムの笑顔だが、深く被ったフードが影を落とし、彼の表情を隠してしまった。


「はい、じゃあ生徒は寮に戻りなよ~。ほらほら」

 フレムが掌を重ね数回叩くと、やじ馬が蜂の子を散らすように寮へ駆けて行く。


「フレーゼ、私たちも戻ろう」

 友人の言葉に頷き、王子二人に視線を向ける。

「リージたちも、よかったら食べてね」

 フレーゼはそう言い残し、その場を去った。



 ロアが正門を振り返ると、すでにフレムはいなかった。正門を出てすぐに転移したようだ。

「殿下、どうしました?」

「リージ。そのパン、何がのってるの?」

「は? ええと……」

 リージは袋に入ったままのパンに鼻を寄せる。そして袋の中を覗く。

「たぶん、リチアの実だと思います」

「……そう」

 リージは質問の意味が分からず首を傾げる。ロアは無言のまま、寮に踵を返した。


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