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「過保護ねぇ。でも予想通りというか」
赤毛の友人ユファーは綺麗な顔で笑い、その隣でステラが驚きの表情を浮かべた。
「パートナーは、あの王子二人のどちらかになるだろうって思ってたわ。ステラは魔力がないから、私は別で捜さないといけないわね」
魔力のない者は、夏の試験内容が異なる。
フレーゼはじっとユファーを見つめてしまう。
「……ユファーと組みたかった……」
「あなた、それ、口に出しては駄目よ。あなたのこと妬んでいる子もいるのだから。気をつけなさい」
ステラがうんうんと頷いている。
「まあ、仲のいい者同士で組むことは間違いじゃないのだけど。あなたの場合、相手がねえ」
ユファーの話を聞きながら、ステラが首を傾げた。
「フレーゼはいつか貴族家へ養女に行くの?」
「え、行かないよ」
「そうなの? てっきり……」
「私は実家に帰って店を継ぐの」
「何の、お店?」
「パン屋さん。私、パン作り好きなんだ。よかったら今度、食べてくれる?」
フレーゼの言葉を聞いて、ユファーは前のめりになり、目を輝かせた。
「食べたい! 私、美味しいもの大好き!」
フレーゼはユファーの勢いに笑ってしまう。
しかし、ステラは困ったように言った。
「でも、周りはそう思ってないかも……。私も勝手に勘違いしていたし。フレーゼが貴族の養女になって、王子との婚約を目指しているって……」
ユファーはステラのセリフに目を丸くした。
「ステラったら! 貴女がそんなことを気にするなんて。王子を狙ってるの?」
「そ、そんなわけないじゃない! だって、私もう」
そこまで言って、彼女は赤く染まる頬を手で抑えた。
「私、こ、婚約者がいるの」
「ええええ」
「初耳! 何処にいるのよ!」
「何処って、見に行ったりしないで!」
「見にってアカデミーにいるの?」
フレーゼとユファーが捲し立てるように問うと、ステラは狼狽えてしまう。
よく聞けば、彼女は仲のいい下位貴族の令息と婚約していた。
本人たちが想い合っていること、互いの両親が政略的な婚姻を考えていなかったことから、すんなりと婚約が決まったそうだ。
「素敵……」
フレーゼは思わず呟いた。
「お互い想い合って婚約なんて、最高じゃない!」
「う、うん」
「いいなあ、そういう相手がいいよ。私も愛し合って結婚できるなら、制約のない平民と結婚したい……」
フレーゼはうっとりとして語る。
「ああ、だからフレーゼは、貴族の養女にならないのね」
ユファーは赤い髪の毛先をいじりながら言った。
理由はそれだけではないが、とりあえずフレーゼは頷き返す。
「でも、それじゃあ殿下と結婚できないわよ?」
「え」
瞬間、フレーゼの時が暫し止まる。
我に返り、次第にフレーゼの頬が熱を持ち始めた。
「そ、そ、そんなこと考えたこともないよ! 想像して! 城の生活って規則多くて大変なの。こんな平民だと肩凝るのよ!」
「でも好きなんじゃないの? どちらか分からないけど、王子二人のどれか」
「どれかって……」
フレーゼは口をはくはくとさせ、言葉を失ってしまった。
ステラがふと教室の時計を見上げた。
「あ、そろそろ着替えに戻らない? 遅くなっちゃうわ」
今日は三人で、城下町へ買い物に出かける約束をしている。
友人と買い物に出るなんて村にいた頃以来で、興奮して昨夜はよく眠れなかった。
寮で簡素な服に着替え、正門を目指し三人で歩いていく。
正門を見やると、ちょうど濃紺のローブを纏った人物が歩いてきた。
「珍しいわね。魔法使いのローブ」
ユファーが珍しそうに目を細めている。
この国で魔法使いと称される人々は、ローブを着て王宮仕えが殆どだ。アカデミーで魔法を教えている教師はローブを着ていない。
歩いてくる人物もこちらに気が付いたようだ。フードを脱ぐと、豪奢な橙色の髪が現れる。
「フレム先生!」
フレーゼは声を上げ、魔法使いに駆け寄った。
「お久しぶりです!」
喜色を隠さないフレーゼの姿に、フレムは眉尻を下げる。
「フレーゼ、一応公の場ではきちんと挨拶しようね。誰が見ているか分からないんだから」
「あ!」
フレーゼは慌ててお辞儀をした。フレムも優雅に礼をして、そしていつもの調子で言葉を発する。
「友達と何処か行くところ?」
「はい! あの、友人を紹介してもいいですか?」
「うん。ぜひ」
フレムを友人二人の元に連れて行き、一通りの挨拶をへる。
風で魔法使いのローブが翻った。見慣れない姿だ。
「ローブをお召しになられているの、珍しいですね」
「似合うでしょ? こういう場所では、それっぽく見えて楽だよね~」
「……ああ」
見た目だけ見ると、ただの軽薄な青年に見えなくもない。
そう思ったのが伝わったのか、フレムは笑った。
「また失礼なことを考えただろ」
「心が読めるなんて、さすが先生です」
フレムはくしゃりと笑顔を深め、フレーゼの頭を撫でた。
「気を付けて行っておいで」
「はい、行ってきます」
アカデミーに入学してから、フレムには全く会うことがなかった。
久々に会えて嬉しくなってしまう。
フレムの後姿を見送り、友人へ顔を向けると二人は苦笑している。
「フレーゼって、分かりやすくて大好きだわ」
「ユファー? 何、突然」
「さあ、行きましょう。沢山買い物するわよー!」
ユファーは話をぶった切り、るんるんと正門へ向かう。ステラに視線を向けると、彼女もニヤニヤとしていた。




