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 どんな夢をみているのだろう。

 リージはベッド脇の椅子に腰かけ、(うな)されているフレーゼを見つめた。頬杖をつきながら、空いた手でフレーゼの頭を優しく撫でる。

 魘されているせいかフレーゼの眉間の皺が深い。


 開いたままだった部屋の扉が、きいと小さい音を立てた。

「リージ?」

 ぎょっとした顔のロアがこちらを覗いている。

「……眠れませんか、殿下」

「いや、お手洗いに行きたくて」

「侍従もつけずに?」

「それくらい一人で行けるよ」

 ロアは渋面を作りながら室内に踏み入り、リージの姿を見咎める。


「誤解しているかもしれないけど、怒っていいところかな?」

「誤解です」

 きっぱりと言いきる義弟に困惑しつつ、ロアはフレーゼを見やった。酷く魘されている姿に目を瞠る。

 リージはフレーゼの頭を優しく撫で続けている。次第に彼女は規則正しい寝息を立て始めた。

 

「どういうこと?」

「見たままです」

「ねえ、リージってその説明で僕が納得すると思うの?」

「義姉さんは、時々、酷く魘されることがあるんです。こうやって撫でてやると落ち着くみたいで……」

「なに、まさかそれで同室を続けてるの?」

 リージはぷいと顔をそらしてしまう。

「そんな頻繁に魘されるなんて、悪夢でもみて……」

 そこまで告げてロアは口を噤んだ。

 以前フレーゼは前世の夢を見ると言っていた。もしかしたら、前世の夢を見るときに、魘されているのかもしれない。

 彼女は忘れたい記憶だと言っていた。可能性はある。


「殿下は魔法の制御に困ったことはありますか?」

「あるよ?」

 ロアはリージの質問に首を傾げたが、すぐにその意図に気付いた。まっすぐにリージを見返すと、彼は苦笑を浮かべている。

「俺は、自分が魔力持ちだなんて思いもよらなくて、ただその力に恐怖しました。何かがこみ上げてきて、意味が分からなくて気が動転してしまったんです……」

「フレーゼを傷つけたの?」

 リージは苦々しく頷く。

「魔法の制御方法なんて分からなくて、止めたくても止められなかった」

 彼はフレーゼの額の髪を横によけた。

 ロアに目視で示す。ロアはフレーゼの額に小さな傷跡を見つけた。

「血はすぐに止まって、何針か縫うだけで済みました。でも、フレーゼは事の次第を覚えていなくて、階段から落ちたと思っています」


 リージは当時を思い出して、身体が震えてしまう。

 身体から溢れてくる異様な感覚。それに呼応するように家の中で巻き起こる豪風。

 両親の悲鳴と、風の勢いに圧され、階上から落ちるフレーゼ。剥がれた床板が鈍い音を立てて、フレーゼにぶつかった。

 そこでやっと胸が冷えていく心地がして、巻き起こっていた力が落ち着いていった。

 皮肉にも、家族を傷つけて、ようやく冷静になれたのだ。


「その日からフレーゼは魘されるようになりました。俺が傷つけたから……」

 リージが顔を顰める。今にも泣きだしそうだ。


「だから城に来ることにしたんだね。魔力がある者が、平民として生きるのは大変だと思う。その力が強ければ強いほど、制御する術を知らなくてはいけない。それはここでは学べない」


 魔力に理解が深いのは王都くらいだ。中心から外れる程、異能は疎まれる。

 ロアは今の話で、幾つか合点がいくことがあった。

 フレーゼは、そのことがきっかけとなり、前世を夢で見るようになったのだろう。


「どうしたの? 二人とも」

 部屋に戻ってきたフレーゼの母が、不思議そうに二人を見比べた。そして魘されている娘に気が付く。


「ああ……。まだ治ってないのね」

 彼女は困ったように眉を下げ、リージの頬に触れた。

「大丈夫よ、リージ。あなたのせいじゃない。私がついているから、もう眠りなさい」

「……うん」


 話し声が廊下まで響いていたのか、鬼のような表情の侍従レイスが姿を現し、ロアの肩が跳ねる。

 王子二人は言葉を交わすことなく、そのまま各々の部屋に戻った。



 □ □ □  □ □ □


 大学の合格発表日、私たちは大きな掲示板を見上げていた。同じ目的の受験生に囲まれながら、自分の番号を探す。

「あった!」

 隣にいた●●が声を上げる。その声が耳に届いた直後、私も自分の受験番号を見つけた。

「私も! あった!」

 二人で顔を見合わせ、満面の笑みを浮かべる。嬉しさがこみ上げてくるが、この場で騒ぐわけにもいかない。

 人混みから離れ、誰もいない場所で再び視線を絡めて笑い合う。

「やったな!」

「ひゃああ、落ちるかと思ってたのに」

 私は両手で頬を抑え、緩んでくる表情を誤魔化す。

「そうだ。手続きの書類をもらいに行かないといけないね!」


 私は踵を返そうとするが、すぐに腕を掴まれ阻まれてしまう。

 彼に向き合う姿勢になり胸が跳ねた。彼の顔は相変わらず靄がかかり見えないのに、双眸がこちらを見ていることが伝わる。


「好きだ。ずっと前から、好きだ。俺と付き合ってほしい」


 彼の気持ちを知っていたのに、知らないふりをしてきた。

 このままの関係でいたいと思っていたけれど、ずっと一緒にいたいと願う自分がいた。

 だから、偶然、同じ大学を目指しているふりをした。


 ただ一緒にいたかっただけなのに、どうして私を好きだなんて思うのだろう。

 嬉しいと思うのに、どうしても信じられなくて。

 そんなふうに考えているのに、一緒にいたくて、彼を失いたくないと欲深くなる。だから、私は彼の告白を受け入れた。 


□ □ □  □ □ □



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